先進企業における「ルール」と「ツール」の実際
すでに「ワークスタイル変革」への取り組みを行い、具体的な成果に結びつけつつある企業では、どのような「ルール」を定め、「ツール」を導入しているのだろうか。ここでは、「第15回テレワーク推進賞」受賞企業の取り組みから、そのポイントを確認しよう。
シーエーシー
専任の委員会を組織して導入を推進し、
そのノウハウを顧客にも提供

齋藤学
経営統括本部
経営企画部
情報システム
グループ長 情報システムに関するコンサルティング、システム開発、保守・運用・業務委託などを展開するシーエーシー(CAC)では、2011年に就任した酒匂明彦社長の号令の下、経営改革施策の一部として「ワークスタイル変革」と「IT基盤刷新」を並行して実施してきた。この取り組みで第15回テレワーク推進賞の「優秀賞・会長特別賞」を受賞することになった。
専任の担当者を含む社内横断の組織である「ワークスタイル変革委員会」を設置して取り組み、業務内容が異なる部門ごとにトライアルを行いながら課題の洗い出しと対応策の検討を行いつつ、内部規定として「ルール」を整備していった。
同社では、とくにコンサルティング事業に関わる社員などを対象にして「リモートワーク」を可能にする環境が一部用意されていたという。セキュリティ確保と管理性向上の観点では仮想デスクトップ環境の「VMware Horizon View」を採用し、在宅勤務時などには、自宅PCからVDIを通じた社内環境へのアクセスを行う仕組みになっている。また、日常業務時のコミュニケーション環境としては「Microsoft Lync」を採用。社外での勤務においても、Lyncのプレゼンス機能を通じて在席が確認できるようになっている。そのほか、遠隔会議用のテレビ会議、ウェブ会議などのツールを状況によって使い分け、業務を進める体制を築いている。また、リモートワークを行うにあたっての注意点を網羅した「マナー集」を作成し、対象となる社員に周知を図っている。
「管理職の立場としては、オフィスにいないことが多くなる部員を正しく評価できないのではないかという不安があったようだが、トライアルを行うなかで、評価については“現状と大きく変わらない”という認識ができてきた。その人の仕事において、コミットした成果を達成したかどうかというのが基準になるわけで、明確な基準があれば、それはリモートワークかどうかにかかわらず客観的に評価できるから」(齋藤学・経営統括本部経営企画部情報システムグループ長)。すでに客観的な評価が可能な評価ルール、つまり「合理的な成果主義」が機能していれば、リモートワークの導入にあたって、特別な評価基準を設ける必要はないというわけだ。
同社は、在宅勤務申請ワークフローの効率化やリモートワーク対象業務のさらなる拡大に向けた取り組みを続けている。また、自社でのワークスタイル変革に対する取り組みから得たノウハウをもとにした導入支援サービス「フリキタス」の提供も、2014年に開始しているという。
CACのルール とツール
ルール
・営業、管理、制作など部門別で段階的に拡大
・トライアル運用のなかでルールを 「内部規程」として策定。最終的に 「人事規程」化
・ツールの使い方やマナーについても文書を作成して周知を図った
ツール
・VMware Horizon View(デスクトップ仮想化)
・Microsoft Lync(ユニバーサルコミュニケーション)
・WebEx(ウェブ会議)
・Avaya SCOPIA(テレビ会議、旧ラドビジョン)ほか
リクルート マネジメント ソリューションズ
職種別に二つのパターンを整備し
「時間管理」を通じて生産性を意識
リクルート マネジメント ソリューションズ(RMS)では、同社の業務内容の専門性から、経営層から社員に対して「プロフェッショナルとしての専門性を高める」ことを求めている。これに関連して、経営計画のなかで等級、評価、賃金、就業制度などを含む人事制度全般の刷新を決定。リモートワークについては「プロフェッショナルとしての成長」を会社として支援するための「労働時間の短縮」と「生産性の向上」を目的とした制度と位置づけ、導入に取り組んだ。導入にあたっては、人事部門、法務部門、システム部門の担当者で構成するプロジェクトチームを組織し、制度設計や運用ルールを検討した。
同社では、営業職とコンサルタント職の全社員を対象とする「直行前・直帰後型」、全職種の一定等級以上の社員を対象とする「終日利用型」の2種類のリモートワーク制度を設けて、それぞれに承認のルール、利用者登録の有無などを設定している。
「導入に際して慎重に検討したのは、情報セキュリティの保持と、業務とコミュニケーションにおける質量の確保だった」とサービス統括部サービスシステムマネジメント部の小林雄二部長は言う。同社はグループウェアとして「IBM Notes(旧Lotus Notes)」を利用していて、リモートワークにあたっても、その利用が必須と考えた。セキュリティレベルの担保にあたっては、Windowsの「リモートデスクトップ」機能、およびスマートデバイス向けのセキュアアクセス環境である「CACHATTO」を活用。社外の端末にデータを残さず、社内の環境をそのまま利用できるようにした。
また、リモートワーク制度の利用にあたっては、リモートワーク中であることや現在携わっている業務の状況を関係者に対して十分に共有することに加え、事前に上司に対して「業務内容とそれぞれの所要時間」を見積もったうえで申請するルールを定めた。
「業務を分類し、こなすのにかかる時間を高い精度で見積もるというのは、仕事をするうえで重要なスキル。リモートワークを実践するにあたっては、生産性を高める意味でも、“時間あたりの効率”をより意識した仕事の進め方が必要になってくる。業務内容と所要時間を申告し、実際の結果と照らし合わせることで、その意識を高めてもらいたいという意図があった」(経営企画部人事グループの山科このみ氏)。社員自身が時間管理の意識をもつようになるのと合わせて、申請時の必要項目は段階的に簡素化していく計画という。

山科このみ 経営企画部 人事グループ(左)、小林雄二 サービス統括部サービスシステム マネジメント部部長(右)RMSのルール とツール
ルール
・営業/コンサルタント職向けの「直行前、直帰後型」と、全職種(一定等級以上)を対象とした「終日利用型」の二つのパターンを設け、それぞれに利用ルールを策定
・申請にあたって「業務内容」と「所要時間」を事前に見積もることを求めた
ツール
・IBM Notes(グループウェア、業務アプリ)
・Skype(リアルタイムコミュニケーション)
・V-CUBE(テレビ会議)
・CACHATTO(モバイルデバイスでのセキュアアクセス)
・Windowsのリモートデスクトップほか
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