レンジャーシステムズ
受託から脱却したMVNO構築専門集団
レンジャーシステムズは、従業員30人足らずの独立系ネットワークインテグレータで、かつては企業ネットワーク構築の受託を主な事業としていた。しかし、MVNO市場拡大の期待が高まった2012年、MVNO事業に新規参入する企業向けのシステム構築サービスに進出。現在ではサービス企画から、MNOとの折衝窓口、サービス開始後の運用まで請け負っており、MVNO支援事業が売上の大部分を占めるまでに至っている。
とくに、MNOとの間で「レイヤー2接続」を構築可能な専門技術を武器としている。MNOとMVNOの双方を接続する方式としては、技術的に容易な「レイヤー3接続」もあり、この場合はMVNO側にはIPルーターやRADIUS認証サーバーを設置すればよく、構築・運用は一般的なIPネットワークの知識の範囲内となる。それに対してレイヤー2接続の場合、GGSN(3G)/PGW(LTE)と呼ばれる携帯電話網のプロトコルに対応したパケット交換機や、ポリシー制御や課金のためのPCRF/OCSサーバーなど、携帯電話網特有の専門的な機器を構築・運用する必要がある。
機器を導入する費用もかかるため、レイヤー2接続は技術・コストの両面でハードルの高いものとなっているが、その分、レイヤー3接続ではMNO任せにせざるを得ないIPアドレスの割り当てや、セッション管理などをMVNO側で行えるため、サービス内容や料金設定の柔軟性は高くなる。MVNOらしいサービスの実現にはレイヤー2接続のほうが好都合というわけだ。また、初期費用は高くなるものの、MNO側に支払う設備使用料を抑えられるので、ランニングコストは安くできる。

レンジャーシステムズ
栗田浩二リーダー(左)と佐久間大輔リーダー さらに、レンジャーシステムズでは交換機システムの一部をソフトウェアベースで構築するなど、NFV技術を積極的に導入。レイヤー2接続でも初期コストを極力圧縮し、ユーザー数の拡大に応じた追加投資でシステムの性能を拡張できる仕組みを用意している。技術グループの栗田浩二リーダーは、「携帯電話網の取り扱いは専門性が高い一方、われわれベンチャー企業はMVNOの規模に合わせた低コストの提案を行える」と話し、これまで大手SIerとコンペになった場合も受注を獲得してきた実績があるという。
ただし、新たな技術が揃ってきたことで、最近ではレイヤー3接続でも比較的柔軟なサービス設計が可能になりつつあるという。同じく技術グループの佐久間大輔リーダーは「今後は、MVNOとコンテンツが連携するサービスの提案・実現を図りたい。また、3G/LTEとWi-Fiの統合的なサービスにも可能性があるのではないか」と述べ、サービス面での充実を図っていく方針だ。
キューアンドエー
大手キャリア並みのサポートをMVNOでも

キューアンドエー
清水祐昭
執行役員 PCメーカーに代わってサポートデスクや訪問サポートなどのサービスを提供しているキューアンドエーは、CATV系MVNO事業者や、KDDI系MVNOサービスの「UQ mobile」向けに、ユーザー宅へ訪問しての操作サポートや、リモートアクセスツールを利用した遠隔サポートの提供を開始した。
同社の清水祐昭執行役員は「現在、MVNOのニーズは、自分ですべて設定できる高リテラシー層と、従来型携帯電話ユーザーだが『孫とLINEで話したい』といった理由で格安スマホに関心をもった高齢者などの両極に寄っている」と指摘。後者のユーザー層は、手軽な価格でスマートフォンが使えるMVNOに関心をもっているものの、電話帳、メール、写真などのデータ移行が自分ではできないなど、誰かのサポートがなけれぱMVNOサービスを利用すること自体が難しい。そこで、同社のようなサポートの専門家が介することによって、大手事業者並みのサポートレベルを実現し、「ガラケーから格安スマホ」への移行を促そうとしている。
前述のヤマトシステム開発、キューアンドエーとも、現在のエンドユーザーはコンシューマ向けMVNOサービスの加入者だ。しかし、業務端末用の回線としてのMVNOの利用は今後拡大の可能性が高く、両社とも法人向けサービスの提供は視野に入れているという。「会社用のネットワーク設定と社員別のSIMカードの装着を済ませたうえで端末を納入してほしい」「故障時は情報システム担当者の手を煩わすことなくサポート窓口への電話1本で代替機を用意してほしい」このような要望が寄せられることは想像に難くない。
また、IoT市場が拡大すると、「全国数百か所へのセンサの設置と、通信回線のセットアップをしてほしい」といった仕事が発生する可能性も高い。そのようなとき、自社でMVNOを提供している、なじみのMVNE事業者がいる、物流の相談相手がいるといった状況になっていれば、案件をスムーズに進めることができる。
「MVNO=格安SIM」といった構図ができあがってしまった感もあるが、法人市場においては、MVNOの盛り上がりはIoT環境整備の第一歩とみることもできる。今回紹介した各社の形態以外にも、この市場にはさまざまな参画の方法がありそうだ。