コロナ禍で急きょ、多くの企業がテレワークに対応するためWeb会議ツールを導入した。だが、急ごしらえの環境は特に音声品質が原因でコミュニケーションの妨げになるほか、生産性を低下させるなど、新たな課題となり、見直しを検討する企業も少なくない。そこで今回、多くの企業にテレワーク環境の導入を後押ししてきた総務省テレワークマネージャーの家田佳代子氏と、100年近く歴史を持つ音響メーカーとして、近年は会議用マイクロホンシステムで世界的に認知されているShureの日本法人、シュア・ジャパンの大友裕己・インテグレーテッドシステムズ シニアディレクターの対談を通じて、働く場所によって情報量の格差が生まれない環境を実現するためのオンライン会議用設備の在り方を探った。

総務省テレワークマネージャー家田佳代子氏(左)と
シュア・ジャパンの大友裕己シニアディレクター

音響システムの差が、働く場所による情報量の格差につながる

--コロナ禍以降、働く場の多様化がより一層、進みました。理想は、オフィス、在宅、サテライトなどの働く場で情報量の格差がない環境の実現ですが、実態はいかがでしょう。オフィス/ワークプレイスの再編成に取り組む企業は増えていますか。

家田 まず、テレワークの増加で、仕事に不慣れな若手を中心に、気軽に声を掛けて教えてもらえる人が身近にいないことが大きなストレスになっているという実態があります。これは企業規模に関係なく多く見られますし、いくらWeb会議ツールで常時接続していても、回線や音声品質の問題でコミュニケーションの課題はうまく解消できていないようです。コロナ禍が始まった2020年の春に急遽、テレワークに対応した企業では、今になってこうしたWeb会議におけるコミュニケーションの課題に対応すべくオフィスを移転実施し、そのタイミングで会議室など働く場の見直しを進めているという声を数多く聞いています。

大友 これまで同じ室内で成立していた会議から、デバイスを通じて、本社の会議室と各拠点、自宅などとつないで、コミュニケーションを成立させる分散環境への変更を余儀なくされており、この対応は簡単ではありません。一番の問題は「リモート参加者が、会議室の発言を聞き取れないこと」に尽きます。元からコロナ禍対応予算を確保していた企業はないので、緊急避難的に会議室の広さを無視して、安価で簡単に設置できる製品を導入した企業も多い。すると、テーブルの端で音声が届きにくい、アクリル板を挟むとさらに聞き取ってもらえない、でもハンドマイクは感染予防対策のための消毒が手間で避けたいなど、音声に関する課題が生産性にも影響しているという悩みを耳にします。

--Web会議ツールや会議室の音響システムをどう活用すれば、コミュニケーションを円滑にして、生産性向上や新しいアイデア、創造性に結び付けていくことができると思いますか。

大友 情報量の格差を生まない環境をつくる上で大切なのは、例えば、目的がプレゼンなのか、ディベートなのかなど、どの部屋でどの会議を行いたいのかというニーズ評価を行うことです。その上で機器の選定をしなければ、最適な環境は構築できません。実際、多くの企業で会議室と音響システムとのミスマッチを起こしており、それが情報量の格差につながるケースは多く、こうしたご相談が当社へ数多く寄せられています。決して、高価な製品を導入すれば良いということではないのです。

家田 大手では、以前は会議をオンラインでつなぐ機会も限られていたため、テーブル中央のマイクの前に集まって声を張り上げて何とかなっていましたが、今は多人数の会議も頻繁にWeb会議で行うので、こうしたスタイルも無理ですよね。今では同じ会議室内なのに離れた席の人はスマホでつなぎ、それに向かって発言しているような企業もあり、見直ししたいというニーズは多い。中小企業では会議室の見直しに補助金が出るので、それを使って会社と自宅のハイブリッドでつなぐコミュニケーション環境の整備に取り組みたいと相談を受けることもよくあります。音声については、企業規模を問わず、最優先事項の一つとして見直しを図っているようです。
 
「オンライン会議用設備を見直したいというニーズは多い」と語る家田氏

--実際、ハイブリッド会議(会議室とリモート)の困りごととは、どのようなことでしょう。

大友 当社が2020年12月に実施した調査(対象者は日本で企業に勤務する1000人)では、オンライン会議で起こるトラブルの上位は、「会議内容の理解が浅くなる」「生産性の低下」でした。聞き取れないので聞き直したり、会議が長引いたり、フォローアップの会議が増えたりということで生産性が低下するのです。また、経営層は顧客からの信頼の低下、売り上げの低下を心配しています。

家田 経営層は以前、テレワーク化で交通費が削減できることで、喜んでIT投資をしました。それが一巡して、オンライン会議システムの品質を改善して生産性を向上させたいがどうすればいいか、という相談を受けます。

大友 音響システムは、今ではIT部門の管轄(情報システム部門)です。こちらは米国で実施した類似の意識調査結果ですが、IT担当者のうち82%がディスプレイの購入を計画しているのに対し、会議利用者のうち67%は音声品質の改善が会議の成功にとって重要と回答しています。会議室の利用者自身は映像機器の改善(55%)より音響の改善(95%)の必要性を感じているなど、ギャップが出ている。顔がはっきり見えるようになっても声が聞き取れないことの方が大きなストレスなのです。
 
現場ユーザーは映像よりも音響の改善を重視

--若手などは、音声が聞きづらいとはいい出しにくいのでしょうか。

大友 会社の文化もありますが、(疎外感を感じやすい)リモートの方、若手の方は聞き取りづらくても流してしまい、それをストレスに感じることもあるようです。しかし、それは本来、本人の能力とは関係ない部分ですから、設備やコミュニケーションを語る上で見過ごしてはならないと思います。

ユーザー、SIer、メーカーの3者がワンチームとなって目標に向かう

--システム導入を担うSIerに、ユーザーはどのようなことを求めていますか。

大友 販社やSIerの提案を頼るだけでなく、ユーザー自ら製品やテクノロジーの情報を調べて提供元のメーカーに直接、問い合わせするパターンが増えています。その問い合わせいただいた製品をユーザーのニーズに合わせてソリューションの形にしてお届けするのがSIerの役割です。そこで、ユーザー、SIer、メーカーの3者がワンチームとして、一つの目標に向かって動いていくことが一番大切です。当然、ユーザーは目的を明確化した上で、SIerと予算、工期、優先順位をしっかりすり合わせる作業が不可欠で、そこがぶれると失敗の原因になります。

家田 実際、ユーザーの方々からは各社の製品を調べ上げた上で、どれが良いですかと聞かれるケースが増えています。最近は補助金を使いたいというニーズも多いのですが、補助金を使うにはメーカーではなく、SIerを通じてしっかりシステム構成図も作成して申請しないと承認がおりませんよとアドバイスしています。

--目的を明確化せずに導入してしまい、失敗するケースも少なくないのでしょうか。

家田 はっきりいって多いですね。そうした企業のリモートワークは後戻りしています。音声がうまく聞き取れないので出社に切り替え、コロナのぶり返しでまたリモート対応という繰り返しをするケースが少なくありません。

--システム導入を担うSIerに対して、Shureはどのようなサポートをしているのでしょうか。

大友 大きく、ビジネスプロセス面と製品面があります。ビジネスプロセスでは、ニーズ評価から、設計、契約、構築、設置、検収、導入後サポートというプロセスのうち、特に、評価から設置までの期間をできるだけ短縮したいというニーズが高い。そこを当社の専門スタッフが一貫性を持って対応し、日本全国でSIerの方々をしっかりとサポートします。製品面では、単に製品を供給する側面以外でも、製品そのものの工夫で導入工程を支援する新しい考え方を採用しています。現状の会議室向け音響ソリューションの多くは、簡易的なオールインワンの機器か、大掛かりなシステムインテグレーション(システム設計や高度な音響調整を伴う導入)が必要なシステムかのどちらかというものでした。そこで昨年、「Stem Ecosystem」という、コストを押さえながら高い品質を担保できる中間的なソリューションを発表しました。SIerの方々にとっても短期間で導入でき、手離れも良い製品としてビジネス拡大に寄与できるものと自負しています。
 
「SIerのビジネス拡大に寄与できる」と語る大友氏
 
Stem Ecosystem

最適なオンライン会議環境を簡単に構築できる「Stem Ecosystem」

 会議用途や空間規模に合わせてユーザー自身が製品群の中からデバイスを自由に組み合わせ、最適なオンライン会議環境を簡単に構築できるWeb会議向け音響ソリューションのStem Ecosystem。Web会議用音響設備の導入に必要な機器構成作業、設置・機器設定作業、運用管理を、専門技能がなくても容易に行うことができるよう設計されている。導入から運用までの各工程をサポートする専用ソフトウェアツールも用意され、先進テクノロジーを備えたWeb会議音響を容易に構築することができる。

 Stem Ecosystemの製品群は、壁面型スピーカーホン(Stem Wall)、卓上型スピーカーホン(Stem Table)、意匠性の高い天井設置型マイクロホン(Stem Ceiling)、ネットワーク・スピーカー(Stem Speaker)、複数の機器を統合するハブ(Stem Hub)、そして専用タッチコントローラー(Stem Control)で構成する。各デバイスはすべてPoE+に対応しており、Ethernetケーブルによる給電が可能。電源も音声信号も制御信号も、Ethernetケーブル一本で伝送する。各デバイスを組み合わせて自社に必要な構成を組むことができるので、スモールスタートして、拡張していくことができる。
 
「Stem Ecosystem」の製品群

家田氏が「Stem Ecosystem」を体験

 USBやBluetoothのスピーカーホン一台だけでは会議がうまくいかない、しかし、Web会議用音響システムの導入に多額のコストと時間は掛けられない、そうした悩みを抱える多くのユーザーの声に応えるStem Ecosystem。会議の用途や空間規模に合わせてデバイスを自由に組み合わせ、理想的なオンライン会議環境を構築できる。今回、家田氏にシュア・ジャパンのショールームでStem Ecosystemを体験してもらい、感想を聞いた。

--全体を通しての印象はいかがでしたか。

家田 一般的なWeb会議用の音響システムと比べて、率直に大きく違うと感じました。まず、電源も含めLANケーブルだけで接続できる(PoE給電)こと。そして、企業が社員の働き方を監視する方向性が強くなっている中で、使用状況が分かって生産性が把握できることは便利だと思います。しかも、エントリーレベルのユーザーから、かなり上位層のニーズまでカバーできる製品だと感じました。

--一般的に多くの企業が導入しているWeb会議用機器と比べ、Stem Ecosystemの性能、機能はいかがでしょう。ユーザーの悩みを、この機能がうまく解決できる、ハイブリッド時代の会議や打ち合わせが活発になる、というものはありましたか。

家田 比較のため初めに聞いた一般的なスピーカーホンと比較して、音質が大きく違いました。聞きやすさはもちろんですが、声のトーンがよく分かりました。Web会議の画面越しでも、本人の表情と併せて声色の変化も感じ取れるので、かなりリアルに近いやり取りができると感じます。それがテーブルの真ん中でも、隅の方でも同じように聞き取れるというのはすごいことですね。指向性(ビームフォーミング)を備えたマイクが、発言者の声をしっかり伝えてくれることで、画面越しの相手も有耶無耶な理解のまま話が進んでいくようなこともないと思いました。
 
「Stem Ecosystem」を体験する家田氏

家田 また、接続がLANケーブルだけというのは、会議の立ち上げに余計な手間や時間をとられないという意味でも大きなメリットです。実際、一般的にはスピーカーホンを会議室に持ち込み、電源、USBケーブル、拡張マイクユニットをそれぞれ配線するといったシステムの立ち上げに時間を費やし、結局IT担当を呼ぶことになるなど、苦労しているユーザーは決して少なくありません。そうしたストレスや生産性を損ねる要素を排除できますし、簡単であることはユーザーがシステムを積極的に利用しようというモチベーションにもなります。

--SIerの目線からは、Stem Ecosystemをどう評価すると思いますか。

家田 すぐにでも使用を開始したいというユーザーは多いので、スモールスタートして、必要に応じて容易に機器を追加していくことができるStem Ecosystemのようなシステムは、SIerが提案しやすいと思います。コスト的にも量販店で販売している一般製品の上位モデルとさほど変わらないということですから、ユーザーはすぐに使用できる、SIerは工数を抑えられる、経営者はコストを抑えられると、いずれの方々にとってもメリットの大きなシステムといえるのではないでしょうか。
 
ハイブリッド会議(対面+オンライン)における会議室音響システムの提案・導入について
https://www.seminar-reg.jp/bcn/survey_shurejapan