貴陽市・貴安新区
ビッグデータ産業の実態
貴州ビッグデータ産業の中核地域となるのは、省都の貴陽市と新たな国家級新区である貴安新区だ。現地を歩き、現在の進捗状況と今後の展開について探った。
●開発区の登録企業数は急増 常住人口約450万を抱える貴陽市は、省内の最大都市だ。14年の域内総生産(GRP)は前年比13.9%増の2497億2700万元で、省全体のおよそ3分の1を占めている。市内中心部では大規模な不動産開発が行われ、地下鉄1号線の建設も進められている。14年には初めてスターバックスが店舗をオープンするなど、外資系企業の進出も徐々に増えてきた。
ビッグデータ産業の中心区域となるのは、市内中心部の北西にある国家高新技術産業開発区だ。1992年に設立された貴州省唯一の国家級のハイテク開発区である。開発区のなかには、面積5km2の「ビッグデータ広場」が設けられており、ここに関連企業が密集。新たに複数のオフィスビルが建てられており、「国家ビッグデータ産業技術イノベーション貴陽試験区」「ビッグデータ産業発展集積園区」「ビッグデータ技術イノベーションと安全連盟」など、どこも関連の看板を掲げている。ビッグデータ産業の紹介展示センターも広場にあるため、視察者はまずここを訪れることになる。展示センターは、中国のほかの地方都市と比べて派手で豪華。近未来を連想させる独特な空間となっており、外部からの誘致への熱意を感じさせる。
ただし、実際にビッグデータ広場を歩いてみると、人の気配はあまり感じられず、にぎやかな雰囲気ではない。広場内にある食堂は、昼食時になっても人がまばらの状況だった。国家高新技術産業開発区の資料によると、15年11月時点で開発区内の登録企業数は8193社。このうち、ビッグデータ関連企業数は1241社で、15年の新規登録が538社となっている。登録企業数が増えているのは確かだが、実際にはオフィスの開設を終えていない企業が多いようだ。本格的にビッグデータ産業が発展に向け動き出すのはこれからということになる。

貴陽国家高新技術産業開発区のビッグデータ広場 ●中国初のビッグデータ取引所 貴陽市内には、ビッグデータ産業を発展させるためのユニークな取り組みも行われている。例えば、インターネット金融特区に設立された貴陽ビッグデータ取引所(GLOBAL BIG DATA EXCHANGE=GBDEX)だ。ビッグデータ取引所とは、複数の企業間で行うデータ売買の仲介事業者のこと。政府や企業が保有するデータやソーシャルなどの公共データを扱い、個人情報を匿名化するなど、データを売買可能な形に加工して流通させる。グローバルでもビッグデータ取引所の数はまだ少なく、中国にとってもGBDEXが初の例となる。
GBDEXは、中国政府の批准を受けて14年12月に設立した。国有企業の貴州陽光産權交易所などが出資しており、現時点では政府・金融・各業界・公共など、約30カテゴリに分類したデータを取り扱っている。データ売買は15年4月に開始し、同年末までに約300社が会員登録した。会員企業には、中国の通信キャリアやアリババ、ファーウェイ、浪潮集団などの大手IT企業が名を連ねる。GBDEXでは、今後5~10年で会員数を1万社に増やすことを目標としている。
ただし、ビッグデータ取引を普及させるには、技術開発とその標準化、売買されるデータの情報管理、個人情報の保護などの課題もある。GBDEXでは、会員の多くが大手企業のため、現時点で大きな問題は発生していないが、貴州省ではこうしたルールづくりも並行して進めている。今年1月には、中国初のビッグデータに関する地方法規として「貴州省ビッグデータ発展応用促進条例(草案)」が可決され、データの共有や開放、データ取引や安全保障などについて基本的な原則が定められた。

貴陽ビッグデータ取引所 ●さら地から出発した国家級新区 貴州ビッグデータ産業のもう一つの中核地域である貴安新区は、14年1月に新設されたばかりの行政区画とあって、まだ十分に都市としての形が整っていない。山地や草原ののどかな風景が広がっている。
貴案新区党工委の孫登峰副書記は、「2年前から開発を進めてきた。当初はさら地の状態だったため、これまではインフラを整備してきた」と説明する。総面積1795km2を誇る貴安新区だが、もともとは生活エリアではなく、都市として機能していなかったために、まずは幹線道路の建設や、汚染水の処理、土壌の保護などを進める必要があった。また、面積のうち70%程度が緑地や水地で占められ、自然環境が豊かであるため、「ほかの中国の新区とは異なり、環境を重視した都市モデルを構築することを重要視している」(孫副書記)という。現在は発展のごく初期段階にあり、今後10年間をめどに、一定の産業モデルを形成していく計画となっている。孫副書記は、「20年までにビッグデータ関連企業1万社、産業価値1500億~2000億元を目指す」と意気込んでいる。
新区のなかで、ビッグデータ産業の中心地区となるのは、面積32km2の電子信息産業園だ。園内には「ビッグデータ産業基地」としてインキュベーションパークやソフトウェアパークなどが設けられ、DC事業者やビッグデータ関連のソフトウェア企業、ベンチャー企業などを誘致していく方針。16年1月時点で、新区に登録しているビッグデータ関連企業は約500社あるが、まだオフィスビル自体が建設途中のものが多く、拠点開設に至っていない企業が相当数あるものとみられる。貴陽市以上に、産業が発展するには時間がかかりそうだ。

まだまださら地が目立つ貴安新区
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