AWS(Amazon Web Services)が認定する日本発のプレミアコンサルティングパートナーは、たった2社しか存在しない。そのうちの一つが、「cloudpack」のブランドでAWS関連サービスを展開するアイレットだ。実は、プレミアコンサルティングパートナーの認定基準は、「すぐれた実績を残した」という程度で、具体的には公開されていない。では、「cloudpack」はどのような実績を残してきたのか。そして、これからどのような展開をみせるのか。cloudpack事業を立ち上げた3人に聞いた。


新しもの好きが認めたクラウド

 「AWSの大きな特徴は、ベンチャー企業でも大企業と肩を並べられるところにある」と、AWSを活用したビジネスの魅力を語るのは、齋藤将平代表取締役CEO。もちろん、AWSを使えば誰でも簡単にビジネスを展開できるわけではない。アイレットの成功を支えているのは、どこよりも早くAWSに取り組んだ“新しもの好き”のベンチャー精神だ。

 「当社のエンジニアは、新しいものが出てくると、使えるかどうか、楽しいかどうかを評価せずにはいられない。AWSのサービスが北米で始まった頃から、エンジニアは個人レベルで研究していた」と、後藤和貴執行役員エバンジェリストはアイレットの企業文化を語る。ソフトウェアエンジニアが扱うインフラとして、AWSは当初から評価が高かったという。

 AWSがビジネスになったのは、2009年に開発を受託したパナソニックの欧米向けブランディングサイト「ECO Ideas」がきっかけだった。パナソニックが北米のデータセンターを希望したことから、AWSを採用。この成功によって、アイレットはAWS関連サービスのブランド名を「cloudpack」にして、ビジネスを加速していった。実に、アマゾン データ サービス ジャパンの設立前という先見の明だった。

新サービスの展開はスピード重視

 「cloudpack」の基本コンセプトを、後藤執行役員は次のように語る。「日本の企業は何を求めていて、どのような特徴があったらAWSを受け入れられるのか。さまざまな検討を経て、AWSをホスティングとして使うことをコンセプトに、ユーザー企業が直接触って操作することがないようにした。稼働後は24時間365日の運用監視サービスを提供している」。

齋藤将平
代表取締役CEO
「AWSの大きな特徴は、ベンチャー企業でも大企業と肩を並べられるところにある」

 さらに、「cloudpack」のブランドの下、日本の商慣習に合わせたサービス・商品を次々と展開している。例えば、請求代行。日本の企業がAWSの利用をためらっていた理由の一つに、ドル決済・クレジットカード払いになることがあるが、「cloudpack」は、サービスのスタート時から日本円の請求書払いに対応する請求代行サービスを提供してきた。また、使った分だけ料金を支払えばいいというのはクラウドのメリットだが、日本の企業にとっては予算を組みにくいというデメリットにもなる。この問題を解消するために、「cloudpack」はユーザー企業が社内の稟議を通しやすい定額プランを提供している。

 初期費用がかからないということも、「cloudpack」の特徴の一つだ。AWSは初期費用がかからないことから、「cloudpack」も構築や設定作業などの初期費用を基本的にゼロにした。クラウドを活用したサービスである以上、「cloudpack」でも“クラウドらしさ”を追求したのだという。

鈴木宏康
取締役CTO
「プレミアコンサルティングパートナーとして、さらなる体制強化のために社員を増やしている」

 極めつきは、ハードディスクを持ち込んでもらい、データをアップするという「ダイレクトインポートサービス」。AWSは北米と欧州、シンガポールのリージョンで同様のサービスを展開しているが、日本ではまだ対応していない。「数は少ないが、日本でも需要はある。AWSに膨大なデータをマイグレーションすると、非常に時間がかかる。インターネット越しではデータの移行が終わらないケースもある」(鈴木宏康取締役CTO)。そこで「cloudpack」では、AWS Direct Connect を利用して、ハードディスクからAWS環境にデータをアップロードする「ダイレクトインポートサービス」をスタートさせた。

 「AWSを日本の企業で使いやすいようにするために、さまざまなサービスを展開してきた。24時間365日の運用監視サービスも、ユーザー企業の『AWSの管理ができない』というニーズに応えたもの。これからも、日本の企業が求めるものをサービス化していく。それも、かなりのスピードで、いち早く提供する」(齋藤CEO)。

 サービスだけでなく、料金もAWSに追随するかたちで対応している。3月に発表されたAWSの大幅な料金値下げに対し、「cloudpack」は7月に料金改定をしている。

セキュリティでAWSを選ぶ

 クラウドの利用に二の足を踏む企業の多くが、セキュリティへの不安を理由に挙げる。AWS上で技術的には十分なセキュリティが確保されているとしても、この心理的な壁を乗り越えるのは簡単ではない。しかし、その状況は変わりつつある。むしろ、セキュリティを重視するからこそ、AWSへの移行を考える企業が出てきているのだ。

 例えば、スマートフォンやタブレット端末を使ったクレジットカード決済が手軽にできる「Coiney(コイニー)」のサービスは、セキュリティに配慮した代表的なAWSの活用事例だ。これは、高度なセキュリティ対策が求められるクレジットカード業界で、AWSが十分に活用できることを示している。

後藤和貴
執行役員エバンジェリスト
「当社のエンジニアは、新しいものが出てくると、使えるかどうか、楽しいかどうかを評価せずにはいられない」

 「cloudpack」がシステム構築をサポートした「Coiney」は、米国の主要なクレジットカード会社が定めたガイドラインによるセキュリティ認証「PCI DSS Level1」をAWSの環境上で取得した、日本で初めての事例である。「PCI DSS Level1は、普通は顧客情報を預かる事業者が取るものだが、当社もシステム環境にアクセスして運用保守を行うことから、取得が必要だった」(鈴木CTO)。この実績から、AWSのセキュリティ対策について、多くのITベンダーやユーザー企業に対してアドバイスやサポートをするようになっている。

 ほかにも、トレンドマイクロとの協業で、AWS上でのセキュリティ対策ソフトの稼働確認などを行っている。現在では、月額課金のサービスとして、トレンドマイクロのセキュリティ対策ソフトを「cloudpack」で提供している。

ベンチャー魂をもつ精鋭集団

 「最近よくいわれるのは、『お高いんでしょ』ということ。『cloudpack』は大企業の事例を多く紹介してきたからか、高価格のイメージがついてしまった。しかし、当社はベンチャー企業。企業規模や案件規模の大小を問わず、最高のソリューションを提供する」と、齋藤CEOは力を込める。AWSに関しては老舗だが、ベンチャーであることを忘れず、一人ひとりの技術力を上げていきながら、一人ひとりがベンチャー魂をもって対応する。目指すのは、「選りすぐりの精鋭集団」だ。

 「cloudpack」のスタート時からAWSユーザーグループのJAWS-UG(AWS User Group-Japan)を中心としたコミュニティ活動にも積極的に参加しており、現在も、初心を忘れずに継続している。

 それでも、2013年にAWSのプレミアコンサルティングパートナーになったことで案件が急激に増え、組織の整備に追われている。「プレミアコンサルティングパートナーとして、さらなる体制強化のために社員を増やしている」と、鈴木CTOが語るように、組織は急激に大きくなった。「少人数でやっていた頃はオールラウンダーを優先的に求めていたが、いまではインフラの運用が得意な人、開発が得意な人、AWSの料金体系を理解している人など専門分野をもつ人材についても積極的に採用している。どんな得意分野をもった人材でも能力を発揮できる組織になったので、幅広く人材を求める」と、齋藤CEOは考えている。

SIerと積極的にタッグを組む

 まずはクラウド化を検討するという「クラウドファースト」の考え方は、ずいぶん普及してきた。齋藤CEOは、その変化を、案件よりもユーザー企業の認識の変化から感じ取っている。「営業のとき、以前はAWSの説明から入って、そのうえで『cloudpack』の説明をしていた。しかし、いまは当社のサービスしか説明しないでいい。それほど、AWSは浸透している」。

 後藤執行役員も、「昨年後半から、大手SIerもAWSに本腰を入れ始めた」と、環境の変化を感じている。しかし、「cloudpack」はAWSのインフラ環境の構築や運用保守を中心にサービスを展開していることから、SIerが競合になるとは考えていない。「SIerとはタッグを組んでやっていきたい。そのためには、AWSのパートナー同士の盛り上がりをつくっていく必要がある」と、齋藤CEOは語る。とくにオンプレミスが中心だったSIerに対し、AWSのノウハウを提供していく考えだ。

 「AWSを使う人は全員が味方」と語る齋藤CEO。AWS関連の市場拡大を目指して、アイレットはさまざまな企業との提携を模索している。2013年は組織の整備に追われたが、これからはベンチャーらしく、派手な発表で世間をあっといわせたいという。これまで同様、ハイスピードの展開に期待したい。