Special Issue

<Special Interview>日系企業ITシステム担当者座談会 日本と異なる環境の中国でITをいかに利活用すべきか!?

2016/09/28 19:55

週刊BCN 2016年09月19日vol.1645掲載

 人的なリソースや予算、選択できる製品・サービス、そして情報。日本に比べると海外拠点におけるITシステムの利活用にはさまざまな制約がつきまとう。加えてお国柄の独自な事情もあるなか、日系企業が事業拡大や業務改善にITを戦略的に活用するにはどうすればいいのか。ITシステム部門と管理部門の担当者の方々に集まっていただき、意見を伺った。(企画・編集:BCN上海/比世聞(上海)信息諮詢有限公司)

―― 人材の流動性が高い中国で業務改善するうえでの課題はなんですか。

石田(ローソン中国) ローソン(中国)は2012年設立の中国事業統括のホールディングス会社で、中国国内における事業投資とライセンス商標管理、経営管理機能の統括を担っており、各エリアのコンビニエンスストアの店舗運営は、それぞれの独立した事業会社やエリアライセンス先の会社が手がけています。全般的にいえることかもしれませんが、設立時期、事業規模、組織体制や人材スキルも異なるため、業務のやり方が標準化されていない部分も存在します。業務の可視化や文書化は必要なことですが、なかなか進みません。私たちが、担当者の方々のモチベーションを高める動機づけや、事業会社へのメリットをうまく伝えきれていないことも一因かも知れません。業務上のどこに問題があり、どこがボトルネックになっているのか、どこをシステム化すべきなのか、感覚的なものになりがちです。

ローソン(中国) 石田剛彦 IT総部総監
駐在歴4年10ヶ月。中国に804店舗(2016年8月末現在)を展開するコンビニエンスストアの
ITシステムを統括会社として担当。

伊藤(富士ソフト中国) 流動性の問題もありますが、最近は人件費も上がってきているので属人化から標準化へ、つまり人からシステムに業務を移す必要がでてきているのは間違いないです。日本は組織として仕事を組み立てますが、中国は個人主義なので自分のテリトリーを侵食されることを嫌がる傾向はあります。ただ、それは大きなリスクと考え、業務効率の検討が必要です。

富士ソフト(中国) 伊藤将 管理部部長
駐在歴2年2ヶ月。ITベンダーである自社内でいかにITを業務に活用するかを管理部門として担当。

山本(カルソニックカンセイ中国) 数年前までは「中国は人件費が安いからITなんかいらない」なんて言う人もいましたが、今はそう言ってはいられない。当社は統括会社を含めて中国にグループ企業が15社ありますが、間接業務を中心に非付加価値な業務がたくさんある。システム化すれば省力化でき、業務効率も向上するはずです。

カルソニックカンセイ(中国) 山本毅 管理本部IT管理部部長
駐在歴2年8ヶ月。自動車部品の製造や設計開発を手掛けるグループ15社のすべての
ITシステムを統括会社として担当。

種田(住友重機械工業管理上海) 間接業務の改善を考える人が圧倒的に少ないですね。自分たちの業務に直結するシステムの要望は比較的でてきますが、例えば会議室の予約や人事通達などの社内コミュニケーションを紙で行っている事業会社もあります。間接業務を改善する仕掛けが必要だと思います。

住友重機械工業管理(上海) 種田博晶 情報システム部部長
2015年から中国駐在。中国に十数拠点あるグループ会社を中心に
管理会社として主に IT統制とインフラを担当。

石田 システム化の必要性が高い業務は、システム化を期待されるばかりで現場に委ねても進めることが難しいため、外部の人材を採用してでも業務を標準化していく必要がありますね。

―― 統括会社・管理会社として事業会社のIT利活用の促進も重要な役割ですね。

前田(上海ナブテスコ) 利益を生み出すことが最優先の事業会社において、どうしてもコストと捉えられてしまうITの新規導入や活用は難しい面も否めません。ただ、一方でセキュリティ対策の強化に関しては日本本社が求めるガバナンスもありますし、ITへの優先順位の低い事業者に対して管理会社として教育も含めた推進役がどうしても必要になります。

上海ナブテスコ 前田達佳 情報部部長
駐在歴1年。輸送機器/産業用ロボット/建設機械用の部品、
自動ドアを展開する事業会社の管理会社の立場でITシステムを担当。

種田 でも、日本が求めるセキュリティレベルを中国で実現するにはコストがかなり高くなりますよね。独自にインフラを整備していた事業会社が当社のグループに新しく加わる場合でいえば、セキュリティ関連の費用負担が10倍近くになるケースもあります。当然自前で相当レベルを実現するとそれ以上の費用がかかるわけですけど。ただ、セキュリティに限らず、事業会社が独自にITを活用するうえで課題となるのが運用です。

石田 当社もインフラやデータセンターなどセキュリティ体制上で必要な部分は統括会社が主導ですべて集約して管理しています。事業会社が利用する業務アプリケーションも、それ自体が店舗運営のノウハウの塊ですから、統括会社が統一して管理しています。例えば、ある事業会社が地元の会社と提携して、新しい決済方法を導入したいといった場合、私たちはITシステムを活用する観点から、他の事業会社への転用も視野に入れて、個別最適に陥らないよう、心掛けています。

種田 当社は基本的に日本本社が構築したアプリケーションを利用しています。事業会社にもIT担当者はいますが、十分なリソースとはいえないので個別に構築するとバージョンアップやデータ容量が増えた場合の対応など、先ほどもお話ししたように運用フェーズで苦労しますので。

―― 人的リソースをカバーするうえでもクラウドの活用は有効ではないでしょうか。

前田 中国はITシステム部門の人員が少ないので、インフラもサービスもクラウドを活用する必要性は高いと感じますね。導入時は相当の費用でオンプレミスで構築しても、運用やリプレースに対して同じようなリソースがかけられるとは限らないですから。

山本 クラウドの活用は経営戦略の一環で、グローバル戦略として選択する意味は大きい。ただ、中国は通信回線の品質がよくないうえに高い。それがクラウドサービスを活用する大きな課題ですね。

石田 クラウドを活用しても自前で管理する負担が減らせる部分があることから、基幹系はさておき、分析系の一部などはクラウドを活用しています。以前は事業会社ごとにサーバーを立てていましたが、現在は殆どを集約しています。今後はインフラとしてクラウドを積極的に活用することも考えています。

伊藤 人的なリソースを抑えよう、ローコストで運用しよう、となると必然的にクラウドになります。ただ、中国はまだ日本のように障害がすぐに復旧するとは限らないので、絶対に止まってはいけないシステムのクラウド化は段階的に進めるという判断も必要です。

種田 当社も基本的に設備は自前でもたないという方針です。新しい仕組みを検討する際は「クラウドでできないのか?」と必ず考えますね。逆に中国はファイルサーバーと会計用のサーバーぐらいしかなく、日本本社が構築したクラウド環境を専用線で利用しています。部分最適(中国最適)ではなく、全体最適(グローバル最適)がクラウドも含めてITを利活用するうえでの大前提です。

―― 中国で独自にITを利活用するうえで日本本社とのコンセンサスはいかがでしょうか。

山本 企画や実行、また予算も一定金額以内は中国現地の裁量でかなり独自に取り組んでいます。ただ、その効果は日本本社のレビューを受けますし、システム構築であれば開発プロセス、インフラであれば購入するハードなどは全てグローバルで標準化しています。それに合わない場合は結構大変ですけど。例えば、会計システムはグローバルで共通のERPを利用していますが、中国は独自の法規制もあるのでアドオンで対応せざるを得ない部分もありますから。

種田 当社もインフラ関連は日本本社で標準化していますが、ハードは中国では手に入らないケースもあるので、そこは管理会社として代替案を事業会社にアドバイスします。全体の企画や実行については基本的にそのルールに沿っていれば、日本本社が関与することはありません。そのための標準化でもありますしね。

石田 大規模なシステムの入れ替えでなければ、中国現地の決裁範囲内で実施しています。新しいITベンダー様とお取引する際などは日本本社との定期的な打ち合わせで共有しています。山本さんが言う会計システムは、確かに日本から求められる帳票と中国会計システムの帳票とは異なるため、事業会社が利用する会計システムとのデータ連携機能は独自につくって対応しています。

前田 金額面や重要度によりますが基本的には各事業会社がそれぞれ承認を受けた予算の範囲で実施していますね。中国全体に関わる場合は管理会社である当社から日本本社に申請します。

―― IT利活用のパートナーとなる日系のITベンダーに対する要望はありますか。

種田 同じ日系企業として日本本社との連携を密にとってほしいですね。当社でいえば、インフラは日本で構築していることの二次展開ですから、中国で初めから説明する必要がないように、と。

前田 部分的な提案ではなく、もっと全体的な提案やメニュー体系が揃っているといいですね。特に海外拠点ではサービスをワンストップで提供できるベンダーがいると助かります。

石田 システムの販売だけではなく、現場で業務の改善や支援を行っていただけるベンダーは非常にありがたいです。それでは社内にノウハウが残らないという意見もありますが、人材の流動性が高い中国では人を育てることが難しく、また人に依存してしまった場合のリスクも大きいです。会社対会社であれば、業務やサービスの継続性は担保されますので、必要に応じて使い分けることも有効でしょう。

―― ありがとうございました。
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