三菱電機の中国販売会社である三菱電機機電(上海)(谷口豊聡総経理)は、中国市場向けに半導体やオゾナイザー、SIサービス、通信用部品などの提供や中国製部品の資材調達を手がけている。同社は、売上高が拡大して一定規模に達したことで、日本本社から財務報告統制(JSOX)への対応を要求されるようになった。財務報告統制を行うためには、ITを活用して定められた業務フローを整備する必要がある。そこで、恩梯梯数据英特瑪軟件系統(上海)(大利秀幸総経理)が提供するシステム共通基盤「intra-mart」を導入し、既存システムと連携するワークフロー環境を整備。日本本社の監査基準を満たす財務報告統制の運用実現につなげた。
システム刷新も追加開発も不可能

細野和雄・行政部長(右)と饒軍・信息系統事業部総監 日本本社から財務報告統制の話が出たのは、2013年9月のこと。これによって三菱電機機電(上海)は、適切な財務報告ができることを保証するための業務フローを整備する必要に迫られた。これにはITを活用する部分が多く、例えばシステムへのアクセス権限やアクセスログの管理などについて、定められたチェック項目を設定し、正しく実行できているかを検証できるようにしなければならない。
同社の場合、財務報告統制の対象となるのは、会計システムと売上規模が大きい半導体事業、資材事業の物流システムだった。しかし、ここ数年間で急激に売上高を伸ばしてきたことから、システムの整備が十分には追いついておらず、不備が多く、そのままの状態では財務報告統制への対応を図ることが難しかった。改善すべき部分が多くあり、システムを入れ替えるか改修を加えるかをしたうえで、財務報告対応の業務フローを構築する必要があった。
細野和雄・行政部長は、「直感として、システムの入れ替えではプロジェクトが破たんすると思った」と当時を振り返る。入れ替えの場合、日本本社は16年4月に財務報告統制の運用を開始することを要求していた。しかし、システム刷新には少なくとも1年がかかり、そこから業務フローを整備するとなると間に合わない可能性が高かったのだ。
ただし、もう一方の既存システムを改修するという手段も現実的な解決策ではなかった。既存システムは、パッケージソフトをベースに、数多くのカスタマイズを施した仕様となっており、「これ以上の追加開発を行うと、安定性に問題が生じる可能性があった」(同)という。システムの入れ替えをしない場合には、財務報告統制の運用は15年4月に開始するよう要求されていた。時間的な猶予はないうえに、選択肢が途絶え八方ふさがりの状況に陥ってしまった。
既存システムとデータ連携
そんな矢先、細野行政部長はあるセミナーで偶然、NTTデータの関係者と知り合ったことをきっかけに、システム共通基盤のintra-martの紹介を受けた。その時、intra-martのワークフロー機能を使えるのではと予感、信息系統事業部の饒軍総監に相談すると、これまた偶然にも過去にintra-martの開発経験があり、よく知っているということで、 一緒に検討してみたところ、「intra-martでワークフローシステムを構築し、これを既存システムと連携させる手段が有効であるとわかった」(饒総監)という。この場合、システムの入れ替えも改修も不要で、リスクを低減できる。
細野行政部長は、「日本のワークフロー製品で6年連続No.1の実績があり、三菱電機の日本の子会社も導入していることを知って、intra-martに命運を託すことに決めた」と語る。その後、短期間でintra-martのパイロット評価を行い、財務報告統制への対応が実現可能との判断に至った。実際のワークフロー開発は14年4月に開始し、日本本社が要求した15年4月には、財務報告統制の運用開始にこぎつけた。
ただし、これでハッピーエンドではない。15年10月に、適切な財務報告統制を行えているのかを判断する日本本社の監査が待ち受けていたのだ。ここで不合格の烙印を押されれば、これまでの努力は水の泡となる。ところが、三菱電機機電(上海)は財務報告統制の運用開始後にも、システムを利用する従業員からの要望などを受けて、追加の改修を絶えず行っていた。新たに開発している部分は、適切に統制できているのかサンプルを取ることができず、未評価のまま。細野行政部長は、「監査が近づいた時点でも、財務報告統制の項目で『未評価』が多く残っていて、intra-martを導入したから生じた事態だとの声もあった」と語る。
死力を尽くして重要な部分の改修を終え、ついに監査の10月が到来した。後は本社がどう判断するかである。結果として、監査は良好。intra-martの活用による財務報告統制の運用は成功したのだ。細野行政部長は、「ITの専門家でもなく、判断する決め手も、選択肢もないなかで、intra-martが偶然という手段を使いながら、成功という結果を招来してくれたようだ」と満足している。