主要SIerの上期決算は、引き続き好調だ。ほぼ全業種にわたってIT需要は拡大。AIやIoTといった新しいタイプのIT需要の高まりに引っ張られるかたちで、既存の基幹系システムの刷新需要も出てきている。通信キャリア向けビジネスに強いSIerは第5世代移動通信システム(5G)とIoTを連携させて新しいSIニーズに応える取り組みを加速。大手を中心にグローバル進出も活発化している。一方、中堅・中小SIerでの人員確保が困難を極めており、情報サービス業界全体が成長していく上での“大きな阻害要因”になる危うさも見え隠れする。(取材・文/安藤章司)
需給バランスが崩れている状態
旺盛なIT投資に支えられるかたちで主要SIerの業績は好調に推移している。目下の課題は深刻化する人手不足だ。IT基盤は、クラウドサービスのIaaS/PaaSなどの活用である程度の自動化や合理化は可能だが、上流のコンサルティングや設計、業務アプリケーションの個別開発については、人手に頼っているのが現状。専門的なスキルが必要な仕事だけに、SIer側は需要増に人員の手当てが間に合わず、「需要と供給のバランスが完全に崩れている状態」(大手SIer幹部)が続いている。
情報サービス産業協会(JISA)の雇用判断DI値の調査によれば、今年9月時点の向こう3カ月の従業員の充足感は70%ポイントと、大幅な不足感となった。70%ポイントとは「不足」から「過剰」を引いた指数で、プラスに振れれば振れるほど不足感が強まっていることを示している。
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査をベースにJISAで集計した情報サービス業全体の売上高推移では、ダウントレンドに入ったとまではいかないまでも、前年同期比で伸びたり減ったりする足踏みの状態が続いている。
大手SIerの上期決算を見ると、過去最高の業績を記録するSIerが相次ぐなど受注環境は良好だ。採用力のある上位の大手SIerに限っては、何とか人員数を確保するとともに、事業部門間で人材をやりくりすることで対応しているようだが、SIプロジェクトを共同で進める上では「協力会社群の人員確保が大きな課題」(新日鉄住金ソリューションズの謝敷宗敬社長)となっている。
中堅・中小の協力SIerの中には、技術者や営業の採用をかけても、知名度が低いために応募者数が十分でなかったり、優秀な人員がより待遇のいい会社に転職したりするなど、需要の大きさに人員の拡充が追いつかないケースが多く見られるという。
人的リソースの確保が分水嶺に
大手SIerから見れば、大型の業務アプリケーション開発案件を受注したのち、開発工程でビジネスパートナーである協力会社のSEに動員をかける。パートナーの人員不足から動員力が十分に発揮となれば、それが大手SIer、引いては情報サービス業界全体の成長の“大きな阻害要因”になる危険性がある。
野村総合研究所(NRI)は2023年3月期に向けた長期経営ビジョンで連結営業利益1000億円を目標に掲げる。今期(19年3月期)営業利益は700億円の見通しで、これをあと300億円上乗せできるかどうかは、「人的リソースを確保できるかどうかが分水嶺になる」(此本臣吾社長)と話す。
すでにNRIの社内では、主力の証券業向けビジネスを担当する事業部門から伸び盛りの産業向け事業部門に人員を一部シフトするといったやりくりを続けているほか、場合によっては資本業務提携などのかたちで「一定の人的リソースを独占的に確保する」(此本社長)取り組みにより力を入れていくという。
従来は、中国オフショアソフト開発が日本のソフト開発を支えていたが、中国の経済発展に伴い人件費が高騰。その後、ベトナムやミャンマーに一部シフトしたものの、海外オフショアだけでは人的リソースを十分に満たせていない。今後、国が就労ビザの発給条件を一段と緩和するなどして外国人労働者の受け入れ拡大が進めば、国内で勤務する外国人SEを増やせる可能性もある。
だが、ただでさえ厳しい中堅・中小SIerの待遇で、国内の就労人口減やSE不足をカバーできるだけ外国人労働者を確保できるかどうか不透明だ。
ここからは各社の上期決算と今後の見通しについてレポートする。
NTTデータ
北米苦戦も、受注回復に手応えあり
NTTデータは、国内とEMEA(欧州・中東・アフリカ地域)・中南米が好調で、今年度上期(18年4-9月期)は増収増益を達成。通期(19年3月期)連結売上高2兆1000億円、営業利益1420億円を達成すれば5期連続の増収増益になるのに加えて、今期末までの3カ年中期経営計画で掲げた目標もクリアできる見通し。営業利益は1500億円を目標としていたが、この利益のなかからIT新領域に約100億円を投じて競争力を高めることから、今期業績見通しは1420億円としている。
NTTデータの本間洋社長
順風満帆にみえるNTTデータだが、北米での上期売上高が前年同期比103億円の減収と苦戦。同じ海外でもEMEA・中南米が295億円の増収であるのと対照的だ。競争が激しい北米でライバル他社に押され気味にある状態がうかがい知れる。これについて、同社の本間洋社長は、「下期に向けて受注は回復の兆しが見える」と、このまま減収幅が広がることはなく、下げ止まると手応えを感じている。
直近では米医療保険会社から大型BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)案件を受注。向こう7年間の契約で総額2億ドル(約220億円)の大型案件だ。NTTデータサービス(デルの旧サービス部門でNTTデータが16年にグループに迎え入れた)が受注したもので、今後も北米で強みとするBPOを軸にビジネスの伸びが期待できる。
とはいえ、NTTデータによれば、米国の情報サービス市場における同社の売上高シェアは1%程度と低いことが、今後も課題として残るという。国内シェアが9.3%なのに対して、受注が好調なEMEAのシェアではスペインが5.3%、トルコが5.0%、イタリアが2.6%ドイツが1.9%、中南米のチリが4.8%、コロンビアは2.0%にとどまる。
本間社長は、「強みを生かして各国でのシェア拡大を推し進める」ことで、規模のメリットを追求していく構え。同時にIT新領域に投じる100億円の投資をテコに、システム開発の効率やスピードを一段と高めていくことで競争力を増強していく考えだ。
NTTグループ
海外事業の再編が本格スタート
グループ連携で2兆7500億円目指す
NTTグループは、海外事業の再編を急ピッチで進めている。この11月、NTT持ち株会社の下に、海外事業を取りまとめる中間持ち株会社を新設。この下にNTTデータ、NTTコミュニケーションズ、ディメンションデータなどを置いた。さらに19年7月には、NTTコムとディメンションを統合するかたちで、グローバル中間持ち株会社の下に海外事業会社と国内事業会社を配置。NTTデータは今の経営形態と株式上場を維持したまま、新しくできる海外会社、国内会社と横並びとなる見込み。
グローバル中間持ち株会社の傘下で、主要事業会社の海外事業は一段と連携を強めていく。また、通信機器などのグローバル調達会社を11月に新設。購買を一本化することでメーカーに対する価格交渉力を高める。同じくデータセンターの投資会社もNTT持ち株会社の下に19年7月をめどに新設し、こちらも投資を一本化することで効率化し、より戦略的な投資ができるようにする。NTTデータの本間社長は、「調達や投資の集中化は、すぐにでもグループ再編の効果が出てくる施策だ」と、期待を寄せる。
悩ましいのは、NTTデータの既存の国内事業で、これについては「従来通りNTT持ち株会社と協議していく」と、NTT持ち株会社の澤田純社長は話す。堅調に推移している国内事業にグローバル持ち株会社を噛ませると、かえって意志決定が遅れてしまう弊害を排除するためだ。海外ではグローバル持ち株会社を軸に主要3事業会社がより密に連携したビジネスを展開していく。こうした取り組みによって23年度に海外売上高を直近の約2兆2000億円から2兆7500億円へと拡大。営業利益率を直近の2倍余りに相当する7%を目指していく計画だ。
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