米Broadcom(ブロードコム)は8月26~28日(米国時間)、米ラスベガスで年次イベント「VMware Explore 2024 Las Vegas」を、米VMware(ヴイエムウェア)の買収後に初めて開催した。クラウド環境の構築や管理、運用のための統合基盤「VMware Cloud Foundation(VCF)」を製品展開の基軸に据える方針を示した。ホック・タンCEOは「エンタープライズのITインフラの未来はプライベートクラウドにある」と強調した。(取材・文/大畑直悠)
米ラスベガスで開催された「VMware Explore 2024 Las Vegas」の会場
VCFを製品の中核に
基調講演でホック・タンCEOは、「10年前に企業の経営層は、パブリッククラウドがもたらすメリットにまるで恋をしているようだったが、今ではコストの高さや運用の複雑性、コンプライアンス管理の煩雑さといった課題を抱えており、オンプレミスに回帰する大きな動きが生まれている」と指摘。その上で、「パブリッククラウドの拡張性などは適宜活用しつつも、プライベートクラウドがAI、データなどの自由なコントロールを可能にし、イノベーションをけん引するだろう」と展望。自社のオンプレミス環境や、サービスプロバイダーが提供するデータセンターの環境なども含め、一つの管理基盤から運用するという意味での「プライベート」な環境が重要になるとした。
ホック・タン
CEO
プライベートクラウドの構築や管理、運用を支援する上で中核を担うのがVCFだ。今後は顧客がVCFを活用して、自社のプライベートクラウドを段階的に構築できるようにしていく。VMwareの製品群はこれまで、顧客のニーズに合わせて各種機能がそれぞれ個別の製品として展開されていたが、一方で製品ごとに運用モデルがサイロ化し、管理やアップデートなどが複雑化するといった課題があった。ブロードコムによる買収後は、サーバー仮想化基盤の「vSphere」、ストレージ仮想化の「vSAN」、ネットワーク仮想化の「NSX」といった製品をはじめ、Kubernetesをサポートするコンテナ環境、セキュリティーなどのさまざまな製品やサービスをVCFに集約した。これによって運用の簡素化が図れるようになったとしている。
VCFの提供形態としては、ハイパースケーラーと呼ばれるような大手クラウド事業者、VMwareベースのクラウドサービスを提供するマネージドサービスプロバイダー、OEMとしてサーバーなどの製品と合わせて提供するハードウェアベンダー、サブスクリプションを販売するディストリビューター/リセラーの四つの領域でパートナーシップを結ぶ。OEMパートナーの中には、富士通、日立製作所、NECの3社が名を連ねる。
イベントではVCFの新バージョンとなる「VCF 9」を発表し、新機能として「VCF Import」を拡張した。顧客の既存環境に対して、VCFによってプライベートクラウドを構築する際の複雑さを解消したり、ダウンタイムを削減したりして、VCF環境への移行を迅速化する。また、メモリーの内容を階層化し、コールドデータをNVMeストレージに待避することでメモリー消費量を抑える機能も発表。AIをはじめとしたデータ集約型のアプリケーションを実行する際のコストを削減できる。そのほか、マルチテナント管理製品の「VMware Cloud Director」の統合も発表した。VCF 9のリリースの時期は明確にしなかったが、次のメジャーアップデートで利用できるようになるという。
エッジAI、プライベートAIも強化
イベントではそのほか、米NVIDIA(エヌビディア)との協業により24年5月に一般提供を開始した、VCF上でAIモデルの構築や運用を支援する「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」など、プライベートAIのビジネスの現状やアップデートも説明。パートナーエコシステムを拡大しているといい、OEMパートナーとして、日立ヴァンタラやエフサステクノロジーズなどが新たに参画したという。
機能面では、チャットボットの作成支援や、GPUの仮想化と管理、データのインデックス化や検索といった機能に加え、生成AIモデルのアクセス制御やコンプライアンスの適用などを支援する「Model Store」も発表した。
エッジコンピューティングの領域では、買収によるシナジーで実現したソリューションとして、ネットワーク製品「VeloCloud SD-WAN」とセキュリティー製品「Symantec Security Service Edge」を統合した「VMware VeloCloud SASE, Secured by Symantec」を強化し、両製品のPoP(Point of Presence、接続点)も統合した。そのほか、複数拠点のエッジAIを一貫して管理する「VMware Edge Cloud Orchestrator」なども発表し、すでにNTTデータなど2社の認定パートナーがエッジAIの導入を担っているという。
VCFビジネスの体制は整っている
イベントにはヴイエムウェア日本法人の山内光社長が出席し、日本から参加した報道関係者の取材に応じた。製品・サービスのVCFへの集約や、永続ライセンスを廃止しサブスクリプションに一本化するライセンス体系の変化で、市場に少なからず混乱が生まれたものの、山内社長は「(プライベートクラウドの推進といった)当社の方向性が明確になったことは評価されており、変化に対してもポジティブに受け止められている」と話した。今後も国内市場に対する説明には継続的に力を入れていくという。
山内光
社長
またパートナーに対して、山内社長は「日本ではパートナーを介したビジネスを長年行ってきたが、今後もこの関係の継続は重要だ」とし、その上で「製品体系が変わってもコアになっている技術が変わったわけではないため、これまでのノウハウを生かしつつ、VCFを中心とした新しい技術を活用して、顧客に対してより高い価値を提供してほしい」と呼び掛けた。
また、顧客を導入やコンサルなどで支援する体制について、山内社長は「日本法人はアジアの中で見ても非常に大きいプロフェッショナルサービスの部門を有していることに加え、パートナーエコシステムも武器だ。プライベートクラウドの習熟度に応じて段階的に支援する仕組みも整えている」とし、今後のVCFを中心としたビジネスの体制は整っているとした。
(大畑直悠)