サイボウズ
選択可能な人事制度に加えて
根本となる「社風」の醸成を重視

松川隆
事業支援本部
人事部 マネジャー 「チームワークが溢れる“社会”と“会社”をつくる」ことを経営方針に掲げ、社長である青野慶久氏自らも前面に立って「ワークスタイルの多様化」の重要性を訴えているサイボウズ。事業として「グループウェア」や「クラウドサービス」を提供していることもあって、これらをツールとして活用したリモートワークの導入は、古くから積極的に進めてきた。2010年には、全社員に対して「月4回」までの在宅勤務を認める制度の試験運用を開始。2011年の東日本大震災の発生に際しては、東京オフィス全体の在宅勤務を実施し、4月には正式な制度として運用を開始した。
「100人の社員がいれば、100通りの人事制度があってよい」という方針にもとづき、現在は「労働時間」と「仕事をする場所」を、社員それぞれが自分の指向やライフスタイルに合わせて9分類のなかから選択できる「選択型人事制度」を運用している。
「多様な働き方」を許容しつつ、そのうえでチームとしての生産性を高めていくにあたっては「ツール(仕組み)」と「ルール(制度)」に加えて、「風土」の存在が重要だというのが同社の考え方だ。
「情報共有に関していえば、オフィスで、口頭でやり取りしたような内容であっても、すべてグループウェア上に記録しておく、というような風土がサイボウズにはある」(松川隆・事業支援本部人事部マネジャー)。
こうしたことが、あらためて周知徹底する必要もなく自然に行われる「風土」があれば、同じ時間に同じ場所にいなかったとしても、共同でスムーズに仕事を進めていくということが可能であろうことは想像できる。
また松川マネージャーは、もう一つの「社風」として「説明責任と質問責任」という考え方が全社に浸透している点に言及した。「説明責任」は一般的にも使われる言葉だが、一方の「質問責任」は、「違和感をおぼえたときに、その内容について説明を求める責任」を意味している。質問された側は、それに対する「説明責任」を負い、そこから双方で問題を解決するための建設的な議論を行うことが強く求められているという。これは社員の「多様性」を認めたうえで、その際に発生し得る問題を解決していくために極めて重要な「社内文化」であるとする。
「ワークスタイル変革」を進めるにあたり、「ルール」と「ツール」に加えて、その運用の土台となる「社風」をどう醸成するかを考えておくことも、導入を成功に導くために不可欠な要素といえそうだ。
サイボウズのルール とツール
ルール
・社員が自らのライフスタイル(時間、場所)に合わせて選択できる「9分類」の人事制度
・社員のアイデアから生まれた多様な社内制度(最大6年の育児休暇、退社後の再入社、部活動や部内イベント支援制度など)
・「説明責任」と「質問責任」による建設的な議論を重んじる社風
ツール
・cybozu.com(グループウェア、業務アプリ)
・Microsoft Lync(リアルタイムコミュニケーション)
・クライアント証明書(セキュアアクセス)ほか
ワークスタイル変革
三種の神器(ツール)
1.リモートデスクトップ&VDI 外出先や自宅で業務を行う際に、多くの企業で導入されているのが「リモートデスクトップ」もしくは「デスクトップ仮想化(VDI)」だ。リモートの端末には「デスクトップの画面情報」だけを転送し、データを残さないというセキュリティ上のメリットに加え、オフィスで使っている環境を、そのまま利用できるという点でユーザーの負担も少ない。クライアント証明書やMACアドレスによる端末認証やワンタイムパスワードなどを併用することでセキュリティレベルを高めることができる。
2.リアルタイムコミュニケーション リモートワーク時の在席確認や、ちょっとした会話やチャットなど、リアルタイムにコミュニケーションを行いたい場面で多く使われているのが「Microsoft Lync」「Skype」「IBM Sametime」などのツールだ。「メール」などによる情報共有に加えて、リアルタイム性を重視したツールを併用することで、業務がよりスムーズに進められる。また、大人数や多拠点での会議用に、音声品質や動画品質、ファイル共有機能などにすぐれたテレビ会議システムを導入しているケースも多い。
3.グループウェア 「カレンダー」「メール」「掲示板」「ドキュメント管理」などの機能をもった「グループウェア」をすでに業務のなかで活用しているという企業も多いはずだ。グループウェアの「クラウド版」があれば、それへ移行することで、さまざまな場所からのアクセスが容易にできる。また、リモートデスクトップやVDIを使えば、セキュリティを考慮しつつ社内環境へのアクセスを実現できる。とくに刷新を行う必然性がないのであれば、ユーザーが使い慣れているツールを生かす方法を考えたい。
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