東芝は、音声・映像活用クラウドサービス「RECAIUS(リカイアス)」を中国市場に展開する。RECAIUSは音声や画像・映像から人の意図や状況を理解し、わかりやすく人に情報を伝えるAI(人工知能)応用サービスで、東芝が独自に開発・国内で展開している。コンタクトセンターや商業施設での接客やデジタルサイネージ、工場や事業所でのIoT(Internet of Things)と連動した業務支援など、さまざまな領域で応用が可能なRECAIUSを、中国をはじめとした海外市場へ積極的に展開、ビジネスの拡大を目指す。
認識用「辞書」を迅速に、精度よく構築

東芝 インダストリアル
ICTソリューション社
沖谷宜保
IoT&メディア
インテリジェンス事業
開発室室長 東芝のRECAIUSは、クラウドサービスとして、2015年10月に国内で本格的な商用サービスを始めた。要素技術は東芝が1960年代から取り組んできた画像・音声の認識や音声合成の技術をベースとしたもので、聞き取りや読み取りに欠かせない「辞書」を迅速に、簡単に、精度よく構築できる点が大きな強みだ。
この強みを応用することで、業種・業務に最適化した認識用「辞書」を「従来の2分の1から3分の1の工数で制作できる」(東芝の沖谷宜保・IoT&メディアインテリジェンス事業開発室室長)という。この利点は、中国語をはじめとする外国語の辞書制作にも生かすことができ、海外市場への展開を容易にしている。
RECAIUSの海外展開にあたって、東芝では中国法人を通じて「各業種に強いビジネスパートナーと組み、そのパートナーがもつ業務ノウハウをRECAIUSの辞書制作に反映する」(沖谷室長)というアプローチをとる。短期間で個別の業種・業務に最適化した辞書を構築できることは、「中国のシステムベンダーのビジネスにとっても、大きなプラスになる」とパートナーにとってのメリットを前面に押し出す。
ヒトとIoTをつないで学習効果を最大化
国内では、多種多様な業種からの引き合いが急増している。ここで、具体的な応用例を挙げてみる。
●(1)コンタクトセンターや商業施設での接客、外国人向けインバウンドサービス コンタクトセンターでの初期の振り分けや、商業施設での店舗への誘導、図書館で蔵書検索の支援など、ユーザーの曖昧な問いかけにも応答可能な高度な自然言語処理で対応が可能になる。例えば、地方自治体のコンタクトセンターで「先週、この町に引っ越してきたのですが……」という問いかけに対して、RECAIUSは「住民票の異動手続きはお済みですか?」と自動応答。「まだです」と答えると「それでは、担当部門におつなぎします」と初期の振り分けを自動化する。ショッピングモールや図書館などでも、こうした応答システムが適用可能だ。
また、外国人来訪客向けの同時通訳などのインバウンドサービスにも、この音声認識や音声合成システム活用の可能性が広がっている。
●(2)製造や保守の現場における業務支援 工場や事業所、設備保守で、作業員の両手がふさがっているようなシーンでも役に立つ。現場で気づいたことをRECAIUSに口頭で伝え、文脈や意味を理解したうえで、自動的に日報を作成する。また、重大事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」をデータベース化し、口頭でRECAIUSに伝えることで、安全性や生産性の向上が実現できる。
ポイントは、「業種・業務で使う専門的な用語を理解する辞書づくり」「短期間に膨大な学習用データを作成・チェック可能な高効率クラウドソーシングの仕組み」、「東芝が強みとするIoTとの連携強化」と沖谷室長。RECAIUSによって人々の感情や意図を認識することが可能となり、さらにさまざまなデバイスから集まった情報と融合させることにより、「人を想うIoT」サービスを実現する。
●(3)デジタルサイネージなどと連動したマーケティングや販促活動 サイネージと連動可能な人物ファインダー機能では、ユーザーの性別・年齢を推測し、それぞれの属性に適したコンテンツを表示させたり、各種センサでショッピングモール内の混雑度合いや顔向きから、どの商品に関心が集まっているかを割り出したりもできる。
これらの応用例からも、深い業種・業務ノウハウをもっている領域でRECAIUSを活用することで、その特長を有効に生かせることがわかる。沖谷室長は、「業種・業態での経験が深いパートナーといかに連携するかがカギを握る」と、国内外のパートナーとの強力なビジネス連携の構築を目指している。
東芝信息系統(瀋陽)
オープンイノベーションを重視

東芝信息系統(瀋陽)
北川浩昭
董事長総経理 クラウド方式の「RECAIUS」では、オープンイノベーションを重視する。東芝インダストリアルICTソリューション中国法人の北川浩昭・董事長総経理は、「中国におけるRECAIUSの開発コミュニティの形成と活性化、日本と中国のそれぞれのコミュニティの橋渡し役を担っていく」と話す。業種・業務のノウハウをもつシステムベンダーのSE、開発者でつくるコミュニティを通じて、RECAIUSを活用するアイデアを膨らませ、実ビジネスの成長に役立てる考えだ。