Special Issue

日本オラクルのクラウドプラットフォーム戦略

2017/09/07 09:00

週刊BCN 2017年09月04日vol.1692掲載

包括的なサービス提供で他社との差異化を図る

 クラウド事業で独自色を強く打ち出している日本オラクル。 SaaSとPaaS、IaaSの各サービスをそろえ、包括的なクラウドサービスを提供している。クラウドベンダーの勢力図もある程度固まってきたなかで、本格参入した狙いや意義はなにか? 「Oracle Cloud」のサービス戦略、販売強化に向けたパートナー戦略について、Cloud Platformビジネス推進本部の佐藤裕之・クラウド・テクノロジー事業統括Cloud Platformビジネス推進本部本部長と林徹・アライアンス事業統括クラウドアライアンス推進本部本部長に聞いた。

基幹系で圧倒的な実績をもつ
オラクルならではの強みを発揮 

佐藤裕之
クラウド・テクノロジー事業統括
Cloud Platformビジネス推進本部
本部長

 「PaaSは3年前にスタートし、IaaSはスタートして約1年だが、それぞれ手応えは十分に感じている。現在のクラウド市場全体の平均的な伸び率である30%を上回る成長は確実に達成していけると確信している」と佐藤本部長は宣言する。

 日本オラクルは、「2020年までに日本市場においてNo.1 クラウドカンパニーになる」との目標を掲げ、サービスラインアップの充実を進めている。
IaaSについては、既存のIaaSに足りなかった要素を付加し、エンタープライズ領域においても安心して使えるサービスとして設計されており、これまでクラウド化に慎重だったミッションクリティカル、かつハイパフォーマンスな基幹系システムのクラウド移行を推進する。

 「オラクルのサービスの一番の特徴は、オンプレミスで使っていたものをすべてクラウドで使えることを保証していること。既存のSIパートナー様にとっては、オンプレミスのSI技術を生かし、これまで蓄えた業務知識をフル活用してもらえる。それに加えて、他社にない“プラスα”を備えることがわれわれの強み」と佐藤本部長は強調する。

 オラクルは16年9月にIaaSとしてベアメタルクラウド「Bare Metal Cloud Services」を発表。17年1月には「Oracle Database Cloud Service」でベアメタルを選べるようにサービスを拡張した。

 基幹系システムのクラウド移行を考えた時、可用性とパフォーマンス面からベアメタルクラウドは重要な要素といえる。「Bare Metal Cloud Services」は、高可用性を確保するため、独立した三つのAvailability Domain構成で、各リージョンを低レイテンシで結ぶネットワーク接続を保証する。データセンター内でもメッシュ型ネットワークを採用している。

 「オンプレミスの基幹系システムといった大規模なワークロードの移行に対応できるエンタープライズ向けの仕様となっている」と佐藤本部長は説明する。

 さらに、16年2月に買収したラベロ・システムズの技術を採用する「Oracle Ravello Cloud Service」では、オンプレミスで稼働するVMware環境を丸ごとクラウドに移行できるサービスを提供する。

 オラクルの特徴的なサービスに「Oracle Cloud at Customer(Cloud at Customer)」がある。Cloud at Customerは、ユーザーが自社DC内でOracle Cloudの機能を利用可能としながら、運用はオラクルが担い、サブスクリプションで提供される。Oracle Cloudと同じハードウェア「Oracle Cloud Machine」が自社DCで稼働するのでレイテンシがなく、大切なデータは自社内に置くことができる。
 

 佐藤本部長は、「金融、メーカーなどに採用が目立つ。バッチ処理など、特定の期間だけピーク性能を要求されるような業務に、柔軟に対応できる点が評価されている。また、BCPの一環としてのニーズもある」と強調する。

50種以上の豊富なサービス
ミッドレンジにニーズが急増

 PaaSでは50種以上の豊富なサービスをラインアップする。オンプレミスでは初期費用が必要な「Oracle Database」も、クラウドでは従量課金のため、導入のハードルが低くなるため、ミッドレンジ層の関心も高くなっている。

 「簡単に導入できて、すぐに使いたいという要望が多いミッドレンジでとくに目立つのは、ファイル共有やBI系のサービス」(佐藤本部長)という。
 一方、パブリッククラウドの利用拡大に伴って、クラウドやオンプレミスに分散するシステムの監視/管理という課題が生じる。それを解決するサービスとして「Oracle Management Cloud」を提供する。また、今年1月30日には、クラウド型のID管理サービス「Oracle Identity Cloud Service」の提供開始を発表。昨年9月に買収したCASB(Cloud Access Security Broker)ベンダーであるPalerraの技術を採用した「Oracle CASB Cloud Service」も合わせ、クラウド環境のセキュリティを強化するサービスが揃う。

 IoT分野では、さまざまな機器データの相互関連づけや分析などのIoTテクノロジーを提供する「Oracle IoT Cloud Service」や、買収したApiaryの技術を統合したAPIのマイクロサービス「Oracle API Platform Cloud Service」を用意する。

 「クラウドサービスはイニシャルコストを抑えて即座に導入できるし、クオリティも高い。ダメなら止めることも容易なので、まずは一度試してみることをお勧めしたい。また、サンフランシスコで10月に開催するOracle OpenWorldで新サービスも発表される、ぜひ期待してほしい」と佐藤本部長はアピールする。

パートナーが大幅に増加
クラウドの利点を生かした提案

林 徹
アライアンス事業統括
クラウドアライアンス推進本部
本部長


 Oracle Cloudのさらなる販売拡大にはパートナーの力が欠かせない。日本オラクルでは、16年2月にパートナー企業のOracle Cloudによるビジネス成長を加速するため、新プログラム「Oracle PartnerNetwork(OPN)Cloud Program」を発表。クラウドに特化した専門知識や実績にもとづいて4段階を認定し、それに応じたさまざまな特典を提供するとともに、業種特化型ソリューションの展開を支援する。

 「現在、パートナーは前年比260%で増加しており、このままのペースでいけば当初の計画通り、17年度中に500社を達成できる見込みだ」と林本部長は力を込める。

 パートナーに偏りはなく、地方の有力なSIerの参加も多い。また、地方ユーザーにも容易にアプローチができるクラウドならではの利点に目をつけて、東京の販社が新たに参加するケースもあるという。

 「クラウドの場合、アプローチからクローズまでの期間が圧倒的に短い。3回の商談でクローズできるし、短期導入をサポートするために業界別のテンプレートも提供しているので、インプリメントも3か月程度ですむ」と林本部長はメリットをアピールする。

MSPプログラムが始動
基幹系の移行も視野にした提案

 さらに、日本オラクルではOPN Cloud Program認定パートナーのなかで、とくにオラクルおよび第三者システムを「Oracle Cloud Platform」に構築、導入、実行、管理するために必要なスキル、ツール、プロセスをもつパートナーを認定するプログラム「Oracle Cloud Managed Service Provider(MSP)プログラム」をスタートさせた。17年4月24日には、同プログラムにもとづき、国内主要パートナー企業14社がOracle Cloudと自社製品・サービスを組み合わせ、独自のソリューションを提供することを発表している。

 「すでに各社が積極的に取り組みを進めている」と林本部長は説明する。

 具体的には、NECはOracle Cloud Machineを使用した顧客へのサービス提供とアナリティクス分野でのサービス提供を開始した。

 また、新日鉄住金ソリューションズは、包括的ITアウトソーシングサービス「NSFITOS(エヌエスフィットス)」の一環としてOracle Cloudを自社DCから提供し、基幹システムのクラウド移行を支援することを発表している。

 MSP以外の取り組みとしては、富士通がOracle Cloudを提供する国内DCの稼働を開始し、国内DCでOracle Cloudを利用したい顧客に好評という。

 アシストは、Oracle Databaseのバージョンアップに不可欠な「SQLテスト」を効率的に実施するためOracle Cloudに包含される簡便なテストツール「Oracle Real Application Testing」を活用。複数の顧客で、SQLテストの工数削減と品質向上を同時に実現している。

 「ミッションクリティカルなシステムもクラウドへの移行が始まろうとしている。ちょうど、Oracle Exadata X2、X3が更新期に入っているので、それに合わせて従来のオンプレミス提案だけでなく、新たな選択肢としてExadata Cloud Service、またはExadata Cloud Machine at Customerに運用サポートをセットにして提案できるいい機会になるはず」と林本部長は訴える。

 あえていえば、基幹系のクラウド移行を検討している企業は流通系が多いという。この業界はシステム運用管理の手間を軽減し、本業に専念したいと志向する企業が多いためだ。

中小SIerにも大きなチャンス
クラウドなら直接案件の獲得へ

 商材としてのOracle Cloudの活用は、技術をもつ中小SIerにとっても新たなチャンスとなる。オンプレミスの時代、大型案件は大手の2次請けになるケースがほとんどだった。だが、クラウド案件なら、直接、案件を受けることも可能になる。

 林本部長は、「インプリメントなど構築の実務を担ってきたのは中小SIerであることが多い。そのため、高い技術力に加え、顧客の業務にも精通していることが大きな強みとして生かせる。実際、その技術力を背景に、われわれもサービスに関する改善など、逆提案を受けることも少なくない」という。

 日本オラクルでは、OPN Cloud Programの一環として、専門領域のトレーニングや専門知識をサポートするためのリソースを提供しているが、なかでも、トレーニングが中小のSIerに好評という。

 林本部長は、「SaaSのインプリメントを対象とした新たなパートナープログラムとして『Oracle Cloud Excellence Implementer Program(CEI)』を発表した。ぜひ、技術を生かして、ビジネスの拡大につなげてほしい」との考えを示している。

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外部リンク

日本オラクル=http://www.oracle.com/jp