ITインフラ各社が、近年相次いで新しいパートナープログラムを策定している。従来、インフラ製品のパートナープログラムではパートナーのランク付けに応じた還元策を中心とするものが多かったが、クラウドへの対応やデジタルトランスフォーメーション(DX)需要の高まりなどによる、新たなビジネスモデルに対応するための施策という色が濃くなってきている。
(取材・文/日高 彰)
販売実績をベースとしていたこれまでの支援策
販売パートナーを通じてIT商材を提供しているメーカーは、パートナーに対してさまざまな販売支援策を提供している。最も直接的なものは、販売実績の目標達成度に応じてパートナーに対しインセンティブを支払ったり、仕入価格(仕切り)を優遇したりするものだ。
このほかに代表的なものとしては、プロモーションおよび営業活動の支援がある。ベーシックなところでは、メーカーのWebサイトでのパートナーの紹介、ソリューションカタログへの掲載、販売促進用資料の提供などがあるが、共同でのセミナー開催や、戦略的に重要な顧客に対する共同での営業活動、広告宣伝費の一部負担といったものもある。
加えて重要になるのが、技術面・人材面での支援だ。商材を取り扱うにあたって必要となる知識やノウハウを伝えるトレーニング、テクニカルサポート、検証環境の提供などに力を入れるメーカーは多い。また、技術的な難易度が高い、あるいは特に重要と考えられるプロジェクトに対して、メーカーの技術者を派遣し、パートナーと共同でシステム構築にあたるケースもある。トレーニングはエンジニア向けのものだけでなく、営業担当者向けのコースを提供しているメーカーも少なくない。
このような販売支援策はパートナー各社に対して個別に提供されることもあるが、多くのパートナーを抱えるメーカーでは、これらを体系化したパートナープログラムを用意することが多い。典型的なプログラムでは、前年度の販売実績、認定技術者や専任販売担当者の数などに応じて複数段階のパートナーレベルを用意し、より高いレベルのパートナーほど多くの支援を受けられるようにしている。また、上位のパートナーレベルに認定されるには、メーカーとパートナーの間で戦略や目標についてコミットすることが求められていることも多く、この場合は互いに一定の範囲でリスクと収益を共有しながらビジネスを推進する形となる。
マイクロソフトがプログラムの大幅変更に着手
しかし、今や“物売り”を中心としていた時代から、各社ともサービス提供型のビジネスへと収益モデルを移行させようとしており、それに合わせてパートナープログラムの内容にも変化が見られる。直近で大きな発表をしたのはマイクロソフトだ。
同社は3月、従来「マイクロソフトパートナーネットワーク」の名称でグローバル提供していたパートナープログラムの名称を、今年10月から「マイクロソフトクラウドパートナープログラム」に変更すると発表した。名称の通り、同社が成長分野としているクラウドの販売を大きく加速させることをねらったもので、顧客から見てパートナーの強みをよりわかりやすくカテゴライズする形となる。
新プログラムでは、「データ&AI」「インフラストラクチャ」「デジタル&アプリ イノベーション」「ビジネス アプリケーション」「モダンワーク」「セキュリティ」の六つのソリューション領域が定義されている。これらのうち前者三つはAzureの取り扱いに関するもので、ビジネス アプリケーションはDynamics 365など、モダンワークには従来のWindowsおよびデバイスの販売や中小企業向けクラウド提案などが含まれる。これらのいずれかもしくは複数の領域で「ソリューションパートナー認定」を取得することで、パートナープログラム上の特典を受けられるようになっている。
ソリューションパートナー認定を受けるには、「パフォーマンス」(新規顧客数)、「スキリング」(中級/上級スキルの習得)に加えて、「カスタマーサクセス」(サービスの使用量とソリューションの導入数)について一定以上のスコアを達成する必要がある。特に、カスタマーサクセスの項目では導入後にも顧客にサービスを活発に利用してもらわないとスコアを上げることができないため、売り切りからサブスクリプション型へのビジネスの移行を強く促すものとなる。
ソリューションパートナー認定により受けられる特典としては、パートナー組織内で使用するためのAzureのクレジット、開発環境の利用、マーケティングツールの利用、コンサルティング、プリセールスから構築においての技術支援、トラブルシューティングサービスなどが用意されている。
新プログラムへの移行は10月3日に行われる。既存のパートナーは、新プログラムにおける認定基準をどれだけ満たせているか、パートナー向けポータルサイトで進捗を確認できるとしている。
大手クラウド事業者では、AWSも新たなパートナー分類を導入しており、従来の「テクノロジー」および「コンサルティング」の2分類から、「ソフトウェア」「ハードウェア」「サービス」「トレーニング」「ディストリビューション」という製品・サービス別の5分類に変更(本紙1917号参照)。クラウドサービスを導入したいと考える顧客がどのパートナーにアクセスすべきかをわかりやすくする一方、パートナーにとっても自社の強みをアピールする機会を作りやすくするという点では、共通する指向をもつプログラム変更となっている。
プロダクトメーカーもクラウド対応を強化
ハードウェアや仮想化基盤など、ITインフラのプロダクトを提供しているメーカーも、製品販売からサービス型のビジネスへのシフトを急いでいる。ハイパーコンバージドインフラ(HCI)製品大手のニュータニックスは、従来のライセンス販売からサブスクリプションへの転換に成功したベンダーの一つで、現在では収益の9割がサブスクリプションによってもたらされているという。
加えて課題となるのが、クラウド需要の高まりへの対応だ。新規のシステム構築ではクラウドが第一の選択肢として挙げられる昨今、オンプレミスに設置されるHCI製品は伸び悩むことも予想される。しかしニュータニックスでは、同社のソフトウェアをクラウド側にも導入することによって、オンプレミスとクラウドそれぞれの基盤をシームレスに活用できる環境の実現を目指しており、クラウド化の進行は同社のビジネスにとって追い風にもなり得るという見方を示している。
そこで同社では、プライベート環境とAWSを統合的に管理・運用できるサービス「Nutanix Clusters on AWS」などの提供を通じて、クラウドでもニュータニックス製品をスムーズに導入できる環境の整備を進めている。ただ、これだけでは十分ではない。国内の大手企業のように複雑な要件を抱えている顧客からは、データの保管場所も含めて、国内のITサービス事業者にシステムの管理・運用を任せたいという需要は根強い。
そこでニュータニックスでは、同社のパートナープログラムである「Elevateパートナープログラム」の中に「サービスプロバイダープログラム」を設け、日本市場でもこの展開に力を入れている。これは、ニュータニックスをベースとしたITインフラを独自のサービスとして提供するパートナーを対象としたもの。わかりやすく言えば、ニュータニックス製品を使って、自社でIaaSサービスを提供するITベンダー向けのプログラムとなる。
昨年11月には東芝デジタルソリューションズがマネージドクラウドサービスの「Albacore」で、サービスプロバイダープログラム契約を取り交わした。これにより、東芝デジタルソリューションズはオンプレミスのHCI製品からパブリッククラウドまで、幅広いニュータニックス製品を従量課金制で提供できるようになった。
ニュータニックスでは今年も引き続きサービスプロバイダープログラムを活用したビジネスに力を入れていくとしている。同社のこの姿勢からは、いわゆる“国産クラウド”事業者のビジネスにはまだまだ伸びしろがあり、オンプレミスと同じように運用できるプライベートクラウドの需要が今後本格化するという見通しも感じられる。
大手インフラ製品ベンダーでは、デル・テクノロジーズも今年パートナープログラムの刷新を行っている。現在のプログラムはデルとEMCの統合によって5年前に開始されたもので、商流によって、製品の再販を行う「ソリューションプロバイダー」、同社製品を利用してサービスを提供する「サービスプロバイダー」、同社製品を組み込んだ独自ソリューションを提供する「OEMパートナー」の三つのパートナー分類があった。今回の刷新では、これら三つの体系を統合し、どの商流で製品・サービスを販売しても一貫したインセンティブを得られるようにした。ユーザー企業の要求に応じて最適な形態で製品を提供しながら、パートナーの収益も逃さないようにプログラムが組み立てられている。
ITインフラの市場において、オンプレミスの製品販売からクラウドを中心としたサービスモデルへいかにスムーズに移行するかは、近年の大きな課題だった。ユーザーはクラウドの使い勝手を求めているにもかかわらず、そこへ製品やサービスを提供するパートナーのビジネス変革が遅れているため、依然として製品販売型の提案から抜けきれないとする声も聞かれている。メーカー各社もクラウドやサブスクリプションを売るための支援策をどう組み立てるべきか、ここ数年試行錯誤を続けており、今回挙げたようなパートナープログラムはその集大成と言える内容になっている。