中国ローカル市場を攻略せよ 架空のA社が中国ローカル市場に挑む
中国ローカル市場に立ちはだかる壁とは何か。ここでは、日系SIerの中国現地法人として、架空のA社がローカル企業の開拓に挑戦する場面を想定し、ビジネスシーンの各所に存在する課題と、それに対する解決策を提示する。
1.何を売るのか 差異化要因が必須
A社は、日本の独立系SIerの中国現地法人で、これまでは日系企業向けにビジネスを展開してきた。得意分野は、グローバルITベンダーのERPを活用した基幹系システムの構築だ。
中国ローカル市場へと事業を拡大するにあたって、A社は、何を売るのがよいだろうか。得意とするグローバルITベンダーのERPは、中国のローカルITベンダーも扱っていて、A社は不利な状況にある。競合のローカルITベンダーは、コスト安に加えて「ローカル企業に特化した経験やノウハウ、業種テンプレートをもっている」とアピールするからである。
そうすると、競合がいない独自のソリューションの提供となる。それも、日本の商材を中国語に対応させるだけではない。過剰品質にならないように余計な機能をそぎ落とすなどの工夫が求められる。中国人は、必要最小限の機能で安価なものを好む傾向があるからだ。
例えば、東洋ビジネスエンジニアリングの上海法人は、製造業向けERP「MCFrame」を主力商材として、日系企業を中心に約30社の顧客を獲得しているが、1件あたり1000万円規模の導入コストがかかるので、ローカル企業には提案していなかった。この未開拓の市場に向けて、同社は簡易版の「CS Start-Up Edition」とクラウド版の「cloud/China」を開発。中国市場向けに機能を絞って、価格を抑えた。
●コスト競争に陥らない工夫 しかし、価格だけではローカルITベンダーに勝てない。ある日系ITベンダーの総経理は、「価格を可能な限り下げて臨んでも、ローカルITベンダーは、さらに切り下げて、似たような製品を提案してくる」という。
価格競争に陥らないためには、やはり独自性も重要となる。例えば、日立システムズの広州法人は、現地のニーズにもとづいて開発した「中国向け介護サービス管理システム」を提供している。中国政府によると、中国の60歳以上の高齢者人口は、2013年末に2億人を突破。今後も毎年約1000万人ずつ増加し、養老施設などの高齢者サービス市場は、20年に5000億元(約8兆円)規模になる見込みだ。日立システムズ広州法人の小林茂彦董事長によると、「養老事業を新たに開始する事業者の多くがマンションやオフィスビルのデベロッパーで、施設の運営や管理のノウハウがない」という。ローカル企業は、高齢者サービスの整備が進んでいる日本の技術やノウハウを必要としているのである。
2.誰に売るのか 政府系・国有系はほぼ不可能
A社は、自信をもって提供できる商材を確保した。では、誰に売るのがいいだろうか。せっかくなら、案件規模の大きい政府系機関や国有系企業に導入したいところだ。しかし、それは至難の業である。政府系や国有系企業は、ローカルITベンダーを優遇しているからだ。日系ITベンダーの総経理のなかでは、「日系企業というだけで、政府系や国有企業からの案件受注の道は閉ざされる」という意見が大多数を占める。例えば、NTTデータは、かつて中国人民銀行や中国版郵便貯金のシステム構築に携わったが、NTT DATA(中国)の松崎義雄総裁は「今は入り込めない。政府出身のキーマンを雇って動いてもらうなど、コネクションがないと無理だ」と語る。
●成長市場を見極める 政府系や国有系を選択肢から外すとすれば、A社はどのローカル市場を攻めるべきだろうか。
一つは、前述の日立システムズのように、成長市場に狙いを定めることだ。例えば、シーエーシーの上海法人は、ローカル企業の事務業務に注目している。中国では、将来の労働力の減少を防ぐために、一人っ子政策を緩和して第2子の出産を認可する地域が増えている。小峰邦裕副総経理は、「中国の事務員は20代の女性が多い。今後は産休を取る人が増えて、人材が流動化する」とみている。事務業務を標準化・自動化するITソリューションなどに商機があるというわけだ。
3.どうやって売るのか 欠かせないコネ人材の採用
A社は、商材を開発して、ターゲット領域を定めた。次は、ローカル市場に営業をかけていくことになる。この際、単純に電話やメールで一斉に営業をかけるのは効果的ではない。なぜならA社は、中国ローカル市場での知名度は皆無だからだ。アポイントを取ろうにも、ファーストコンタクトで門前払いされてしまう。
ヒントは、人脈を活用すること。中国は人脈社会。知り合いを仲介して、営業をかけることが、ローカル企業の警戒心をときほぐす。そこでA社は、ターゲット領域にコネがある営業担当者を採用することにした。
しかし、A社にとって、コネをもっている人材を探すことは、簡単ではなかった。コネがある優秀な人材はどの企業も必要としていて、高待遇で迎えなければならない。予算が限られるA社は、うまく採用できなかった。
●ローカルパートナーをみつける そこでA社は、ターゲット領域に強いローカルITベンダーとのパートナーシップを構築して、彼らの営業力を借りようと考えた。
例えば、PFUの上海法人では、文書管理システムなどを販売するために、同分野に強いローカルITベンダーの上海鴻翼数字計算機科技を戦略的パートナーとして取り込んでいる。屠雲峰総経理は、「16年度(16年12月期)には、現地ビジネスに占めるローカル企業の割合を7割にする」と目標を掲げている。
無事にA社はローカルITベンダーとパートナー関係を結ぶことができた。しかし、いつまでたってもA社の商材を売ってくれない。ローカルITベンダーは、A社の競合製品も含めて、複数の商材を扱っているからだ。A社には、優先的に販売してもらう工夫が求められる。例えば、アスプローバの上海法人は、パートナー間の連携によって、販売意欲を促進している。同社は生産スケジューラ「Asprova」で約40社のパートナー企業を保有しているが、徐嘉良総経理は、「代理店同士が獲得した案件の一部を融通し合って、経験やノウハウを共有するなどの施策を講じている」と説明する。
●ローカルに強い日系企業と協業 A社は、ローカルパートナーに加え、ローカル企業に強い日系企業との協業も進めた。
例えば、キヤノンITソリューションズの上海法人は、キヤノン(中国)と連携して、事務機やネットワークカメラに、自社ソフトウェアを組み合わせて提供している。キヤノン(中国)の顧客は、ほぼローカル企業。キヤノンITソリューションズ上海法人の伊藤正紀総経理は、「すでに当社の顧客の約9割はローカル企業となった」と好調をアピールする。
また、クオリカの上海法人では、グループ企業であるコマツの中国法人と連携。水沼充総経理は、「コマツがローカルの協力会社に対して指導している業務改善に絡めて、当社の製造業向けシステム『AToMsQube』を提案する」と戦略を語る。
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