マイクロソフトは、同社のクラウドサービスである「Microsoft Azure」をデジタルトランスフォーメーションのためのプラットフォームと位置づけ、ビジネスの新たな原動力になることを目指している。根底にあるのは「クラウドは、オンプレミスの単なる代替ではない」というもの。もちろん、オンプレミスの代替として十分に機能するが、それはリプレースに過ぎない。企業のデジタル化を推進してこそのクラウドというわけだ。(取材・文/畔上文昭)
エンタープライズの実績をサービスの内容に反映
Azureの強みは、他を圧倒する設備にある。マイクロソフトによると、世界で100か所以上のデータセンター、24リージョンが稼働中で、34リージョンまでの増強計画を発表している。稼働中のリージョンで、AWSの約2倍の数となる。また、データセンター間をつなぐ光ファイバーの長さは、225万kmで地球約56周分に相当する。

斎藤泰行
クラウドプラットフォーム製品
マーケティング部 部長 マイクロソフトは、クラウド選定のポイントについて、次の三つを挙げる。一つは、「グローバル規模でのビジネスを支援するスケーラビリティと事業性属性を担保できるか」。データセンターやネットワークへの投資は、そのためである。二つめは、「セキュリティは盤石か、コンプライアンスは各国法に準拠しているか」である。コンプライアンスを考慮すると、リージョンの数も多いほうがいい。
そして、三つめが「今までできなかったことが実現できるか。デジタルトランスフォーメーションを支援できるか」。ここがマイクロソフトにおけるクラウド戦略のキモとなる。
「IaaSはもはや、サービスとして提供できて当然。IaaSだけでも十分に競争力がある。ただ、その上に位置するPaaS部分では、他の追随を許さないほどの強みがある。これだけ多くのサービスを提供しているところは、ほかにない」と、斎藤泰行・クラウドプラットフォーム製品マーケティング部部長はAzureの強みを語る。例えば、ディレクトリサービスの「Azure Active Directory」では、オンプレミスIDをクラウドに拡張でき、コミュニケーションツールの「Office 365」を始めとするSaaS/PaaS環境のマネジメントが容易にできる。また、他社クラウドを活用するマルチクラウド環境におけるマネジメントをするためのコンポーネントも用意している。

このように、PaaSではエンタープライズ分野で培ってきたノウハウや実績が反映されている。デジタルトランスフォーメーションの推進にはユーザー企業のビジネスの理解が求められるため、クラウド専業ベンダーに対して、そこがアドバンテージになるというわけだ。
今までできなかったことをクラウドで実現するために
マイクロソフトは、デジタルトランスフォーメーションに向けたシナリオをいくつか用意している。例えば、ビッグデータ。モバイル端末やセンサなど、IoTでは大量のデータを取得できる。そのデータ量の予測が困難なほど、ストレージ容量などを容易にスケールできるクラウドが適用しやすい。そのため、IoTではクラウドという構図になるわけだが、マイクロソフトでは「Hot Path」と「Cold Path」の二つのプロセスを想定したサービスを用意している。
Hot Pathは、取得したデータをすぐに利用するというもの。「Azure Stream Analytics」「Azure Event Hub」といったサービスを活用することで、リアルタイムのリモート監視などを実現する。
Cold Pathは、バッチプロセス。IoTデバイスから得たデータを格納し、扱いやすいデータに加工して活用する。データを蓄積する「Azure Data Lake」、加工する「Azure Data Factory」などが該当のサービスとなる。IoTデバイスから得たデータは、予測分析サービス「Azure Machine Learning」によって、将来起こることの予測に活用できる。また、マイクロソフトでは、動画や音声などのマルテメディアデータを分析し、ディープラーニング処理を実行する「Microsoft Cognitive Service」も提供している。
IoTデバイスから始まる一連の流れは、まさにデジタルトランスフォーメーションであり、そこに業務システムが加わることで、企業の新しい原動力になるというわけだ。
クラウドによって実現するデジタルトランスフォーメーション。大前提としてIaaS環境の整備があり、PaaS環境を充実させていく。「オンプレミスの単なる代替ではない」とするマイクロソフトの真意は、そこにある。