Special Feature
SAPのERP製品移行ビジネスの今 クラウドで競争力を確保へ
2024/08/12 09:00
週刊BCN 2024年08月12日vol.2026掲載
国内企業で、基幹システム(ERP)の刷新が大きな課題になっている。経済産業省が、老朽化した基幹システムを放置すると大きな経済損失が生まれると警鐘を鳴らしている「2025年の崖」問題に加え、国内で最も多く採用されている独SAP(エスエーピー)のERP製品のうち、「ECC6.0」は、2027年末に標準保守期限を迎える。IT人材不足などから、必要とする企業のシステム刷新が期限に間に合うかという不安もつきまとう中、企業の競争力確保を支援するため、SAPジャパンはクラウド製品への移行を促している。実際にシステム構築を担当するSlerや移行効率化を支援するベンダーなどに、ERPモダナイゼーションに取り組む現状と課題を聞いた。
(取材・文、堀 茜、大向琴音、安藤章司、藤岡 堯、大畑直悠)
SAPジャパン
SAPは、ERP製品の顧客企業に対し、従来システムからクラウドサービスへの移行を促している。15年から販売している「S/4HANA」を中核とするクラウド型のオファリングとして、「RISE with SAP」と「GROW with SAP」を展開。ECC6.0など従来のSAP製品を使っている顧客は、移行に際しRISEを選択するケースが多いという。レガシーシステムで構築したアドオンなど顧客固有の環境をそのままクラウド移行できる点が、多くの企業が選ぶ理由の一つ。企業規模やアドオンの量にもよるが、移行にはおおむね1年から2年程度を要する。
GROWは新規導入が対象となるが、ECC製品からの切り替えにあたり、従来構築したシステムの移行ではなく、一から構築し直す選択をしてGROWを採用するケースもある。アドオンに対応せず業務を標準化しシステムを導入する「Fit to Standard」を追求した製品のため、要件定義期間を短縮でき、半年から1年程度と比較的短期間で移行が可能だ。大企業では、本社がRISE、関連会社がGROWを採用する「2層ERP」を選ぶ事例も出ている。
SAPジャパン 増田 剛 事業部長
顧客のS/4HANAへの移行状況について、SAPジャパンEnterprise Cloud事業統括本部S/4HANAクラウド事業部の増田剛・事業部長は、「ERPのマイグレーション案件は着実に増えている」と述べ、国内の顧客増加率に手応えを感じているとした。ECC6.0のサポート終了まで3年半となる中、「駆け込み需要というか、待ったなしで進めていこうという企業が増えている実感はある」と話す。
SAPジャパン 服部貴志江 統括本部長
パートナー所属のSAPコンサルタントも、案件の増加に比例するように増加傾向にある。23年の認定コンサルタント数は前年比11%増だった。チーフ・パートナー・オフィサーの服部貴志江・パートナーエコシステムサクセス統括本部長は「人材は増えているものの、需要増にコンサルの数が追いついていない部分がある」と実情を明かす。
そこで同社が取り組んでいるのが、パートナー同士のコンサルタントリソースのマッチングだ。小規模なパートナーは、個別だと一つのプロジェクトを組むのが難しいケースがあるが、「組み合わせによってプロジェクトを実現できるケースは多い」(服部本部長)点に着目。SAPジャパンが3カ月に1回程度開催するマッチング会では、パートナー各社が提供できるリソースを持ち寄り、プロジェクトが立ち上がる際に、企業の壁を越えて協業することで、人材の適正活用を図っている。マッチングは3年ほど前に開始したところ、パートナーから好評で、マッチングによって始動したプロジェクトも多いという。
移行のためのリソースを増やす目的で、同社は新規パートナーの獲得にも注力している。2カ月に1回程度、SAPビジネスをテーマにしたセッションを開催し、SAPに取り組んでいないIT企業に声をかけている。
23年は新たに42社がパートナーとしてSAPビジネスに参画した。新規パートナーは、既存パートナーと組んでプロジェクトに参加しており、服部本部長は「少しでもパートナーのリソースを増やしたい」と狙いを語る。また、大規模なパートナーの中には、SAP事業以外の部署から配置転換でリソースを増やし、戦略としてSAP事業を強化している企業もある。
人材の確保が最重要となる一方で、同社はAIの活用も視野に入れる。25年頃からコードの自動生成など、移行プロジェクトに新たなテクノロジーの導入も予定している。
その上で「顧客に対応するパートナーが、ぶれずにクラウド化、標準化の意義をアプローチし続けることが重要になる」(服部本部長)と説明する。同社は、クラウド化にあたり必要な意識などを学ぶ勉強会をパートナー向けに定期開催し、Fit to Standardの意義を、パートナーが顧客に正しく伝えられるようサポート。ERPのクラウド化により、新機能が随時アップデートされ、パートナーは顧客のアドバイザーとして新機能の追加や活用方法をサポートする。服部本部長は「一度導入して終わりではなく、顧客と長いお付き合いになるという意味で、パートナーにビジネスチャンスはたくさんある」と強調する。
同社は、パートナーが抱える案件数や移行計画を情報共有し、進捗状況を可視化している。増田部長は今後さらに駆け込み需要が出てくると予想しており、「万が一、タイミングやリソースが合わずに間に合わないことにならないよう、密に会話している」と万全の体制を敷いているとした。ジャパンSAPユーザーグループ
SAPジャパンは、国内での導入企業数やS/4HANAへの移行進捗状況などの数字を公表していない。一方で、SAP導入企業が自ら運営するユーザーコミュニティーで、1996年から活動しているジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)は、会員企業を対象としたアンケート調査「S/4HANAの導入・活用に関する会員企業の意識調査」を16年度から毎年実施している。
JSUGは、▽SAPソリューションに関する情報入手と共有▽会員相互の親睦、交流、研さん▽SAPの戦略や製品への要望や提言―を主な目的としている。6月末時点で604社が加盟しており、産業や機能、地域別で運営されている部会などで活動。その一環として実施している同調査のうち、22年度と23年度の結果から、ERPの移行状況について見ていく。回答数は22年度が278社、23年度が299社。
「現在使用しているSAP製品または導入を検討しているSAP製品」についての設問で、「S/4HANA使用中」と答えた企業は、22年度が92社(33.1%)、23年度が116社(38.8%)だった。「導入中」は、22年度が36社(12.9%)、23年は53社(17.7%)で、「導入検討中」は、22年度は122社(43.9%)、23年度が99社(33.1%)。使用中、導入中、導入検討中の合計は、22年度が250社(89.9%)、23年度が268社(89.6%)だった。
S/4HANAを導入中または導入検討中と回答した企業の状況では、「プロジェクト実施中」の企業が22年度は51社(32.3%)、23年度では69社(45.4%)。「具体的な計画はあるがプロジェクトがまだ始まっていない」は、22年度が36社(22.8%)、23年度が25社(16.4%)。「検討中だが、具体的な計画はない」は、22年度が71社(44.9%)、23年度が58社(38.2%)だった。
導入検討段階の企業は減り、使用中、導入中とした企業が増えていることから、ユーザー企業内でのERPの移行が着実に進んでいることが読み取れる。具体的な計画を立てていない企業の割合は減少している。
JSUG 数見 篤 会長
JSUGの数見篤・会長(トラスコ中山・取締役経営管理本部長兼デジタル戦略本部長兼オレンジブック本部長)は、ユーザー企業のERP移行に対する意識について、「保守期限が迫っているからというよりも、自社の成長手段として、前向きに取り組んでいる企業が多い」と見る。「移行を一つのビジネスチャンスと捉え、コスト削減や業務効率化につなげることで企業の価値をさらに高めていきたい」(数見会長)と、システム刷新による効果に期待を寄せた。
特集後半ではユーザーの移行を支えるSIerらに話を聞く。各社の取り組みからは、移行においては、保守面だけではなく、経営や実業務にデータをどこまで役立てられるかという観点も浮かび上がってきた。アビームコンサルティング
アビームコンサルティングは、SAPソリューションへの豊富な知見を強みに移行ビジネスを進めている。
S/4HANAの標準機能を最大限活用し、カスタマイズを抑えることでシステムの柔軟性を確保する考え方の「クリーンコア」が注目され、標準機能では対応できない業務要件に対応するためのアドオン開発は、S/4HANAとは異なる基盤で行う「Side by Side開発」が定着しつつある。ただし、ERP自体のアップデートに対応しやすくなる一方で、この手法ではシステム間の連携に手間がかかるなどのデメリットもある。
アビーム コンサルティング 大村泰久 執行役員
執行役員の大村泰久・プリンシパルエンタープライズトランスフォーメーションビジネスユニットSCM改革戦略ユニット兼任は「(Side by Side開発は)周辺システムに負担が分散し、結果的に同じ、もしくは、より手間がかかり、価値の刈り取りが難しいこともある」と指摘する。
その上で大村執行役員はSAPにはSaaS、PaaSレイヤーのソリューションも充実しているとし「周辺システムはこれらを用いて、アップデートにも追従していけるシステムを組み上げる案件が増えている」と話す。さらにSAPの本社が所在する独ワルドルフに、ソリューションの知見をいち早く受け取れる連携オフィスを設置している点を挙げ「SAPが提供する最新のSaaSやPaaSの機能も踏まえ、適切なワークフローを設置できる部分も優位性だ」と訴える。
リソースについては「不足は想定しており、国外の拠点や、パートナーとタッグを組みながら需要に対応できる体制を整えている」と説明。具体的には移行を効率化するサービスとして、作業の“工場”となる拠点に専用の人材を用意し、ECCのデータをS/4HANAに対応するように変換する「Conversion Factory」を提供。移行プロジェクトの中でも負荷が高いコンバージョンの作業を効率化しているという。
アビーム コンサルティング 西井 新 シニアエキスパート
デジタルテクノロジービジネスユニットAdvanced Cloud Technologyセクターの西井新・シニアエキスパートは、「作業は定型化しており、効率的に作業を進められる」と説明。国内以外にもグローバルに多数の拠点があり、直近ではインドにも工場を立ち上げたとし、「人員確保の面のみならず、コスト面でもメリットがある」とアピールする。
ERPの役割について、大村執行役員は「企業のマネジメント層が正しい判断をするために活用する点は変わっていないが、管理すべき資源の範囲は拡大している」と説明。サステナビリティーを例に挙げ、「カーボンフットプリントなどが見えるようになれば、自社の製品がいかに社会に貢献しているか消費者に訴えられ、従業員も社会への貢献を感じられるようになる」とし、ERPが生み出す価値は高度化していると話す。富士通
「25年、27年、30年といったマイルストーンに向け、市場は大きく動いており、当社も忙しくなっている」と語るのは、富士通SVPグローバルソリューションの桐生卓・グローバルビジネスアプリケーション事業本部長だ。顧客の傾向としては「肌感覚」とした上でRISE with SAPの「プライベートクラウド版の採用が多いように感じる」という。
富士通 桐生 卓 事業本部長
とはいえ、クラウドERPの価値を最大限に発揮できるのはパブリッククラウドでの利用だろう。機能追加や保守運用部分の負担が大きく軽減できるからだ。桐生事業本部長は「将来的なことを考えれば、パブリッククラウドを視野に入れたほうがいい。ただ、現状でがっつりとアドオンを入れている場合、一足飛びにFit to Standardになじむことは難しい。いったんプライベートを選ぶのも一つの手」とする。
移行期限が決まっている以上、まずはクラウドへのシフトを優先し、段階的に業務プロセスを見直しつつ、将来的なパブリッククラウドへ移行を目指すことも現実的な解となる。プロセスを見直す段階では、プロセスマイニングツールによる業務の切り出しが効果的だ。富士通ではSAPが買収した独Signavio(シグナビオ)を活用し、標準化できるもの、そうでないものを整理し、Fit to Standardへ挑む顧客を支援している。
SAPのクラウド移行がもたらす大きな効果の一つがデータドリブンなビジネスの実現である。乱雑な言い方をすれば、ERPは会計作業を効率化し、経営判断のスピードを高めるためのソリューションであり、ビジネスの現場からすると、誰しもが価値を実感できるとは限らない面もあった。
しかし、テクノロジーの進化によって、ERPに集約される膨大なデータを、多様なソリューションと接続することが可能となり、現場の業務改善や生産性向上といった価値を発揮できるようになっている。
富士通が、オファリングを中核とする事業モデル「Fujitsu Uvance」のテクノロジー基盤の一つにSAPを位置付けているのは、「社会課題の解決にあたって、必要なプロセスやデータが集まるビジネスアプリケーション」(桐生事業本部長)としてSAPを認識しているからだ。
例えば、製造工程で発生した作業手順のミスをAIで検出し、インシデント情報を自動で起票するシステムにSAPのデータがつながれば、ミスが発生した製品の生産計画や在庫状況などを即座に参照でき、より迅速な対処や意思決定につなげられる。
富士通自身も現在、グローバルでERPをS/4HANAに統一・刷新するプロジェクトを進めている。桐生事業本部長は「SAPにはこういう使い方ができる、というものを当社が証明し、お客様に伝えていく。実践を見ていただいて、(顧客が)パブリッククラウドや、Fit to Standardの方向に進んでいけば、日本企業の競争力も自ずと上がるはずであり、そこを支援したい」と語る。NTTデータグローバルソリューションズ
年間20~30件のSAP移行プロジェクトを手がけるNTTデータグローバルソリューションズ(NTTデータGSL)は、25年3月期からコンサルティングやSEをひとまとめにした本部制に組織改編した。これまでは専門性を高めるため業種別のコンサルティングや専門知識を持ったSEなどの組織を分けていたが、期限に向けて移行ラッシュが大詰めを迎える中、“総力戦”の体制でユーザー企業を支えている。
NTTデータGSL 磯谷元伸 社長
本部制に改編したことで、「本部の大きな枠組みのなかで柔軟に体制を組めるようになり、人的リソース配分の自由度が高まった」(磯谷元伸社長)と手応えを感じている。コンサルタントとユーザー企業とのすり合わせが長引いたり、開発の進捗に合わせてSEの配置を臨機応変に変更したりすることが発生しても、本部内で人的リソースを融通しやすくなった。
同社が保守運用を手がけるSAPユーザーのうちS/4HANAへの移行を済ませているユーザー企業は約半数。海外展開しているような大手企業は比較的早く決断し、中堅規模の企業は移行の投資対効果や具体的なメリットをまだ見出せていないケースもあり「27年までにすべての企業が移行するのは難しい」(村上憲視・第三事業本部事業本部長)と見込む。
NTTデータGSL 村上憲視 事業本部長
ユーザー企業のシステム環境を見ると、既存バージョンに自社独自のアドオンソフトを連動させて業務を行っている例は少なくない。NTTデータGSLは独自の移行フレームワーク「i-KOU!」に基づいて、S/4HANAへの移行後にアドオンが正常に動作するのか、もし動作しなかった場合の対処法などのアセスメントや動作検証を行っている。
移行に際してはユーザー企業固有のアドオンやサブシステムを密接に連携させている場合など、移行の難易度が高いポイントがいくつかあるのも事実。村上事業本部長は「ユーザー企業の経営幹部や担当者と互いに言いにくいことも言い合える関係になるのが重要」と指摘。発注者・受注者の関係に終始して、十分な会話がない状態で進めてしまうと後のトラブルの元凶となる可能性がある。「幸いにも当社ユーザー企業はこの点をよく理解してくれている」(村上事業本部長)と、ユーザー企業との意思疎通を引き続き重視していく考えだ。
S/4HANAには主要なSaaSと連携するAPI接続口が備わっており、外部ベンダーが需要予測や受発注自動化のEDI、顧客管理、営業支援、ビジネスインテリジェンスなど、先進的なデジタル変革を成し遂げる現代的なSaaSを提供している。
S/4HANAへの移行のタイミングで時代に見合わなくなったアドオンやサブシステムを見直し、外部SaaSを活用できる部分は積極的に活用する提案にも力を入れる。単なる新バージョンへの移行で終わらせるのではなく、デジタル変革を加味することで投資対効果をより明確にし、ユーザー企業を支えていく方針だ。Tricentis Japan
SAP製品のマイグレーションにおいて、効率化を支援しているのが、米Tricentis(トライセンティス)が提供する、AIを活用したテスト自動化ソリューションだ。テストスコープの特定、テストの自動化、データ連携時の整合性のチェックなどが行える。同社はSAPとグローバルでパートナーシップを締結。SAPシステムに適応するテストソリューションとしてパッケージ化して提供しており、グローバルで3000社が導入している。
Tricentis Japan 成塚歩 代表執行役
顧客に評価されている点は▽テスト期間の削減▽テスト工数の削減▽ソフトウェアの品質改善―の3点が挙げられる。導入企業では、平均でテストにかかる時間を10分の1に削減。AIなどでテスト工数を50%削減し、省人化を実現している。
国内での導入状況は、24年6月末までの半年で前年同期比2倍と大きく伸長している。日本法人Tricentis Japanの成塚歩・代表執行役は、「案件の伸びは想定以上で、ECC6.0のサポート終了に向けてより成長が見込める」と期待し、パートナーシップの強化にも意欲的だ。
クラウドERPはバージョンアップが定期的に実施されるため、同社ではクラウド移行後もテスト自動化の需要はあると展望。ERPの移行を機に同社のソリューションを導入し、継続的に利用する事例が多いという。成塚代表は「IT人材が不足する中、システムの品質を高めなければならないという企業の課題を、テスト自動化の価値で支援したい」と意気込む。
(取材・文、堀 茜、大向琴音、安藤章司、藤岡 堯、大畑直悠)

SAPジャパン
「RISE」を選択する顧客が中心待ったなしで案件増加
SAPは、ERP製品の顧客企業に対し、従来システムからクラウドサービスへの移行を促している。15年から販売している「S/4HANA」を中核とするクラウド型のオファリングとして、「RISE with SAP」と「GROW with SAP」を展開。ECC6.0など従来のSAP製品を使っている顧客は、移行に際しRISEを選択するケースが多いという。レガシーシステムで構築したアドオンなど顧客固有の環境をそのままクラウド移行できる点が、多くの企業が選ぶ理由の一つ。企業規模やアドオンの量にもよるが、移行にはおおむね1年から2年程度を要する。GROWは新規導入が対象となるが、ECC製品からの切り替えにあたり、従来構築したシステムの移行ではなく、一から構築し直す選択をしてGROWを採用するケースもある。アドオンに対応せず業務を標準化しシステムを導入する「Fit to Standard」を追求した製品のため、要件定義期間を短縮でき、半年から1年程度と比較的短期間で移行が可能だ。大企業では、本社がRISE、関連会社がGROWを採用する「2層ERP」を選ぶ事例も出ている。
顧客のS/4HANAへの移行状況について、SAPジャパンEnterprise Cloud事業統括本部S/4HANAクラウド事業部の増田剛・事業部長は、「ERPのマイグレーション案件は着実に増えている」と述べ、国内の顧客増加率に手応えを感じているとした。ECC6.0のサポート終了まで3年半となる中、「駆け込み需要というか、待ったなしで進めていこうという企業が増えている実感はある」と話す。
コンサルタント確保にマッチングや新規パートナー
移行に欠かせないのが、人材の確保だ。専門的な知識を持ちプロジェクトを推進するSAPジャパンのコンサルタントは、パートナーを支援する目的で、第三者的な立場でプロジェクトに参画。アドオンを減らす方法の提案など、全体の横軸として支援している。増田部長は、「移行案件の引き合いを多くいただいているので、採用の強化で人材確保に努めている」とする。
パートナー所属のSAPコンサルタントも、案件の増加に比例するように増加傾向にある。23年の認定コンサルタント数は前年比11%増だった。チーフ・パートナー・オフィサーの服部貴志江・パートナーエコシステムサクセス統括本部長は「人材は増えているものの、需要増にコンサルの数が追いついていない部分がある」と実情を明かす。
そこで同社が取り組んでいるのが、パートナー同士のコンサルタントリソースのマッチングだ。小規模なパートナーは、個別だと一つのプロジェクトを組むのが難しいケースがあるが、「組み合わせによってプロジェクトを実現できるケースは多い」(服部本部長)点に着目。SAPジャパンが3カ月に1回程度開催するマッチング会では、パートナー各社が提供できるリソースを持ち寄り、プロジェクトが立ち上がる際に、企業の壁を越えて協業することで、人材の適正活用を図っている。マッチングは3年ほど前に開始したところ、パートナーから好評で、マッチングによって始動したプロジェクトも多いという。
移行のためのリソースを増やす目的で、同社は新規パートナーの獲得にも注力している。2カ月に1回程度、SAPビジネスをテーマにしたセッションを開催し、SAPに取り組んでいないIT企業に声をかけている。
23年は新たに42社がパートナーとしてSAPビジネスに参画した。新規パートナーは、既存パートナーと組んでプロジェクトに参加しており、服部本部長は「少しでもパートナーのリソースを増やしたい」と狙いを語る。また、大規模なパートナーの中には、SAP事業以外の部署から配置転換でリソースを増やし、戦略としてSAP事業を強化している企業もある。
人材の確保が最重要となる一方で、同社はAIの活用も視野に入れる。25年頃からコードの自動生成など、移行プロジェクトに新たなテクノロジーの導入も予定している。
パートナーとの連携を密に経営層の巻き込みがかぎ
SAPジャパンは、スムーズな移行のためには、現場レベルではなく、経営層を巻き込み、合意の上で進めることがかぎになるとみる。ITプロジェクトではなく、経営変革プロジェクトと位置付け「経営層に自分事として判断いただくのが重要だ」(増田部長)。その上で「顧客に対応するパートナーが、ぶれずにクラウド化、標準化の意義をアプローチし続けることが重要になる」(服部本部長)と説明する。同社は、クラウド化にあたり必要な意識などを学ぶ勉強会をパートナー向けに定期開催し、Fit to Standardの意義を、パートナーが顧客に正しく伝えられるようサポート。ERPのクラウド化により、新機能が随時アップデートされ、パートナーは顧客のアドバイザーとして新機能の追加や活用方法をサポートする。服部本部長は「一度導入して終わりではなく、顧客と長いお付き合いになるという意味で、パートナーにビジネスチャンスはたくさんある」と強調する。
同社は、パートナーが抱える案件数や移行計画を情報共有し、進捗状況を可視化している。増田部長は今後さらに駆け込み需要が出てくると予想しており、「万が一、タイミングやリソースが合わずに間に合わないことにならないよう、密に会話している」と万全の体制を敷いているとした。
ジャパンSAPユーザーグループ
移行状況を会員企業に調査 「計画がない」割合が減少
SAPジャパンは、国内での導入企業数やS/4HANAへの移行進捗状況などの数字を公表していない。一方で、SAP導入企業が自ら運営するユーザーコミュニティーで、1996年から活動しているジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)は、会員企業を対象としたアンケート調査「S/4HANAの導入・活用に関する会員企業の意識調査」を16年度から毎年実施している。JSUGは、▽SAPソリューションに関する情報入手と共有▽会員相互の親睦、交流、研さん▽SAPの戦略や製品への要望や提言―を主な目的としている。6月末時点で604社が加盟しており、産業や機能、地域別で運営されている部会などで活動。その一環として実施している同調査のうち、22年度と23年度の結果から、ERPの移行状況について見ていく。回答数は22年度が278社、23年度が299社。
「現在使用しているSAP製品または導入を検討しているSAP製品」についての設問で、「S/4HANA使用中」と答えた企業は、22年度が92社(33.1%)、23年度が116社(38.8%)だった。「導入中」は、22年度が36社(12.9%)、23年は53社(17.7%)で、「導入検討中」は、22年度は122社(43.9%)、23年度が99社(33.1%)。使用中、導入中、導入検討中の合計は、22年度が250社(89.9%)、23年度が268社(89.6%)だった。
S/4HANAを導入中または導入検討中と回答した企業の状況では、「プロジェクト実施中」の企業が22年度は51社(32.3%)、23年度では69社(45.4%)。「具体的な計画はあるがプロジェクトがまだ始まっていない」は、22年度が36社(22.8%)、23年度が25社(16.4%)。「検討中だが、具体的な計画はない」は、22年度が71社(44.9%)、23年度が58社(38.2%)だった。
導入検討段階の企業は減り、使用中、導入中とした企業が増えていることから、ユーザー企業内でのERPの移行が着実に進んでいることが読み取れる。具体的な計画を立てていない企業の割合は減少している。
JSUGの数見篤・会長(トラスコ中山・取締役経営管理本部長兼デジタル戦略本部長兼オレンジブック本部長)は、ユーザー企業のERP移行に対する意識について、「保守期限が迫っているからというよりも、自社の成長手段として、前向きに取り組んでいる企業が多い」と見る。「移行を一つのビジネスチャンスと捉え、コスト削減や業務効率化につなげることで企業の価値をさらに高めていきたい」(数見会長)と、システム刷新による効果に期待を寄せた。
特集後半ではユーザーの移行を支えるSIerらに話を聞く。各社の取り組みからは、移行においては、保守面だけではなく、経営や実業務にデータをどこまで役立てられるかという観点も浮かび上がってきた。
アビームコンサルティング
豊富な知見が強み
アビームコンサルティングは、SAPソリューションへの豊富な知見を強みに移行ビジネスを進めている。S/4HANAの標準機能を最大限活用し、カスタマイズを抑えることでシステムの柔軟性を確保する考え方の「クリーンコア」が注目され、標準機能では対応できない業務要件に対応するためのアドオン開発は、S/4HANAとは異なる基盤で行う「Side by Side開発」が定着しつつある。ただし、ERP自体のアップデートに対応しやすくなる一方で、この手法ではシステム間の連携に手間がかかるなどのデメリットもある。
執行役員の大村泰久・プリンシパルエンタープライズトランスフォーメーションビジネスユニットSCM改革戦略ユニット兼任は「(Side by Side開発は)周辺システムに負担が分散し、結果的に同じ、もしくは、より手間がかかり、価値の刈り取りが難しいこともある」と指摘する。
その上で大村執行役員はSAPにはSaaS、PaaSレイヤーのソリューションも充実しているとし「周辺システムはこれらを用いて、アップデートにも追従していけるシステムを組み上げる案件が増えている」と話す。さらにSAPの本社が所在する独ワルドルフに、ソリューションの知見をいち早く受け取れる連携オフィスを設置している点を挙げ「SAPが提供する最新のSaaSやPaaSの機能も踏まえ、適切なワークフローを設置できる部分も優位性だ」と訴える。
リソースについては「不足は想定しており、国外の拠点や、パートナーとタッグを組みながら需要に対応できる体制を整えている」と説明。具体的には移行を効率化するサービスとして、作業の“工場”となる拠点に専用の人材を用意し、ECCのデータをS/4HANAに対応するように変換する「Conversion Factory」を提供。移行プロジェクトの中でも負荷が高いコンバージョンの作業を効率化しているという。
デジタルテクノロジービジネスユニットAdvanced Cloud Technologyセクターの西井新・シニアエキスパートは、「作業は定型化しており、効率的に作業を進められる」と説明。国内以外にもグローバルに多数の拠点があり、直近ではインドにも工場を立ち上げたとし、「人員確保の面のみならず、コスト面でもメリットがある」とアピールする。
ERPの役割について、大村執行役員は「企業のマネジメント層が正しい判断をするために活用する点は変わっていないが、管理すべき資源の範囲は拡大している」と説明。サステナビリティーを例に挙げ、「カーボンフットプリントなどが見えるようになれば、自社の製品がいかに社会に貢献しているか消費者に訴えられ、従業員も社会への貢献を感じられるようになる」とし、ERPが生み出す価値は高度化していると話す。
富士通
自社の実践で活用法示す
「25年、27年、30年といったマイルストーンに向け、市場は大きく動いており、当社も忙しくなっている」と語るのは、富士通SVPグローバルソリューションの桐生卓・グローバルビジネスアプリケーション事業本部長だ。顧客の傾向としては「肌感覚」とした上でRISE with SAPの「プライベートクラウド版の採用が多いように感じる」という。
とはいえ、クラウドERPの価値を最大限に発揮できるのはパブリッククラウドでの利用だろう。機能追加や保守運用部分の負担が大きく軽減できるからだ。桐生事業本部長は「将来的なことを考えれば、パブリッククラウドを視野に入れたほうがいい。ただ、現状でがっつりとアドオンを入れている場合、一足飛びにFit to Standardになじむことは難しい。いったんプライベートを選ぶのも一つの手」とする。
移行期限が決まっている以上、まずはクラウドへのシフトを優先し、段階的に業務プロセスを見直しつつ、将来的なパブリッククラウドへ移行を目指すことも現実的な解となる。プロセスを見直す段階では、プロセスマイニングツールによる業務の切り出しが効果的だ。富士通ではSAPが買収した独Signavio(シグナビオ)を活用し、標準化できるもの、そうでないものを整理し、Fit to Standardへ挑む顧客を支援している。
SAPのクラウド移行がもたらす大きな効果の一つがデータドリブンなビジネスの実現である。乱雑な言い方をすれば、ERPは会計作業を効率化し、経営判断のスピードを高めるためのソリューションであり、ビジネスの現場からすると、誰しもが価値を実感できるとは限らない面もあった。
しかし、テクノロジーの進化によって、ERPに集約される膨大なデータを、多様なソリューションと接続することが可能となり、現場の業務改善や生産性向上といった価値を発揮できるようになっている。
富士通が、オファリングを中核とする事業モデル「Fujitsu Uvance」のテクノロジー基盤の一つにSAPを位置付けているのは、「社会課題の解決にあたって、必要なプロセスやデータが集まるビジネスアプリケーション」(桐生事業本部長)としてSAPを認識しているからだ。
例えば、製造工程で発生した作業手順のミスをAIで検出し、インシデント情報を自動で起票するシステムにSAPのデータがつながれば、ミスが発生した製品の生産計画や在庫状況などを即座に参照でき、より迅速な対処や意思決定につなげられる。
富士通自身も現在、グローバルでERPをS/4HANAに統一・刷新するプロジェクトを進めている。桐生事業本部長は「SAPにはこういう使い方ができる、というものを当社が証明し、お客様に伝えていく。実践を見ていただいて、(顧客が)パブリッククラウドや、Fit to Standardの方向に進んでいけば、日本企業の競争力も自ずと上がるはずであり、そこを支援したい」と語る。
NTTデータグローバルソリューションズ
“総力戦”でユーザーを支援
年間20~30件のSAP移行プロジェクトを手がけるNTTデータグローバルソリューションズ(NTTデータGSL)は、25年3月期からコンサルティングやSEをひとまとめにした本部制に組織改編した。これまでは専門性を高めるため業種別のコンサルティングや専門知識を持ったSEなどの組織を分けていたが、期限に向けて移行ラッシュが大詰めを迎える中、“総力戦”の体制でユーザー企業を支えている。
本部制に改編したことで、「本部の大きな枠組みのなかで柔軟に体制を組めるようになり、人的リソース配分の自由度が高まった」(磯谷元伸社長)と手応えを感じている。コンサルタントとユーザー企業とのすり合わせが長引いたり、開発の進捗に合わせてSEの配置を臨機応変に変更したりすることが発生しても、本部内で人的リソースを融通しやすくなった。
同社が保守運用を手がけるSAPユーザーのうちS/4HANAへの移行を済ませているユーザー企業は約半数。海外展開しているような大手企業は比較的早く決断し、中堅規模の企業は移行の投資対効果や具体的なメリットをまだ見出せていないケースもあり「27年までにすべての企業が移行するのは難しい」(村上憲視・第三事業本部事業本部長)と見込む。
ユーザー企業のシステム環境を見ると、既存バージョンに自社独自のアドオンソフトを連動させて業務を行っている例は少なくない。NTTデータGSLは独自の移行フレームワーク「i-KOU!」に基づいて、S/4HANAへの移行後にアドオンが正常に動作するのか、もし動作しなかった場合の対処法などのアセスメントや動作検証を行っている。
移行に際してはユーザー企業固有のアドオンやサブシステムを密接に連携させている場合など、移行の難易度が高いポイントがいくつかあるのも事実。村上事業本部長は「ユーザー企業の経営幹部や担当者と互いに言いにくいことも言い合える関係になるのが重要」と指摘。発注者・受注者の関係に終始して、十分な会話がない状態で進めてしまうと後のトラブルの元凶となる可能性がある。「幸いにも当社ユーザー企業はこの点をよく理解してくれている」(村上事業本部長)と、ユーザー企業との意思疎通を引き続き重視していく考えだ。
S/4HANAには主要なSaaSと連携するAPI接続口が備わっており、外部ベンダーが需要予測や受発注自動化のEDI、顧客管理、営業支援、ビジネスインテリジェンスなど、先進的なデジタル変革を成し遂げる現代的なSaaSを提供している。
S/4HANAへの移行のタイミングで時代に見合わなくなったアドオンやサブシステムを見直し、外部SaaSを活用できる部分は積極的に活用する提案にも力を入れる。単なる新バージョンへの移行で終わらせるのではなく、デジタル変革を加味することで投資対効果をより明確にし、ユーザー企業を支えていく方針だ。
Tricentis Japan
テスト自動化の需要拡大
SAP製品のマイグレーションにおいて、効率化を支援しているのが、米Tricentis(トライセンティス)が提供する、AIを活用したテスト自動化ソリューションだ。テストスコープの特定、テストの自動化、データ連携時の整合性のチェックなどが行える。同社はSAPとグローバルでパートナーシップを締結。SAPシステムに適応するテストソリューションとしてパッケージ化して提供しており、グローバルで3000社が導入している。
顧客に評価されている点は▽テスト期間の削減▽テスト工数の削減▽ソフトウェアの品質改善―の3点が挙げられる。導入企業では、平均でテストにかかる時間を10分の1に削減。AIなどでテスト工数を50%削減し、省人化を実現している。
国内での導入状況は、24年6月末までの半年で前年同期比2倍と大きく伸長している。日本法人Tricentis Japanの成塚歩・代表執行役は、「案件の伸びは想定以上で、ECC6.0のサポート終了に向けてより成長が見込める」と期待し、パートナーシップの強化にも意欲的だ。
クラウドERPはバージョンアップが定期的に実施されるため、同社ではクラウド移行後もテスト自動化の需要はあると展望。ERPの移行を機に同社のソリューションを導入し、継続的に利用する事例が多いという。成塚代表は「IT人材が不足する中、システムの品質を高めなければならないという企業の課題を、テスト自動化の価値で支援したい」と意気込む。
国内企業で、基幹システム(ERP)の刷新が大きな課題になっている。経済産業省が、老朽化した基幹システムを放置すると大きな経済損失が生まれると警鐘を鳴らしている「2025年の崖」問題に加え、国内で最も多く採用されている独SAP(エスエーピー)のERP製品のうち、「ECC6.0」は、2027年末に標準保守期限を迎える。IT人材不足などから、必要とする企業のシステム刷新が期限に間に合うかという不安もつきまとう中、企業の競争力確保を支援するため、SAPジャパンはクラウド製品への移行を促している。実際にシステム構築を担当するSlerや移行効率化を支援するベンダーなどに、ERPモダナイゼーションに取り組む現状と課題を聞いた。
(取材・文、堀 茜、大向琴音、安藤章司、藤岡 堯、大畑直悠)
SAPジャパン
SAPは、ERP製品の顧客企業に対し、従来システムからクラウドサービスへの移行を促している。15年から販売している「S/4HANA」を中核とするクラウド型のオファリングとして、「RISE with SAP」と「GROW with SAP」を展開。ECC6.0など従来のSAP製品を使っている顧客は、移行に際しRISEを選択するケースが多いという。レガシーシステムで構築したアドオンなど顧客固有の環境をそのままクラウド移行できる点が、多くの企業が選ぶ理由の一つ。企業規模やアドオンの量にもよるが、移行にはおおむね1年から2年程度を要する。
GROWは新規導入が対象となるが、ECC製品からの切り替えにあたり、従来構築したシステムの移行ではなく、一から構築し直す選択をしてGROWを採用するケースもある。アドオンに対応せず業務を標準化しシステムを導入する「Fit to Standard」を追求した製品のため、要件定義期間を短縮でき、半年から1年程度と比較的短期間で移行が可能だ。大企業では、本社がRISE、関連会社がGROWを採用する「2層ERP」を選ぶ事例も出ている。
SAPジャパン 増田 剛 事業部長
顧客のS/4HANAへの移行状況について、SAPジャパンEnterprise Cloud事業統括本部S/4HANAクラウド事業部の増田剛・事業部長は、「ERPのマイグレーション案件は着実に増えている」と述べ、国内の顧客増加率に手応えを感じているとした。ECC6.0のサポート終了まで3年半となる中、「駆け込み需要というか、待ったなしで進めていこうという企業が増えている実感はある」と話す。
(取材・文、堀 茜、大向琴音、安藤章司、藤岡 堯、大畑直悠)

SAPジャパン
「RISE」を選択する顧客が中心待ったなしで案件増加
SAPは、ERP製品の顧客企業に対し、従来システムからクラウドサービスへの移行を促している。15年から販売している「S/4HANA」を中核とするクラウド型のオファリングとして、「RISE with SAP」と「GROW with SAP」を展開。ECC6.0など従来のSAP製品を使っている顧客は、移行に際しRISEを選択するケースが多いという。レガシーシステムで構築したアドオンなど顧客固有の環境をそのままクラウド移行できる点が、多くの企業が選ぶ理由の一つ。企業規模やアドオンの量にもよるが、移行にはおおむね1年から2年程度を要する。GROWは新規導入が対象となるが、ECC製品からの切り替えにあたり、従来構築したシステムの移行ではなく、一から構築し直す選択をしてGROWを採用するケースもある。アドオンに対応せず業務を標準化しシステムを導入する「Fit to Standard」を追求した製品のため、要件定義期間を短縮でき、半年から1年程度と比較的短期間で移行が可能だ。大企業では、本社がRISE、関連会社がGROWを採用する「2層ERP」を選ぶ事例も出ている。
顧客のS/4HANAへの移行状況について、SAPジャパンEnterprise Cloud事業統括本部S/4HANAクラウド事業部の増田剛・事業部長は、「ERPのマイグレーション案件は着実に増えている」と述べ、国内の顧客増加率に手応えを感じているとした。ECC6.0のサポート終了まで3年半となる中、「駆け込み需要というか、待ったなしで進めていこうという企業が増えている実感はある」と話す。
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