主要ベンダーが強い関心 ベアメタルにどう迫るのか
ベアメタルクラウドを巡っては、ベンダーによって見方が多少異なる。IBMがSoftLayer事業でベアメタルクラウドを打ち出したこともあって、さすがに国内主要ベンダーも「無関心」ではいられない。ただ、ベアメタルクラウドに対するアプローチは若干異なっている。
●積極参加と調査研究型 ベアメタルクラウドへのアプローチは、大きく(1)肯定的評価と(2)調査研究に意欲的の2種類に分かれる。
(1)のグループは、すでに顧客からベアメタルクラウドに関して何らかの具体的ニーズを感じ取っているケースが多い。具体的には、リンクやデータホテル、GMOインターネットなどで、一部ではすでにベアメタルクラウドサービスを始めている。
(2)のグループは、自社のビジネス規模を十分に満たすだけの市場が存在するかを見極めようとしているケースが多い。富士通や日立製作所などがこのグループに当てはまる。現時点では、ベアメタルクラウドビジネスにどう関わっていくかを検討している段階にある。
この二つのグループをみると、客層の違いもあるが、それよりもベアメタルクラウドが未開拓といえる市場であることに起因して、インターネット系の企業が率先して市場開拓に取り組んでいるという印象を受ける。SoftLayerも1年あまり前に米IBMが買収したホスティングに強いインターネット系の会社であった。
では、(2)のグループに入る富士通や日立といった大手は、ベアメタルクラウドをどのようにみているのだろうか。
●富士通は既存のサービスで対応 富士通は、ベアメタルクラウドを必要とする顧客について四つのパターンを列挙している。一つ目は、ビッグデータ分析など高性能なハードウェア処理能力を求める顧客。二つ目は、特殊なI/O(入出力)やメモリを必要とする顧客。三つ目は、ハイパーバイザーに対応していない古い業務アプリケーションや、ベンダーが自社のハイパーバイザー以外で動作させるときのライセンス料金を割高に設定しているソフトウェアを使っている顧客。四つ目は情報セキュリティの観点から、もともと専用サーバーを必要としている顧客である。
まず、一つ目のデータベースを高速で回すなどの高負荷計算を必要とする顧客については、ハイパフォーマンスコンピュータ(HPC)を活用すれば対応できる、と富士通はみている。HPCはコンピュータメーカーである富士通のいわば矜恃ともいえる分野である。「世界を見渡してもHPC領域で富士通に勝てる相手はそういない」(富士通の水野浩士・サービス&システムビジネス推進本部本部長代理)と自信を示している。
二つ目については、下掲の囲み記事で紹介したフジテレビの事例があてはまる。この事例は、NANDフラッシュメモリを使ったフュージョンアイオー製の半導体記憶装置を装着できる専用サーバーに乗り換えたという内容で、特殊なI/Oを必要としたケースといえる。

富士通の水野浩士本部長代理(左)と木野亨本部長代理 三つ目はかなり稀なケース。四つ目は、もともとパブリッククラウドに向いておらず、自社で専用のハードウェアを購入するタイプだろう。以上の分析からすると、富士通からベアメタルクラウドに今すぐ参入するという雰囲気は感じない。
実際に、富士通の木野亨・クラウド事業本部本部長代理が「既存サービスの強化、ならびにハイブリッド型クラウドを構築することで、顧客の要望に応えられる」と語るように、現時点ではベアメタルクラウド専用のサービスラインアップを揃えなくとも、既存サービスのマッシュアップで対応できるとみている。
とはいえ、ベアメタルクラウドに対する関心は高い。「ホスティングとパブリッククラウドのすき間に割って入るもので、うまいこと生存空間をみつけだした」(木野本部長代理)とベアメタルクラウドを評価している。世界の技術動向や、IBMをはじめとする世界の主要プレーヤーの動向は入念に調べ上げていて、自社のサービスにすき間ができぬよう、随時きめ細かな強化をしているのが実態だ。
●日立はサービスベンダーに焦点 日立製作所は、ベアメタルクラウドの可能性を十分に認識している。ただし、SoftLayerのように、AWSライクなパブリッククラウドをベアメタルクラウドで実現しようとしているかといえば、そうともいい切れない。日立は、サーバーベンダーの視点から、ベアメタルクラウドの調査研究をしている。
ベアメタルサーバーの世界有数のヘビーユーザーは、フェイスブックやグーグルなどの大手ネットサービスベンダーであることは有名な話だ。ほかのネットサービスベンダーも、仮想サーバーのオーバーヘッドロスを嫌い、ベアメタルを積極的に活用している様子が、フェイスブックが提唱して始まった次世代データセンター(DC)の研究コミュニティ「オープンコンピュートプロジェクト(Open Compute Project=OCP)」などを通じて、部分的ながらも明らかになっている。

日立が得意とするブレード型サーバー
このことから日立は、「ベアメタルクラウドの本当の需要は、ベアメタルクラウドを提供するDCベンダーよりも、ベアメタルクラウドを活用して何らかのアプリケーションを提供するサービスベンダーのほうが大きい」(高原清・クラウドサービス事業部事業企画部主管技師)と分析している。

日立製作所の高原清主管技師(左)と津嘉山睦月主任技師 主なターゲットが、ベアメタルクラウドを使って何らかのアプリケーションサービスを提供するSIerやサービスベンダーとなれば、コストパフォーマンスが強く求められる汎用的なサーバーよりも、「日立ならではの特色ある技術」(津嘉山睦月・情報・通信システム社ソリューションビジネス統括部主任技師)を前面に押し出すことが求められる。日立は、得意とする超高集積のブレード型サーバーとハイエンド機でのサービス展開を考えている。ハイエンド機では、ハードウェアを論理的に分割する日立の「Virtage(バタージュ)」を駆使することで、ユーザーに最適なサイズの“論理ベアメタル”としてSIerやサービスベンダーに売り込んでいる。仮想サーバーと発想は同じだが、Virtageは論理分割された環境同士の干渉がなく、物理サーバーと同等の性能安定性・独立性を発揮することから、日立では論理ベアメタルとして差異化を図っている。

ユーザーの声
パフォーマンスの課題 物理サーバーで解決 U.P SYSTEM 加藤忠相 係長
ユーザー開発現場の声を紹介する。ソフト開発のU.P SYSTEMの加藤忠相・ソーシャルゲームシステム課係長は、今、フジテレビのゲームスタジオにおいてウェブ上で遊べるゲームの開発に従事している。いわゆる客先常駐でフジテレビ側のメンバーと密に連携をとって開発しているのだが、今、最も注目しているITプラットフォームサービスが、ベアメタルクラウドだ。ゲーム運用では、これまで仮想サーバー型のパブリッククラウドを活用してきたが、仮想サーバーを増やしてもパフォーマンスが改善しない課題を抱えてきた。
仮想サーバーを増やし続けようとしても予算には限界がある。そもそもパフォーマンスを妨げている要因がオーバーヘッドロスなのか、同一ハードウェア上の他の仮想サーバーの負荷が大きいことによる“道連れ現象”なのかよくわからない。そこで加藤係長が選択したのは、リンクのホスティングサービス「アプリプラットフォーム」だった。
このサービスは、顧客の要望に沿って専用サーバーをカスタマイズして提供するもので、最大のポイントは通常のHDD(ハードディスクドライブ)に比べて約80倍の速度が出るというフュージョンアイオー製の半導体記憶装置「ioDrive2」を実装できるところにある。導入後にはパフォーマンスが大幅に改善し、「物理サーバーならではの処理速度の速さに満足している」と加藤係長は語る。
実は、リンクの「アプリプラットフォーム」は、今年5月からベアメタル型アプリプラットフォームタイプも始めていて、オンラインで物理サーバーをコントロールできるようになった。フジテレビのゲームスタジオでは、まだベアメタルクラウドは導入していないが、「今後の採用を視野に入れている」(加藤係長)と前向きに検討している。
記者の眼
先行投資の負担重く 収益力の向上がカギ握る
Amazon Web Services(AWS)とMicrosoft Azureに続いて、世界3大パブリッククラウドの一角にIBM SoftLayerが食い込もうとしている。SoftLayerの最大の特色はベアメタルにあり、ベアメタルをそのまま使うだけでなく、ユーザー自身で仮想サーバーをアプリケーションのように載せることも可能となる。つまり、仮想サーバーとベアメタルの複合的な運用といった自由度が広がる。
だが、仮想サーバーだけを貸し出すのに比べて、ベアメタルを提供する側──この場合はSoftLayerの先行投資の負担は重くなることが容易に予想される。2015年までに日本を含む世界約40か所へデータセンター拠点を展開するなど規模でカバーする見通しではあるものの、高い粗利が見込めるビジネスモデルという印象は薄い。「高収益企業であるIBMらしからぬ取り組み」(ITベンダー幹部)という声も聞こえてくるが、ベアメタルクラウドを一定規模に拡大するとともに、IBM独自アーキテクチャのPower Systemsを載せるなど付加価値サービスを拡充するものとみられる。
パブリッククラウドそのものが薄利多売のビジネスモデルであるだけに、今後、どのように収益力を拡大させていくかがベアメタルクラウド発展のカギを握るといえそうだ。