【米ラスベガス発】米Broadcom(ブロードコム)は、「VMware」事業の年次イベント「VMware Explore 2025」を米ラスベガスで8月26~28日(現地時間)に開催した。ITインフラ環境を統合的に管理する主力製品「VMware Cloud Foundation(VCF)」の最新版に、プライベートAIサービスを包含することを発表。企業のAI活用が進む中、セキュアでコスト効率のよい環境として、AI向けにプライベートクラウド環境の構築に注力する方針を示した。
(取材・文/堀 茜)
「VCF 9.0」にプライベートAI機能を統合
ブロードコムはVMwareを買収後、売り切り型の永続ライセンスを終了してサブスクリプション型ライセンスのみに提供形態を切り替えるとともに、サーバー、ストレージ、ネットワークなどの各仮想化製品をスイート型のソリューションとして統合した。
2024年のVMware Exploreでは、クラウド環境の構築や管理、運用のための統合基盤で、大企業・中堅企業向けの主力製品であるVCFの最新バージョン「VCF 9.0」を発表し、25年6月に提供を開始した。今回のイベントでは、VCF 9.0に、これまでオプションとして提供していたプライベートAIサービス「VMware Private AI」を標準コンポーネントとして統合することを発表。VCFをプライベートAIのプラットフォームとすることで、企業独自のAI開発を強力に推進していく方針を示した。
ホック・タン CEO
基調講演でホック・タンCEOは「私は昨年この場で、『プライベートクラウドが企業の未来だ』と話した。そして12カ月後、その未来は現実となった」と宣言した。VCFについては、コンピュート、ネットワーク、ストレージを完全に統合した、あらゆるアプリケーションワークロードを実行するためのプラットフォームであり、顧客が求めていたものだと強調。グローバルの調査として、企業の7割がオンプレミス型のプライベートクラウドへ投資を計画していることを紹介し、自社の戦略に自信を見せた。
VCFの採用事例として、米小売り大手のWalmart(ウォルマート)がグローバルに分散したオペレーション環境をVCFで統合していくことや、超大手の企業でなくてもVCFを活用している例として、米アイオワ州を拠点に主に農家向けの保険事業を手掛ける企業を紹介。VCFが多くの企業の支持を得られている理由として、タンCEOは「プライベートクラウドはパブリッククラウドを上回る性能を発揮している」と説明した。VCFを基盤としたプライベートクラウドでは、セキュリティー、コスト、コントロールといった重要な要素で優位性があるとした。
一方で、プライベートクラウドを構築するための課題として、▽開発部門とIT(運用・管理)部門▽開発速度とセキュリティー▽レガシーITとモダンIT―の3点で摩擦が生じることを挙げ、VCFによってこれらの課題は削減できるとした上で、摩擦の解消に向けVCFの機能強化に注力する考えを示した。タンCEOは、「(VCFは)あると便利なものではなく、どの企業にとっても不可欠なものだ。最高のクラウドプラットフォームをみなさんに提供していく」と述べた。
コスト最適化のためGPUをフル活用へ
イベントでブロードコムは、VCFをプライベートAIの基盤として押し出していく戦略をこれまで以上に鮮明に打ち出した。背景として、多くの企業がクラウド戦略を見直し、自社のプライベートクラウドの構築を進め、開発者の作業効率向上、IT管理の強化に加えて、よりコスト効率の高いAI環境を求めていることがある。
クリス・ウルフ グローバルヘッド
これまでオプションだったプライベートAIサービスをVCF 9.0に統合する意義について、日本の取材陣の取材に応じたVCF部門AI&Advanced Services担当のクリス・ウルフ・グローバルヘッドは「AIアプリケーションのオンボーディングをより速くできることだ」と強調。VCFをプラットフォームとしてAI開発のための幅広い機能をそろえることで、自社用のAIの活用に取り組む全ての企業向けに実践的な環境を提供するとした。
プライベートAI機能が包含されたVCFで、企業が保有するITインフラを仮想化すると、AIワークロードと非AIワークロードを統合して管理運用できるようになる。そのメリットとして、GPUのリソースをフル活用できる点を挙げた。
顧客が抱える課題として、アプライアンス(ハードウェア)をデータセンターやエッジに配備し、大規模に管理・運用するのが難しいことを指摘。「顧客は一つのAIモデルしか走らせられないアプライアンスを求めてはいない。一つのアプライアンスでどんなモデルでも走らせるようにしたい」と話した。同社によると、企業は購入したGPUのリソースを40~50%程度しか活用できていないケースが多いが、VCFでは「Distributed Resource Scheduler」という独自技術を使うことで、顧客はGPUのリソースを100%活用できるようになり、サーバーの数を減らしコストを最適化できるとアピールする。AIワークロードの配置やGPUの利用状況を正確に把握した上で最適化する機能で、「こういったテクノロジーを持っているベンダーは他にない」と優位性を強調した。
プライベートAIを推進する戦略は、ハイパースケーラー各社も打ち出している。ウルフグローバルヘッドは、ハイパースケーラーは協業パートナーになるとの認識を示し、「当社がインフラを提供し、彼らがAIサービスを供給するのがお客様にとってベストだと思う」と述べた。
「Tanzu Data Intelligence」でAI向けのデータ統合機能を提供
ITインフラ製品を統合したVCFに加え、もう一つの製品の柱が、コンテナを含むモダンなアプリケーションの開発・運用・管理を効率化するためのプラットフォーム「Tanzu」だ。イベントでは最新版の「Tanzu Platform 10.3」と新機能「Tanzu Data Intelligence」を発表した。双方ともVCFと統合して提供する。
10.3の新機能として、クラウドネイティブアプリケーションへの対応をさらに強化。アプリ開発者が「Tanzu Platform Marketplace」で独自のアプリをサービスとして提供可能になる。またセキュリティー面も強化し、コンテナおよびアプリケーションのセキュリティー状態を検査、可視化する機能などを加えた。
Tanzu Data Intelligenceは、統合型のデータプラットフォームで、並列型データレイクハウスの「Greenplum」をベースとし、データレイクハウスの運用に必要な一連のサービスを提供する。構造化データと非構造化データを統合しながら、開発者はシンプルなクエリーを用いてアプリケーションに関するさまざまな洞察を得ることができるという。数テラバイト規模から50ペタバイト規模までシームレスに拡張も可能。また、ストリーミングデータを取り込む際にベクトル化を行い、取り込んだデータをリアルタイムでAI推論と組み合わせられる機能を備えており、アプリケーションでの推論処理が高速化できるとした。
バート・トーマ ヘッド
Tanzu部門プロダクト・マネジメント&マーケティング担当のバート・トーマ・ヘッドは、エンタープライズ企業がAIを活用する際の課題として、データがサイロ化されていることを指摘。Tanzu Data Intelligenceの特徴として「すべてのデータをつなぎ、整理して、アクセスをコントロールできる点だ」と説明した。AI向けにデータを統合するサービスは他ベンダーも複数提供しているが、トーマヘッドは、「当社にはPostgreSQLとデータストアを拡張するためのエキスパートがおり、(Tanzu Data Intelligenceの)基盤は10年以上かけて確立した。拡張性と信頼性は高い」とアピールした。
パートナーに投資しITインフラの高度化を支援
イベントには、日本から顧客やパートナーなど、前年を上回る約150人が参加した。日本ではVMwareの仮想化ソリューションが高いシェアを占める一方、ライセンス形態の大幅な変更で混乱も生じた。日本市場での現状をどう受け止めているのか、シルバン・カザード・アジア太平洋地域担当プレジデントと、ヴイエムウェアの山内光・カントリーマネージャーが取材に応じた。
(左から)ヴイエムウェアの山内光・カントリーマネージャーと
Broadcomのシルバン・カザード・プレジデント
カザードプレジデントは、ソフトウェアをサブスクリプションで提供することは他社も含め業界の標準になっており、日本の顧客からの理解は得られているとの認識を示した。日本市場では、レガシーなITインフラからのモダナイゼーションの需要が大きく、VCF 9.0に対する関心は高いと現状を説明。「テクノロジーを顧客が実装しプラットフォームを活用するために、パートナーに多くの投資をしている。顧客への実装においてパートナーに利益を得ていただく取り組みを進めている」と述べた。
山内カントリーマネージャーは、「いろいろな変更もあったが、新たな戦略はポジティブに捉えていただいている」と現状を説明。「日本のエンタープライズ企業からはプライベートクラウドをVCFでどう実現していくか、さらなる期待もいただいている」と手応えを示した。
国内でのVCFの展開戦略については、ITインフラをVCFで固めた上で、AIなどのワークフローを載せていくことを提案していく。「VCFを基盤としたプライベートクラウドを軸に、お客様のITインフラのさらなる広がりと高度化を支援していく」(山内カントリーマネージャー)とした。