組み込み開発を中心として動いてきたIoT(Internet of Things)分野だが、センサなどで取得したデータの先には、多くの場合、SIerの得意分野である業務システムが待っている。むしろ、IoTが機能するには、SIerのノウハウが欠かせない。SIerにとってのIoTとして、「SIoT(System Integration of Things)」が注目を集めているのはそのためだ。(取材・文/畔上文昭)
SIoTっていったいなんだ
1.従来のSIと何が違うのか
センサなどのIoTデバイスを活用するシステム開発。SIerは業務システムの構築などでノウハウがあるため、IoTデバイスからサーバーまで、一気通貫で対応することが期待される。
2.どんなビジネスチャンスが生まれるのか
IoTデバイスから得たデータをデータベースに格納し、業務システムで活用するなど、システム開発の適用範囲が広がる。
3.SIerには何が要求されるのか
IoTデバイスの理解とデバイスメーカーとのパートナーシップの構築が求められる。また、SIerの営業担当者は、IoTデバイスを活用するシステムのメリットなどを説明する提案力が必要となる。SIerが享受する新たなビジネスチャンス
従来のSIは通用しない!?
IoT分野でも必ず発生するシステム開発。これまではIoTデバイスを対象とする組み込み系の開発が中心だったが、IoTの活用範囲が広がるにつれて、SIerのノウハウが必要とされ始めている。IoTデバイスから取得したデータは、いずれ基幹系などのシステムで活用されることになるからだ。
新たな市場はSIerにとっても歓迎したいところだが、扱いなれていないセンサなどのデバイスにどう対応すべきかといった課題がある。「SIoTといっても、システムを開発するという点では特別なことはない」としたいところだが、乗り越えるべき壁は数多くありそうだ。
●短い開発期間 IoT分野では、基本的に短期間のシステム開発が求められる。その理由の一つが、センサなどのIoTデバイスの進化が速いということ。「センサは日進月歩。6か月もすると、新しいデバイスが出てくる。SIerが手がけてきたシステム開発のスピード感では遅すぎる」と、IoT向けの開発環境を提供している日本IQPのガイ・カプリンスキー代表取締役は語る。開発が遅ければ、新しいIoTデバイスが登場してしまうことになりかねない。SIerは短期間の開発サイクルに慣れなければならないのである。
とはいえ、IT資産をすばやく調達できるクラウドコンピューティングの影響もあり、開発スピードの向上は常にSIerが取り組んでいる課題の一つ。IoTをスピード開発に慣れるためのきっかけとしてもいいだろう。
●ローコスト開発 
日本IQP
ガイ・カプリンスキー
代表取締役 SIoTには、ローコスト開発が求められるケースが多いという特徴がある。「例えば、自動車には多くのソフトウェアが載っているが、そこでのソフトウェアの料金はユーザーから徴収しにくい。そのため、SIerにはローコスト開発が要求される」というように、IoT関連のソフトウェアに多くのコストをかけるムードがないとカプリンスキー代表取締役は説明する。
日本IQPが、IoTに最適な開発環境として、コードフリーの開発環境「IQP」を提供しているのはそのためだ。「日本はプログラマの人件費が高い。IQPでは、マウス操作が中心でプログラミングが不要なことから、開発費用を抑えることができる」として、カプリンスキー代表取締役は日本に本社を置き、IQPの普及に努めている。
また、カプリンスキー代表取締役は、SIoTではオフショア開発が向いていないと考えている。「SIoTはスピード開発が必要なことから、人件費の安さを追求するオフショア開発では追いつかない。海外の人件費が上がることもある。国内で対応できる環境を整えるべき」。もちろん、コードフリーの開発環境が必要かどうかはSIerの判断となるが、スピード開発と同様に、IoTをローコスト開発に取り組むきっかけとするだけでも、SIerの将来にとって十分に意義がある。
●まだ黎明期 
ITビジネス研究会
田中克己代表理事 「今はいいが、将来はわからない」とみているSIerは少なくない。開発案件が多く、開発者が不足しているとされるほど好調なSI業界だが、将来に漠然とした不安があるからだ。将来の不安を払しょくする取り組みとして、海外進出やストックビジネスの強化などが挙げられるが、IoTもその一つである。
ところが、多くのSIerはセンサなどのデバイスを扱ってきていないこともあって、「どこから手をつけていいのかわからないのか、ピンときていない」状態にあると、ITビジネス研究会の田中克己代表理事は指摘する。4月に一般社団法人としてスタートしたITビジネス研究会では、中小規模のSIerを対象に研究会などを開催している。IoTをテーマにしたこともあるが、上記のような反応だったという。「今のままでは、中小のSIerは厳しい。新しいビジネスモデルを模索する必要がある」と、田中代表理事。SIoTはその一つであり、これから市場ができ上がっていくことからも、SIerにとっては有望な市場だといえる。
調査会社のIDC Japanによると、2014年の国内IoT市場売上規模は9.4兆円で、2019年には16.4兆円になるという(左のグラフを参照)。内訳としては、2014年では9割近くがIoTデバイスの売り上げとなるが、2019年にはIoTデバイスのコモディティ化が進み、約7割に下がるとのことである。なかでもサービスやセキュリティの比率が上がると予想されることから、SIoTが有望な市場になると解釈することができる。
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