NECが取り組んでいる現行の中期経営計画が最終年度を迎えた。計画の達成について、森田隆之社長兼CEOは、「大きなサプライズがなければ、射程距離に入っている」と手応えを示す一方、「2025年度は次の成長をつくるための土台を検証する1年になる」と位置づけ、すでに次期計画の青写真は描かれつつある。成長のエンジンとなるのは統合基盤を活用したDX事業「BluStellar」だ。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)
BluStellarは想定上回る成長
26年度以降を見据え、成長戦略の柱となるのがBluStellarだ。森田社長兼CEOは、「BluStellarは、DXに関する技術やノウハウを結集したブランドであり、コンサルティングを起点とし、構想から実装、運用までを一気通貫でDXを成功に導く価値創造モデル」と語る。
森田隆之 社長兼CEO
500商材以上の「プロダクト&サービス」と、それらを顧客ニーズにあわせてパッケージ化した約150セットの「オファリング」、経営課題によりモデル化した30セットの「シナリオ」で構成。1万人のコンサルタント、1万2000人のDX人材を通じて、提案活動を行っている。
BluStellarの成長はNECの想定を上回る勢いだ。24年度の売上収益は前期比44.3%増の5424億円で、NECの国内ITサービス事業における売上収益の32%を占める。調整後営業利益は162億円増の825億円となり、調整後営業利益率は12.2%に達した。当初の計画では、BluStellarの24年度の売上収益は4265億円、調整後営業利益は335億円、調整後営業利益率は7.9%を見込んでいた。また、25年度に関しては、売上収益で4935億円、調整後営業利益が565億円、調整後営業利益率は11.4%を予想していた。つまり、実績は25年度の計画をも上回って着地したことになる。
新たに設定された25年度の目標は、売上収益が24年度の実績と比較して15.0%増の6240億円、調整後営業利益は162億円増の825億円と、引き続き高い成長が期待される。調整後営業利益率は13.2%、国内ITサービスに占める売上構成比は37%にまで引き上げる。将来的には、BluStellar事業の売上収益1兆円、調整後営業利益率20%を目指し、26年度からは「BluStellar Global」として海外展開を本格化する方針だ。
吉崎敏文・Corporate SEVP兼CDOは、「NECの従来型ビジネスは、顧客の要望を起点に固有の事情に応じてカスタマイズしたSIを行ってきたが、BluStellarは顧客の真の経営課題を起点に、徹底的に『型化』を進め、拡張性の高いサービスと全体最適をベースにした最先端のシステムを安心、最速で利用できるようにしている」とした上で、「NECのビジネスモデルを根本的に変革する」存在であると訴える。BluStellarは事業成長のけん引役であるとともに、ビジネスモデルの変革を推進する役割も担い、NECは同時並行で企業体質を強化していると言える。
AIとセキュリティーも変革のドライバー
BluStellarに加え、変革のキードライバーとして挙げられるのがAIとセキュリティーだ。
AI分野では、自社開発の生成AIである「cotomi」が中核となる。森田社長兼CEOは、「日本のテクノロジーカンパニーであるNECが、日本独自の法制度や価値観、文化に基づいて開発したAIだ。安全・安心で、高度な専門業務を自動化するAIとして着実に実績を積み上げており、NECの強みを生かすことができている」と胸を張る。
cotomiは23年の市場投入から継続的に性能強化を推進し、24年12月にはv2に進化。生成速度では一般商用モデルの2倍、精度では世界9位のポジションにある。
25年7月には機能強化を発表し、よりAIエージェントの活用に適したAIモデルへと変化した。cotomiが自律的にタスク分解して必要な業務プロセスを設計し、最適なAIやITサービスを選択して業務を自動実行できるようになったという。
cotomiの普及戦略はBluStellarを通じた提案である。ただし、それはAIそのものを売るのではなく、あくまでDXに必要な要素として活用していく姿勢だ。
業種や業務に特化した各種AIエージェントをBluStellarのシナリオで提供し、顧客の専門業務の自動化を支援する。先行事例の一つに、マーケティング施策立案支援の「BestMove」がある。NEC独自の10のAIエージェントによって、さまざまな特徴を有する10人のマーケッターが施策を提案するのと同等の環境がつくれ、マーケティング施策立案プロセスを自動化する。
生成AI関連事業の売上目標として25年度末までに約500億円を目指している。
セキュリティーでは、防衛事業への取り組みが注目される。森田社長兼CEOは、「NECは、情報通信、無線、制御の分野でユニークな技術を多数持っており、さらにDXの強みを生かせる。これが防衛分野における特徴となっており、NECの技術、ビジネスを支える領域になる」とする。
政府の防衛予算増加に伴って受注が増大し、24年度には防衛分野と宇宙分野を合わせて約5000億円の受注を獲得した。これは前年度比2倍以上の金額である。
旺盛な需要に対応するため、通信事業部門などから約1000人を異動させて防衛分野の通信技術を強化。さらに1000人近い技術者の増強が必要と見ており、外部からのリクルートも視野に入れている。東京都府中市の府中事業場には防衛部門のために新棟を建設しているところだ。
NECは「.jp(日本のサイバー空間)を守る」という新たな方針を打ち出している。日本のデジタルインフラの安全性確保に向けた取り組みであり、森田社長兼CEOは「NECは日本のデジタルインフラを守ることができる存在。政府や企業、人々の生活を守り続けていく」と語る。神奈川県川崎市にCyber Intelligence & Operation Centerを新設し、25年10月に始動させる。米国政府基準をベンチマークした最高レベルのセキュリティー施設であり、サイバー攻撃の予兆把握や、地政学リスクなどを考慮したインシデント対応支援から報告までの機能を集約して、サイバーセキュリティーに関する包括的なサービスを提供する。
このほか、KDDIとはサイバーセキュリティー事業における協業に向けた基本合意書を結んだ。国内企業とグローバルに広がるサプライチェーン、政府機関をサイバー脅威から守るために、強固な基盤を共同で構築することで、国内最大規模のサイバーセキュリティー事業を目指す方針である。
Non-GAAP営業利益率15%が目線に
「NECが取り組んできた数々の変革が実を結び、成果が出始めたことを実感している。私たちの方向性は間違っていなかったと確信している」
6月20日の定時株主総会で、森田社長兼CEOは10年以上にわたる構造改革を振り返り、こう切り出した。8期連続で期初計画を達成し、GAAP営業利益、当期利益は過去最高益を更新。時価総額は17年比で7倍以上となる5兆円に到達している。
26年度からスタートする新たな中期経営計画について、現状では詳細は明らかにされていないが、森田社長兼CEOは「Non-GAAP営業利益率15%が目線となる」とする。
売上収益については、「市場全体の成長を上回る伸びは必要だが目標に掲げることは適切ではない。売上収益は市場競争力があれば自然と伸びていく。利益をどれだけ拡大させるかが重要」との基本姿勢を示す。
現在の時価総額約5兆円に対し、「次の目線は時価総額10兆円となる。それを実現する上では、尖ったITの強さを持つ、日本国籍の企業であることが重要。NECは日本のデジタルインフラを支える企業として、日本と一緒にもう一度成長していきたい」と述べた。
1899年創業のNECは、日本初の外資系企業としてスタートし、1977年には「C&C(コンピュータ&コミュニケーション)」を提唱して第2の創業を遂げた。13年には第3の創業として「社会価値創造型企業」に再定義し、テクノロジーセントリックから価値創造セントリックへとビジネスモデルを移行させてきた。
森田社長兼CEOは、「NECは変わり続けることを、変えない。これがNEC社長としての私の基本姿勢」とし、「変わり続けることがNECの生命線であり、これからも変革の歩みを止めることはない」と語った。次の中期計画では、どのような変革への道筋が示されるのだろうか。