SAPジャパンは6月6~7日の2日間にわたって、都内で「SAP TechDays Tokyo 2017」を開催した。文字通り、SAPが開発している技術の最先端と、その活用事例を発表するイベントだ。初日の6日は、「SAP IT Leaders Summit」と銘打ち、ビジネスのデジタル化を志向するユーザー企業の経営層向けプログラムを展開した。インメモリプラットフォーム「SAP HANA」の先進活用事例などを数多く披露するとともに、デジタルトランスフォーメーションの必要性を説き、その実現に向け、示唆を与えるようなコンテンツが目立った。

いまや、テクノロジー/プラットフォーム/クラウドの会社へ

SAPジャパンの鈴木正敏
バイスプレジデント
プラットフォーム事業本部長

 SAP IT Leaders Summitの基調講演に先立って、SAPジャパンの鈴木正敏バイスプレジデントプラットフォーム事業本部長が登壇し、イベントの趣旨を説明。加えて、「初日のSAP IT Leaders Summit、2日目の技術者向けプログラム『SAP Tech JAM』を合わせ、当初見込みの約3倍の規模となる1500人から参加申し込みがあった。徹底的にテクノロジーにフォーカスして、テクノロジーがいかにビジネスに貢献できるか、事例も交えて紹介していく。SAPはERPの会社だったが、いまや、テクノロジー/プラットフォーム/クラウドの会社になったことをぜひ感じていただければ。営業活動というよりも、最先端の有益な情報をお届けすることで、パートナー、お客様のお役に立ちたいと思っている」と語った。

データを洞察に変えられなければ、恐竜のように滅びる

 基調講演ではまず、主催者側から、SAPでSAP HANAを中心としたデータプラットフォーム製品部門の責任者を務めるグレッグ・マクストラヴィック SAPデータベース&データマネジメント・プレジデントが、「デジタルビジネスがあたりまえになる時代に向けて、今からデータを刷新する」と題して講演した。
 

SAPのグレッグ・マクストラヴィック氏

 マクストラヴィック氏は冒頭、「カオス理論(あまりに複雑な因果関係の上に成り立つ現象は結果が予測できないとする理論)」について触れ、「インダストリー4.0の世界では人やモノが相互につながり、さまざまなところに新しい大量のデータが生まれている。それを活用することで予測可能なことは従来よりもずっと多くなっている。ただし、既存の企業システムであるSoR(Systems of Record)にあるデータは全体の10%に過ぎず、残りはどこにあるかわからない。こうした状況は、あらゆる産業にとって脅威であり、チャンスでもある。データを洞察に変えられる企業が勝ち、そうでない企業は恐竜のように滅びるかもしれない」と指摘した。

 また、デジタルトランスフォーメーションを実現するための方法論として、SAPが提案する「バイモーダルIT」についても解説。「まずはモード1で、機械学習やAIをアプリケーションに埋め込み、既存のビジネスプロセスの生産性を飛躍的に向上させる。そしてモード2で、人、モノ、業務をつないでさまざまなデータを収集・活用し、競争力のあるビジネスを試行錯誤しながらつくりあげていくことで、ビジネスはデジタル化できる」とした。

 加えて、「モード1とモード2の両方をカバーできるモダンなデータプラットフォームが必要であり、従来型のRDBでは不十分だ」との見方を示し、SAP HANAこそが解になると強調。モード1、モード2の両方に対応、膨大かつ多様なデータをリアルタイム、フリクションレスに収集、処理し、スピーディなアクションにつなげていくためのプラットフォームとして、独自の価値を提供していることをアピールした。

ビジネスを再発明して大きな成長を実現できるチャンス

 特別パートナー講演では、インテルのアンドリュー・ムーア デジタル・トランスフォーメーション・オフィス ジェネラル・マネージャーが登壇。「The Vortex of Change~ビジネス変革の波」をテーマに講演し、デジタル時代を勝ち抜くためにはテクノロジーと人材への投資が不可欠であると訴えた。
 

インテルのアンドリュー・ムーア氏

 ムーア氏は、「調査会社などのデータによれば、フォーブス・グローバル2000のCEOの70%が2017年までに戦略の中心をデジタル変革に移行しようとしているなど、われわれがいま第4次産業革命という、大きな変革の時代を生きていることに疑いはない。しかも、いま見えている変化はほんの始まりに過ぎない」としたうえで、「多くの企業は、従来のビジネスの競争と、デジタルビジネスの新しい競争の板挟みになっている。しかし、これは視点を変えればビジネスを再発明して大きな成長を実現できるチャンスでもある」と語った。

 さらに、方法論として「共有、循環型、共創、新しいライフスタイル提案、UXの向上といったニューエコノミーのビジネスモデルを取り入れ、企業文化を変え、人材を育て、それらを支えるデジタル基盤を経営層が主導して整備していくことが重要」との見解を示した。
 
■特別インタビュー

SAP HANAはSAPとインテルの強固なパートナーシップの成果

 SAPは、特別パートナー講演を担当したインテルと長年協業してきた。SAP IT Leaders Summitでともに登壇し、日本のユーザー企業経営層にデジタルトランスフォーメーションの必要を訴えたSAPのグレッグ・マクストラヴィック SAPデータベース&データマネジメント・プレジデント、インテルのアンドリュー・ムーア デジタル・トランスフォーメーション・オフィス ジェネラル・マネージャーに、両社の協業の歴史や今後の事業展望などを聞いた。
 

デジタルトランスフォーメーションを支えていく

――まずはムーアさん、SAP IT Leaders Summitの特別パートナー講演で、インテル代表で登壇したあなたが、マイクロプロセッサーの話をせずに、デジタルトランスフォーメーションの話だけだったのは驚きでした。
 

インテルのアンドリュー・ムーア氏

ムーア(インテル) もちろん、製品の話をしようと思えば一晩中でもできますよ(笑)。しかし、われわれは市場が大きく変わったと認識しています。デジタルトランスフォーメーションは、企業の役員室の中から始まります。テクノロジーへの投資が経営層の協議の場で決まっていますから、ベンダー側のメッセージも、いかにCxOに刺さる話をしていくかという視点で変えていかなければなりません。つまり、IT部門やアーキテクトの方々に発信するのとはまったく違ったレベルの話をしないといけないということです。

――インテルは近年、SAPのように、従来の重要パートナーであるハードウェアメーカーとは違うレイヤのITベンダーと積極的に協業している印象があります。これもよりエグゼクティブ向けのメッセージを重視していることと関連しているのでしょうか。

ムーア SAPとの協業におけるインテルの目下のフォーカスは、SAP HANAです。もともと開発の段階から強いつながりがあって、SAP HANAの基本のデザインはインテルのマイクロプロセッサーベースでつくられています。製品開発の段階から非常に緊密に連携し、非常に革新的な成果を得たと思っています。現在では、営業、マーケティングも含め、協業の範囲は川上から川下まで及んでいます。しかし、その背景には、20数年にわたる長い協業関係があるのです。市場が変わっても、ともにイノベーションに取り組む大事なパートナーとして、皆さんのデジタルトランスフォーメーションを支えていくという共通のメッセージを発信していくことは、大事なことだと考えています。

――インテル自身が率先して取り組んでいるデジタルトランスフォーメーションの事例はありますか。

ムーア 例えば、先日、運転支援システムベンダーのモービルアイの買収に取り組むことを発表しました。BMWとも連携し、自動運転の技術開発には注力しています。数年前であればインテルがこんな取り組みをするなんて市場の誰も想像しなかったでしょう。AI分野でも、Saffron、Nervanaといったすぐれた技術をもつ企業を買収し、インテルの製品ポートフォリオのキャパシティを拡大しています。また、当社自身の営業組織も、サーバーメーカーごとの担当だけでなく、産業ごとの営業組織もつくり、製品の話だけでなく、デジタルトランスフォーメーションを実現するための提案ができるような人材・体制整備を進めています。

新世代のアプリケーションに必要なプラットフォームを構築

――今度はマクストラヴィックさんにうかがいますが、SAP HANAは開発段階からインテルと深く協業してきたというムーアさんからのお話がありました。あらためて、SAP HANAはどんな競争優位性を実現した製品なのでしょうか。
 

SAPのグレッグ・マクストラヴィック氏

マクストラヴィック(SAP) SAPはご存知のとおり、データベース(DB)からスタートした会社ではありません。ERP市場で、産業ごとの深い知見を蓄えながらビジネスをしてきたという歴史的背景があります。結果的に、非常にすぐれたビジネスを手がけているお客様をたくさんもつことができ、彼らの要望に応えるというかたちで、いわばお客様と一緒に、新世代のアプリケーションに必要なプラットフォーム製品をつくりあげたという感覚があります。SAP HANAの最大の強みはそこにあると思っています。

――とはいえ、インメモリ技術だけでいうと、フォーカスしているのはSAPだけではありません。

マクストラヴィック HANA以前のインメモリ技術やカラム型のRDBとはまったく違う、スケーラブルで膨大なデータボリュームに対応できる新しい製品をわれわれはSAP HANAとしてつくりあげたわけです。もともとストレージなどに使われていたインメモリ技術は非常に高コストで複雑で使いにくいものでしたが、価格を含めて、非常に扱いやすい製品になったと自負しています。やはりこれを先行してつくり上げたメリットは大きくて、SAPの後をさまざまなベンダーがついてきていますが、われわれはそれ以上の速さで進んでいますから、アドバンテージは小さくなっていないと思っています。

――SAPのIoT関連ポートフォリオとして、「SAP Leonardo」を正式に発表されました。機械学習、IoT、ビッグデータ、アナリティクス、ブロックチェーンなどの機能が含まれるようですが、これは今後どのようなかたちで製品として提供されていくのでしょうか。SAP Cloud Platform上で、パッケージ・ソリューションのようなかたちで提供するのでしょうか。

マクストラヴィック そのとおりです。1年前のSAP Leonardo の概念はIoTプラットフォームのようなものでしたが、そこからかなり変わっています。現時点では、個別のユースケースやデザイン思考による新しいビジネスの創造に、それぞれの機能をケースごとに組み合わせて活用していくという使い方が中心ですし、それが本来の使い方でもありますが、各機能群をもう少しユニット化してパッケージ的に提供していくという流れも出てくると思います。

市場とユーザーを理解したソリューションの提供へ

――SAPとインテルの協業には、どんな意味があるのでしょうか。

ムーア SAPが非常に強いのは、市場とお客さんを非常に深く理解しているところです。それが背景にあることから、SAPとの連携によるプラットフォーム製品開発は、顧客の成果が出るということを立脚点に、開発・設計されるのは大きなメリットです。マイクロプロセッサーだけでなく、インテルはパーシステントメモリという不揮発性のメモリの新製品も開発中で、これは従来のメモリの構造を変えて3D構造にしたものです。メモリも大容量化するし、SAP HANAのようにメモリのなかにデータを蓄積し、そこで処理していく技術にマッチした製品が、来年には出てきます。IoTについても、さまざまなユースケースの開発を本社同士で共同で進めています。

マクストラヴィック インテルはもはやソリューションの会社。インダストリーカットの営業組織ももっています。そういう会社とエンジニアリングレベルの協業を長年してきているというのがわれわれの資産であり、これから両社の協業の成果も大いに期待できると思っています。
 

固く握手するインテルのアンドリュー・ムーア氏(左)とSAPのグレッグ・マクストラヴィック氏