Global 日本IBMとして海外に“進出”
イェッター社長は、日本IBMの「グローバル」力を強化するために、まずは経営陣の刷新に取りかかった。米本社などの優秀な人材を抜てきし、重要ポストに配置した。現在は、管理部門担当のブライアン・ジョンソン・取締役専務執行役員や人事担当のサム・ラダー・取締役常務執行役員、 グローバル・ビジネス・サービス事業本部長のケリー・パーセル・取締役専務執行役員など、会社運用や国際事業展開に関してキーになるポストをグローバル人材が務めている。
人事を含め、イェッター社長が掲げたのは、「グローバリー・インテグレーテッド」。各国のIBM現地法人と連携し、国境を越えて日系企業を支援する体制づくりだ。日本IBMに限らず、外資系ITベンダーの日本法人にとって、グローバル展開は難しい。現地のデリバリやサポートにあたって、どこまで日本法人として携わり、どこから現地法人が「入り込む」のか──。結局、現地法人の案件となる可能性があるので、外資系企業の日本法人は海外の活動に消極的になりがちだ。そうしたなかにあって、イェッター社長が乗り出したのは、日本IBMとして現地に出るという、自らの“海外進出”である。
進出先は、製造業などの顧客が力を入れているASEANだ。今年4月にシンガポール、7月にはタイ・バンコクに「グローバル・ビジネス戦略室」を開設した。「日本IBM」の看板を出したサポート拠点で、地場の商慣習や規制に精通する日本人スタッフが常駐している。国産メーカー系や主要SIerがASEAN事業の拡大に取り組み、現地のていねいなサポートを武器に案件の獲得を目指しているなかで、イェッター社長は、国内の地方戦略と同様、海外においても、とにかく存在感を示すことを重点項目と捉えている。
日本IBMの成長は、日本企業のグローバル化をどこまで支援できるかにかかっている。日本IBMは、自動車メーカーなど、大手顧客に深く入り込む大口案件の経験が豊富だ。そうした企業の海外進出は今後も続く。海外の支援体制を強化し、国・地域を問わずにIT資源を届ける組織づくりは、新社長の下でも続くことになるだろう。
Future
日本IBMの「今後」 米本社の変革も進むなか、新社長の手腕が試される

米IBM
バージニア・ロメッティ
CEO 12月決算である日本IBMの2014年度の業績は、当然まだ明らかになっていないが、イェッター氏が社長に就任した2012年からは、売上高と純利益がプラスに転じた。純利益の回復には組織のスリム化などコスト削減が貢献しているとみられるが、売り上げも伸びているということは、ローカルとグローバルに注力する「イェッター戦略」が軌道に乗りつつある裏づけとして捉えることができる。
一方、技術や商材に関して方針を決める米本社の「今」をみることも、日本IBMの「今後」についてのヒントを得ることができる。
11月10日、東京・千代田区のパレスホテル東京。日本IBMのユーザー企業向けイベント「THINK Forum Japan 2014」で来日した米本社のバージニア・ロメッティCEOは、全世界でIBMの変革に取り組んでいることをアピールした。
高付加価値ソリューションのコア技術として研究開発に力を入れているのは、チップが人間の脳のように働き、自然言語など音声情報も処理できる「コグニティブ・コンピューティング」と呼ぶものだ。この技術はまだ黎明期にあって本格的な事業化はこれからだが、ガン治療といった分野で活用できそうなので、次世代テクノロジーとして期待が高まっている。IBMは、質問応答技術を使ったコグニティブ・コンピューティング・システム「Watson(ワトソン)」の商材化を進めていて、「近々、日本語にも対応する」(IBMリサーチ担当のジョン・ケリー・シニアバイスプレジデント)ことを明らかにしている。
米国では、ヒューレット・パッカード(HP)が分社化に踏み切った。2015年度(15年10月期)末をめどに、法人向けのハードやソフト、サービスを専門に取り扱う会社と、パソコン・プリンタ事業を担当する会社を設立する。この“分社化”に関しては、IBMも他人事ではない。実は、IBMはハードを含め、数多くの商材を抱え、組織の巨大化が迅速に動くうえでのネックになりつつあるからだ。
競争力の低下を懸念し、米国の投資家やアナリストはIBMも分社化すべきと捉え、「物言う株主」の要求として、IBMの大幅な組織再編が浮かび上がっている。THINK Forum Japan 2014に合わせて開いた記者会見で、米IBMのケン・ケヴェリアン・コーポレート・ストラテジー担当シニアバイスプレジデントは分社化について曖昧に解答し、可能性を明確には否定しなかった。
イェッター社長は、同日の記者会見の最後に「私どもは、日本での改革の進捗には満足している」と、すでに本社の視点に立ってコメントした。しかし、本格的な収穫までの道のりは遠いようにみえる。技術や組織に関して、米本社が変革の時期に差しかかっているなかにあって、日本法人としては大胆に動きにくい。
新社長は本稿の執筆時点では明らかになっていないが、イェッター氏と同じように本社と太いパイプをもちつつも、イェッター氏がつくった環境を生かして、“日本らしく”事業拡大につなげることが求められる。「さよならマーティン」を告げるとともに、新社長に「頑張れ」とエールを送りたい。

誰が登場するのか。日本IBMの次期社長は明らかになっていない