Special Feature
次世代無線LAN規格Wi-Fi7 正式リリース前から商機が始まる
2023/08/24 09:00
週刊BCN 2023年08月21日vol.1981掲載
現在のネットワーク市場では「Wi-Fi 6」(IEEE802.11ax)対応機種が主流だが、2024年に正式な規格化が見込まれている次世代の「Wi-Fi 7」(IEEE802.11be)を採用した法人向け製品が早くも国内で発表されるなど、マーケットでは需要を先取りしようとした動きも見られる。次世代規格製品が前倒しで登場する背景と、その商機を探る。
(取材・文/日高 彰、安藤章司)
コンシューマー向けの無線LAN製品の市場では、規格の標準化作業が終盤を迎えると、次世代規格を先取りしたアクセスポイントが発売されることは通例で、前世代のIEEE802.11ac(Wi-Fi 5)、その前のIEEE802.11n(Wi-Fi 4)では、「ドラフト版対応」と称する製品が早くから店頭にあふれていた。標準化作業が最終段階に入れば、ハードウェアの設計変更が必要になるような大きな規格変更が行われる可能性はほとんどなく、メーカーとしては“見切り発車”で次世代製品に切り替えてもリスクは小さいからだ。
IEEE802.11beもWi-Fi 7も、現時点では正式な技術規格や名称として成立しているものではない。しかしNECは今年6月、無線LANアクセスポイントの新製品「UNIVERGE QX-W1240」を、早くも「Wi-Fi 7対応」を銘打つ機種として発表した。受注開始は9月、出荷開始は10月を予定しており、正式規格のリリース前に製品が市場に投入される形となる。
NECが9月に受注を開始する
「UNIVERGE QX-W1240」
法人向けの市場では、新しい規格に対応した端末がまだ限られる段階で最新技術を取り入れるよりも、通信が安定的に行えて、管理ソリューションなども含め確実に運用できることのほうが重視されるため、次世代製品の発売まではより慎重に時間をかけるメーカーが多かった。無線LANの高速化に関して、モチベーションの高いユーザー企業もそれほど多くはなかった。
ただ、この傾向にも現在のWi-Fi 6の導入前後から変化が見られた。IEEE802.11ax規格の最終版がとりまとめられたのは20年後半で、正式な標準化完了は21年2月だったが、実際には19年半ばから、国内でも各メーカーは法人向けのWi-Fi 6対応アクセスポイントを相次いで発売していた。背景には、「業務を行う場所には無線LAN環境を用意し、継続的に運用・管理していかなければならない」という認識がユーザーの間で広がったことがある。業務用端末としてデスクトップPCよりもノートPCやモバイル端末を用い、クラウド上のアプリケーションに接続するのが主流となり、IoTセンサーなど、無線LANの存在を前提にしたソリューションも普及しているからだ。
無線LAN製品を扱う販売代理店のある営業担当者は、「技術動向に明るいユーザー企業ばかりではないので、現在でも、必ずしもユーザーからはWi-Fi 6対応製品を指定されるわけではない」と話す。Wi-Fi 6というキーワードはここ数年で普及したように思えるが、Wi-Fi 6を“指名買い”する企業が多いわけではないとする見方だ。しかし、一度導入すれば、場合によっては5年以上といった長期間にわたって使い続けるインフラになる。技術に詳しくないユーザーからも「長く使い続けられる製品を提案してほしい」という要求はほぼ確実に寄せられるため、そこで今後予想されるトラフィックの増加と、無線LAN規格の変遷を説明することで、結果としてWi-Fi 6製品が選択されるというケースが増えていると、前出の担当者は説明する。
Wi-Fi 7においても、対応する端末がほとんどゼロに近い現状では、提案の要件としてそれを求めるユーザーはほぼ存在しないと考えられる。しかし、あるタイミングで無線LAN環境のリプレースを行うとなった場合に、現状では十分といえ数年前の規格であるWi-Fi 6と、今後の通信量や端末数の増加に対応できると見込まれるWi-Fi 7を比較検討の対象とするユーザーは早晩確実に増える。メーカーが法人市場でも次世代規格を先取りした製品の投入を急ぐのには、このような理由がある。
また、従来の無線LANで主に使われていた2.4GHz帯、5GHz帯に加え、さらに6GHz帯が使用可能な製品が現在「Wi-Fi 6E」の名称で呼ばれているが、Wi-Fi 7では6GHz帯の使用がオプションではなく標準となる。さらにWi-Fi 7では、これら三つの帯域を別々の端末との通信に割り当てるだけでなく、1台の端末との通信で複数の帯域を同時に使用することが可能となる。「MLO(Multi-Link Operation)」と呼ばれる技術で、これを利用すれば、複数の帯域を束ねて太い通信路とすることでさらに速度を高めたり、同じデータを複数の帯域で同時に送受信することで通信の信頼性を高めたりすることができる。IoTインフラとしての重要性の高まりに対応するため、速度を上げるだけでなく、信頼性向上や遅延時間の短縮といった面でもさまざまな強化を加えているのがWi-Fi 7の大きな特徴と言える。
先のNECのUNIVERGE QX-W1240は、2.4GHz帯で1.38Gbps、5GHz帯で5.76Gbps、6GHz帯(320MHz解禁後)で11.53Gbpsの通信速度をサポートしており、最大で合計18.67Gbps分の帯域をMLOによって活用することができる。また、高速な無線通信技術のメリットを引き出すため、有線LAN側との接続用には最大10Gbpsの10GBASE-Tポートを搭載している。Wi-Fi 7の導入にあたっては、有線LANインフラの更新といった需要も期待できそうだ。
NECの製品担当者は、正式規格化前の発売について「現在の最新のドラフト版規格から後に追加される機能があった場合には、今回の製品と正式規格との間に差分が生じる可能性はある」ことを認めるが、まさに今ネットワークインフラの更新時期を迎えているユーザーに対し、Wi-Fi 7のメリットを提供することを優先したと説明。ごく近い将来、他社もWi-Fi 7対応製品を法人向け市場に投入してくることは想定しており、Wi-Fi 7の先取り競争として突貫での製品化に踏み切ったわけではないとする。
同社は無線LAN環境を自動的に最適化する「Smart Wireless Technology」や、有線と無線のネットワークを統合管理できるソリューションとして、オンプレミス運用型の「QX Management Center」、クラウドサービス型の「NetMeisterAP」を用意。また、製品の出荷終了から5年後まで、故障したハードウェアを無償で交換する保証サービスを提供しているとして、当初は目新しさで注目が集まるWi-Fi 7製品であっても、本質的な差別化要素は運用のしやすさや製品の信頼性にあると強調する。
(写真左から)バッファローの石丸正弥常務、横井一紀常務、富山強部長
無線LAN製品を軸にした法人向け事業の拡大に注力するバッファローは、Wi-Fi 7対応アクセスポイント機器が法人に普及するのは、まだ数年かかるとの見通しを示した。Wi-Fi 7対応の端末が国内では普及していないのに加え、投資対効果を重視するユーザーには時期尚早であることを理由として挙げる。一方で、現行規格対応製品の「次の大型商材として期待している」(横井一紀・常務取締役)と、数年後のビジネスチャンスにつながるとの見方を示す。
同社は今年4月、Wi-Fi 6E対応の「WAPM-AXETR」を発売した。Wi-Fi 6Eも、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯の三つの無線通信の帯域に対応したトライバンド方式を採用するという点ではWi-Fi 7と共通であり、Wi-Fi 7に迫る性能を得られるとしている。しかし、国内でWi-Fi 6Eに対応しているPCやモバイル端末は最新機種が中心で、それ以外は6GHz帯に対応しないWi-Fi 6であることが多い。主力商材の主軸がWi-Fi 6Eへ移行するまでには時間がかかる見込みで、Wi-Fi 7はさらにその次の主力商材になるとみている。
上段がWi-Fi 6E準拠のアクセスポイント
「WAPM-AXETR」
同社が今年6月に従業員数10~300人未満の中小企業に調査を行ったところ、使用中の無線LANの導入時期が4~5年前と回答したユーザーが全体の29%と最多を占めた。また、6~9年前が18.3%、10年以上前が21.8%で、6年以上前という回答は40.1%に達した。まずはこの4割のユーザーを「できるだけ早いタイミングで現在主力のWi-Fi 6準拠の製品に置き換えてもらう施策を打つ」(富山強・法人マーケティング部部長)方針だ。
企業は生産性を高めることを主な目的でWi-Fiを導入しているが、通信速度が10年前の水準では「生産性を高める本来の目的と合わなくなる恐れがある」(同)と指摘。IT予算が限られ、買い替えサイクルが長い傾向にある中堅・中小企業でも、適切なタイミングで投資対効果が最も高まる製品ラインアップを揃えることで、買い替え需要を引き出していく。
買い替え促進の施策として、Wi-Fi 6対応のエントリーモデルの新製品「WAPS-AX4」を8月上旬に投入。文庫本サイズの小ささで税別3万4800円と、Wi-Fi 6E準拠のトライバンド・ハイエンドモデルのWAPM-AXETR(税別9万9800円)に比べて価格を大幅に抑えた。既存のWi-Fi 6準拠製品に比べても小型、割安に設定した。あわせて石丸正弥・常務取締役は、「遠隔で保守管理するリモート管理サービス『キキNavi』をはじめ企業用途で求められるサービスを拡充していく」と説明。法人向けのサービスも強化してシェア拡大を目指す。
(取材・文/日高 彰、安藤章司)

最新規格の“指名買い”でなくとも ユーザーは長く使える製品を求める
無線LAN機器の相互運用性認証を行っている業界団体の米Wi-Fi Alliance(ワイファイアライアンス)は、19年から最新規格のIEEE802.11axをWi-Fi 6の名称で呼び、消費者や企業に向けて高速無線LANの普及促進活動を行ってきた。ワイファイアライアンスが次世代の無線LAN技術として位置づけているのが、24年に標準化作業の完了が予定されている規格のIEEE802.11beで、アライアンスではこれをWi-Fi 7と呼ぶ方針を示している。コンシューマー向けの無線LAN製品の市場では、規格の標準化作業が終盤を迎えると、次世代規格を先取りしたアクセスポイントが発売されることは通例で、前世代のIEEE802.11ac(Wi-Fi 5)、その前のIEEE802.11n(Wi-Fi 4)では、「ドラフト版対応」と称する製品が早くから店頭にあふれていた。標準化作業が最終段階に入れば、ハードウェアの設計変更が必要になるような大きな規格変更が行われる可能性はほとんどなく、メーカーとしては“見切り発車”で次世代製品に切り替えてもリスクは小さいからだ。
IEEE802.11beもWi-Fi 7も、現時点では正式な技術規格や名称として成立しているものではない。しかしNECは今年6月、無線LANアクセスポイントの新製品「UNIVERGE QX-W1240」を、早くも「Wi-Fi 7対応」を銘打つ機種として発表した。受注開始は9月、出荷開始は10月を予定しており、正式規格のリリース前に製品が市場に投入される形となる。
「UNIVERGE QX-W1240」
法人向けの市場では、新しい規格に対応した端末がまだ限られる段階で最新技術を取り入れるよりも、通信が安定的に行えて、管理ソリューションなども含め確実に運用できることのほうが重視されるため、次世代製品の発売まではより慎重に時間をかけるメーカーが多かった。無線LANの高速化に関して、モチベーションの高いユーザー企業もそれほど多くはなかった。
ただ、この傾向にも現在のWi-Fi 6の導入前後から変化が見られた。IEEE802.11ax規格の最終版がとりまとめられたのは20年後半で、正式な標準化完了は21年2月だったが、実際には19年半ばから、国内でも各メーカーは法人向けのWi-Fi 6対応アクセスポイントを相次いで発売していた。背景には、「業務を行う場所には無線LAN環境を用意し、継続的に運用・管理していかなければならない」という認識がユーザーの間で広がったことがある。業務用端末としてデスクトップPCよりもノートPCやモバイル端末を用い、クラウド上のアプリケーションに接続するのが主流となり、IoTセンサーなど、無線LANの存在を前提にしたソリューションも普及しているからだ。
無線LAN製品を扱う販売代理店のある営業担当者は、「技術動向に明るいユーザー企業ばかりではないので、現在でも、必ずしもユーザーからはWi-Fi 6対応製品を指定されるわけではない」と話す。Wi-Fi 6というキーワードはここ数年で普及したように思えるが、Wi-Fi 6を“指名買い”する企業が多いわけではないとする見方だ。しかし、一度導入すれば、場合によっては5年以上といった長期間にわたって使い続けるインフラになる。技術に詳しくないユーザーからも「長く使い続けられる製品を提案してほしい」という要求はほぼ確実に寄せられるため、そこで今後予想されるトラフィックの増加と、無線LAN規格の変遷を説明することで、結果としてWi-Fi 6製品が選択されるというケースが増えていると、前出の担当者は説明する。
Wi-Fi 7においても、対応する端末がほとんどゼロに近い現状では、提案の要件としてそれを求めるユーザーはほぼ存在しないと考えられる。しかし、あるタイミングで無線LAN環境のリプレースを行うとなった場合に、現状では十分といえ数年前の規格であるWi-Fi 6と、今後の通信量や端末数の増加に対応できると見込まれるWi-Fi 7を比較検討の対象とするユーザーは早晩確実に増える。メーカーが法人市場でも次世代規格を先取りした製品の投入を急ぐのには、このような理由がある。
速度だけでなく信頼性も向上
Wi-Fi 7の通信速度は、Wi-Fi 6の最大9.6Gbpsから最大46Gbpsへと4.8倍に高速化する。これは規格上の理論値であり、実際の運用環境で得られるスピードではないが、無線通信において通信速度に最も大きく影響する、周波数帯域の幅がWi-Fi 6の最大160MHzから倍の最大320MHzに広がるため、容量・速度が大きく向上することは間違いない。なお、320MHz幅の使用については現在国内の法令対応が進められており、年内から来年にかけてのタイミングで使用が可能になるとみられている。また、従来の無線LANで主に使われていた2.4GHz帯、5GHz帯に加え、さらに6GHz帯が使用可能な製品が現在「Wi-Fi 6E」の名称で呼ばれているが、Wi-Fi 7では6GHz帯の使用がオプションではなく標準となる。さらにWi-Fi 7では、これら三つの帯域を別々の端末との通信に割り当てるだけでなく、1台の端末との通信で複数の帯域を同時に使用することが可能となる。「MLO(Multi-Link Operation)」と呼ばれる技術で、これを利用すれば、複数の帯域を束ねて太い通信路とすることでさらに速度を高めたり、同じデータを複数の帯域で同時に送受信することで通信の信頼性を高めたりすることができる。IoTインフラとしての重要性の高まりに対応するため、速度を上げるだけでなく、信頼性向上や遅延時間の短縮といった面でもさまざまな強化を加えているのがWi-Fi 7の大きな特徴と言える。
先のNECのUNIVERGE QX-W1240は、2.4GHz帯で1.38Gbps、5GHz帯で5.76Gbps、6GHz帯(320MHz解禁後)で11.53Gbpsの通信速度をサポートしており、最大で合計18.67Gbps分の帯域をMLOによって活用することができる。また、高速な無線通信技術のメリットを引き出すため、有線LAN側との接続用には最大10Gbpsの10GBASE-Tポートを搭載している。Wi-Fi 7の導入にあたっては、有線LANインフラの更新といった需要も期待できそうだ。
NECの製品担当者は、正式規格化前の発売について「現在の最新のドラフト版規格から後に追加される機能があった場合には、今回の製品と正式規格との間に差分が生じる可能性はある」ことを認めるが、まさに今ネットワークインフラの更新時期を迎えているユーザーに対し、Wi-Fi 7のメリットを提供することを優先したと説明。ごく近い将来、他社もWi-Fi 7対応製品を法人向け市場に投入してくることは想定しており、Wi-Fi 7の先取り競争として突貫での製品化に踏み切ったわけではないとする。
同社は無線LAN環境を自動的に最適化する「Smart Wireless Technology」や、有線と無線のネットワークを統合管理できるソリューションとして、オンプレミス運用型の「QX Management Center」、クラウドサービス型の「NetMeisterAP」を用意。また、製品の出荷終了から5年後まで、故障したハードウェアを無償で交換する保証サービスを提供しているとして、当初は目新しさで注目が集まるWi-Fi 7製品であっても、本質的な差別化要素は運用のしやすさや製品の信頼性にあると強調する。
中堅・中小企業でのWi-Fi 7の本格普及は「次のさらに次」
来年の正式リリースに向けて、市場でのWi-Fi 7製品の動きが活発化するのは間違いないが、具体的な案件が伸びていくのがいつになるのかは、メーカー間でも判断が分かれる。
無線LAN製品を軸にした法人向け事業の拡大に注力するバッファローは、Wi-Fi 7対応アクセスポイント機器が法人に普及するのは、まだ数年かかるとの見通しを示した。Wi-Fi 7対応の端末が国内では普及していないのに加え、投資対効果を重視するユーザーには時期尚早であることを理由として挙げる。一方で、現行規格対応製品の「次の大型商材として期待している」(横井一紀・常務取締役)と、数年後のビジネスチャンスにつながるとの見方を示す。
同社は今年4月、Wi-Fi 6E対応の「WAPM-AXETR」を発売した。Wi-Fi 6Eも、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯の三つの無線通信の帯域に対応したトライバンド方式を採用するという点ではWi-Fi 7と共通であり、Wi-Fi 7に迫る性能を得られるとしている。しかし、国内でWi-Fi 6Eに対応しているPCやモバイル端末は最新機種が中心で、それ以外は6GHz帯に対応しないWi-Fi 6であることが多い。主力商材の主軸がWi-Fi 6Eへ移行するまでには時間がかかる見込みで、Wi-Fi 7はさらにその次の主力商材になるとみている。
「WAPM-AXETR」
同社が今年6月に従業員数10~300人未満の中小企業に調査を行ったところ、使用中の無線LANの導入時期が4~5年前と回答したユーザーが全体の29%と最多を占めた。また、6~9年前が18.3%、10年以上前が21.8%で、6年以上前という回答は40.1%に達した。まずはこの4割のユーザーを「できるだけ早いタイミングで現在主力のWi-Fi 6準拠の製品に置き換えてもらう施策を打つ」(富山強・法人マーケティング部部長)方針だ。
企業は生産性を高めることを主な目的でWi-Fiを導入しているが、通信速度が10年前の水準では「生産性を高める本来の目的と合わなくなる恐れがある」(同)と指摘。IT予算が限られ、買い替えサイクルが長い傾向にある中堅・中小企業でも、適切なタイミングで投資対効果が最も高まる製品ラインアップを揃えることで、買い替え需要を引き出していく。
買い替え促進の施策として、Wi-Fi 6対応のエントリーモデルの新製品「WAPS-AX4」を8月上旬に投入。文庫本サイズの小ささで税別3万4800円と、Wi-Fi 6E準拠のトライバンド・ハイエンドモデルのWAPM-AXETR(税別9万9800円)に比べて価格を大幅に抑えた。既存のWi-Fi 6準拠製品に比べても小型、割安に設定した。あわせて石丸正弥・常務取締役は、「遠隔で保守管理するリモート管理サービス『キキNavi』をはじめ企業用途で求められるサービスを拡充していく」と説明。法人向けのサービスも強化してシェア拡大を目指す。
現在のネットワーク市場では「Wi-Fi 6」(IEEE802.11ax)対応機種が主流だが、2024年に正式な規格化が見込まれている次世代の「Wi-Fi 7」(IEEE802.11be)を採用した法人向け製品が早くも国内で発表されるなど、マーケットでは需要を先取りしようとした動きも見られる。次世代規格製品が前倒しで登場する背景と、その商機を探る。
(取材・文/日高 彰、安藤章司)
コンシューマー向けの無線LAN製品の市場では、規格の標準化作業が終盤を迎えると、次世代規格を先取りしたアクセスポイントが発売されることは通例で、前世代のIEEE802.11ac(Wi-Fi 5)、その前のIEEE802.11n(Wi-Fi 4)では、「ドラフト版対応」と称する製品が早くから店頭にあふれていた。標準化作業が最終段階に入れば、ハードウェアの設計変更が必要になるような大きな規格変更が行われる可能性はほとんどなく、メーカーとしては“見切り発車”で次世代製品に切り替えてもリスクは小さいからだ。
IEEE802.11beもWi-Fi 7も、現時点では正式な技術規格や名称として成立しているものではない。しかしNECは今年6月、無線LANアクセスポイントの新製品「UNIVERGE QX-W1240」を、早くも「Wi-Fi 7対応」を銘打つ機種として発表した。受注開始は9月、出荷開始は10月を予定しており、正式規格のリリース前に製品が市場に投入される形となる。
NECが9月に受注を開始する
「UNIVERGE QX-W1240」
法人向けの市場では、新しい規格に対応した端末がまだ限られる段階で最新技術を取り入れるよりも、通信が安定的に行えて、管理ソリューションなども含め確実に運用できることのほうが重視されるため、次世代製品の発売まではより慎重に時間をかけるメーカーが多かった。無線LANの高速化に関して、モチベーションの高いユーザー企業もそれほど多くはなかった。
ただ、この傾向にも現在のWi-Fi 6の導入前後から変化が見られた。IEEE802.11ax規格の最終版がとりまとめられたのは20年後半で、正式な標準化完了は21年2月だったが、実際には19年半ばから、国内でも各メーカーは法人向けのWi-Fi 6対応アクセスポイントを相次いで発売していた。背景には、「業務を行う場所には無線LAN環境を用意し、継続的に運用・管理していかなければならない」という認識がユーザーの間で広がったことがある。業務用端末としてデスクトップPCよりもノートPCやモバイル端末を用い、クラウド上のアプリケーションに接続するのが主流となり、IoTセンサーなど、無線LANの存在を前提にしたソリューションも普及しているからだ。
無線LAN製品を扱う販売代理店のある営業担当者は、「技術動向に明るいユーザー企業ばかりではないので、現在でも、必ずしもユーザーからはWi-Fi 6対応製品を指定されるわけではない」と話す。Wi-Fi 6というキーワードはここ数年で普及したように思えるが、Wi-Fi 6を“指名買い”する企業が多いわけではないとする見方だ。しかし、一度導入すれば、場合によっては5年以上といった長期間にわたって使い続けるインフラになる。技術に詳しくないユーザーからも「長く使い続けられる製品を提案してほしい」という要求はほぼ確実に寄せられるため、そこで今後予想されるトラフィックの増加と、無線LAN規格の変遷を説明することで、結果としてWi-Fi 6製品が選択されるというケースが増えていると、前出の担当者は説明する。
Wi-Fi 7においても、対応する端末がほとんどゼロに近い現状では、提案の要件としてそれを求めるユーザーはほぼ存在しないと考えられる。しかし、あるタイミングで無線LAN環境のリプレースを行うとなった場合に、現状では十分といえ数年前の規格であるWi-Fi 6と、今後の通信量や端末数の増加に対応できると見込まれるWi-Fi 7を比較検討の対象とするユーザーは早晩確実に増える。メーカーが法人市場でも次世代規格を先取りした製品の投入を急ぐのには、このような理由がある。
(取材・文/日高 彰、安藤章司)

最新規格の“指名買い”でなくとも ユーザーは長く使える製品を求める
無線LAN機器の相互運用性認証を行っている業界団体の米Wi-Fi Alliance(ワイファイアライアンス)は、19年から最新規格のIEEE802.11axをWi-Fi 6の名称で呼び、消費者や企業に向けて高速無線LANの普及促進活動を行ってきた。ワイファイアライアンスが次世代の無線LAN技術として位置づけているのが、24年に標準化作業の完了が予定されている規格のIEEE802.11beで、アライアンスではこれをWi-Fi 7と呼ぶ方針を示している。コンシューマー向けの無線LAN製品の市場では、規格の標準化作業が終盤を迎えると、次世代規格を先取りしたアクセスポイントが発売されることは通例で、前世代のIEEE802.11ac(Wi-Fi 5)、その前のIEEE802.11n(Wi-Fi 4)では、「ドラフト版対応」と称する製品が早くから店頭にあふれていた。標準化作業が最終段階に入れば、ハードウェアの設計変更が必要になるような大きな規格変更が行われる可能性はほとんどなく、メーカーとしては“見切り発車”で次世代製品に切り替えてもリスクは小さいからだ。
IEEE802.11beもWi-Fi 7も、現時点では正式な技術規格や名称として成立しているものではない。しかしNECは今年6月、無線LANアクセスポイントの新製品「UNIVERGE QX-W1240」を、早くも「Wi-Fi 7対応」を銘打つ機種として発表した。受注開始は9月、出荷開始は10月を予定しており、正式規格のリリース前に製品が市場に投入される形となる。
「UNIVERGE QX-W1240」
法人向けの市場では、新しい規格に対応した端末がまだ限られる段階で最新技術を取り入れるよりも、通信が安定的に行えて、管理ソリューションなども含め確実に運用できることのほうが重視されるため、次世代製品の発売まではより慎重に時間をかけるメーカーが多かった。無線LANの高速化に関して、モチベーションの高いユーザー企業もそれほど多くはなかった。
ただ、この傾向にも現在のWi-Fi 6の導入前後から変化が見られた。IEEE802.11ax規格の最終版がとりまとめられたのは20年後半で、正式な標準化完了は21年2月だったが、実際には19年半ばから、国内でも各メーカーは法人向けのWi-Fi 6対応アクセスポイントを相次いで発売していた。背景には、「業務を行う場所には無線LAN環境を用意し、継続的に運用・管理していかなければならない」という認識がユーザーの間で広がったことがある。業務用端末としてデスクトップPCよりもノートPCやモバイル端末を用い、クラウド上のアプリケーションに接続するのが主流となり、IoTセンサーなど、無線LANの存在を前提にしたソリューションも普及しているからだ。
無線LAN製品を扱う販売代理店のある営業担当者は、「技術動向に明るいユーザー企業ばかりではないので、現在でも、必ずしもユーザーからはWi-Fi 6対応製品を指定されるわけではない」と話す。Wi-Fi 6というキーワードはここ数年で普及したように思えるが、Wi-Fi 6を“指名買い”する企業が多いわけではないとする見方だ。しかし、一度導入すれば、場合によっては5年以上といった長期間にわたって使い続けるインフラになる。技術に詳しくないユーザーからも「長く使い続けられる製品を提案してほしい」という要求はほぼ確実に寄せられるため、そこで今後予想されるトラフィックの増加と、無線LAN規格の変遷を説明することで、結果としてWi-Fi 6製品が選択されるというケースが増えていると、前出の担当者は説明する。
Wi-Fi 7においても、対応する端末がほとんどゼロに近い現状では、提案の要件としてそれを求めるユーザーはほぼ存在しないと考えられる。しかし、あるタイミングで無線LAN環境のリプレースを行うとなった場合に、現状では十分といえ数年前の規格であるWi-Fi 6と、今後の通信量や端末数の増加に対応できると見込まれるWi-Fi 7を比較検討の対象とするユーザーは早晩確実に増える。メーカーが法人市場でも次世代規格を先取りした製品の投入を急ぐのには、このような理由がある。
この記事の続き >>
- 速度だけでなく信頼性も向上
- 中堅・中小企業でのWi-Fi 7の本格普及は「次のさらに次」
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
