シャープは「テクノロジーサービスプロバイダー」を掲げ、BtoB事業の強化に乗り出している。オフィス、パブリック、リテール、ロジスティクスの四つの事業ドメインに対して、ハードウェアとAI・DXサービス、独自技術を組み合わせた提案を通じて事業拡大を進める。また、「Salesforce」をベースにERPを展開するシナプスイノベーションを完全子会社化するなど、BtoB領域における買収を国内外で加速している。再成長に向けた足場を固めつつあるシャープは何を目指すか。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)
シャープの新本社。
2026年3月、それまでの大阪府堺市から大阪市中央区に移転した。
シャープはBtoB領域を成長基盤に「テクノロジーサービスプロバイダー」を目指す
toC事業を上回る規模
シャープは、2025年度からスタートした中期経営計画において、不採算事業の整理に向けて液晶や半導体といった「デバイス事業」のアセットライト化を進める一方、白物家電をはじめとする民生機器や、企業向けのITサービスなどで構成する「ブランド事業」に集中する方針を打ち出している。ブランド事業は「暮らす」(BtoC)と「働く」(BtoB)の二つの柱で構成される。BtoCのイメージが強い企業だが、実は、BtoBでも多くの実績がある。
26年3月期の連結業績は、ブランド事業全体の売上高が1兆4318億2000万円であり、そのうちBtoCのスマートライフ事業は5979億9800万円、BtoBのスマートワークプレイス事業は8338億2200万円となり、BtoBがBtoCを上回る。デバイス事業を含めた全社売上高に占める割合は4割を超え、シャープで最も大きな規模の事業となっている。
BtoB事業を担当するスマートワークプレイスビジネスグループには、ソリューション事業や複合機、POSなどを展開するスマートビジネスソリューション(SBS)事業本部、スマートフォンなどの事業を行う通信事業本部、PC事業を担当するDynabookが置かれている。世界110カ国・地域に、約1万社の販売パートナー、約20万社の顧客基盤を有している。
ビジネスの一例を挙げると、コンビニエンスストア向け複合機では、全国で約6割のシェアがあり、ガソリンスタンドにおけるPOSシステムでは45%のシェアを獲得している。いずれも全国に店舗数が多い市場で、ここで圧倒的な存在感を発揮している点は特筆できるだろう。
また、多くの人が知るブランドの一つに、PCのDynabookがある。「Windows 10」のサポート終了に伴う特需期には国内PCの出荷台数は堅調に推移する中、Dynabookは24年、ノートPCのブランド別で国内シェア1位を獲得した。
シャープの沖津雅浩副会長は、「Dynabookは官公庁や大手企業から高い評価を得ており、個人向けが中心となっていた、かつてのシャープのPC事業とはまったく異なる。BtoB販路の拡大や、シャープブランドのBtoB製品との組み合わせ提案が可能な領域である。今後は、Dynabookと連携する領域に積極的な投資を行い、PC事業の拡大につなげる」とする。
シナプス社を完全子会社化
さらに、国内における新たな取り組みとして、26年3月に行ったシナプスイノベーションの完全子会社化がある。シナプスイノベーションは、1984年に設立したSIerで、20年からSalesforceを基盤としたクラウドサービスの開発に着手。製造業向けDXプラットフォーム「UM SaaS Cloud」を通じて、生産管理、販売購買管理、在庫管理、工程負荷計画などのソリューションを提供している。グローバルで利用できる生産管理機能を特徴とするほか、コンポーザブルERPのコンセプトにより、さまざまなソリューションや機能との連携を可能にしている。すでに300社以上への導入実績を持ち、年商10億円から1兆円規模の企業まで、導入実績は幅広い。シナプスイノベーションの完全子会社化により、国内においては、当面、Salesforceを中心としたソリューション展開が軸になりそうだ。
シナプスイノベーション
藤本繁夫 社長
シナプスイノベーションの藤本繁夫社長は、「シャープグループへの参画を契機として、グローバル展開を加速するほか、(自社製品の)シャープグループへの導入や、シャープが実績を有するリテール分野への導入提案、シャープが取り組んでいる量子アニーリング技術やロボティクス技術との連携などにより、新たな領域への展開を図りたい」と語る。
シナプスイノベーションの会長を兼務するシャープの徳山満CTOは、「シャープは、ハードウェアと親和性が高いソフトウェアやアプリケーションを求めており、中でもコアとなる統合基幹業務システムを持ちたかった。シナプスイノベーションのERPを活用することにより、欠けていたデータ統合や機器連携が実現でき、ハードウェアの価値を高めた提供が行いやすくなる。お客様の業務フローの全てに、ワンストップでアプローチすることができるようになる」と強調する。シナプスイノベーションにとっても、連携できるハードウェアが増えるだけでなく、シャープのグローバルな販売、保守体制を活用できる。徳山CTOは「シャープのSBS事業にとって、半歩先の挑戦につながる」と意気込む。
シャープは25年9月、新たなコーポレートスローガンとして、「ひとの願いの、半歩先。」を制定した。「半歩先」には、ほんの少しだけ先回りし、驚きと喜びをもたらす新たな体験を届けるという意味を込めている。ソリューション提案においても、「半歩先」が、シャープのキーワードとなりそうだ。
海外展開も強化
BtoB事業では海外展開にも力を入れている。SBS事業の海外売上比率は約7割に達しており、シャープ全体の6割を上回る。英国、スイス、フランスでIT系企業3社を傘下に収め、欧州において、ITコンサルやセキュリティー、マネージドサービスなどを手掛けられるようになった。ITサービスをフルカバーできる体制を通じて、独自の包括的ソリューションを提供する構えだ。
26年3月には、ニュージーランドで、マネージドサービスやセキュリティーサービスを提供する企業を買収した。複写機で培った顧客基盤や販売網、サービス網を活用しながら、既存顧客へのITノウハウの提供、連携機器などの付加価値の提案に加えて、ITサービスの提供を立ち上げることで、売上拡大を目指す。
そして、新たな事業として今後の動向が注目されるのが、AIサーバーの取り組みだ。亀山事業所(三重県亀山市)内の工場を活用して、親会社である台湾・鴻海精密工業がAIサーバーを生産し、シャープが国内で事業を展開する計画だ。27年度中の事業参入を目標に、具体的なビジネスプランやスキームの立ち上げを急ピッチで推進しているという。
このようにBtoB領域での事業成長を図る中で、シャープは、「テクノロジーサービスプロバイダー」への転換を進めている。デジタル複合機やディスプレイ、POSシステムなど、ハードウェアを中心とした「既存商材」と、エッジAIや通信、画像解析などの「独自技術」「AI・DXサービス」を掛け合わせ、商品とサービスをハイブリッド型で展開する考えだ。徳山CTOは、「人とテクノロジーをつなぎ、信頼できる独自ソリューションを提供することで、テクノロジーサービスプロバイダーを目指す」と意気込む。27年度までを再成長フェーズと位置づけているシャープ。その原動力となるのはBtoB事業の拡大であり、その地盤は着々と整っているようだ。
「『らしさ』を先頭に立って体現」河村新社長
「創業者である早川徳次氏の『他社がまねするような商品をつくれ』という姿勢や、経営信条、経営理念は、シャープのDNAであり、これを引き継ぐ。『シャープらしさ』を先頭に立って体現していく」
シャープ
河村哲治 社長
26年4月1日付で就任した河村哲治社長 CEOは、社長就任に先立って3月31日に開かれた会見でこう述べた。
河村社長は25年間にわたって海外BtoB事業に携わり、欧米で複写機ディーラーの買収などを通じた直販網の構築をリード。その後も一貫してBtoB分野を担当してきた。25年4月にCBDO(Chief Business Development Officer)に就任して以降は、新規事業の開発を担当し、鴻海とのパートナーシップによって進めているEVやAIサーバーの事業化などに取り組んできた。
BtoBに注力する会社の姿勢や河村社長の経歴から、シャープがBtoB企業へと歩みを進めているようにも映るが、河村社長は「BtoCを捨ててBtoBに特化するという考えは一切ない」と語る。
とはいえ、家電市場の成長が鈍化する中、BtoB事業はこれまで以上に重要な柱となるのは明らかだ。前任の沖津副会長は家電出身であり、BtoB出身の河村氏へのバトンタッチはその象徴とも言える。
河村社長は「シャープらしさ」をいかに発揮し、どのような再成長への軌跡を描いていくだろうか。