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大塚商会 電力の「見える化・見せる化」に商機あり 確実にコストを削減しながら「エコ」を実現

2013/11/21 19:55

週刊BCN 2013年11月18日vol.1506掲載

 大塚商会(大塚裕司社長)は、電力の「見える化・見せる化」に関連するビジネスの拡大に本腰を入れ始めた。LED照明の販売から手始めに、今では電力の全体管理や自動制御を実現する「BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)」、瞬間最大電力(デマンド値)を監視することで電気基本料金の超過を防ぐ「デマンドコントロール」、電力の無駄を発見する「スマートコンセント」などをテーマにしてさまざまな製品を揃え、SMB(中堅・中小企業)を中心としてユーザー企業に最適なソリューションを提供する体制を整えた。確実にコストを削減しつつ「エコ」を実現できることを提案して、新規顧客を開拓している。

LED照明で販売ノウハウを習得

マーケティング本部
後藤和彦上席執行役員
 これまで大塚商会は、「エコ」を切り口にビジネスの拡大を図ることに力を入れ、ペーパーレス化や電子会議、複合機のトナーセーバーなどの分野で、さまざまなソリューションを提供してきた。マーケティング本部を担当する後藤和彦・上席執行役員は、「エコをテーマにビジネスを手がけようと思えば、できないことはない。しかし、IT関連の製品・サービスでエコを実現するというのは難しい。実際、多大なシステム投資を行うことができる余裕があって、しかもエコの追求に関心が高いお客様だけが導入するにとどまっている」としている。エコの追求は企業のイメージアップにはなるが、収益に直接つながるわけではないと認識しているユーザー企業の多いというのが実状だ。「エコを追求すれば、ファシリティをはじめとして、システムやツールのリプレース、業務の仕組みを変える必要があるなど、コストがかかる。当社のメインターゲットであるSMBのお客様は、むしろエコの追求を敬遠しようとすることがわかった」と打ち明ける。

 そこで、電力の消費量を減らすことによってコストを削減し、しかもエコにもつながる商材の販売に着手することを決断した。その第一弾として、7年ほど前に、LED照明を企業に対して販売することに踏み切った。仕入れたのは、韓国ファウーテクノロジーの製品。「販売を開始した当初は、価格が高いうえに国内大手メーカーがLED照明を発売しておらず市場が存在しないという理由で、なかなか普及しなかった」。そのため、ファウーテクノロジーと交渉して価格を下げたほか、LED照明をリースで提供できる認可が下りるよう経済産業省に掛け合うなど、ユーザー企業が導入しやすい環境を整備した。低価格化とリースでの提供が実現したことで、大量に照明を取り付けている工場や倉庫、学校などから案件を獲得した。「LED直管形蛍光灯40形タイプでは、発売当時の価格は約2万円だったが、今は当社では工事費込みで5900円で提供している。リースは、譲渡つきで自社のものになる仕組みで、しかもコスト削減につながるとお客様が認識しているからこそ売れている」と説明する。


オープンBEMSの提供に着手

 LED照明の販売を経験して、エコを訴えるよりもコスト削減を前面に押し出したほうが、ユーザー企業に響くと判断した大塚商会では、LED照明による電気代の削減だけでなく、ユーザー企業が電気の使用量を把握しながら電気代の削減を実現できるソリューションの提供を模索。そのことが、電力の「見える化・見せる化」につながっている。ICTを活用したエコを実現するモデルケースづくりに取り組む産学連携のコンソーシアム「東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)」に参加していたことがきっかけで、「BEMS」をベースとするソリューションの提供に着手した。「GUTPが提唱するBEMSは、さまざまなメーカーの製品を組み合わせることができるオープンなもの。このソリューションを『オープンBEMS』と呼んでいるのだが、これによってお客様の要望に合わせた最適なシステムを提供できる」と自信をみせる。

 BEMSは、分電盤に設置したセンサでデータを収集し、建屋ごと、オフィス全体やフロア単位などで管理することができる。しかも自動で制御するので、管理するのに人手を割く必要がない。大塚商会のオープンBEMSソリューションは、価格は150万円からで、システムの規模や管理する範囲などに応じて個別見積もりとなっている。

 「BEMSソリューションを提案すると同時にコストダウンの実現を訴えている。その決め手になるのがデマンド監視装置だ」という。デマンド監視装置は、ユーザー企業が定めたしきい値に接近したら警報を発することで、デマンド値を抑えて電気基本料金の削減を実現するというもの。通常、電気基本料金はデマンド値によって料金体系が変わる仕組みになっており、一度、基本料金が上がると1年間は上がったままになってしまう。監視装置でデマンド値を常に監視しておけば、基本料金を抑えることができるというわけだ。「このようなことを知っている経営者は少ない。電力を管理すれば、確実にコストを抑えることにつながる」と訴える。同社では、BEMSによる自動制御でなく手動で制御したいというユーザー企業の要望に応え、「エコ.WebIV」という名称の監視装置を中心に据えたデマンドコントロールソリューションを開発した。BEMSとデマンドコントロールという二つのソリューションを武器に、自社ビルや工場、倉庫などをもつSMBを新規顧客として開拓。BEMSに関しては、今年6月末の時点で累計205社への納入を果たした。ユーザー企業の多くでは、1年間で10~15%の電気料金削減を実現している。



工事不要で気軽に電力を管理

 経済産業省によるBEMSの導入に対して補助金を支給する「エネルギー管理システム導入促進事業費補助金」や、エネルギー管理支援サービスを提供するBEMSアグリゲータによる積極的なコンサルティング活動なども、大塚商会が力を入れる電力の「見える化・見せる化」関連ビジネスの後押しとなった。

 BEMSはビルの電力を管理するには最適だが、「自社ビルをもたないお客様からも、電力を管理してコストを削減したいというニーズが必ず出てくる」と判断した。そこで、オランダを本拠地とするベンダーと販売契約を締結。スマートコンセントの「プラグワイズ」を昨年6月から販売している。また、今年秋には照明裏に設置して電力計測と無線でのオン・オフが可能な埋め込み型機器「プラグワイズ ステルス」、「ステルス」とアクセスできる無線スイッチと人感センサの提供も開始する。「スマートコンセントに関連する製品のラインアップを揃えたことによって、オフィスを賃借しているお客様に対しても電力を管理できるソリューションを提供できるようになった」としている。

「プラグワイズ」は、コンセントに差し込むだけで電力計測が可能な製品で、リアルタイムにデータを収集することで電力の利用実態を把握する仕組み。「ステルス」を電線に接続することによって、無線スイッチや人感センサでこまめに電源のオン・オフができる。BEMSとデマンドコントロールの二つのソリューションは、ビル自体の電力を管理するものなので、オフィスを借りている企業には不向きだったことから「プラグワイズ」を販売することになったわけだが、「オフィスを借りているお客様にとっては、工事が必要なシステムは敷居が高い」のが実際のところ。そこで、補完製品を揃えて電力の無駄を発見できる工事が不要なソリューションとして提供することで敷居を低くしたわけだ。

 電力の「見える化・見せる化」に関連したビジネスは、大塚商会にとって「これまでになかった新しい分野なので、今はチャレンジの段階」と、後藤上席執行役員は実感している。先駆者として普及に力を注ぎ、新しい市場の形成を目指す。

BEMSの提供を開始したのはなぜか――自社オフィスが大きく寄与

 大塚商会は、自身の本社ビルでLED照明化に取り組んだだけでなく、GUTPのオープンBEMSを導入して電力の「見える化・見せる化」を実現している。自社での導入を先行事例として、ユーザー企業への提案を強化しているわけだが、オープンBEMSを販売することになったのには理由があった。

 本社3階のセミナールームで、日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)のセミナーが開催され、講師に東京大学の江崎浩教授を招いた。セミナーが終了して雑談しているとき、江崎教授から「LED照明を導入する企業が多くなっている」という話が出た。それに対して、大塚社長が本社ビルの照明をすべてLED照明化していることを説明した。すると、江崎教授は大いに感心した。このことが、大塚商会がGUTPに参加するきっかけとなった。

 GUTPでは、消費電力削減による地球環境の保全と活動環境の改善に向けて、参加企業が新しい技術の研究に取り組んでいる。さまざまな製品の連携が可能なオープンBEMS向け通信規格「IEEE1888」に関与し、その規格が国際標準として認められるようになって、参加企業がオープンBEMSの研究にますます力を入れるようになった。

 ただ一つ課題が残っていた。研究だけでは普及しないということだ。そこで、販売現場でユーザー企業の生の声を知る大塚商会がオープンBEMSを市場に広めることを託された。参加企業がオープンBEMS対応の製品を開発し、それを大塚商会が販売するという体制が整ったのだ。
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<いまさら聞けないキーワード>EMS(エネルギーマネジメントシステム)

外部リンク

大塚商会=http://www.otsuka-shokai.co.jp/