NECは、コンサルティング起点のアプローチとオファリング型の提供モデルにより顧客のDXを支援する、「コアDX事業」の拡大に力を入れている。同事業をけん引する執行役の吉崎敏文・Corporate EVP兼CDO(チーフデジタルオフィサー)は「NECの売り方と売り物を変える事業」と位置付け、DX共通基盤「NEC Digital Platform(NDP)」の活用により、既存の個別SIによるビジネスを極小化することで収益力の向上を目指す考えだ。今後はNDP上で同社が開発した生成AIの提供などに力を入れる。
(取材・文/大畑直悠)
“単金”から価値提供ベースへ転換
NECのコアDX事業は、社内DXの知見やノウハウ、研究開発した技術などを組み合わせて、提供内容や提案方法を定型化した「オファリング」によって顧客のDXを支援する。「コアDX」という名称には、顧客のDXを支援するにあたり「中核となるサービス」との思いを込めており、同社が強みを生かして差別化できる領域としている。コンサルティングからデリバリーまでの一貫したアプローチや、グローバルのハイパースケーラーとのアライアンス、NDPの活用などが特徴となっている。
2022年度実績では、コアDX事業の売上高は2401億円で、調整後営業利益率は1.6%だった。23年度は売上高2960億円、調整後営業利益率が6.8%となる見通しで、計画では25年度に売上高5700億円、調整後営業利益率13.2%を目指す。
23年4月には、コアDX事業の推進を担う事業部門となるデジタルプラットフォームビジネスユニットを設立。NECが提供するあらゆるデジタル技術を結集し、全社横断組織として製品・サービスを企画・開発して提供する。
吉崎CDOは、上流からのアプローチとオファリングによる売り方について、「これから求められるのはバリュープライシングだと考えている。上流から顧客に関われば、顧客のDXを支援する上で提供すべき本質的な価値が見えてくるため、そこに対して値段を付けてもらう。“単金”ベースではなく、価値提供ベースへと変えていくことが重要だ」と説明。コアDX事業は、NECのITサービス事業の変革を促すドライバーとして期待されている。
今後の成長に向けた注力領域としては、▽付加価値の高いコンサルティング起点のビジネスの拡大▽DX共通基盤NDPを活用した個別のSIの極小化▽新規事業機会の創出―を挙げている。
コンサル起点のビジネスでは、戦略構想策定から実装・定着・運用までを一貫して提供する。同社が保有する、デバイスやインフラ、アプリケーションの将来的なロードマップを見据えた上で、コンサルサービスを提供できることが強みだ。コンサル起点ビジネスの売上高は、22年度は1269億円で、23年度は1320億円になる見通し。25年度には1650億円を目指す。
吉崎敏文 CDO
人的リソース面では、23年度に500人のDX戦略コンサルタントを25年度には1000人へ拡大させるとともに、グループ会社のアビームコンサルティングとの連携も図りながら、体制の強化に取り組む。吉崎CDOは「当社は要件に従って品質を担保するような中流の工程は以前から得意だったが、これからは上流のアプローチも必要になる。各顧客にスクラッチ開発して提供するモデルは効率が悪く、こちらから強いポートフォリオを押し出すアプローチを担う。当社のビジネスプロセスそのものを変えるために、設置した組織だ」と説明する。加えて、「顧客のDXを進める上で、構想策定の段階から関われば、課題やニーズを把握できる。上流と当社の研究所をつなぎ、それに応じて研究開発を進める」と話す。
今後は、業種別に専門のコンサルタントを配置していく計画で、製造、流通、公共、金融といった各業界に特化した部隊を立ち上げる予定だ。
新規事業の創出ではスマートシティとインフラ協調モビリティを挙げ、25年度の目標として、それぞれ333億円、433億円を掲げる。スマートシティでは、防災や医療・福祉、観光・移動、健康といった自治体からのニーズの高いサービスとデータ連携サービスを組み合わせ、デジタル田園都市構想で拡大する需要を捉える。現在60の自治体での導入実績を、25年度までに200自治体に拡大させる。インフラ協調モビリティでは、政府の総合整備計画と連動し、25年度以降の急拡大に向けて関連省庁主導のプロジェクトへの参画やリファレンスアーキテクチャーなどの提案を進める。
SIの効率化で利益を追求
NDPは、コアDX事業の運営において、マーケティングから上流コンサル、SI・デリバリー、保守・運用までを含むオファリングを一貫して提供するための中核となり、NECのテクノロジーに加え、DX人材と知見を集約したプラットフォームとされている。NDPの提供による売り上げは、22年度実績では前年度比39%増の1107億円で、23年度は1510億円となる見通し。25年度には3284億円を見据える。NDPへの投資はすでに一巡したとしており、コアDX事業が高い収益性を生むために中心的な役割を果たすことになる。
NDPを構成する具体的な要素としては、SaaSやPaaS、IaaS、ネットワーク、エッジの五つのレイヤーと、それらのレイヤーを横断的に支えるオペレーションとセキュリティが含まれる。業種共通のオファリングとともに、業界ごとに特化したオファリングも提供する。
NDP上で提供するアセットには、SIを効率化する仕組みが実装されており、システムのライフサイクルをデジタル化するオープンソースのフレームワーク「Exastro IT Automation」を活用し、実装の共通テンプレート化や、設計・開発と運用・保守の自動化を行う。これにより、個別SIを極小化し、DX人材のリソースを企画の部分に割くことが可能になるという。例えば、生体認証サービス「Bio Idiom Service」では、導入の際に個別のパラメーター設定が不要となり、20時間かかっていたデプロイの時間を最短で約1時間に短縮するなど効果を上げている。
23年8月には、独Celonis(セロニス)と戦略的パートナシップを締結。NDP上で同社のプロセスマイニング技術を提供するほか、両社製品間のコネクタの共同開発とガバナンス体制の立ち上げや、セロニスによるトレーニングの支援でデリバリー体制の強化を目指す。加えて、NECが提供するコンサルティングサービスにも活用し、提供価値を向上させる。
吉崎CDOは「ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークのいずれも持っている企業は世界的に見ても珍しい。特にこれからデータの時代と言われているが、データのエントリーポイントとなるエッジ機器を持つことは当社の強みだ」と胸を張る。一方でこれまでは、機能的に重複する製品の開発が事業部門ごとに進められるといった状況が発生していたため、コストの増大や、ポートフォリオの複雑化を招いていたという。レイヤーごとに提供内容を定義し、NDPに共通化することで、収益力を向上させる狙いがある。
コロナ禍以降、顧客のDX投資は堅調に推移しているが、これに対して吉崎CDOは「近いうちに、需要に耐えられるだけの人手が足りなくなる。生産性の向上は、NECだけではなく、日本が今後成長していくために必要不可欠だ」と強調する。その上で、「パートナーにとっても、人手不足は喫緊の課題だ。需要があっても、顧客ごとにシステムをつくっていれば、いずれ対応できなくなるだろう。単純化して説明すれば、例えば五つのバラバラのシステムのそれぞれを計5人で売っているとすれば、NDPがそれを一本化したことで、4人を新しい成長ビジネスに回せるようになる」と力を込める。
加えて、「技術があり、需要があったとしても、個別開発だけをやっていれば利益が出ない。パートナーも含め、単価を上げるとともに、利益を追求しなければ日本全体が落ち込む」と訴える。NECの森田隆之社長兼CEOも週刊BCNの取材に対し「NDPをパートナーにとっても重要な基盤にしていく」とし、各パートナーが強みとする商材とNDPを組み合わせて販売できるようにする必要性を示している。
生成AIを業界・業種別に展開
今後、NDP上での提供に力を入れるサービスとしては、生成AIと、製造業の支援を挙げる。
生成AIでは、同社が23年7月に発表した大規模言語モデル「cotomi」のビジネスを段階的に拡大する。現在、業種・業界ごとに選出した12社の民間業者と3大学に個別でシステムを構築し、フレームワーク化するフェーズ1を進めており、24年度にはフェーズ1で得たノウハウをもとに業種・業界ごとに横展開するフェーズ2、パートナーと連携するフェーズ3を展開する予定。
フェーズ2では、業界ごとに特化したモデルを同社の業界・業種向けのパッケージやソリューションに組み込んで提供する。フェーズ3では、24年春にリリース予定の「マネージドAPIサービス」で、cotomiのプラグインやAPIを提供。業種・業界への提供力を強化するとともに、グローバルのクラウド事業者の利用を想定し、すでに複数社との話し合いを進めている。また、吉崎CDO直下の生成AI推進組織に、顧客に接する各事業部門からアンバサダーを任命。生成AIの提案活動を通じて業種別のナレッジを蓄積する体制を整えている。そのほか、AIリスクを評価するサービスを展開する米Robust Intelligence(ロバストインテリジェンス)と連携し、安全な利用の実現を推進する。
製造業への支援では、デジタルツインの提供に力を入れる。吉崎CDOは「製造業といっても、自動車や重工業、電機など幅広い。一律的に支援するのは難しいだろう。業種や規模によって、必要な知見もノウハウ違うことから、個別開発を余儀なくされるケースもある。ターゲットを絞りつつ顧客を支援していく」と述べ、エッジとネットワーク、AIを活用し、OT(産業向け制御技術の領域)とITをつないだデータ活用により、最適化を目指す。
具体的には、製造装置やシステムの稼働状況や人、業務プロセスの可視化、“匠の技”などのAIによるモデル化、バーチャルファクトリー/プラントを実現する。また、ロボットアームのティーチングレス制御、フォークリフトやバックホウの自立制御・遠隔操縦といったサービスに加え、業種別に最適化したソリューショを提供する予定だ。