日本国内では、圧倒的な存在感を誇るトップSIerのNTTデータ。中国でも約4000人の人員を抱え、日系ITベンダーとしては最大級だ。しかし、中国ビジネスの実態は、日本向けオフショア開発が大部分を占めていて、現地向けITビジネスでは、まだ大きな成功を収めたとはいい難い。中国13億人の巨大市場は、どうすれば開拓できるのか。中国でのNTTデータグループの各社の動きから、現状の課題や今後の動向を探った。(取材・文/真鍋武)
中国事業のカギを握る現地ITビジネス 日本向けオフショア開発は頭打ち
●伸び悩む日系ITベンダー
中国に進出している日系企業を取材していると、「以前ほどの成長スピードはなくなった」という声を頻繁に耳にする。中国のGDP成長率は10%を下回り、2013年に政府が発令した「ぜいたく禁止令」も相まってか、上海や北京などの主要都市では、以前ほどの活気は感じられない。日系企業にとっては、日中の政治摩擦も無視できない問題となっている。政治情勢が先行き不透明なことから、様子見とばかりに日本本社からの投資が抑えられ、悲観的なムードが漂っている企業は少なくない。
それでも、日系ITベンダーのビジネスを俯瞰してみると、各社の業績は決して下降線をたどっているわけではない。悪戦苦闘しつつも、ある程度の成果を上げている。ただし、「中国で大きな成功を収めた日系ITベンダーはどこか」と問われると、なかなか思い浮べることができない。日系ITベンダーは、まだ中国では中堅・中小企業の域を出ていないのが実態ではないか。
●トップのNTTデータも足踏み
それは、日本のトップSIerであるNTTデータでさえも同じだ。NTTデータは、95年に中国に進出して以来、日本向けオフショア開発と、中国現地向けITビジネスを手がけてきた。上海や北京、大連など沿岸部を皮切りに、最近では、西安や成都、長春といった内陸部にも進出し、中国国内の11地域に拠点を構えている。統括会社のNTT DATA(中国)(NDC)を中心として、中国に22社のグループ企業を保有(分公司・マイナー出資企業を含む)。中国に抱える人員数は、子会社だけで4000人に及ぶ。
人員や拠点の規模は中国でも大手の部類に入るが、売上規模が追いついていない。NTTデータの13年度(14年3月期)の連結決算をみると、海外では約3000億円を稼ぎだしているが、このうちの約9割は北米や欧州から捻出されたもので、中国の売上比率は残りの1割以下となっている。さらに、『週刊BCN』の12年のインタビューで、NDCの前任の総裁である神田文男氏は、「今後5年で88億元(当時の約1000億円)を目指す」と目標を掲げたが、今回、NDCの松崎義雄総裁に再質問したところ、「M&Aでもしない限り、その目標の達成は難しい」と答えた。
●オフショア依存体質に限界
なぜNTTデータの中国での売上高は、大きく伸びていないのか。その理由の一つは、日本向けオフショア開発に依存するビジネスを展開してきたことにある。統括会社のNDCや、その子会社の無錫NTT DATA、天津NTT DATAなど、規模が大きいグループ会社は、軒並み日本向けオフショア開発の売上比率が高い。22社あるグループ企業のなかには、SAPに特化したコンサルティングやソリューションを手がける上海の殷智信息技術諮詢(上海)や、金融業向けITサービスを提供する北京の宇信数据科技など、中国現地向けITビジネスに専念している企業があるものの、日本向けオフショア開発やBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)などの円建てビジネスと、中国現地に向けたSIやソリューション提供などの元建てビジネスの売上比率は、およそ8対2となっている。
日本向けオフショア開発に大きな成長は見込めない。中国では、人件費が毎年10%程度の勢いで高騰し、円安も相まって、オフショア開発の環境は苦しくなるばかりだからだ。NTTデータは、人件費が安い内陸部への移転、要件定義や設計などの上流工程へのシフト、自動化ツールの採用による生産性の向上というような策を講じているものの、オフショア開発の市場そのものが大きく伸びる見込みがない以上、これを中国ビジネスの成長機軸に据えることはできない。
●一般法人系と金融系を開拓
そうすると、NTTデータの中国事業の成長を左右するのは、現地向けITビジネスということになる。しかし、ここにも課題がある。
NTTデータは、日本では公共分野を強みとしていて、中国でも、かつては中国人民銀行や中国版郵貯システムの構築に携わった実績がある。しかし、最近は中国の地場ITベンダーが育ってきたことや、日中の政治摩擦などによって、公共系ビジネスには事実上入り込めていない状況が続いているのだ。実質的にNTTデータが現地ビジネスとして開拓できる領域は、一般法人系と金融系の二つに絞られる。
その現状を踏まえ、市場規模が大きい華東地域に拠点を構えるNDC、無錫NTT DATA、殷智信息技術諮詢(上海)、恩梯梯数据英特瑪軟件系統(上海)、日軟信息科技(上海)、上海恩梯梯数据晋恒軟件、杭州NTT DATA軟件の7社を取材した。次ページから、グループ企業を含めて、NTTデータがどのように現地向けITビジネスを拡大しようとしているのかを解説する。
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