クレジットカードの普及率が頭打ちになるなかで、プリペイド方式やデビット方式の決済サービスをクレジットカードの既存インフラ上で動かす動きが加速している。SIerは非現金決済のシステム構築ビジネスの有力商材として、関連サービスの立ち上げに力を注いでいる。(取材・文/安藤章司)
●シェア20~30%が飽和点 非現金決済サービスは、新しい局面に入っている。歴史があり、規模も大きい非現金決済の代表といえばクレジットカードだが、消費市場での一般的なシェアは、20~30%が「飽和点」とされる。クレジットカードは、その名の通り「信用」のある人を対象にするもので、未成年やリタイアした高齢者、失業者などは基本的には使えない。
クレジットカード大国の米国でさえ、生活基盤が確立しきれていない移民や外国人は審査が通りにくい傾向があり、また、中国やロシアなどの成長国も与信審査が十分にできないなどの理由で、クレジットカードの普及が遅いことがシェア20~30%の背景にある。

TIS
西田光志
副社長 こうした状況にあって、VISAやMasterCardをはじめとする国際クレジットブランドは、デビットカードやプリペイドカードのサービスの普及に意欲的で、国内ではNTTデータやITホールディングスグループのTISが、相次いで国際ブランドを活用したプリペイド決済サービスの拡充を打ち出している。ポイントは「既存の国際ブランドのネットワークインフラ」を活用しているところにあって、理論的にはVISAやMasterCardが使える場所であれば、世界中、どこでも使える利便性が他の非現金決済サービスと大きく異なる。
既存のクレジットサービスのインフラに相乗りするとはいえ、決済を行うタイミングが異なるので(デビットは即時払い、プリペイドは前払い)、それぞれに対応した情報システムが新たに必要になる。TISやNTTデータなどの金融決済サービスに強みをもつITベンダーは、この点に着目して、デビットやプリペイド部分の処理を共同利用型のサービスとして提供しようというものである。
デビットカードは、銀行口座に紐づいているので、基本的には銀行しか発行できないが、プリペイドは「商品券」と同じで、手続きさえ踏めば誰でも発行できる。ITベンダーからみれば、前者は銀行の数だけしか顧客対象にならないが、プリペイドはアイデア次第で「さまざまな可能性が広がる」(TISの西田光志副社長)と、市場の拡大余地も大きいと期待されている。
●世界中で使える「プリペイド」 国内での非現金決済をみると、電子マネー系と、Amazon.co.jp(Amazon)やAppleのiTunesなどのネット系商品券が勢力を伸ばしている。古くは公衆電話用のテレホンカードや百貨店の商品券など、前世代の非現金決済もあるが、この特集では言及しない。
交通系電子マネーの代表格であるSuicaやPASMOは首都圏で暮らす人たちにはもはや必須となっていて、駅ナカや駅周辺の買い物なら、ほぼSuica/PASMOでこと足りる。流通・サービス系の電子マネーは「WAON」「nanaco」がメジャーで、イオンのスーパーが近くにあれば「WAON」、セブン-イレブンでよく買い物をするのなら「nanaco」が便利だろう。
AmazonやAppleなどのネット系商品券は、未成年者やリタイア組などクレジットカードを持てない層や、「クレジットカードでの買い物には抵抗がある」と感じる層に最適だ。主なコンビニでAmazonやAppleの商品券を販売しているので、入手も簡単。クレジットカードのような個人情報の流出事故や、使いすぎて大きな借金をしてしまうこともない。ふだんからクレジットカードを使っている人も、Amazonでポチッとクリックして商品を購入してしまう、いわゆる「アマポチ」での行きすぎた購入を防止するために、あえてAmazon商品券をコンビニで買ってくるという人もいる。
Suica/PASMO、WAONなどの電子マネー、Amazonなどのネット系商品券をすべて持っている人も珍しくないが、一つ大きな欠点がある。それは、使える場所が限られていて、しかも国内限定であることだ。交通系の電子マネーの勢力圏は基本的に駅周辺で、流通・サービス系の電子マネーは原則として系列店と提携関係にある店に限られる。商品券であれば、AmazonならAmazon、AppleならAppleだけに限定される。
この点、クレジットカードのインフラを活用したデビット/プリペイドであれば、原則としてクレジットカードが使える店は、ネットも含めて世界中で使える。利用者はクレジット加盟店に対して、クレジットかデビット、プリペイドかを告げる必要もなく、加盟店側も通常のクレジットカードと同様の処理をする。つまりフロントエンド部分は手を加えず、バックエンド側で即時払いか、先払いかを判断する仕組みになっている。
電子マネーの発行は、投資負担の大きさからいってJRやイオンなどの大手でなければ難しいが、既存のクレジットカードのインフラに便乗するプリペイドカードなら中小事業者でも会員カード感覚で発行できるようになる。次ページ以降、その実際を詳しく解説する。
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