Special Feature
プロセスマイニングで描く業務変革の未来図 主要ベンダーは継続的な改善支援に注力
2021/11/01 09:00
週刊BCN 2021年11月01日vol.1897掲載

プロセスマイニングは、ビジネスアプリケーションのトランザクションログを基にビジネスプロセスを可視化する製品分野である。国内でこの分野に注目が集まるようになったのは、独セロニスの日本法人設立や伊コグニティブ・テクノロジーズが開発したプロセスマイニングツール「myInvenio」の提供が始まった2019年のことだ。翌20年には、米ユーアイパスがプロセス・ゴールド(オランダ)の製品を統合し、「UiPath Process Mining」として提供を開始したほか、OCR製品で知られる米アビーが「ABBYY Timeline」の製品強化に乗り出した。さらに21年、業界に大きな再編の波が訪れる。3月にはSAPが独シグナビオの買収を完了して、本格的に市場に参入。4月にはIBMがmyInvenioを買収、8月には日本法人を7月に設立したばかりの米アピアンが独Lana Labsの買収をそれぞれ発表した。新たな局面を迎えたプロセスマイニングの現状について、国内市場をリードする3社の動向から探る。
(取材・文/冨永裕子 編集/藤岡 堯)
セロニス
データドリブンなビジネスオペレーションを支援
11年に独ミュンヘンで3人の創業者によって設立されたセロニスは、シーメンスでの採用をきっかけに急速に製品を洗練させ、現在は全世界で約1000社の顧客、約2000件のユースケースを支援している。19年2月に日本法人を設立し、日本の顧客は約50社になった。日本法人の小林裕亨社長は「セロニスの特徴は大きく二つある」と語る。一つはリアルタイム性だ。リアルタイムに様々なデータをセロニス側にフィードできるとし、例えば、海外にいる誰かが買掛金の処理プロセスで標準から逸脱した行為を行えば、即座に検知し、アラートを出すことができる。
もう一つは、常に全量データを取得していることだ。「トランザクションID」「アクション」「タイムスタンプ」に代表されるログを基に構築した組織の「デジタルツイン」を作ることで、ビジネス目標の予測と改善の切り口の発見を可能にしている。
また、裏側のAIの力を使えば、ビジネス目標達成に向けた提案も取り入れられる。このほか、組織に展開する前に新しいモデルのシミュレーションを行い、検証することも可能だ。さらに、同業種の企業がセロニスを使っていれば、ビジネスKPIをベースに自社のプロセスの問題点を特定し、改善できるようにもしている。
一連の機能の提供で、企業のビジネスプロセス分析の負荷が大幅に軽減できるようになった今、今後に向けてセロニスが見据えるのは、企業の「Execution Management」の実現である。Execution Managementとは業務オペレーションの最適化を意味する。上田聡・エバンジェリストによれば、企業がデータを基に日々のビジネスオペレーションを実行できる環境を提供していく構想を描いているという。
企業がデータドリブンなビジネスオペレーションを実行できるよう、21年10月にはリアルタイムストリーミングデータ処理に特化したLenses.ioを買収した。PCのアプリケーションがOSの上で動くように、小林社長は「ビジネスのためのOSを提供する製品にしたい」と今後の展望を語る。さらに10月には、米サービスナウと戦略的パートナーシップを結んだ。自動化に適したワークフロープロセスを特定し、優先順位を付けた上で、プロセス最適化を可能にするソリューションを開発する。早ければ22年前半にも提供を開始する予定だ。
日本IBM・myInvenio
自社製品群に統合し企業の自動化を加速
21年8月、IBMはmyInvenioのIBM Cloud Pak for Business Automation製品群への統合を完了した。実は20年11月に先行してグローバルOEM契約を結んでおり、この契約の下で買収後のプロセスマイニング製品統合を進めてきた。プロセスマイニング製品が加わったIBM Cloud Pak for Business Automationは、大きくコア業務の自動化のための製品群と自動化アクセラレーターとしての製品群に分かれる。今回買収したmyInvenioは、後者の自動化アクセラレーターに分類される製品である。IBMとしては、企業に自動化を進めてもらい、戦略的業務への集中を促す狙いがある。20年のRPA製品ベンダーWDG Automationの買収に続き、AIを活用した企業のビジネスプロセスの自動化を支援するソリューションを強化する。IBM Cloud Pak for Business Automationの製品群は、いずれもRed Hat OpenShiftを基盤にしており、クラウドでもオンプレミスでも稼働するという。
IBMのプロセスマイニング製品の特徴として、日本IBMのテクノロジー事業本部データ・AI・オートメーション事業部オートメーション・テクニカル・セールスの斎藤英夫氏は「マルチレベルプロセスマイニング」を挙げる。通常であれば、複数のトランザクションとみなされるものを一つのプロセスとして分析できる。さらに、作成したモデルをBPMN(Business Process Model Notation)形式のワークフローに変換できる。このフローをIBM Blueworks Liveにフィードすれば、そこで改善点を反映し、プロセスマイニング側で持っているモデルに反映することも可能だ。
現時点のライセンス体系はオンプレミス版のみだが「SaaSとしての提供も視野に入れている」と同事業部ストラテジー&ソリューションの加藤宏美氏は話す。国内では、独占販売代理店契約を結んでいたハートコアが19年からmyInvenio製品を提供してきたため、セロニスと並んで日本での認知も比較的高い。今後、ハートコアはIBMのパートナーの1社としてプロセスマイニング製品の販売を手掛けていく。
SAP・シグナビオ
必要に応じた分析でプロセス最適化後押し
独シグナビオの買収で、21年3月から新しくプロセスマイニング市場に参入してきたのがSAPである。すでにグローバルで約2000社の顧客、約100万人のユーザーを抱えており、実はSAP自身もユーザーとしてシグナビオのソリューションをを使ってきた実績がある。SAPとしては後発の参入のつもりはない。約3年前から、ビジネスプロセス最適化にはインテリジェンスが重要と考え、「Business Process Intelligence(BPI)」関連テクノロジーに投資してきた。SAPジャパンプラットフォーム&テクノロジー事業部の岩渕聖・事業部長は「『シグナビオ=プロセスマイニング』ではなく、お客様のビジネスプロセス最適化をエンドツーエンドでサポートするため」と買収の狙いを語る。SAP設立者の1人であるハッソ・プラットナー氏も、4月に行われた年次イベント「SAPPHIRE NOW 2021」でBPIに触れ、「業務改革は一度きりのプロジェクトではなく、継続的に繰り返し行うべきもの」と強調している。
SAPによる今回のシグナビオ買収は、これまでBPI製品群が提供してきた機能を補完することが目的で、SAPとしては必ずしも分析を前提としていない。岩渕部長は「全部の業務プロセスをマイニングしないといけないわけではない、必要に応じて分析してもらえればいい」とする。同社ソリューション統括本部ビジネス開発部の森中美弥・ビジネスデベロップメントシニアスペシャリストも、同社のBPIソリューションにおけるシグナビオの立ち位置について「お客様の中に存在する業務プロセス(のログデータ)を蓄積し、分析をしたいところがあればマイニングをする。改善点を見つけるために全体を統合管理するためのソリューションセットとなる」と説明する。
現時点では、BPIに関連する製品は三つ存在しているが、22年に向けて一つに統合する方向でロードマップ策定も始めている。関連して、ERP導入時に使用する方法論「SAP Activate」のアップデートも併せて進めていく計画だ。
市場浸透で広がる可能性
主要各社の取材を通して、見えてきたベンダー動向がいくつかある。まずは各社がビジネスプロセスの継続的な改善をサポートするべく体制強化を進めていることだ。一般に、企業の業務改革は、現状を把握するための分析から始まり、改善点を反映した新しいビジネスプロセスの設計を行う。プロセスマイニングは最初の現状分析を飛躍的に効率化できるが、実際はシステム展開後もプロセス改善は続く。ユーザー企業としても、その後の実装、組織への展開、継続的なモニタリングを含めたエンドツーエンドでサポートしてもらうほうが望ましい。
また、ビジネスプロセスの可視化にBIのアプローチを取り入れる試みも浮かび上がってくる。プロセスマイニングでの可視化と言えば、最初に連想するのはログベースの「デジタルツイン」だ。もちろん、そこから改善の切り口を探してもいいが、ビジネスKPIをベースにしたほうが改善の方向性を掴みやすい場合もある。また、ビジネスKPIであれば、デジタルツインのように全データを把握する必要はなく、同じ仕組みを使っている他社との比較も容易にできる。業務部門にとっては、より業務改革を進めやすい環境が整備されつつある。
商用ソフトウェアの開発では継続的デリバリーがすでに当たり前だが、企業の業務変革でも同じアプローチを採用してもいいはずだ。エンドツーエンドで業務改革をサポートしようとする各社の製品戦略は、本当の意味でビジネストランスフォーメーションやDXを実践しようとする企業ニーズに応えるものと言える。
ベンダーの戦略とは別に、プロセスマイニング自体の可能性も広がっているようにも見える。セロニス日本法人の小林社長は、日本企業によるプロセスマイニングの使い方が「グローバルと比べてイノベーティブ」な面があると指摘する。一般的にグローバルでは、ERPが日本よりも浸透しており、ビジネスマイニングもバックオフィスでの用途が多いが、日本においてはサプライチェーンの可視化や不正検知などに生かす好事例が出始めているという。小林社長はこのような用途について「日本の土壌にうまく組み込まれていることの現れだ。チャレンジングではあるが、日本流の進化を見せていると確信を持って言える」と強調する。
各社がそれぞれの製品戦略を繰り広げる中で、より高度なユースケースが開発されれば、ビジネスマイニングの有用性はさらに高まるだろう。今後の進化にも注目が集まりそうだ。

プロセスマイニングは、ビジネスアプリケーションのトランザクションログを基にビジネスプロセスを可視化する製品分野である。国内でこの分野に注目が集まるようになったのは、独セロニスの日本法人設立や伊コグニティブ・テクノロジーズが開発したプロセスマイニングツール「myInvenio」の提供が始まった2019年のことだ。翌20年には、米ユーアイパスがプロセス・ゴールド(オランダ)の製品を統合し、「UiPath Process Mining」として提供を開始したほか、OCR製品で知られる米アビーが「ABBYY Timeline」の製品強化に乗り出した。さらに21年、業界に大きな再編の波が訪れる。3月にはSAPが独シグナビオの買収を完了して、本格的に市場に参入。4月にはIBMがmyInvenioを買収、8月には日本法人を7月に設立したばかりの米アピアンが独Lana Labsの買収をそれぞれ発表した。新たな局面を迎えたプロセスマイニングの現状について、国内市場をリードする3社の動向から探る。
(取材・文/冨永裕子 編集/藤岡 堯)
セロニス
データドリブンなビジネスオペレーションを支援
11年に独ミュンヘンで3人の創業者によって設立されたセロニスは、シーメンスでの採用をきっかけに急速に製品を洗練させ、現在は全世界で約1000社の顧客、約2000件のユースケースを支援している。19年2月に日本法人を設立し、日本の顧客は約50社になった。日本法人の小林裕亨社長は「セロニスの特徴は大きく二つある」と語る。一つはリアルタイム性だ。リアルタイムに様々なデータをセロニス側にフィードできるとし、例えば、海外にいる誰かが買掛金の処理プロセスで標準から逸脱した行為を行えば、即座に検知し、アラートを出すことができる。
もう一つは、常に全量データを取得していることだ。「トランザクションID」「アクション」「タイムスタンプ」に代表されるログを基に構築した組織の「デジタルツイン」を作ることで、ビジネス目標の予測と改善の切り口の発見を可能にしている。
また、裏側のAIの力を使えば、ビジネス目標達成に向けた提案も取り入れられる。このほか、組織に展開する前に新しいモデルのシミュレーションを行い、検証することも可能だ。さらに、同業種の企業がセロニスを使っていれば、ビジネスKPIをベースに自社のプロセスの問題点を特定し、改善できるようにもしている。
一連の機能の提供で、企業のビジネスプロセス分析の負荷が大幅に軽減できるようになった今、今後に向けてセロニスが見据えるのは、企業の「Execution Management」の実現である。Execution Managementとは業務オペレーションの最適化を意味する。上田聡・エバンジェリストによれば、企業がデータを基に日々のビジネスオペレーションを実行できる環境を提供していく構想を描いているという。
企業がデータドリブンなビジネスオペレーションを実行できるよう、21年10月にはリアルタイムストリーミングデータ処理に特化したLenses.ioを買収した。PCのアプリケーションがOSの上で動くように、小林社長は「ビジネスのためのOSを提供する製品にしたい」と今後の展望を語る。さらに10月には、米サービスナウと戦略的パートナーシップを結んだ。自動化に適したワークフロープロセスを特定し、優先順位を付けた上で、プロセス最適化を可能にするソリューションを開発する。早ければ22年前半にも提供を開始する予定だ。
この記事の続き >>
- 日本IBM・myInvenio 自社製品群に統合し企業の自動化を加速
- SAP・シグナビオ 必要に応じた分析でプロセス最適化後押し
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
