世界最大級の自動車メーカー「トヨタ自動車」を頂点に、製造業が盛んな愛知県で、IoTを活用した中小企業の取り組みが熱気を帯びている。人手不足や資金繰りなど、中小企業を取り巻く環境が厳しくなるなか、各社はIoTと「トヨタ生産方式」を組み合わせ、新たな「カイゼン」を起こしたい考えだ。現場の最前線から、“ものづくり王国”の底力をレポートする。(取材・文/廣瀬秀平)

町工場発のIoT

 年季の入った工場に、大きな音が響き渡る。ずらりと並んだ機械が生産するのは、自動車用の部品。愛知県名古屋市から南に車で約1時間、同県碧南市にある自動車部品メーカー「旭鉄工」の本社工場だ。

 同社は、1941年(昭和16年)に創立した。2015年度の年商は158億円で、従業員数は480人。工場には、昭和の頃に導入した機械もある。いわゆる“町工場”としての色合いが濃いが、全国から注目を集める仕掛けが施されている。

 それは、同社が生み出した「製造ライン遠隔モニタリングサービス」。生産ラインの無駄を徹底的に省くトヨタ生産方式に加え、生産性の向上を目指すために新たに開発した独自のIoTソリューションだ。

「ないものはつくればいい」

 きっかけになったのは、3年前の増産依頼だ。工場のスペース的にも、資金的にも、新たな機械を導入することが難しかったため、稼働中の機械を改善する方法を模索。たどり着いた答えが、IoTの活用だった。

 同社が最初に取り組んだのは、IoT関係のセミナーや展示会の視察だ。しかし、IoTの設備を導入するためには、一度に数百万円から数千万円が必要になる。中小企業である同社が簡単に投資できる金額ではなかった。

 さらに、導入してから20年以上経過した古い設備への展開が難しいほか、生産を管理するうえで必要なデータが取得しにくいことも判明した。

 そのため、木村哲也社長は、「ないものは自分たちでつくればいい」と決断。東京・秋葉原で1個当たり数十円から数百円のセンサや通信機器を買い求め、ソリューションの開発に着手した。

工場の“見える化”を実現

 工場では従来、トヨタ生産方式の象徴ともいえる「生産管理板」を設置し、生産個数や機械の停止時間、1個の部品をつくるのにどれだけの時間がかかったかを示すサイクルタイムを把握していた。

 しかし、人員が限られた現場で、正確なデータの収集は容易ではなかった。従業員は、多い場合で1人で10ラインを管理することも。物理的にラインの状況を確認できないことがあったほか、生産管理板への記入忘れも後を絶たなかった。

 こうした課題を解決するため、同社は、機械の稼働状況をランプの点灯で表示するシグナルタワーと、規則的な機械の動きに着目。シグナルタワーに光センサを、機械には磁気センサを取り付け、生産管理板に記入するデータを集めることにした。

 センサが計測したデータは、単三電池2本で駆動する送信機から、工場内の受信機に無線で送られる。その後、レッドハット(東京)のプラットオーム「Red Hat JBoss BRMS」を使って開発したクラウドシステム上に蓄積し、分析結果をSaaSで提供、工場の“見える化”を実現した。

導入の効果は年間3億円以上

 旭鉄工がIoTの取り組みを始めたのは14年から。ソリューションのほかに、工場内の稼働状況が一覧できるあんどんシステムも開発した。汎用ディスプレイを使い、従来品で数百万円が必要だった導入費用を10分の1にした。

 現在、ソリューションとあんどんシステムは、本社工場と愛知県内の別の工場で活用。生産性は大幅に向上した。例えば、けん引フックを生産するラインでは、1時間当たりの生産個数が、展開前の約1.6倍に。新しい設備を導入するのに必要な費用1億4000万円が不要となったほか、従業員の残業と休日出勤を廃止することができた。15年は、全社で設備投資額を3億3000万円、従業員の労働時間を2万時間それぞれ抑制できたという。

 こうした結果を受け、同社は16年9月、ソリューションを他社に活用してもらうことを目的に、新会社「i Smart Technologies」を設立し、木村社長が社長兼CEOに就任した。ソリューションの利用料金は、ライン数に応じて設定。最も安い1ラインで導入する場合の料金は月額1万9600円、最も高い20~30ラインでは月額9万9800円とし、中小企業でも利用しやすくした。

コンマ数秒の積み重ねで改善

 ソリューションは、0.1秒単位で正確に停止時間やサイクルタイムを計測できる。工場のなかでセンサの動作を変えたり、ロボットの動きを直線化したりして、コンマ数秒の改善を積み重ね、より高い次元で生産性を向上しようとしている。

 木村社長とともにソリューションの開発に取り組んだi Smart Technologiesの黒川龍二・執行役員COOは、「今までわからなかったことがどんどんやれるようになる。やった効果がすぐみえるので、現場のモチベーションも上がる」と説明した。

 実際、生産効率を上げることで、現場の負担は軽減。従業員はより積極的に改善に取り組むようになった。ソリューションを導入したことについては、「成果が出た時は、社長や部長が褒めてくれるので、やる気ややりがいにつながった」との声が上がっている。

 ただ、黒川・執行役員COOは、「IoTの導入は、目的ではなく手段。どのように使うかをしっかり決めないと、効果は出ない」と強調。そのうえで、導入後の運用が重要との認識を示し、IoTを「IT+OT(運用技術)と考えるべきだ」と訴えた。

 自社では、すでに大きな効果が出ているが、「まだまだ改善するところはたくさんある」と木村社長。改善を追求し続ける理由は、「人には付加価値の高い仕事をしてほしい」(木村社長)との考えがあるからだ。

 同社は現在、機能の拡張や海外での対応に向けて準備を進めている。木村社長は、「われわれは、大企業と同じ方向を向いてはだめ。少ないデータでもしっかり改善したり、普通だと思いつかないことをやったりして勝負したい」と意気込む。  

※本記事はITビジネス業界紙「週刊BCN」より抜粋したものです。全文は紙面をお読みください。
→定期購読のお申し込みはこちら