日本におけるクラウドの発展にCIerの存在は欠かせない。クラウドネイティブな開発力を強みに市場をリードし、進化するテクノロジーをユーザーへ届け続けた。そして今、クラウドは市民権を得るに至った。顧客は大手から中堅、中小まで業種、職種を問わず全方位的に広がり、市場の成長と軌を一にするようにCIerは伸長を続けている。ただ、市場の広がりはプレイヤーの増加と同義であり、草創期には見られなかった大規模SIerまでもクラウドを主軸としつつある。混沌と化す市場で、CIerはどう存在感を発揮し、ライバルに立ち向かっていくのだろうか。創刊2000号記念連載の最終回は、CIerの今とこれからを見つめる。
(取材・文/齋藤秀平、藤岡 堯、岩田晃久、安藤章司)
クラスメソッド
「1点集中突破」の姿勢で勝負
「アーリーアダプターのフェーズを超えて、より多くの企業がクラウドを使うモードになっている」。「Amazon Web Services」(AWS)を中心に事業を展開するクラスメソッドの横田聡代表取締役は、クラウドに対する企業の動向についてこう語る。市場での競争が激化する中、今後は「1点集中突破」の姿勢で勝負し、ニーズに合わせて自社の変革も進める考えだ。
クラスメソッド 横田 聡 代表取締役
企業がクラウドを活用する場合、まずは自らシステムを構築することを考える。しかし、「自社で対応できればいいと思う企業は多いが、なかなかやりきれない」と横田代表取締役。一方、従来のベンダーに開発を丸投げした場合、コストが高くなりすぎることがハードルになり、「安く、速く、事業に貢献するためにどうしたらいいだろうとなったとき、今までと同じように声をかけてもらっている」と話す。
同社がAWSを取り扱い始めたのが2008年ごろで、13年ごろまでは企業による様子見の状況が続いた。その後、徐々にクラウド活用の機運が上昇し、クラウドが「当たり前」に。現在はクラウドで成果を出す企業が増え、企業側も、インテグレーター側も、クラウドでビジネスを回したり、新しいデジタルの取り組みを進めたりしているという。
直近の生成AIやビッグデータなど、さまざまな技術が注目を集めてきた。ただ、横田代表取締役は「いろいろなトピックは追加されるが、クラウドがほかのものに代わる感じはない」と指摘。ユーザーからの要望は「まんべんなく」(横田代表取締役)あり、問い合わせを受ける企業も数人から数万人まで幅広いそうだ。
一方、クラウドへの注目が高まるにつれて、市場での競争は激しくなっている。同業やコンサルティング企業に加え、エンジニアの採用を進める事業会社も「見方によっては競合といえるかもしれない」と語る。とはいえ「ある程度、規模は大きくしないといけないが、大手と同じ仕事をするつもりはない」と断言する。
他社との差別化を図るためは「局所的に特化したものを持って、圧倒的な1番を獲得していく」のが重要との見方を示し、「1点集中突破で針の穴を開けた後、その穴を大きくするように横展開するのが基本的な戦い方になるだろう」と説明。多くの顧客の案件を手掛ける中で得ている「圧倒的な知見」を生かす方針だ。AIに関しては、業務プロセスの見えないところでデータの利活用が進むような導入が増えると予想し、「業界や業務に特化した組み込み型のAI」の開発・提供に注力するとしている。
同社は約3300社の顧客を抱えている。顧客と対話する中で、最近は相談のレベルが上がっている。横田代表取締役は「クララウドの支援をした後、テクノロジーを起点としたビジネス寄りの上位層の相談が増えている」とし、今後のビジネスチャンスになると展望。さらなる成長に向けて「われわれ自身も変わらないといけない。人材の採用や育成を含めて新たなチームを組成し、お客様のマーケティングや事業の戦略をより手伝えるようにする必要がある」と力を込める。
アイレット
先駆者の豊富な経験が力に
10年からクラウド事業を展開するアイレットの後藤和貴・執行役員/エバンジェリストはビジネスについて「順調に拡大している」と手応えを示す。アイレットはWebシステム開発を中心とした小規模なインテグレーターから始まったが、「案件実行能力で最大手とも張り合える」と自信を見せる。その力の源は、先駆者として蓄積してきたクラウドの経験だ。後藤執行役員は「『人柱』になったことも含め、よくも悪くも経験を積んでいる。一朝一夕で追いつけるものではない」と語る。人材面でもクラウドネイティブな開発者が数多く在籍し、技術・能力で引けをとらないのはもちろん、「新しい技術への態度、知見の吸収やサービス開発の速度といった点でも負けない」といった、企業文化に由来する優位性もある。
アイレット 後藤和貴 執行役員
近年はインフラ周りのリフトアンドシフトにとどまらず、具体的なビジネス上の課題解決をクラウドの複合的な技術でカバーすることが少なくない。例えば、スマートドローンによる空撮画像を活用した建造物の測量・点検の自動化では、ドローンを飛行させるためのシステム、画像解析のためのAIモデルの構築といった複数の要素をクラウド上で展開。データ分析基盤の構築では、環境整備だけでなく、具体的なサービスに落とし込むまでを支えた。後藤執行役員は「データを扱うだけでなく、ビジネスに対して何ができるかを一緒に考えている」と話す。かつてのシステム開発は企業のIT部門を窓口とした調達が一般的だったが、最近では事業部門が直接コンタクトを図り、明確な目的をもって開発を進める動きが広がっているという。
顧客側からすれば、トラディショナルなSIerもCIerもクラウドを扱う点では同じに映る面もある。ただ、後藤執行役員は「『クラウドでこのような課題を解決した』『効果が出た』という部分を、顧客の名前を出してアピールしている。クラウドだからすごいのではなく、そこに当社がいて解決していることを見てほしい」と訴え、具体事例の積み重ねがセールスポイントになるとみる。
また、マルチクラウド対応も強みの一つとしてある。同社はAWSの有力パートナーとしてビジネスを広げてきたが、早い段階から「Google Cloud」のパートナーとしても存在感を高めており、現在では「SIという意味では『Microsoft Azure』も『Oracle Cloud Infrastructure』も手掛けている」。顧客の現場では複数のクラウドを使い分けるのは一般的となっており、パートナーとしてもそれに対応するのが当然となっているようだ。
今後も生成AIをはじめとする新技術はクラウドファーストで展開されるだろう。クラウドがデファクトスタンダートとなることも現実味を帯びる。その中で後藤執行役員は「(顧客側による)内製や運用をどうするかという点に課題が移る。そこで提供できる価値を増やすことが重要になる」と語る。パイオニアとしてのアドバンテージを維持し続けるためにも、新規の技術をいちはやくキャッチアップし、デリバリーできる体制を築くことは欠かせない。
サーバーワークス
AWS特化で成長を遂げる
サーバーワークスは、クラウド黎明期からAWSの専業ベンダーとして、多くの企業のAWS導入を支援してきた。現在は、内製によるAWSの有効活用を目指す顧客へのサポート強化や、子会社のG-genによるGoogle Cloudの提供を通じたマルチクラウド環境への対応などにも取り組み、幅広いニーズに応えている。
サーバーワークス 大石 良 社長
成長を続ける要因を大石良社長は「AWSに特化して事業展開してきたからだ」と語る。パブリッククラウドは、頻繁にサービスの拡充やアップデートが行われることから、1社ですべてのクラウドに対応するのは難しく、専門性が重要になるという。同社は顧客のビジネス課題に対してAWSのサービスを最適に組み合わせてスピーディーに提供し、差別化を図ってきた。加えて、「クラウドの場合、セキュリティの設定をはじめとした特有の課題があり、CIerでないと解決策を提示できないケースもある」(大石社長)とする。
顧客のクラウドへの意識について大石社長は「単にリフトアンドシフトするだけでなく、新しいアプリケーションをクラウド環境でどう実装するのかなど、高度な活用が進んでいる」と述べる。生成AIの活用を目指す企業からの相談も増加しているが、「現状では、社内から必要な情報が流れないようにする、各LLMの評価を行うといったテストフェーズのお客様が多い」(大石社長)という。
大石社長は「クラウドの活用やDXの推進はお客様自身でやらなければならない。しかし、人材やノウハウが足りないため、われわれのようなプロの支援が重要だ」との見解を示す。同社は、AWS利活用を伴走型で支援するソリューション「クラウドシェルパ」を提供。ガバナンス強化、アジリティ向上、人材育成の三つの観点から顧客に必要な支援を行う。「お客様が安全かつリーズナブルにIT基盤を動かせるパワーを身につけることをゴールとし、しっかりと伴走していく」と強調する。
最近は、マルチクラウド環境を構築する企業が増えている。同社は、21年9月にG-genを設立。グループ間で連携することで、AWS、Google Cloudの双方の提供が可能になった。現在は、AWSをメインのクラウドとして利用しながら、データ分析では、Google Cloudのデータウェアハウス「BigQuery」を利用するといった顧客が増加しているとする。
同社は、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)と戦略的協業契約を結んでおり、注力領域の一つとして「デジタル人財(人材)育成のさらなる強化」を掲げる。その一環として、23年10月にパーソルクロステクノロジーとの合弁会社「パーソル&サーバーワークス」を設立した。サーバーワークスのAWSエンジニア育成プログラムを用いてAWS人材の創出を図り、常駐型の支援を求める企業の要望に対応できる体制を整える予定だ。
テラスカイ
SIerとの境界は曖昧になる
テラスカイは米Salesforce(セールスフォース)とともに成長したCIerだが、近年ではAWSやGoogle Cloudといったパブリッククラウド上のSIに加え、独自のSaaSアプリ「mitoco ERP」製品群の拡充に力を入れるなど複合的な事業戦略を展開している。
テラスカイ 佐藤秀哉 社長
佐藤秀哉社長は「大手SIerもクラウド領域にビジネスの軸足を移していることから、CIerとSIerの境界は曖昧になりつつあり、将来的にはなくなっていく」と指摘しつつ、同時にCIerとして培ってきたクラウドネイティブな技術や知見は、「既存SIerに対して有利に働き続ける」と述べる。
例えば、生成AIの多くはクラウドの基盤を活用するケースが多く、30年代にも実用化が期待される量子コンピューターも「クラウド形態での提供が主流となる」(佐藤社長)と予測。レガシーシステムのクラウド移行が継続していることも相まって、CIerとしての強みは今後も「有利に働き続ける」と見通す。
生成AI関連事業はグループ会社のエノキ、量子コンピューター関連はQuemixが研究開発をそれぞれ担い、グループ戦略を積極的に進める。独SAP(エスエーピー)のソリューションに強いSIerのテクノスジャパンとの資本業務提携、セールスフォースの基盤を活用して内製開発を支援する米Flosum(フローサム)製品の国内独占販売権の獲得など、他社との連携にも意欲的だ。
他方で、自社開発のグループウェア、財務会計、人事給与機能や、国内独占販売権を有している富士通の販売管理・在庫管理システム「GLOVIA OM」などを組み合わせたmitoco ERPといった製品事業の強化を進める。製品事業の売上高は現時点で全体の1割ほどに過ぎないが、高い収益性が見込まれる。将来的には製品事業とCI事業でそれぞれ半々にまで伸ばしたい考えだ。
24年2月期の連結売上高は前年度比21.4%増の187億円の見通し。製品事業の拡大や提携戦略の推進、ASEANを中心とする海外市場での発展に加え、AIや量子コンピューターなど次世代技術を率先して取り入れ、30年に700億円規模の売り上げを視野に入れる。大手に並ぶ規模を目指すことで、佐藤社長は「『街のソフトハウス』として埋もれることなく、国内の主要なインテグレーターとして認められるようになる」と意気込む。