昨年8月に、世界最大チップ搭載のAI深層学習向けコンピュータシステム「CS-1」を開発・発表して大きな注目を集めた米国のスタートアップ企業Cerebras Systems。同社は8月7日に100%子会社のセレブラス・システムズ合同会社を設立し、日本でのセールス、マーケティング活動を本格的にスタートさせた。江尾浩昌・代表執行役社長にCS-1がAI市場にもたらす可能性、日本での具体的なビジネス展開とパートナー戦略について聞いた。

江尾浩昌
代表執行役社長

数週間掛かるニューラルネットワークのトレーニングが数時間に短縮

 超高速ディープラーニングシステムのCS-1を開発したCerebras Systemsは、2016年にAIのワークロードを加速化することを目的に設立した米国のスタートアップ企業。250人の社員の多くをコンピュート・システムのパイオニアやコンピュータサイエンティスト、ディープラーニング・リサーチャーなど、ワールドクラスのハード/ソフトのエンジニアが占める。

 CS-1は、ディープラーニング専用に設計された21.5cm角の大型半導体「WSE(Wafer Scale Engine)」を搭載、積和演算を実行する40万個のコアと18GBのSRAMのオンチップメモリを実装する世界最大のコンピューターチップ。設置面積は標準19インチラック15U相当、最大消費電力は20KWと、従来システムに比べ大幅な小型化、低消費電力化を実現した。

 「15Uの筐体に40万コアを搭載した世界でもっとも集積度の高くパワフルなAIスーパーコンピューターであり、GPUクラスタの構築の手間やスケールに限界を感じていたユーザーは、設置から利用するまでの総合時間で数週間だった研究開始期間が数時間まで短縮することもできる」と江尾社長。

 米国では、6月にPSC(Pittsburgh Supercomputing Center)が2台のCS-1の導入を決定、HPEのハードと組み合わせた80万コアのAIスーパーコンピューターを構築することを発表している。このシステムは米国の国立科学財団の支援を受け、今年末までに利用可能になる予定だ。また、米エネルギー省傘下のアルゴンヌ国立研究所では、CS-1を新型コロナウイルスのワクチン開発に利用することを発表している。

 「Cerebrasの技術は、決してスペックだけが先行した絵に描いた餅ではなく、すでに最先端の研究開発への採用など、実績が積み上がっている」という。
 

日本法人の設立で、市場開拓とユーザーのPoCをサポート。パートナー連携を積極的に進める

 WSEおよびCS-1の日本での拡販を目指して設立した日本法人のセレブラス・システムズ。社長に就任した江尾氏は、NetApp出身で、Isilon Systems、Fusion-io、Scality、Cohesityといったストレージ関連企業の日本法人代表を歴任してきた。

 膨大なデータをためるシステムから、テータ活用を即すためのシステムを提供するCerebrasの立ち上げを手掛ける理由について、江尾社長は「日本市場は新技術に対して慎重派が多くを占める。しかし、昨今のグローバル競争の中でDXを推進していくには、先進技術を持つ海外ベンダーの積極的な活用が不可欠だ。すでに膨大で有益なデータは企業内に存在しているので、いかに効果的、効率的に活用できるかに目を向けるべきだ。そうしなければ2025年の崖に向かうことになりかねない」と語る。

加えて、「私の役割は経験を生かして、革新的なCerebrasの技術をいち早く確実に日本市場に合う形で浸透させていくこと。本社に日本市場の独自性を理解させて品質や製品開発の向上をさせる活動も含めて、成長が期待される国内AI市場の発展にも寄与したい」との考えを示す。

 IDCでは、20年の国内AIシステム市場規模を1172億1200万円と予測。19~24年の年間平均成長率は33.4%で推移し、24年に3458億8600万円になると予測する。

 現在、Cerebrasの購入を検討しているのは学術・研究機関、データセンター事業者のほか、膨大なデータをフルに活用する大手製造業、通信事業者が中心だ。

 「まずは、そのアーリーアダプター層へのアクセスから取り組むことになる。日本法人の当面の活動は市場開拓とユーザーのPoCのサポートだが、そのためにもパートナーエコシステム形成は不可欠と考えており、積極的にアプローチしていきたい」という。

 すでに、Cerebras Systemsと販売代理店契約を結んでいる東京エレクトロンデバイス(TED)はCS-1の受注を開始し、サーバー、ネットワーク、ストレージを組み合わせたシステムとして提供している。また、検証、導入、構築をサポートするため「TED AI Lab」も今秋オープンの予定だ。

 守秘義務のため多くは話せないとしながらも、「すでに日本でも先行する形でメディアや製造業など、数社でのPoCが進んでいる。その過程で得られた日本のユーザーの声をしっかりとCerebrasにフィードバックしていく」と江尾社長。

 Cerebrasでは、現在使われている機械学習のフレームワークでもWSEをプログラミングできるよう「Cerebras Software Platform」を提供している。TensorFlowやPyTorchといった主要なマシンラーニングフレームワークを統合するため、従来のワークフローを変更せずに学習ができる。また、ユーザー側でオペレーションをカスタマイズしたいというニーズに対応してAPIも用意。ディープラーニング以外の分野へのWSEの拡張を可能とする。

 「AI、ディープラーニングを手掛けるSIerだけでなく、GPU製品を取り扱っている販社の方々ともぜひ、さまざまな形で連携を強めたい。PoCなどで必要があれば、TEDさんのラボの活用など、パートナー同士の連携を橋渡しする」と江尾社長はアピールする。