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特集 動き出す「工事進行基準」 迫られる!「工事進行基準」への対応

2008/10/01 19:56

週刊BCN 2008年09月29日vol.1253掲載

 ソフト開発業界の会計に変革を迫る「工事進行基準」。顧客の要望に合わせて開発する「受注制作ソフトウェア」案件は、来年4月1日以降から始まる事業年度からこの会計基準に“事実上”対応しなければならなくなる。従来の会計処理やプロジェクト管理の見直しを余儀なくされるこの会計基準、その内容とソフト業界の対応状況、そしてビジネスチャンスを探った。

ソフト会社は事実上の義務化 進捗管理ツール導入も一手

分散計上の仕組みソフト開発会社にも

クリックで拡大 「工事進行基準」とは、企業が収益を計上する際の認識基準のこと。「長期請負工事」を手がける場合、決算期末に工事の進捗度を見積もり、工事(開発)案件全体の売上高、利益、原価を進捗度合いに合わせて分散計上する仕組みを指す。「工事進行基準」に対比されるのが「工事完成基準」で、これはプロジェクトが終了し、顧客企業に納入した段階で売上高や利益を一括処理する仕組み。つまり、分散計上するのが「工事進行基準」で、一括計上するのが「工事完成基準」というわけだ(図1参照)。

 「工事進行基準」は決して新しい会計基準ではない。完成基準と進行基準の両基準を企業自らが選択して売り上げ計上すればよいとされていた。慣例的に土木業や建築業では一般的に採用されていた会計基準だが、ソフト開発案件は、「長期請負工事」に該当せず、ソフト開発業界にとってはほとんど関係がないものと認識されていた。

 それが、昨年12月27日に企業会計基準審査委員会が発表した「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)で一変した。その内容では、受注制作のソフト(受託ソフト)も「長期請負工事」とみなされ、加えて、従来許されていた企業側の選択は原則認められず、特定条件を見積もることができる場合、「工事進行基準」の採用を義務付けることになった。特定条件とは、開発の1契約ごとの(1)収益総額(2)原価総額(3)決算日における進捗度の三つ。適用は来年4月1日以降から始まる事業年度からだ。

日本は受託ソフトが約9割 現状は大半が工事完成基準

クリックで拡大 日本のソフト開発業は、欧米に比べてパッケージソフトを活用した情報システム構築比率が低く、顧客の要望に合わせて開発する受託ソフトの案件が圧倒的に多い。経済産業省の調査資料「平成19年特定サービス産業実態調査」によると、2007年の国内ソフト開発売上高は10兆2607億400万円で、そのうち86.8%を受注ソフトウェア開発が占めている(図2参照)。ソフト開発会社やSIerの大半は、受注ソフト開発で収益を確保していることになる。

 その受注ソフト開発案件の収益認識基準で、日本のソフト開発プロジェクトの多くが採用しているのが「工事完成基準」。野村総合研究所(NRI)など一部の大手ITベンダーを除き、日本のソフト開発会社の大半は「工事完成基準」を採用しているのが実状だ。

 前述の特定3条件を満たせない場合は、「工事完成基準」で計上しても構わない。ただ、「ソフト開発業を営むなかで、3条件を見積もるのは最低の条件。とくに上場企業は『工事進行基準』を採用しないとは公言できないだろう」と語る、ITベンダーの会計監査に詳しい公認会計士もいる。工事進行基準は、ソフト開発業界にとって“事実上の義務”になるというわけだ。となれば、大半の開発プロジェクトの計上の仕組みを「工事進行基準対応」にしなければならなくなる。ソフト開発会社は特定3条件を正確に見積もるために、原価やプロジェクト全体の管理の厳格化を求められることになる。残された期間はあと約半年しかない。J─SOX法への対応を進めながら、「工事進行基準」の採用に向けて準備を進めなければならなくなったのだ。

ツール導入も有効 プロジェクト管理の強化にも

 ソフト開発案件の厳格なプロジェクト管理が求められる状況になったことで、注目を集めるのがプロジェクト管理ツールだ。プロジェクト全体の工事進捗度に合わせてどれほどの人件費や外注費がかかっているのか、売上高と利益を分散計上するのかを管理するために有効なツールになる。

 すでにマイクロソフトやソフトブレーン、日揮情報システムなどの開発ツールベンダーや工程管理ソフトメーカーが、この「工事進行基準」に対応するための機能を実装したツールを用意している。こうしたツールを導入することで、プロジェクトの管理体制を強化するのも一つの手になる。

 工事進行基準への対応は、ソフト開発会社にとっては開発業務の見直しを迫るキーワードだが、その一方でソフト開発会社向けツールを販売するITベンダーにとってはビジネスチャンスにもなるのだ。


工事進行基準、対応が開発競争力に

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