ダイワボウ情報システム(DIS、野上義博社長)は、小中高校の学校市場向け販売を強化する。今年3月までに、普通教室でIT利活用の促進を目的にした「実証研究校」として、21自治体33校で授業実践を開始。指定校には、パソコンなどIT製品を2年間無償で提供する。民間企業が実施する実証研究の指定校数としては過去最大。DISでは、この研究を踏まえて販売会社の提案スキルを磨き、学校向け販売のすそ野拡大を図る。(谷畑良胤)
DISは、全国の教育委員会や公立小学校、有識者、教育事業者などと共同で、産学官連携で普通教室のIT利活用を促進することを目的として実証研究「DIS School Innovation Project」を昨年末に発足した。公募で選定した21自治体の小学校33校を「実証研究校」に指定し、各学校にメーカーなどの協力を得て、IT機器やソフトウェアなどを無償提供する。
研究校に提供するITシステムは、教育用タブレットPC「CM1(東芝製)」を1学級分や無線LANアクセスポイント、デジタル教材、教育向けアプリケーションなど、幅広く用意した。DISは、今回の研究でIT機器購入費などを含めて数億円を投じた模様だ。研究校としては、千葉県柏市、石川件内灘町、和歌山市、佐賀県の2市町村、熊本県の2市町村のほか、東日本大震災の復興支援の一環として、福島第一原子力発電所の事故で被災した福島県大熊町などが参加する予定。一部学校では、すでにITシステムを整備して授業を開始している。
研究校では、既存の電子黒板と連動した「一斉学習」や班・グループで「CM1」を1台ずつ活用する「グループ学習」、2人に1台の端末を配布しての「ペア学習」など、2年間にわたって多様なシーンでの利活用モデルを試していく。
政府は、文部科学省の「教育の情報化ビジョン」などで、従来の「コンピュータ教室(1教室)」に加え、2020年までに普通教室で「児童・生徒1人にパソコン1台」の設置目標を掲げている。だが、教育委員会や学校ごとの取り組み状況に“温度差”があり、学校の情報化全体の進捗は遅れている。パソコンなどの学校向け製品を販売する側も教育的知見が乏しく、入り込めていないのが実状だ。
今回、DISが取り組む実証研究は、文科省や教育委員会などが指定するものと異なり、DISが抱える約1万5000社の販売会社と共同で、教育的知見と販売ノウハウなどを高めていくのが特徴だ。土方祥吾・営業推進統括グループマネージャーは、「教育現場に納得の得られる提案ノウハウの蓄積が必要だ。従来は単品だけを提案する形態が多く、学校現場に受け入れられにくかった」と、各教育現場や教育機関の状況に応じてサポートできる販売体制の構築を急ぐことが重要という。
例えば、可用性の低いネットワーク機器や設計環境では、円滑な授業を阻害する可能性がある。多くの児童・生徒が一斉にログインしてトラフィック量が急増するためで、教育委員会や学校のIT管理者を悩ませている。土方マネージャーは「数校の実証実験では、教職員の指導力やIT環境、学校の規模などに違いがあるために、トータル的な実証結果を得にくい」と、大規模な数での実施を決断。民間レベルで実施した実証研究としては、東京・三鷹市の日本IBMの例や日本マイクロソフト、インテル、デジタル教科書教材協議会(DiTT)などが知られるが、いずれも数校での取り組みにとどまっていた。
同社は、2015年3月期までに売上高を5000億円に押し上げることを公表している。学校向けの事業は、この柱として位置づけている。「学校基本調査」によると、教職員用の端末を除く全国の教育用コンピュータは、コンピュータ教室への配置を中心に約191万台。また、小中高校の児童・生徒数は約1100万人で、政府が普通教室に1人1台の端末配置を計画していることから、1000万台弱の端末が将来的に導入される見通し。これに付随するITシステムが加わると、潜在市場は大きい。
表層深層
総務省がまとめた「ICT(情報通信技術)利活用取組状況に係る国際比較」によると、日本の「教育システムの質」は、2010年調査の国・地域で31位と低迷している。政府は、文部科学省を中心に数十年にわたって「コンピュータ室」などの整備を推進してきた。
しかし、依然として学校ごとに「教育の情報化」に“温度差”があり、政府主導の推進策にもかかわらず、全国を見渡すと結果が出ているとは言いがたい。それだけに、「文教市場はおいしくない」というムードがIT業界に漂う。
現在は、内田洋行をはじめNECや富士通、日立製作所などと、各社に関連するディーラーが学校市場を攻めているが、企業や自治体向けに比べて実入りに乏しい。
ダイワボウ情報システムは、文教市場は潜在需要が大きいと判断し、大型投資を断行して今回の施策を打ち出した。その方法も、実証研究のなかでIT導入や利活用上の課題を炙り出し、販売会社を巻き込むといったように、従来の研究とは様相が異なる。
従来、学校向けシステム提案は、単品か1教室分を一気に変更する大型案件に偏っていた。そこで、同社は、各学校の導入状況に応じて段階的にITを導入・利活用できるスキームを構築。このスキームを現場で実験して、販売会社に提案スキルを身につけさせることを命題としている。
この実証研究がつまずくとしたら、日本の学校IT化に未来はないといってよさそうだ。