内製化や脱レガシーに役立つ
景気後退の局面をにらみ、積極的に取り入れ
ローコード開発は、ユーザー企業の内製化ニーズや脱レガシー、再レガシー化の防止に役立つ。中堅・中小のSIerによっては、ユーザー企業のこうしたニーズを巧みに捉え、元請け案件を増やすツールとして活用を進めている。SEの人数が限られている中堅・中小SIerでも、ローコード開発ツールによって大規模なプログラム・コードの生成が可能になるメリットもある。景気後退の局面をにらみつつ、ローコード開発の手法を積極的に取り入れるSIerの動きをレポートする。
ブルーミーム
ライフサイクル全体をカバー
自動プログラミングとアジャイル開発を指向して2009年に創業したブルーミームは、12年にライバルSIerに先駆けてポルトガル発祥の「OutSystems」の販売代理契約を結んで以来、国内企業を中心に100社近い開発プロジェクトにOutSystemsを取り入れてきた。同社の調べによれば、国内でOutSystemsを採用しているユーザー企業のうちブルーミームが活用支援を手がけた割合は実に8割に達するという。
松岡真功 代表取締役
ブルーミームがOutSystemsを選んだ理由は、単なるプログラム・コードの生成ツールではなく、要件定義から設計、開発、テスト、運用、そして改善点をフィードバックして次の手直しにつなげる業務アプリケーションのライフサイクル全体をカバーするプラットフォームである点だ(図参照)。要件定義から設計に至る工程も、ビジュアルモデリングと呼ばれる視覚的に分かりやすい設計図を描けることから、ユーザー企業と協業しやすい。業務アプリケーションを常に改良し続けるアジャイル的なアプローチと組み合わせて、ユーザー企業のニーズに応えた。
ユーザー企業の内製化ニーズにも合致する。ソフト開発では、プログラム・コードを書く工程が最も人手がかかり、その前後の設計やテスト、運用のフェーズでは、開発工程ほど人手がかからない。人手が必要な開発工程はユーザー社内の人員だけでは対応できず、外部のSIerやソフトハウスに外注することになり、受託ソフト開発の市場が形成されてきた。だが、ローコード開発によって設計から開発、運用までほぼ同じ人員規模で回せるようになるとすれば、「外注することなく、ユーザー企業による内製化のハードルが大幅に下がる」(松岡真功・代表取締役)。
ブルーミームが支援した日立建機のプロジェクトでもOutSystemsを使った内製化を実践している。日立建機はグループ製造会社向けの生産管理システムに市販のパッケージソフトを使っていたが、製品サポートの期限があるため約5年ごとに半ば強制的にバージョンアップする作業が発生していた。国内外に複数の生産拠点を持つ同社は、より長いライフサイクルを持ち、かつより自由度の高い開発スタイルを求めていたことからOutSystemsを採用し、内製化と維持運用にかかる手間を軽減することに成功した。
内製化するに当たって障壁となるのは技術者の育成だ。プログラム・コードは書かなくて済むとはいえ、ローコード開発ツールの習熟やシステム設計には、やはり専門的な知識がいる。特にデータベース(DB)の設計は「昔から職人技と言われるほど難易度が高い」(同)のだ。
そこでブルーミームでは、業務アプリケーションでよく使われるリレーショナルDB管理方式とは異なり、比較的自由度が高いとされているNoSQL方式の「MarkLogic(マークロジック)」とOutSystemsを組み合わせる手法を考案した。手組みで業務アプリケーションを設計、開発するのに比べて最大で20分の1の時間で習熟度を一定レベルまで高められるという。
ある大手建設会社では、古いグループウェアのNotes上に約3000個の断片的なデータや、アプリケーションが稼働し、類似したDBが数多くあった。OutSystemsとNoSQL方式を組み合わせて、文書管理や掲示板、申請、備品予約、カレンダーなど、大きく七つに集約。自由度の高いNoSQLを採用することで、非定型の文書や画像、動画などを格納でき、情報共有の自由度と維持メンテナンスの容易さを実現している。
今後は、企業全体の事業構造を設計図に書き起こして、情報の体系化を行うエンタープライズアーキテクチャ(EA)の手法を取り入れることで、より上流工程から企業全体の情報システムの最適化を進める。OutSystemsとアジャイル開発、NoSQLの技術やツールを駆使し、コロナ・ショックの不況下にあっても、ユーザー企業の内製化指向の流れをうまく捉えて受注拡大、売上増を目指していく。
イノベーティブ・ソリューションズ
再レガシー化を防ぐ支援を重視
ローコード開発ツールを適切に使うことで、「『再レガシー化』を防ぐことにつながる」と話すのは、ここ15年にわたって「GeneXus」を活用したコンサルティングやシステム構築を手がけてきたイノベーティブ・ソリューションズの横井利和・取締役CTOだ。
横井利和 取締役CTO
業務アプリケーションを稼働させる環境は、オンプレミスから仮想サーバー、クラウド、コンテナ型仮想化と数年おきに目まぐるしく変わっている。クラウド一つ取り上げてもAmazon Web ServicesやMicrosoft Azureなどで微妙に動作環境は異なる。レガシー化が古い環境に取り残される現象だとすれば、「GeneXusは新しい環境へと非常に少ない工数で移行できるツールだ」と横井取締役CTOはいう。
GeneXusは、さまざまな環境に対応したDBと業務アプリケーションを自動生成する機能に長けているのが最大の特徴。DBはSQL Server、Oracle、SAP HANA、MySQL、PostgreSQLなど、アプリケーションはC#、Java、.NET Core、そしてスマートデバイスのAndroid、iOSの各OSに対応したプログラム・コードを生成できる。新しいメジャーな環境が台頭したタイミングでGeneXusも、そうした環境に対応したDBやコードを生成できるようバージョンアップする流れを繰り返してきた。
いくら優れた業務ノウハウを持った人材を育成しても、業務アプリケーションの基盤となるDBやサーバー環境の最新技術に対応できなければ、「レガシー・アプリケーションしかつくれないレガシー人材」との酷な烙印をおされかねない。横井取締役CTOは、「業務アプリケーションの開発の特徴として、生産管理システムなら生産業務、販売管理システムならその企業の販売業務に精通している人と技術が組み合わさって初めて使いやすく、生産性を高めやすいシステム構築が可能になる」と指摘。業務に精通した人材にGeneXusの扱い方を習得してもらうことによって、将来にわたって業務アプリケーションのレガシー化を防ぐことにつながり、貴重な人的資源の有効活用につながる。
GeneXusを使って、せっかく脱レガシーを行ったにもかかわらず、「再レガシー化」してしまう原因となるのが、古いGeneXusのバージョンを使い続けることだという。新しいバージョンに切り替えたあと、新バージョンで生成したプログラム・コードが正しく動作するかどうか、既存システムとの互換性が保てているかどうかの「テスト工程の工数増が手間だと感じるユーザー企業が一定数存在する」(横井取締役CTO)。
イノベーティブ・ソリューションズでは、テスト工程の工数削減、自動化比率を高める手法やツールを独自に用意することで、再レガシー化を防ぎ、新しい環境へスムーズに移行し続けられる支援を重視している。こうした取り組みの成果もあって、ユーザー企業の内製化ニーズをつかみ、景気動向に左右されにくい継続的な再レガシー化防止の支援、コンサルティング案件を安定的に受注できる体制を構築している。
キーウェアソリューションズ
ローコードをニアショアに応用
キーウェアソリューションズは、「Web Performer」を切り口に元請け案件の受注増につなげている。同社は、15年頃からWeb Performerを使ったローコード開発と、データ連携ツールの「ASTERIA(アステリア)」シリーズを組み合わせた提案を本格化。業務アプリケーションのユーザーインターフェース(UI)となる画面設計/開発をWeb Performerで行い、基幹系システムとのデータ連携にASTERIAを使う構図だ。これまで数十画面の小規模なプロジェクトから数百画面の大規模プロジェクトまで幅広く受注し、「すべて元請けでの受注」(秋山好成・カスタマーサクセス部長)を果たす成果を挙げてきた。
(左から)秋山好成部長、荒河信一常務、小森昌博部長
クラサバ時代のVisual Basic(VB)言語で組まれた古い業務アプリケーションや、表計算ソフトのExcelで処理している業務をウェブアプリケーションに刷新するユーザーニーズをWeb Performerでつかんでいる。出張時や複数事業所をまたいでのリモート業務を行うには、VBアプリやExcelではにっちもさっちも行かないが、ウェブ対応できれば、リモートワークにも対応しやすくなり、結果論ではあるが今のコロナ禍における在宅勤務にも大いに役立つ。コロナ禍が長引けば、人と人との接触を極力減らすという文脈でリモートワークの需要は増していくし、災害発生時の事業継続でも「ウェブアプリケーション化する意義は大きい」(小森昌博・社会システム事業部部長)と見る。
SIerのビジネスにとっても、特色あるローコード開発の手法を切り口に元請け比率を高めることには大きなメリットがある。今後、景気後退の局面に入ることが強く懸念されるなか、大手SIerが内製化率を高めて、二次受け以降の協力会社への仕事の発注を絞ることも考えられる。そうなったとき、ユーザー企業からの元請けで、かつユーザー企業内での内製化も行いやすいローコード開発は「景気の後退局面でも仕事を確保し、増やしていく上で重要なアプローチの一つ」(荒河信一・取締役執行役員常務)と位置づける。
08年のリーマン・ショックでは、全国の中堅・中小のSIerの受注を融通できるようにと、有志らによって設立された「ニアショアIT協会」に、キーウェアソリューションズからも役員を出して参画。全国のSIerと仕事を分け合える仕組みをつくった。キーウェアソリューションズではWeb Performerの特徴であるクラウド上で共同開発する機能(図参照)を生かし、「ローコード開発とニアショア開発を組み合わせて生産効率や人的リソースの増強を進めていく」(同)ことで、ローコード開発のビジネスボリュームが増えたときでも柔軟に対応できる体制づくりも積極的に進めていく。