製造業のIoTが熱い! ITベンダーの戦略と取り組み
今年の注力分野に「IoT」を挙げるITベンダーは多い。それも特定の分野に限定されることなく、ハードやソフト、ネットワーク、セキュリティなど、あらゆる分野がかかわってくる。影響範囲の広さから新たな市場としての期待が大きく、なかでも製造業に対する注目度は高い。ITベンダー各社の戦略に、製造業でのIoTの最前線を追った。
マイクロサーバーベンダー
ぷらっとホーム
「IoTの取り組みが昨年後半から活発化」

鈴木友康
社長 「時代が高速化しているから」と、ぷらっとホームの鈴木友康社長は、IoTが製造業で注目される背景を語る。以前は製造機器が故障してから修理すればよかった。それが現在では、壊れる前に対処することが求められる。
「製造計画や発注計画は、1か月ごとに見直していたところを、1週間に短縮したり、日次で見直したりするようになってきた。そのスピードに対応するには、製造機器の故障は許されない」(鈴木社長)。そこで製造機器を情報ネットワークに接続し、状況を把握するというIoTの活用が進められている。
ただし、「製造機器の状況を把握するには、モノやコトの情報を集めなければならないが、ネットワークにつなぐ動きが出てくるのは、これから」と、鈴木社長は今後の展開に期待している。
ぷらっとホームは、通信事業者向けに通信機器監視用のインフラを提供してきた。通信機器は、さまざまな環境に設置されることから、省電力かつ小型で丈夫な製品が求められる。そのノウハウが凝縮されているのが、同社の「OpenBlocks」だ。Linuxを搭載したマイクロサーバーで、通信機能をもち、さまざまなニーズに対してソフトウェアで対応できるオープンな仕様を強みにしている。製造機器との接続を考慮し、シリアル通信規格「RS-485」の接続モジュールも提供している。同製品には量産の注文が昨年後半から入ってきているという。
「製造機器から得られるデータの内容や取得のタイミング、活用方法の検証が終わりつつある。製造現場でのIoTの方向性が、ようやくみえてきたのではないか」と、鈴木社長は実感している。
ネットワーク&サーバーベンダー
シスコシステムズ
「現場に最適なフォグコンピューティング」

今井俊宏
シニアマネージャー 「製造現場で収集したデータは、1日で数テラバイトになることもある。その膨大なデータをクラウドや自社のデータセンターに集めて処理するのは、送信だけでも時間がかかり、処理が完了したときにはもはや意味のないデータとなっている可能性がある」と、シスコシステムズIoTインキュベーションラボの今井俊宏シニアマネージャーは指摘する。例えば、製造機器の故障につながるシグナルをキャッチしていたとしたら、すぐに対応しなければならない。それがデータの処理に時間がかかるようでは、シグナルに気づいたときには故障している可能性が高くなる。
そこでシスコが提唱しているのが「フォグコンピューティング」である。製造現場内でのデータ処理を指し、同社ではそのためのアーキテクチャを提供する。クラウド(雲)よりもデバイスに近いことから、フォグ(霧)というわけだ。
フォグコンピューティングは、製造現場だけのものではない。「ネットワークにつながるデバイスの数は、2008年に世界人口を逆転した。2014年には、世界にあるモノの1%未満しかネットワークにつながっていないが、急速に伸びて、2020年には500億のモノがネットワークにつながる」(今井シニアマネージャー)。そのため、データ処理の重要性が高まり、さまざまな分野でフォグコンピューティングの適用が期待される。
シスコは、IoTに関するテクノロジー調査や普及啓発活動、ソリューション開発を目的としてIoTインキュベーションラボを2012年11月に発足させている。同ラボの成果を各業界に精通したパートナーとともに展開していく考えだ。
ソフトウェアベンダー
PTCジャパン
「IoTで製品の優位性を最大化」

成田裕次
執行役員 自動車部品を製造する独コンチネンタルは、1万8000人の技術者のうち、1万2000人がソフトウェアエンジニアだという。自動車はセンサの塊だ。自動車の状態をセンサでキャッチし、その情報を集めて製品の改善に役立てる。IoTを活用した製品ライフサイクルの最適化である。
「製品にセンサがつくことで、多くの情報を得ることができる。サービス担当者が集めていた情報を、IoTによって製品自らが発信するようになる。その情報は、メーカーはもちろん、顧客にとっても役に立つ。または、保険会社のような第三者が使うことも考えられる。IoTは、新たなビジネスチャンスとなる」と、CADソフトなどを開発・販売するPTCジャパン(PTC)PLM/ALM事業部の成田裕次執行役員はIoTの活用シーンを語る。
PTCはIoTについて、製造設備ではなく、製品に軸足を置いている。例えば、製品の使われ方を把握する。用意した機能が想定外の使われ方をされているのであれば、製品企画担当にフィードバックし、その機能を高度化して、次の製品に反映していく。IoTによって、製品が成長していくというわけだ。
PTCは、今年の1月にIoT向けアプリケーション開発や運用などを手がける米ThingWorx(シングワークス)を買収した。CAD製品で実績を積んできたPTCは、製造業が置かれた状況を熟知している。そのPTCが製造業でのIoTの重要性を認識し、ThingWorxの買収に至った。今後はCADによる設計からIoTによる製品の成長サイクルまでのトータルなサポートが期待される。
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