PC市場に大きなうねりが迫っている。2025年10月に控える「Windows 10」のサポート切れや、文部科学省のGIGAスクール構想によって全国で一斉導入された端末の更新による特需が見込まれ、「AI PC」への期待もにわかに高まりつつある。新型コロナ禍における需要拡大からの反動以降、低調が続く市場は新たな局面を迎えるだろうか。第6回はNECに市場戦略を聞く。顧客のニーズに全方位で対応する幅広い商材を強みとし、Windows 11への買い替え需要とGIGA端末更新の双方で、パートナーとの連携を強化してシェア獲得を図る。
(取材・文/大畑直悠)
売れ筋製品の短期納品を可能に
Windows 10のサポート切れに伴う需要について、インフラ・テクノロジーサービス事業部門スマートデバイス統括部上席プロフェッショナルの加藤賢一郎・統括部長代理は「今年6月頃から商談が増え始め、上期は前年同期比で大幅増となった。今後もさらに盛り上がっていくだろう」との見通しを示す。
加藤賢一郎 統括部長代理
商材をタイプ別に見ると、モバイルPCのニーズが高まっているとする。加藤統括部長代理は「モバイルPCはもともとデスクトップ型に対してサブPCとされ、12インチ型ほどのサイズが定番だった。しかし、現在ではリモートワークの普及で、家庭でもオフィスでも利用するメインPCとして使われ、サイズも14インチ型が主流になってきている」と解説する。
PCの供給体制については、従来は受注生産の方式をとっていたが、売れ筋スペックの製品などは一部のラインアップを在庫として確保し、短期での納品を可能にしている。こうした在庫としてストックする商材を拡充させているといい、販売店に対してはすぐに出荷できる製品の情報共有を進めている。
加藤統括部長代理は増加を見込む需要に対して、「メーカーとしてはニーズに合った製品を、需要に見合った数量で供給することが何より重要だ。今であればやはりモバイルPCを厚めに確保し、品切れを起こさないようにすることで、販売店や顧客に迷惑がかからないようにする」と話す。販売店への支援については、「どの地方にどれくらいWindows 10しか動かないPCがあるかは把握しているため、こうした情報を販売店にも共有し支援している」という。このほか、販売計画の早期の共有やWindows11搭載PCの提案資料の提供などで、販売店とのコミュニケーションを密にしていると紹介する。
VersaPro タイプVM
同社は8月28日、法人向けノートPC「VersaPro」のラインアップを刷新し、11タイプ30モデルの新製品の販売を開始した。14インチ型のモバイルノートPC「VersaPro タイプVM」ではCPUに「インテル Core i5 プロセッサー」を新たに採用し、基本性能を向上させた。
全製品で生成AIアシスタント「Copilot in Windows」が利用可能で、AIを活用した業務効率化を支援。ワンタッチでCopilot in Windowsを起動できる「Copilotキー」の配置や、CPUやメモリー、バッテリーといった主要な部品に対して問題がないか診断する「ハードウェア・スキャン機能」を実装し、メンテナンスの手間を軽減できるタイプの製品も用意した。
加藤統括部長代理は「当社の強みは16タイプ52モデルを用意していることだ。引き続き、顧客のニーズに合わせた全方位の製品を展開する」と意気込む。AI PCの販売に向けた準備も進めているという。
サービスの充実で差別化
GIGA端末の更新需要については10月3日、新製品として「NEC Chromebook Y4」を投入。第一期で導入された端末の使用事例や修理履歴を基に耐久性を向上する仕組みを実装した。同製品により、28年度までに200万台の提供を目指す構えだ。
具体的には、落下による破損の防止対策として、底面のゴム足の接地面積を拡大し、机からの落下を防止するほか、製品の表面は持ち運び時にグリップ感が高い素材を採用した。端末の外周はゴムのような弾力性と硬質プラスチックのような強さを持った素材で覆い、落下による破損を低減する。開口部に机上の鉛筆の芯などが誤って挿入されないようにしたり、底面のネジの落下を防止したりする仕組みも採用した。
Windows搭載PCとしては、「VersaPro Eシリーズ タイプVR」を8月に発表しており、堅固で長時間のバッテリー駆動を特徴としている。
サービス面を充実させており、差別化要因になっているとする。出荷時に管理コンソールへの登録作業やラベル張りを代行するほか、既存端末の買い取りやデータ消去、国による補助金の対象範囲となる予備機の運用支援サービスなども用意する。
エーピーエスと連携して提供するヘルプデスク「GIGAスクール運営支援センター」も設置した。加藤統括部長代理は「教員だけではなく、児童・生徒や保護者からの問い合わせにも対応できることが強みだ。Windows搭載PC、Chromebook、iPadであっても対応可能なことも特徴」と話す。
GIGA端末の調達方式が、自治体単位から都道府県単位の共同調達に変わったことで、前回のように販売パートナーが1社で対応することが難しくなることが想定される。加藤統括部長代理は「地方の有力パートナーとの連携を強化するとともに、複数のパートナーが組んだり、大手ディストリビューターが取りまとめたりする状況が予想されるため、ここにもしっかりと情報提供などで連携していきたい」と話す。