Special Feature
IT流通大手に聞く コロナ禍の中小企業のIT需要動向
2020/11/05 09:00
週刊BCN 2020年11月02日vol.1848掲載
大塚商会
「働き方改革」から「テレワーク」へキーワードがシフト
大塚商会では、従来から企業の働き方改革に対応する製品の導入を進めてきた。特に今年4月に働き方改革関連法における「時間外労働の上限規制」が中小企業も対象となることを受けて、その対応に向けて中小企業に対し働き方改革の提案を積極的に行っていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、この流れが大きく変わったという。
同社の井川雄二・マーケティング本部統合戦略企画部統合戦略企画1課上級課長は「感覚として」と前置きした上で、次のように語る。
「今年3月ごろまでは、当社の営業が『働き方改革』の言葉をキーワードに商談をする機会が月に500~700件ほどあった。それが(コロナの感染拡大で緊急事態宣言が出た)4月には200件を下回り、以降も右肩下がりで減っていった。企業の中で『働き方改革』というテーマはトーンダウンしていき、“消えた”といってもいい状態になっている。それに代わって急増したのが『テレワーク』で、商談件数は約100倍も増えた。とにかくテレワークを始めるにはどうしたらいいか、という問い合わせが殺到し、爆発的に拡大した」
基本的に出社ができない、もし出社しても“密”を避けなければいけないという状況下で、どのようにして事業を継続するのか、テレワークができる状況なのかという確認から始まり、対応に追われていたのが企業の実態だったという。
「大企業では1人1台以上のPCがあり、テレワーク用に持ち出してもすぐに使えるインフラが整っていた場合が多いが、中小企業ではそこまでの環境が整備されていない。社員用はデスクトップPCしかなかったり、ノートPCでもネットにつながる環境がなかったりして、USBタイプのデータ通信端末や、リモート接続の環境構築について問い合わせが急増した」(井川上級課長)。
具体的に、コロナ拡大の時期に売れた商品は、ノートPC、通信用のSIMカード、リモートアクセス用の機器など。昨年にWindows 7のサポート終了で買い替え需要が増え、今年は反動で売れ行きが鈍るとみていたが、コロナ需要で一転し、品薄が続いた。
ハードの次は、コミュニケーションツールの「Microsoft Teams」や「Zoom」などの引き合いが増えたという。「これまでの働き方改革にもテレワーク推進は含まれていたが、企業はもっぱら残業を減らすことに力を入れていた。ところが、コロナによってテレワークがなければ仕事が立ちゆかなくなり、最優先事項となった」という。
ウィズコロナ時代の
五つのIT対策を提案
井川上級課長は、コロナ禍の中小企業のテレワーク対応として、リモートでつながる環境と、Web会議システムなどコミュニケーションのツールは一通り行き渡ったと考えているが、ここから先の段階にはまだ進んでいないと見る。“先”とは、テレワークにおける勤怠の管理や、業務のペーパーレス化などで、これらの導入は一時棚上げになっていたという。
「中小企業のコロナへの対応は、これを機として積極的に自社の仕組みを変える動きと、逆に、とにかくしのいで、収束後はコロナ前の状態に戻ればいいというスタンスに二極化したと思う。これは半々ではなく、現状維持派のほうが多いと感じている。われわれは企業に、今が変わるチャンスだと思ってもらいたい。そのために積極的に働きかけていく」と井川上級課長は話す。
同社では今後のウィズコロナ時代に向け、「5つのIT処方箋」として、感染防止、業務継続、固定費削減、ペーパーレス、そしてセキュリティの五つのテーマを設定。企業の現状を把握し、対処法をソリューションとして提供するアプローチを開始した。井川上級課長は、「オフィスに来なくても仕事が継続できること、もしオフィスに行く場合でも、感染対策をして効率的に働ける環境の実現を目指している」とその狙いを語る。
SB C&S
テレワークが浸透するにつれ売れ行きに変化も
SB C&Sでは、コロナの感染拡大によって今年3月以降、製品の販売に大きな変化が見られたという。菅野信義・ICT事業本部MD本部長は「コロナの感染が拡大し、テレワークを強制された今年4月から6月の間、ノートPCへの引き合いが非常に増えた。またリモートワークでPCにつなぐヘッドセットやWebカメラなどの周辺機器、法人向けのモバイルルーターなども爆発的に売れた」と説明。その一方で、サーバー、ストレージなどの企業向けハードウェアは、企業に納品することが難しく、一時期販売が苦戦する状況にあったという。
ハードには売れ行きに濃淡があったが、安定して売れていたのがテレワークでの業務を支援するソフトウェアだ。「当社ではZoomやMicrosoft Teams、Cisco WebexといったWeb会議ツールを扱っているが、どれも大きく売り上げを伸ばした。それだけでなく、リモートデスクトップ(RDP)製品なども売れた」と菅野本部長は話す。
また、守谷克己・ICT事業本部販売推進・技術本部長は、RDPに大きな需要が生まれたことから、急きょテレワークを迫られた企業は、インフラ部分を大きく変えるというよりも、「フロント部分だけでなんとかテレワークできる環境を整えることに注力していた」傾向があると分析する。
ここ最近は、少しずつ出社が増えてくる中で、製品の販売状況にも変化が見られるという。
まず、オフィスでリモートの会議や打ち合わせに参加するための機器の相談が増えてきている。「これからは、会議室の社員数名と、社外の社員や取引先をつなぐリモート会議が当たり前になると思う。その際に必要な大型ディスプレイ、カメラやマイク、スピーカーなどの周辺機器の受注が増えている。また、コロナ禍当初に苦戦していたインフラ系の商材も戻ってきている。出社の再開に合わせてシステムの見直しも行われてきているのではないか」と菅野本部長は指摘する。
また、これまではオンラインで新規の営業を行うのは難しいといわれてきたが、そこを切り開くためのツールとして、最近ではオンライン名刺やWebセールスの支援ツールなどの引き合いも増えてきているという。
テレワーク導入時期に大量に売れた周辺機器は、意外にも現在も好調を維持しているという。菅野本部長は、人気の製品が少しずつグレードアップしていると話す。
「コロナ前のリモート会議や打ち合わせは緊急避難的な扱いだったが、定着してきたことで気づきを得て、例えばより高画質のカメラを選ぶなど、より良いものを求めるビジネスユーザーが増えていて、『こだわり』の部分に入り始めているように感じる。そうした中で、結果的に売れ筋が少しずつ変わってきている」
中小企業でも
クラウドサービスの利用が進む
守谷本部長は、「中小企業のテレワーク導入は、大手企業より遅れている状況にある。これから本格的に利用される段階に入ると思うが、その際にセキュリティを強化するという需要が来るのではないかと見ている。特に社員が少ない中小企業では、いろいろなセキュリティ機能を統合したクラウドのスイート製品が注目される」と話す。
セキュリティ機能だけでなく、ストレージや電子署名などのクラウドサービスのニーズも高まっているという。別々に導入するのは大変なので、販売パートナーが複数の製品を束ねて商材化したり、使い方を案内したりすることで、ユーザー企業はさらに便利に使えるようになると、守谷本部長は期待する。
同社自身も、例えばWeb会議ツールと必要なPC周辺機器をセットにした商品提案をしてきたが、今後もウィズコロナ時代の働き方に合わせたパッケージを作っていくという。また、同社の販売パートナーに向けては、従来配布していたチラシなどに代えて、新たにオンラインで視聴可能な製品説明やデモの動画を用意し、今後公開していく予定だとしている。
ダイワボウ情報システム
自然災害の教訓で早期対策を進める企業も
新型コロナの感染拡大期に多くの企業が取り入れたテレワークだが、ダイワボウ情報システムでは、企業のそうした動きには地域差があったと見ている。「緊急事態宣言が最初に出された大都市圏では、宣言後にPCやWeb会議ツールの需要が大きく膨らみ、中小企業においてもテレワークが拡大したとうかがえる。一方で、エリア部では大都市圏ほどテレワークが進んでいない」と、谷水茂樹・経営戦略本部情報戦略部部長は説明。その中でも、拠点都市とそれ以外の地域では、テレワークの実行にさらに差が開いていたと指摘する。
そうした地域によるデジタル化への足並みの違いについては、同社もコロナ前から認識していた。中小企業では社内にIT担当者の数が少ない場合も多く存在し、「ITを導入しても運用を手助けできるような仕組みがないと、導入に踏み切れない企業も多いのでは」(谷水部長)と考えていたという。実際に同社ではITの導入だけでなく運用も含めて支援できるサービスの提案を行ってきていたが、全国のパートナー企業と協議する中で、大都市圏とそれ以外の地域とでは感度が違うということを実感していたという。
そうした下地があった中でコロナの感染拡大だったが、4月ごろの段階では大都市圏と比べると地方の感染者数はまだ少なく、そうした地域の企業にテレワークを提案してもその必要性が認識されづらいケースも多かった。
ただし例外もあった。台風、豪雨など近年の自然災害によって事業継続の必要性を痛感していた地域では、コロナを機にテレワークに積極的になる企業の動きが見られたという。谷水部長によると、実際に同社のビジネスにおいても、北海道と東北、中部、中国地方などは、コロナ禍のテレワーク導入が他の地域に比べ進んでいたといい、「理由は違っても、経験に基づきながらBCP対策を意識高く取り組んだ企業が多く見られた」と分析する。
同社がコロナ禍に販売パートナーに対して中小企業の動向について聞いたアンケートでは、テレワークの導入に積極的な中小企業は6割ほどだった。4割の消極的な企業に理由を聞くと、1位は業務内容がテレワークに向かないこと、2位が必要性を感じないという結果だったという。企業ごとで見ても、大きな温度差があったことがうかがえる。
ハイブリッドなビジネスに
対応する
とはいえ、全国で6割もの顧客企業がテレワークに積極的になる中で、同社も対応するツールの販売を推進。定番のWeb会議ツールに続き、最近ではチャットツールの導入も伸びているという。「在宅で社内のコミュニケーションが取りにくい分、Web会議のリアルタイムなツールにチャットツールを組み合わせて、情報を補っていくことが一般的になってきた」と、地福信広・経営戦略本部情報戦略部副部長兼情報戦略課課長は話す。
同社が現在進めているのは、コロナ禍のテレワークによって多くの人が身に着けたスキルを廃らせることなく、定着させる取り組みだ。リアルとテレワークのハイブリッドな働き方の中で、ツールをどのように運用していくかを提案している。
同社自身の営業スタイルもハイブリッドになっている。顧客と同社の営業が対面で商談する場合にも、技術部門がリモートで参加することで、密を避けながら顧客の問い合わせにも即答できるようにしているという。従来は商談や会議は同席する関係者の数が多いと日程調整に非常に時間がかかっていたが、オンライン参加を組み合わせると驚くほどスムーズに予定が決まることもメリットだという。
「去年こうした営業スタイルを取ろうとしても、セッティングに相当苦労したと思う。われわれ自身、Web会議システムをこれほど使い込んだことはなかった。コロナによって身に着けたこのスキルを生かしていくことで、さらに働き方を進化させていくことができる」(谷水部長)。
顧客への情報提供のためのイベントも、今年はリアルでの実施が難しい状況だったため、テーマを小さく分けたオンラインセミナーを数多く実施して反応を確認しながら改善を進めている。
具体的なテレワークのソリューションとして同社が新たに提案しているのが、シスコシステムズのVPNサーバー「Meraki MXシリーズ」とゲートウェイ「Meraki Z3」を活用した「Cisco Meraki 在宅勤務パッケージ」だ。Meraki MXシリーズをオフィスに設置し、Meraki Z3を自宅のネットワークに加えるだけで簡単にテレワーク環境を構築し、企業と安全に接続することができるようになる。「社員が在宅から企業にログインする際に、毎回複雑な操作をすることがストレスになるだけでなく、社内のIT担当者への問い合わせも増えてしまう。そうした負担を減らすこのパッケージの引き合いも非常に増えている」と地福副部長は説明する。
また、同社では顧客によって異なるテレワークの状況に対応するため、情報提供サイトを開設している。技術情報だけでなく、政府の助成金の情報など、テレワークに関わる幅広い情報を集めることで、販売パートナーとその先のユーザー企業を支援する。

テレワークの導入が拡大、変わる働き方
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとしたテレワーク導入の波は、大企業だけでなく中小企業にも押し寄せた。テレワークに活用できるIT製品・サービスの需要も急増。IT業界でかねてテーマとなってきた「働き方改革」のビジネスにも急激な変化が起きた。中小企業市場ではどのようなIT商材の販売が好調だったのか。また今後の中小企業の働き方の変化をどのように見据えて提案を行っていくのか、IT流通大手各社に聞いた。(取材・文/指田昌夫 編集/前田幸慧)
強制テレワークで企業は
自社環境の整備を最優先
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業でテレワークの実施など働き方の大転換が行われた。それは昨年までの「働き方改革」という国の政策による努力目標や規制とは、次元の違う緊急性と強制力を伴って企業を襲い、各社は対応に追われた。

内閣府が6月にまとめた国民へのアンケート結果でも、その実態が浮き彫りになっている。
就業者全体でテレワークの実施状況は34.6%で、ほぼ100%の実施と答えた人は10.5%に達した。これは就労者の10人に1人は、コロナ禍以降、調査日までほぼ会社に通勤しなかったことを意味する。
また、就業者全体において今後もテレワークを続けたいと答えた人の割合は39.9%に達した。つまりコロナによってテレワークのメリットを理解し、今後も働き方の選択肢として取り入れていきたいと考えているのである。
特に、テレワークの実施で大幅に通勤時間が減少したグループでは、テレワークを継続したいと答えた人が7割を超えた。都市部と地方圏で差がなく、通勤時間が長い人ほどテレワークの効果を実感したことが理解できる。
一方、テレワークを実施した人が感じた課題として最も多かったのは、「社内の打ち合わせや意思決定の仕方の改善」が44.2%と最も多く、続いて「書類のやりとりを電子化、ペーパーレス化」が42.3%、「社内システムへのアクセス改善」が37.0%と続いている。顧客対応や生産の継続といった事業面よりも、まず社内のプロセスをテレワークに対応させることに企業が追われていたことがうかがえる。
同様にテレワークにおける不便なことを聞いた結果でも、「社内での気軽な相談・報告が困難」がトップで、「取引先等とのやりとりが困難」を上回った。これらの結果から、テレワークを業績向上に生かす段階は、今後の課題として取り残されたことが推定される。
企業規模が小さくなるほど
テレワーク実施率は低下
テレワークの実施状況は、企業規模別にみるとどうか。パーソル総合研究所が今年6月に行った調査によると、従業員が1万人以上の企業でテレワーク実施率が42.5%であるのに対し、1000人~1万人未満が36.3%、100人~1000人未満が25.3%と減っていく。そして100人未満では15.5%と、1万人以上のおよそ3分の1しか実施できていない。企業規模が小さいほどテレワークが進まなかったことが分かる。社内体制のデジタル化、オンラインコミュニケーションツールの整備が遅れている中小企業が多いことも、その一因と考えられる。

中小企業のテレワークの実態に関しては、大阪商工会議所も府内の中小企業に行ったアンケート結果をまとめている。これによれば、テレワークの実施率は52%で、そのうち約9割がコロナ対策として急きょ導入したと答えている。その結果、テレワーク実施企業では「セキュリティが不安」「運用規程・労務管理規程等の整備が不十分」などの課題が発生し、導入できなかった企業では「対象となる部門・業務・社員が少ない・選定しにくい」「IT環境が不十分」などが原因と答えている。
一方でテレワークを導入した企業では、3社に2社が「概ね良好」と答えており、7割を超える企業で継続予定としている。
企業のテレワーク導入は、コロナの感染拡大による緊急対応として導入を急いだことで、社内の環境整備が優先されてきた。各種のアンケート結果から、現在そのひずみが課題として浮上してきており、自粛解除後は社員に出社を求める企業も増えている。逆に、今後もテレワークを前向きに推進する企業では、対外的なビジネス環境もテレワーク利用を前提に整備していく段階に入ったと言えるだろう。
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