2020年の東京五輪に向けた好景気が続いている。主要SIerの経営環境も良好に推移する一方、「20年までに現行の設備投資は一区切りする」との見方も強まっている。設備投資の一巡によるリセッション(景気後退、反動減)が仮に起きるとすれば、SIerも何らかの対策を打っておく必要がある。すでに主要SIerの経営者は「ポスト2020」に意識を向けて、次の成長戦略を練り始めている。リセッションが起きるとすれば、どのようなものなのか、SIerの打つ対策とは──。「ポスト2020」に向けた動きを追った。(取材・文/安藤章司)
主要SIerトップの「ポスト2020」リセッションに対する見方(※)
※産業全体ではなく、情報サービス産業に限ったもの
どちらかと言えば良好な事業環境は継続する
(リセッションの自社への影響は限定的)
AIや量子コンピュータなど次世代技術のブレークスルーによって、新しい市場が生まれる。もし、「ポスト2020」が来るとしたら、そのブレークスルーが大幅に遅れたときだが、今のところそうした兆候はみえない
(NTTデータ 岩本敏男社長)
2020年以降も、引き続き追い風が吹いていると思う。あらゆる業種・業態で人手不足であり、ITで自動化/効率化するニーズは継続する。部分的にリセッションがあったとしても、IT投資が失速するとは考えにくい。万が一、失速するようであれば、日本の産業の国際競争力に大きなマイナスインパクトを与えかねない
(日立システムズ 北野昌宏社長)
仮に2020年直後にリセッションが起こったとすれば、IT予算のうち優先順位が低い順に投資を控える動きが出てくる。しかし、一方で優先順位が高いIT領域はむしろ増える。トータルでみればプラスだろう。優先度が高い領域に今のうちからシフトしていく
(富士ソフト 坂下智保社長)
2020年は、ひとつの節目になることに違いはない。ただ、情報サービス産業に限って言えば、リセッションになるにせよ、ならないにせよ、仕事が減ることはないだろう。ユーザーの内製化の動きひとつにしても、SIerが要らなくなるのではなく、ユーザーと同じ目標感を共有して、いっしょにつくってくれるSIサービスのニーズが高まると捉えるべき
(新日鉄住金ソリューションズ 謝敷宗敬社長)
ITの進化のスピードから考えれば、日本の就労人口の減少分を補ってなお、人手が要らなくなるほどの自動化、効率化も十分に考えられる。この「人余り」を社会全体のリセッションと呼ぶのであればそうだろう。一方で情報サービス産業に限ってみれば、ITニーズの一段の拡大と捉えることもできる
(CAC Holdings 酒匂明彦社長)
どちらかと言えば慎重にみている
デジタル・トランスフォーメーション(DX)によって成功する大手企業が出てくる反面、レガシービジネスにこだわって衰退する企業も出てくる。真剣にDXに取り組むユーザー企業と組んで、ユーザーとともに成功する側につけば成長できる
(野村総合研究所 此本臣吾社長)
「ポスト2020」の景気は、多少凸凹するだろう。ただ、世の中の景気がどうのこうの言う前に、自分たちがどう成長するかを考えるべき。新しい技術に追随できているのか、そのなかで自分たちの強みを発揮できているのか。これができていないと、仮に世の中の景気がよくても自分たちだけ衰退してしまう
(コア 松浪正信社長)
ピンチとチャンスが混在しているのが「ポスト2020」。金融勘定系の統合などピークアウトしている部分がある一方、SIerが自らビジネスプラットフォームを展開できるチャンスでもある。チャンスを掴めるか否かで「ポスト2020」がどうなるのかが決まる
(TIS 桑野徹社長)
従来型のレガシーSIビジネスは、「ポスト2020」を待たずにピークアウトする。ユーザーは、よりよいサービスをもっているSIerに集まる。強いサービスをもたないSIerは、ビジネスを仕掛けることすらできなくなる
(SCSK 谷原徹社長)
会社を預かる経営者としては「ポスト2020」を慎重にみている。東京五輪を目前にした2019年末までに当面の設備投資は一段落するだろう。ただ既存の設備投資にとらわれない新しいデジタル領域への投資はむしろ増える。ここを伸ばせないとSIerとして厳しくなる
(日商エレクトロニクス 岡村昌一 社長)
2020年以降もIT投資の勢いは続くと思うが、中身は大きく変わる。これを「ポスト2020」であるといえば、そうなるのだと思う。基幹系中心から、SoE(価値創出型システム)領域へ軸足が移る。成長領域に軸足を移せないと「ポスト2020」のビジネスは伸びない
(日本情報通信(NI+C) 廣瀬雄二郎 社長)
「ポスト2020」では、就労人口の減少、景気後退、ユーザー企業のIT業界への参入の三重苦を想定している。過去の延長線上では成長は難しい。不連続な成長と捉えた上で、しっかりと対策を打っていく
(豆蔵ホールディングス 荻原紀男社長)
2020年を一区切りとする設備投資は少なくない。よって瞬間風速的に市場がシュリンク(縮小)することは十分にあり得る。ただ、IT投資だけでみれば冷え込む領域がある一方、そうでない領域もある。冷え込む領域で勝負することがないよう、すでに手を打ち始めている
(JBCCホールディングス 山田隆司 社長)
仕事をとろうと思ったら、どれだけでもとれるのが今の良好な事業環境だ。しかし、これがずっと続くとは思わない。仮にリセッションが起きれば、それで終わってしまう。そうではなく、「ポスト2020」以降も伸びる領域へ、営業リソースをシフトし、エンジニアのスキルの転換を積極的に推進する
(PE-BANK 櫻井多佳子 社長)
良好な受注環境、全体の 8割余り が増収
ここ数年来、SIerの経営環境は良好に推移している。本紙が独自に集計した主要SIer上位50社の直近の上期売上高で減収となったSIerは9社のみ。全体の8割余りが増収だった。通期の売上高見通しで減収を見込んでいるのはわずか3社に過ぎない。営業利益ベースでは、新商材の開発や人材育成に先行投資をしたり、不採算案件を抱えたりと多少のバラツキはあるものの、おおむね増収に伴う増益効果の恩恵を受けている。
過去を振り返れば、08年のリーマン・ショックは、情報サービス業界に「全治3年」といわれる爪痕を残した。10年の中頃には多くのSIerが経営環境の好転を実感して今に至っている。ハイパーコンバージドインフラやWindows 10への移行特需と、向こう1、2年の商材にも恵まれている。
しかし、景気には波がある。SIer経営者は「次の景気の区切り」が東京五輪の20年ではないかと神経を尖らせている。建設業や流通・サービス業、官庁・公共が20年をめどに一通りの設備投資を終える見込み。もし、何らかのリセッションがあるとすれば20年以降、すなわち「ポスト2020」であると懸念されているのだ。
「ポスト2020」の懸念材料は、景気後退だけではない。折からの就労人口の減少、ユーザー企業の内製化指向の強まりの「三重苦が一度に表面化することが危惧されている」(豆蔵ホールディングスの荻原紀男社長)との指摘もある。
若年層の減少は、とりわけ中堅・中小のSIerにとっては、採用難と引き抜きに悩むケースが増えることが予想される。また、ユーザーがデジタル領域を「本業」と捉えるケースが増えれば増えるほど、外注せずに自分たちで内製しようとする動きが増える可能性が指摘されている。ユーザー企業からアウトソーシング(外注)してもらっているSIer視点でみれば、それだけ受注機会が減ることになりかねない。
「限定派」と「慎重派」に分かれる見方
まず、「ポスト2020」のリセッションの可能性を主要SIerのトップはどうみているのかを、一覧にまとめた(図参照)。
国内経済全体で捉えると、20年を区切りに何らかのリセッションが起きると考えるSIer経営者が多くを占める。しかし、SIビジネスに限ってみると、20年以降も「どちらかといえば良好な事業環境は継続する(リセッションの自社への影響は限定的)」との見方と、「どちらかといえば慎重にみている」の二つに大きく分かれた。
前者は、仮に何らかのリセッションが起きるとしても、ITを駆使してビジネスを伸ばそうと考えるユーザーはむしろ増えるとする見方だ。NTTデータの岩本敏男社長は、「これまで人が判断していた部分を、いよいよコンピュータが本格的に支援するようになる」と、AI(人工知能)や量子コンピュータなどの技術的ブレークスルーに期待を込める。ITが進歩し続ける限り、ビジネスの伸びしろは増え続ける。
後者は、現行の設備投資は20年を区切りに一段落するとの見方。とりわけ基幹系を中心とするレガシーSIの領域はピークアウト。これを補ってさらに成長できる新領域の柱をどれだけ打ち出せるかによって「ポスト2020」は変わってくるとしている。野村総合研究所(NRI)の此本臣吾社長は、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)によって成功する大手企業が出てくる反面、レガシービジネスにこだわって衰退する企業も出てくる」と冷静にみる。DXに真正面から向き合い、成功するユーザーとともにビジネスを伸ばすことが「ポスト2020」に求められていることだと受け止める。
限定派、慎重派ともに共通しているのは、既存事業だけで成長を持続させるのが難しくなっている点だ。新規領域が既存事業の伸び悩みをカバーしてなお余りある成長が可能だとみるのが限定派。一方、既存事業のシュリンク(縮小)が予想以上に速く、新規領域の成長速度が遅い場合、成長が止まる危険性があるとみるのが慎重派だと捉えられる。新規領域をうまく立ち上げられるかどうかで「ポスト2020」のあり方が大きく変わるといっても過言ではない。
次ページからは、「ポスト2020」を見据えるうえで、どのような新規領域が有望だと主要SIerが捉えているのかをレポートする。
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