Special Feature
AI時代を見据えたクラウドの現在地 第3回 大手ディストリビューターのSaaSビジネス ニーズの取り込みに積極姿勢
2024/02/12 09:00
週刊BCN 2024年02月12日vol.2002掲載
柔軟な働き方を実現する手段としてSaaSの利用が広がっている。これまではSaaSベンダーによる直接販売が目立っていたが、最近は幅広い企業への導入を目指して間接販売に力を入れる動きも出ている。創刊2000号記念連載の第3回は、間接販売の窓口となる大手ディストリビューターのSaaSビジネスに焦点を当て、現状と今後の見通しを紹介する。各社は、社会の課題になっている人口減少の解決策として、また、AIへの注目によって、企業での利用はさらに拡大するとみており、ニーズの取り込みに積極的な姿勢だ。パートナーである販売店の意識改革を含めて乗り越えなければならない課題は少なくないが、今後に向けた期待は高まっている。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久、藤岡 堯)
ダイワボウ情報システム
ダイワボウ情報システム(DIS)は、2016年に立ち上げたサブスクリプション管理ポータル「iKAZUCHI(雷)」でSaaSを取り扱っている。ビジネスを展開する上で重要視しているのは、自動継続型のビジネスモデルを浸透させること。販売推進本部クラウド・アプリケーション販売推進部の塚本小都・副部長(クラウドグループマネージャーとサブスクリプション推進グループマネージャーを兼任)は「契約が自動的に継続すれば、販売店にとってはエンドユーザーと長期的なお付き合いができるようになり、収益基盤の安定化につながる」と話す。
ダイワボウ情報システム 塚本小都 副部長
iKAZUCHI(雷)では現在、SaaSを中心に128ベンダーの241サービスをそろえている。販売店から見た場合、選択できるサービスの数は一つの差別化ポイントになる。他社も管理ポータルの仕組みを提供する中、塚本副部長は「サービスの数は圧倒的に多いと自負している」と自信を示す。新たにサービスを加える際は、やみくもに数を追い求めるのではなく、市場のニーズを優先。DISが強みとする全国の販売網や、付き合いがあるベンダーからの声などを反映しているという。
SaaSビジネスでは、1回の売り上げがハードウェアやソフトウェアを販売する場合よりも少なくなるため、手間やコストをできるだけ削減することが求められる。契約内容に応じて、販売店が定期的にエンドユーザーと注文書や請求書をやりとりするのは大きな負担になる。これを解決する目的で、iKAZUCHI(雷)は、販売店からの注文を受けた後、請求書を能動的に発行する仕組みを用意している。エンドユーザーから解約の申請がなければ、販売店は何もしなくてもいいため、塚本副部長は「長期的に見れば販売店の業務負担の軽減になる」と説明する。この仕組みは全ベンダーのサービスに対応しており、iKAZUCHI(雷)のもう一つの特徴になっている。
iKAZUCHI(雷)の立ち上げ以降、DISのサブスクリプションビジネスは「毎年、確実に成長している」(塚本副部長)。23年度上期(23年4月1日~9月30日)のiKAZUCHI(雷)を通じた販売店への販売総額は前年同期比42.9%増の137億4300万円と好調に推移しており、本年度内に260億円の達成を目指している。直近では、AI関連のサービスに対する販売店の注目が高まっており、新たな価値が提供できる領域として市場の拡大につながることも期待している。
とはいえ、現時点では「会社全体の売り上げから考えると、ビジネスの規模はまだ小さい」と塚本副部長。「ハードウェアなどを販売する従来型の販売モデルはまだたくさんあり、自動継続型のビジネスモデルは市場全体に浸透しきっていない」と指摘し、「iKAZUCHI(雷)をキーワードに、ベンダーや販売店の意識を徐々に変えていきたい」と力を込める。
今後の戦略については「これからは複数のサービスを使うのが当たり前になり、いくつかのサービスを組み合わせたり、補完し合うサービスを契約したりするようになるだろう」と前置きした上で、「エンドユーザーの成長プロセスや環境の変化に沿ったサービスのパッケージ化や、ハードウェアとの複合提案などを意識する」と強調する。サービス面の拡充に加え、iKAZUCHI(雷)では、DISと販売店、エンドユーザーの関係強化につながる機能の拡張を検討していくという。
SaaSの市場はまだ発展途上との見方がある。企業の規模のほか、都市部とそれ以外の地域といった点で活用に温度差があるのも否めない。塚本副部長は「中堅・中小企業にとっても、クラウドが生かせるところはたくさんあるので、必要性に関するメッセージはもっと強化していかなければならない」と語る。さらに「われわれにとっても、販売店にとっても、SaaSビジネスは収益の基盤の安定化につなげられる。そのためには販売モデルを次世代型にしていく必要があり、この部分をしっかりとリードしていきたい」と意気込む。
SB C&S
SB C&Sは、サブスクリプション契約・更新管理プラットフォーム「ClouDX」とSaaS専任チーム「Cloud Service Concierge」を通じて、システムとサービスの両面から販売店を支援している。守谷克己・執行役員は、SaaSビジネスを強化する理由を「ユーザーのSaaS利用が増加し、市場は大きく成長している。今後も拡大を続けると予想される中、ディストリビューターとしてユーザーの期待に応えることで、(ユーザーの)生産性向上と日本のDXに貢献できると考えている」と話す。
ClouDXは、受発注からサービス開通、課金、請求までの機能を提供することで、SaaSビジネスのフローを簡素化できるのが特徴だ。SaaSごとに課金体系や請求方法に違いがあるため、販売店は管理に手間を掛けていたが、ClouDXでは、このような課題を解決できるとしている。
23年2月から提供を開始した「ClouDX Platform Edition」では、ECサイトの立ち上げ機能を搭載した。販売店がサイト構築や製品の入れ替えなどに必要な手間やコストをかけることなくECサイトを開設、SB C&Sが厳選したサブスクリプション商材を販売できる。販路の拡大に加えて、ECサイトがあることで、SaaSへの取り組みや取扱商材を紹介するLP(ランディングページ)をつくり、自社HPに掲載するといったプロモーションにも活用できるという。
SaaSベンダーにとってもパートナービジネスを推進していく中で、ClouDXの存在は大きい。ClouDXと連携すれば、同社の販売店が販売できるようになるため、容易にパートナービジネスの強化を図れるようになるからだ。実際、ClouDXに連携するSaaSは年々、拡大している。
SB C&S 守谷克己 執行役員
Cloud Service Conciergeは22年9月に発足したSaaS専任チーム。約20人の専任スタッフがSaaSビジネスに取り組む販売店に対して、セールスや新規開拓、マーケティングなどの支援策を提供する。例えば、SaaSの営業ノウハウがない販売店に対して、同社がSaaSに特化した専門営業チームを提供して営業体制を強化するといった支援が行えるとしている。「ITベンダーがサブスクリプション型の製品を販売するようになり、エンドユーザーもSaaSを求めるようになっている。そのため、販売店のSaaSビジネスへの意識は年々、高まってきている」(守谷執行役員)ことから、ClouDXとCloud Service Conciergeの利用は急増しているという。
ほかにも同社は、「Microsoft 365」の導入前の相談から導入後の活用支援、技術者の育成、リード獲得までを総合的に支援する販売店向けプログラム「C&S Partner Club for Microsoft 365」や、米Dropbox(ドロップボックス)の製品の利活用を支援する専任チーム「Dropbox Center of Excellence」を設立するなどの取り組みを行っている。
Microsoft 365向けの生成AI機能「Microsoft 365 Copilot」をはじめ、SaaSに生成AI機能が組み込まれるようになってきたことで、さらにユーザーのSaaS利用は加速する見込みだ。需要が増すSaaSへの対応について、守谷執行役員は「取り扱うSaaSを増やすのと、セールス体制を強化していく。また、SaaSは利用を継続してもらわなければならない。ディストリビューターのポジションでは難しい面もあるが、カスタマーサクセスにも取り組んでいきたい」と展望する。TD SYNNEX
TD SYNNEXアドバンスドソリューション部門マルチクラウドPM本部の野村由貴・本部長はSaaSビジネスの現状について「ストックがあるかないかで違ってくるようになった」と述べ、ビジネスに与える影響が強まっていると指摘する。これは新規案件の開拓をせずとも一定の売り上げが見込めるという意味に加え、エンドユーザーとの継続的な関係が保てるメリットもあるとする。結果的にユーザーへ提案する機会が増え、アップセルやクロスセルにつながる可能性が高まるというわけだ。
TD SYNNEX 野村由貴 本部長
近年では、販売店のSaaSビジネスへの意識も変化しつつあると感じている。野村本部長は「クラウドを売って数字を立てている販売店は増えている。例えば、SESのような人月ビジネスを手掛ける販売店でさえ、今後の安定性を見据えて、クラウドサービスで数字をつくりたいと話している」と説明する。
同社はクラウドサービスポータルの「StreamOne Stellr」などを通じて、SaaS販売を推進している。StreamOne Stellrは競合のサービスと同様にソリューションマーケットプレイス、見積もり作成、オーダー、契約・顧客の一元管理などの機能をそろえ、販売店の負担軽減に貢献している。さらに販売店によるカスタマイズに対応したエンドユーザー向けポータルサイトの構築も可能で、エンドユーザー自らが受発注、ライセンス期限や従量課金状況の確認などができる。
ポータルによって販売店の手間を省き、SaaSを売りやすい環境に整えるとともに、商談のサポートや販促方法の提案、エンドユーザーへのトレーニング、活用支援など幅広い支援を展開し、継続的にSaaSビジネスを手掛けられるよう努めている。
今後の課題に関して、野村本部長は二つの視点を挙げる。一つはSaaSベンダーの間接販売への意欲をいかに高めるかだ。ディストリビューターが取り扱うSaaSは、市場にあまたあるプロダクトに比べ少数にとどまる。直販がメインのSaaSベンダーは再販に関するノウハウが乏しい面があり、野村本部長は「再販の方法を模索するベンダーがいれば、一緒に取り組みたい」と呼びかける。また、パッケージからクラウドシフトを目指すISVに対する支援も引き続き推進する考えだ。
課題のもう一つは地方への訴求である。ユーザーのSaaSの認知度が高まり、販売店のマインドも変化しているとはいえ、PCやサーバーといったビジネスと比べると、地方での規模は小さい。地方での盛り上がりを促すためには、販売店、エンドユーザー双方への働きかけが欠かせない。販売店への支援に力を入れる一方で、ユーザーにもSaaSの導入のメリット、意義などを説明することが重要になる。対面でのセミナーなどを企画するほか、販売店と共同でマーケティング活動を実施するなどして取り込みを図る。
SaaSビジネスの展望について、野村本部長は「AI領域での提案を強化したい。SaaSはユーザーの業務を効率化する先進的なテクノロジーを備えており、人口減少が続く日本にとって欠かせないツールになる。まだまだ広がるのではないか」と期待を込める。ネットワールド
ネットワールドは、SaaSビジネスでは、付加価値の提供を念頭に置いている。取り扱うサービスについては、複数のSaaSベンダーと提携に向けた協議を進めており、SaaSでしか提供していないサービスの拡充を計画。独自色を強めてビジネスの拡大を目指す方針だ。
同社は、サブスクリプション管理ポータル「CloudNeW(くらにゅー)」などでSaaSを提供している。CloudNeWでは、サービスの管理、契約・請求管理、ユーザー専用のコントロールパネルの各機能を提供。複数のサービスやユーザーを一括で管理できるほか、受発注や請求処理の工数削減、契約状況の確認などが可能で、複雑になりがちな管理の効率化を支援している。
ネットワールド 黒川拓生 常務取締役
単価が安いSaaSについては、自社の営業担当も販売店も、まだ積極的に売りたがらない傾向があるという。しかし、企業の間で利用が増え、需要が高まっていることから、常務取締役の黒川拓生・マーケティング本部本部長は「ディストリビューターとして見過ごすわけにはいかない」としている。
サービスに関しては、取り扱う数の充実を意識しつつ、独自のアプローチを取る。目をつけているのは、SaaSでしか提供していないサービスだ。ビジネスが一定の規模になり、さらなる成長に向けて新たな販路を模索するSaaSベンダーのうち、思惑が一致した数社と協議しており、契約がまとまり次第、新しいサービスとして取り扱いを始める考えだ。
黒川常務取締役は、企業がSaaSを利用する場合、課題や利用方法がある程度、明確になっているケースが多いと分析し、取り扱うサービスを選ぶ上では「目的がはっきりしていて、説明が不要であり、販売店にとって手離れがいいサービス」であることが重要だと説明する。競合他社と比べた場合のアピールポイントとしては、ほかの商材と同じように初月無料で利用できる点を挙げる。
SaaSビジネスは、ディストリビューターにとって、それほどもうけにつながらないといわれてきた。同社にとってのメリットについて、黒川常務取締役は「当社はバリューアディッドディストリビューターを掲げている」とし、「SaaSビジネスだけではもうからないかもしれないが、それを起点に導入支援などの付随サービスにつなげたい。そうすれば他社と差別化できる」と意欲を示す。
同社は、SaaSビジネスの拡大に向けて、CloudNeWを絡めた新たなサービスを準備中だ。黒川常務取締役は「当社の営業担当も、販売店も、選択肢があるうちはオンプレミスの製品を売ってしまうかもしれないが、時間がたつうちにサブスクリプション型のビジネスが浸透していくだろう。SaaSビジネスでもディストリビューターとしての立ち位置を継続し、付加価値を提供できることは何でもやっていく」と語る。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久、藤岡 堯)

ダイワボウ情報システム
自動継続型のビジネスモデルで収益基盤の安定化につなげる
ダイワボウ情報システム(DIS)は、2016年に立ち上げたサブスクリプション管理ポータル「iKAZUCHI(雷)」でSaaSを取り扱っている。ビジネスを展開する上で重要視しているのは、自動継続型のビジネスモデルを浸透させること。販売推進本部クラウド・アプリケーション販売推進部の塚本小都・副部長(クラウドグループマネージャーとサブスクリプション推進グループマネージャーを兼任)は「契約が自動的に継続すれば、販売店にとってはエンドユーザーと長期的なお付き合いができるようになり、収益基盤の安定化につながる」と話す。
iKAZUCHI(雷)では現在、SaaSを中心に128ベンダーの241サービスをそろえている。販売店から見た場合、選択できるサービスの数は一つの差別化ポイントになる。他社も管理ポータルの仕組みを提供する中、塚本副部長は「サービスの数は圧倒的に多いと自負している」と自信を示す。新たにサービスを加える際は、やみくもに数を追い求めるのではなく、市場のニーズを優先。DISが強みとする全国の販売網や、付き合いがあるベンダーからの声などを反映しているという。
SaaSビジネスでは、1回の売り上げがハードウェアやソフトウェアを販売する場合よりも少なくなるため、手間やコストをできるだけ削減することが求められる。契約内容に応じて、販売店が定期的にエンドユーザーと注文書や請求書をやりとりするのは大きな負担になる。これを解決する目的で、iKAZUCHI(雷)は、販売店からの注文を受けた後、請求書を能動的に発行する仕組みを用意している。エンドユーザーから解約の申請がなければ、販売店は何もしなくてもいいため、塚本副部長は「長期的に見れば販売店の業務負担の軽減になる」と説明する。この仕組みは全ベンダーのサービスに対応しており、iKAZUCHI(雷)のもう一つの特徴になっている。
iKAZUCHI(雷)の立ち上げ以降、DISのサブスクリプションビジネスは「毎年、確実に成長している」(塚本副部長)。23年度上期(23年4月1日~9月30日)のiKAZUCHI(雷)を通じた販売店への販売総額は前年同期比42.9%増の137億4300万円と好調に推移しており、本年度内に260億円の達成を目指している。直近では、AI関連のサービスに対する販売店の注目が高まっており、新たな価値が提供できる領域として市場の拡大につながることも期待している。
とはいえ、現時点では「会社全体の売り上げから考えると、ビジネスの規模はまだ小さい」と塚本副部長。「ハードウェアなどを販売する従来型の販売モデルはまだたくさんあり、自動継続型のビジネスモデルは市場全体に浸透しきっていない」と指摘し、「iKAZUCHI(雷)をキーワードに、ベンダーや販売店の意識を徐々に変えていきたい」と力を込める。
今後の戦略については「これからは複数のサービスを使うのが当たり前になり、いくつかのサービスを組み合わせたり、補完し合うサービスを契約したりするようになるだろう」と前置きした上で、「エンドユーザーの成長プロセスや環境の変化に沿ったサービスのパッケージ化や、ハードウェアとの複合提案などを意識する」と強調する。サービス面の拡充に加え、iKAZUCHI(雷)では、DISと販売店、エンドユーザーの関係強化につながる機能の拡張を検討していくという。
SaaSの市場はまだ発展途上との見方がある。企業の規模のほか、都市部とそれ以外の地域といった点で活用に温度差があるのも否めない。塚本副部長は「中堅・中小企業にとっても、クラウドが生かせるところはたくさんあるので、必要性に関するメッセージはもっと強化していかなければならない」と語る。さらに「われわれにとっても、販売店にとっても、SaaSビジネスは収益の基盤の安定化につなげられる。そのためには販売モデルを次世代型にしていく必要があり、この部分をしっかりとリードしていきたい」と意気込む。
SB C&S
システムとサービスの両面で支援 生産性向上と日本のDXに貢献
SB C&Sは、サブスクリプション契約・更新管理プラットフォーム「ClouDX」とSaaS専任チーム「Cloud Service Concierge」を通じて、システムとサービスの両面から販売店を支援している。守谷克己・執行役員は、SaaSビジネスを強化する理由を「ユーザーのSaaS利用が増加し、市場は大きく成長している。今後も拡大を続けると予想される中、ディストリビューターとしてユーザーの期待に応えることで、(ユーザーの)生産性向上と日本のDXに貢献できると考えている」と話す。ClouDXは、受発注からサービス開通、課金、請求までの機能を提供することで、SaaSビジネスのフローを簡素化できるのが特徴だ。SaaSごとに課金体系や請求方法に違いがあるため、販売店は管理に手間を掛けていたが、ClouDXでは、このような課題を解決できるとしている。
23年2月から提供を開始した「ClouDX Platform Edition」では、ECサイトの立ち上げ機能を搭載した。販売店がサイト構築や製品の入れ替えなどに必要な手間やコストをかけることなくECサイトを開設、SB C&Sが厳選したサブスクリプション商材を販売できる。販路の拡大に加えて、ECサイトがあることで、SaaSへの取り組みや取扱商材を紹介するLP(ランディングページ)をつくり、自社HPに掲載するといったプロモーションにも活用できるという。
SaaSベンダーにとってもパートナービジネスを推進していく中で、ClouDXの存在は大きい。ClouDXと連携すれば、同社の販売店が販売できるようになるため、容易にパートナービジネスの強化を図れるようになるからだ。実際、ClouDXに連携するSaaSは年々、拡大している。
Cloud Service Conciergeは22年9月に発足したSaaS専任チーム。約20人の専任スタッフがSaaSビジネスに取り組む販売店に対して、セールスや新規開拓、マーケティングなどの支援策を提供する。例えば、SaaSの営業ノウハウがない販売店に対して、同社がSaaSに特化した専門営業チームを提供して営業体制を強化するといった支援が行えるとしている。「ITベンダーがサブスクリプション型の製品を販売するようになり、エンドユーザーもSaaSを求めるようになっている。そのため、販売店のSaaSビジネスへの意識は年々、高まってきている」(守谷執行役員)ことから、ClouDXとCloud Service Conciergeの利用は急増しているという。
ほかにも同社は、「Microsoft 365」の導入前の相談から導入後の活用支援、技術者の育成、リード獲得までを総合的に支援する販売店向けプログラム「C&S Partner Club for Microsoft 365」や、米Dropbox(ドロップボックス)の製品の利活用を支援する専任チーム「Dropbox Center of Excellence」を設立するなどの取り組みを行っている。
Microsoft 365向けの生成AI機能「Microsoft 365 Copilot」をはじめ、SaaSに生成AI機能が組み込まれるようになってきたことで、さらにユーザーのSaaS利用は加速する見込みだ。需要が増すSaaSへの対応について、守谷執行役員は「取り扱うSaaSを増やすのと、セールス体制を強化していく。また、SaaSは利用を継続してもらわなければならない。ディストリビューターのポジションでは難しい面もあるが、カスタマーサクセスにも取り組んでいきたい」と展望する。
TD SYNNEX
間接販売に向けたベンダーの意欲向上がかぎに
TD SYNNEXアドバンスドソリューション部門マルチクラウドPM本部の野村由貴・本部長はSaaSビジネスの現状について「ストックがあるかないかで違ってくるようになった」と述べ、ビジネスに与える影響が強まっていると指摘する。これは新規案件の開拓をせずとも一定の売り上げが見込めるという意味に加え、エンドユーザーとの継続的な関係が保てるメリットもあるとする。結果的にユーザーへ提案する機会が増え、アップセルやクロスセルにつながる可能性が高まるというわけだ。
近年では、販売店のSaaSビジネスへの意識も変化しつつあると感じている。野村本部長は「クラウドを売って数字を立てている販売店は増えている。例えば、SESのような人月ビジネスを手掛ける販売店でさえ、今後の安定性を見据えて、クラウドサービスで数字をつくりたいと話している」と説明する。
同社はクラウドサービスポータルの「StreamOne Stellr」などを通じて、SaaS販売を推進している。StreamOne Stellrは競合のサービスと同様にソリューションマーケットプレイス、見積もり作成、オーダー、契約・顧客の一元管理などの機能をそろえ、販売店の負担軽減に貢献している。さらに販売店によるカスタマイズに対応したエンドユーザー向けポータルサイトの構築も可能で、エンドユーザー自らが受発注、ライセンス期限や従量課金状況の確認などができる。
ポータルによって販売店の手間を省き、SaaSを売りやすい環境に整えるとともに、商談のサポートや販促方法の提案、エンドユーザーへのトレーニング、活用支援など幅広い支援を展開し、継続的にSaaSビジネスを手掛けられるよう努めている。
今後の課題に関して、野村本部長は二つの視点を挙げる。一つはSaaSベンダーの間接販売への意欲をいかに高めるかだ。ディストリビューターが取り扱うSaaSは、市場にあまたあるプロダクトに比べ少数にとどまる。直販がメインのSaaSベンダーは再販に関するノウハウが乏しい面があり、野村本部長は「再販の方法を模索するベンダーがいれば、一緒に取り組みたい」と呼びかける。また、パッケージからクラウドシフトを目指すISVに対する支援も引き続き推進する考えだ。
課題のもう一つは地方への訴求である。ユーザーのSaaSの認知度が高まり、販売店のマインドも変化しているとはいえ、PCやサーバーといったビジネスと比べると、地方での規模は小さい。地方での盛り上がりを促すためには、販売店、エンドユーザー双方への働きかけが欠かせない。販売店への支援に力を入れる一方で、ユーザーにもSaaSの導入のメリット、意義などを説明することが重要になる。対面でのセミナーなどを企画するほか、販売店と共同でマーケティング活動を実施するなどして取り込みを図る。
SaaSビジネスの展望について、野村本部長は「AI領域での提案を強化したい。SaaSはユーザーの業務を効率化する先進的なテクノロジーを備えており、人口減少が続く日本にとって欠かせないツールになる。まだまだ広がるのではないか」と期待を込める。
ネットワールド
付加価値の提供を念頭に独自色強めてビジネスを拡大
ネットワールドは、SaaSビジネスでは、付加価値の提供を念頭に置いている。取り扱うサービスについては、複数のSaaSベンダーと提携に向けた協議を進めており、SaaSでしか提供していないサービスの拡充を計画。独自色を強めてビジネスの拡大を目指す方針だ。同社は、サブスクリプション管理ポータル「CloudNeW(くらにゅー)」などでSaaSを提供している。CloudNeWでは、サービスの管理、契約・請求管理、ユーザー専用のコントロールパネルの各機能を提供。複数のサービスやユーザーを一括で管理できるほか、受発注や請求処理の工数削減、契約状況の確認などが可能で、複雑になりがちな管理の効率化を支援している。
単価が安いSaaSについては、自社の営業担当も販売店も、まだ積極的に売りたがらない傾向があるという。しかし、企業の間で利用が増え、需要が高まっていることから、常務取締役の黒川拓生・マーケティング本部本部長は「ディストリビューターとして見過ごすわけにはいかない」としている。
サービスに関しては、取り扱う数の充実を意識しつつ、独自のアプローチを取る。目をつけているのは、SaaSでしか提供していないサービスだ。ビジネスが一定の規模になり、さらなる成長に向けて新たな販路を模索するSaaSベンダーのうち、思惑が一致した数社と協議しており、契約がまとまり次第、新しいサービスとして取り扱いを始める考えだ。
黒川常務取締役は、企業がSaaSを利用する場合、課題や利用方法がある程度、明確になっているケースが多いと分析し、取り扱うサービスを選ぶ上では「目的がはっきりしていて、説明が不要であり、販売店にとって手離れがいいサービス」であることが重要だと説明する。競合他社と比べた場合のアピールポイントとしては、ほかの商材と同じように初月無料で利用できる点を挙げる。
SaaSビジネスは、ディストリビューターにとって、それほどもうけにつながらないといわれてきた。同社にとってのメリットについて、黒川常務取締役は「当社はバリューアディッドディストリビューターを掲げている」とし、「SaaSビジネスだけではもうからないかもしれないが、それを起点に導入支援などの付随サービスにつなげたい。そうすれば他社と差別化できる」と意欲を示す。
同社は、SaaSビジネスの拡大に向けて、CloudNeWを絡めた新たなサービスを準備中だ。黒川常務取締役は「当社の営業担当も、販売店も、選択肢があるうちはオンプレミスの製品を売ってしまうかもしれないが、時間がたつうちにサブスクリプション型のビジネスが浸透していくだろう。SaaSビジネスでもディストリビューターとしての立ち位置を継続し、付加価値を提供できることは何でもやっていく」と語る。
柔軟な働き方を実現する手段としてSaaSの利用が広がっている。これまではSaaSベンダーによる直接販売が目立っていたが、最近は幅広い企業への導入を目指して間接販売に力を入れる動きも出ている。創刊2000号記念連載の第3回は、間接販売の窓口となる大手ディストリビューターのSaaSビジネスに焦点を当て、現状と今後の見通しを紹介する。各社は、社会の課題になっている人口減少の解決策として、また、AIへの注目によって、企業での利用はさらに拡大するとみており、ニーズの取り込みに積極的な姿勢だ。パートナーである販売店の意識改革を含めて乗り越えなければならない課題は少なくないが、今後に向けた期待は高まっている。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久、藤岡 堯)
ダイワボウ情報システム
ダイワボウ情報システム(DIS)は、2016年に立ち上げたサブスクリプション管理ポータル「iKAZUCHI(雷)」でSaaSを取り扱っている。ビジネスを展開する上で重要視しているのは、自動継続型のビジネスモデルを浸透させること。販売推進本部クラウド・アプリケーション販売推進部の塚本小都・副部長(クラウドグループマネージャーとサブスクリプション推進グループマネージャーを兼任)は「契約が自動的に継続すれば、販売店にとってはエンドユーザーと長期的なお付き合いができるようになり、収益基盤の安定化につながる」と話す。
ダイワボウ情報システム 塚本小都 副部長
iKAZUCHI(雷)では現在、SaaSを中心に128ベンダーの241サービスをそろえている。販売店から見た場合、選択できるサービスの数は一つの差別化ポイントになる。他社も管理ポータルの仕組みを提供する中、塚本副部長は「サービスの数は圧倒的に多いと自負している」と自信を示す。新たにサービスを加える際は、やみくもに数を追い求めるのではなく、市場のニーズを優先。DISが強みとする全国の販売網や、付き合いがあるベンダーからの声などを反映しているという。
SaaSビジネスでは、1回の売り上げがハードウェアやソフトウェアを販売する場合よりも少なくなるため、手間やコストをできるだけ削減することが求められる。契約内容に応じて、販売店が定期的にエンドユーザーと注文書や請求書をやりとりするのは大きな負担になる。これを解決する目的で、iKAZUCHI(雷)は、販売店からの注文を受けた後、請求書を能動的に発行する仕組みを用意している。エンドユーザーから解約の申請がなければ、販売店は何もしなくてもいいため、塚本副部長は「長期的に見れば販売店の業務負担の軽減になる」と説明する。この仕組みは全ベンダーのサービスに対応しており、iKAZUCHI(雷)のもう一つの特徴になっている。
iKAZUCHI(雷)の立ち上げ以降、DISのサブスクリプションビジネスは「毎年、確実に成長している」(塚本副部長)。23年度上期(23年4月1日~9月30日)のiKAZUCHI(雷)を通じた販売店への販売総額は前年同期比42.9%増の137億4300万円と好調に推移しており、本年度内に260億円の達成を目指している。直近では、AI関連のサービスに対する販売店の注目が高まっており、新たな価値が提供できる領域として市場の拡大につながることも期待している。
とはいえ、現時点では「会社全体の売り上げから考えると、ビジネスの規模はまだ小さい」と塚本副部長。「ハードウェアなどを販売する従来型の販売モデルはまだたくさんあり、自動継続型のビジネスモデルは市場全体に浸透しきっていない」と指摘し、「iKAZUCHI(雷)をキーワードに、ベンダーや販売店の意識を徐々に変えていきたい」と力を込める。
今後の戦略については「これからは複数のサービスを使うのが当たり前になり、いくつかのサービスを組み合わせたり、補完し合うサービスを契約したりするようになるだろう」と前置きした上で、「エンドユーザーの成長プロセスや環境の変化に沿ったサービスのパッケージ化や、ハードウェアとの複合提案などを意識する」と強調する。サービス面の拡充に加え、iKAZUCHI(雷)では、DISと販売店、エンドユーザーの関係強化につながる機能の拡張を検討していくという。
SaaSの市場はまだ発展途上との見方がある。企業の規模のほか、都市部とそれ以外の地域といった点で活用に温度差があるのも否めない。塚本副部長は「中堅・中小企業にとっても、クラウドが生かせるところはたくさんあるので、必要性に関するメッセージはもっと強化していかなければならない」と語る。さらに「われわれにとっても、販売店にとっても、SaaSビジネスは収益の基盤の安定化につなげられる。そのためには販売モデルを次世代型にしていく必要があり、この部分をしっかりとリードしていきたい」と意気込む。
(取材・文/齋藤秀平、岩田晃久、藤岡 堯)

ダイワボウ情報システム
自動継続型のビジネスモデルで収益基盤の安定化につなげる
ダイワボウ情報システム(DIS)は、2016年に立ち上げたサブスクリプション管理ポータル「iKAZUCHI(雷)」でSaaSを取り扱っている。ビジネスを展開する上で重要視しているのは、自動継続型のビジネスモデルを浸透させること。販売推進本部クラウド・アプリケーション販売推進部の塚本小都・副部長(クラウドグループマネージャーとサブスクリプション推進グループマネージャーを兼任)は「契約が自動的に継続すれば、販売店にとってはエンドユーザーと長期的なお付き合いができるようになり、収益基盤の安定化につながる」と話す。
iKAZUCHI(雷)では現在、SaaSを中心に128ベンダーの241サービスをそろえている。販売店から見た場合、選択できるサービスの数は一つの差別化ポイントになる。他社も管理ポータルの仕組みを提供する中、塚本副部長は「サービスの数は圧倒的に多いと自負している」と自信を示す。新たにサービスを加える際は、やみくもに数を追い求めるのではなく、市場のニーズを優先。DISが強みとする全国の販売網や、付き合いがあるベンダーからの声などを反映しているという。
SaaSビジネスでは、1回の売り上げがハードウェアやソフトウェアを販売する場合よりも少なくなるため、手間やコストをできるだけ削減することが求められる。契約内容に応じて、販売店が定期的にエンドユーザーと注文書や請求書をやりとりするのは大きな負担になる。これを解決する目的で、iKAZUCHI(雷)は、販売店からの注文を受けた後、請求書を能動的に発行する仕組みを用意している。エンドユーザーから解約の申請がなければ、販売店は何もしなくてもいいため、塚本副部長は「長期的に見れば販売店の業務負担の軽減になる」と説明する。この仕組みは全ベンダーのサービスに対応しており、iKAZUCHI(雷)のもう一つの特徴になっている。
iKAZUCHI(雷)の立ち上げ以降、DISのサブスクリプションビジネスは「毎年、確実に成長している」(塚本副部長)。23年度上期(23年4月1日~9月30日)のiKAZUCHI(雷)を通じた販売店への販売総額は前年同期比42.9%増の137億4300万円と好調に推移しており、本年度内に260億円の達成を目指している。直近では、AI関連のサービスに対する販売店の注目が高まっており、新たな価値が提供できる領域として市場の拡大につながることも期待している。
とはいえ、現時点では「会社全体の売り上げから考えると、ビジネスの規模はまだ小さい」と塚本副部長。「ハードウェアなどを販売する従来型の販売モデルはまだたくさんあり、自動継続型のビジネスモデルは市場全体に浸透しきっていない」と指摘し、「iKAZUCHI(雷)をキーワードに、ベンダーや販売店の意識を徐々に変えていきたい」と力を込める。
今後の戦略については「これからは複数のサービスを使うのが当たり前になり、いくつかのサービスを組み合わせたり、補完し合うサービスを契約したりするようになるだろう」と前置きした上で、「エンドユーザーの成長プロセスや環境の変化に沿ったサービスのパッケージ化や、ハードウェアとの複合提案などを意識する」と強調する。サービス面の拡充に加え、iKAZUCHI(雷)では、DISと販売店、エンドユーザーの関係強化につながる機能の拡張を検討していくという。
SaaSの市場はまだ発展途上との見方がある。企業の規模のほか、都市部とそれ以外の地域といった点で活用に温度差があるのも否めない。塚本副部長は「中堅・中小企業にとっても、クラウドが生かせるところはたくさんあるので、必要性に関するメッセージはもっと強化していかなければならない」と語る。さらに「われわれにとっても、販売店にとっても、SaaSビジネスは収益の基盤の安定化につなげられる。そのためには販売モデルを次世代型にしていく必要があり、この部分をしっかりとリードしていきたい」と意気込む。
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