Windows 11へのリプレース商戦が一段落した法人向けPC市場だが、足元では業務におけるAIの導入拡大により、AIを動かすための高付加価値PCという新たなニーズが生まれつつある。次なるPC需要の波を前に、商品を提案する販売店にはどのような戦略が求められるのか。早くから社内でAI活用を実践し、その知見をビジネスに生かす大塚商会の大塚裕司社長と、AIワークロードへの対応を見据えたモバイルPCを開発するNECパーソナルコンピュータ(NECPC)の檜山太郎社長に、AIによる業務やビジネスの革新の可能性と、2026年のPC市場の展望を聞いた。
EOS商戦は終了も 新たなニーズでPC需要は続く
──2025年は、Windows 10のEOS(サポート終了)に伴いPC市場が大きく動いた1年でした。過去のリプレース商戦期と比べて、市場の動きにどのような変化を感じていますか。
大塚 以前のWindows XPからWindows 7、Windows 7からWindows 10への入れ替えの時は、調達や物流で世界規模の混乱がありました。それに比べると、Windows 11への移行はスムーズでしたね。当社のクライアント販売台数はGIGAスクール需要を含めると236万台で、前回の移行時と比較して約50万台増えています。テレワークの普及で企業が必要とするPCの台数が増えたので、それだけ、入れ替え対象となる母数も増えたのだと思います。
大塚商会
大塚裕司 代表取締役社長
檜山 大手企業はかなり前から準備していて、以前よりも切り替えが早期に始まった印象でした。中堅・中小企業や一部自治体では現在も需要が続いており、4月以降もWindows 11搭載PCの導入は続くと思われます。
NECパーソナルコンピュータ
檜山太郎 代表取締役執行役員社長
──過去を振り返ると、OS入れ替えの翌年は大きな反動減の年となることが通例でしたが、26年の見通しは。
大塚 オフィスの環境の改善、テレワークによる生産性向上など、IT導入の動機はこれまでのリプレース期に比べ多様化しています。また、Windows 11リリース当初に稼働開始したPCは、そろそろ入れ替えタイミングに入ります。当社は「オフィスまるごと」のご提案を進めていますが、ご提供するものは山ほどあり、可能性は広がっています。
檜山 製品別に見ると、今回のリプレース商戦ではデスクトップPCからノートPCへのシフトがさらに進むとともに、以前よりも高付加価値製品の比率が高まりました。老朽化したPCをただ交換するわけではないんです。お客様のワークスタイルに合った製品をご提供することで、まだまだ需要は掘り起こせると考えています。
リッチな端末がAI活用を後押し 導入にはデータ整備と目的の明確化を
──多くの企業が何らかの形でAIを導入しており、今後はAIによる社内データの活用も広がると言われています。IT機器のメーカーとして、檜山社長はこの動きをどう見ていますか。
【聞き手】
週刊BCN編集長 日高 彰
檜山 NECPCと共同で事業を展開するレノボ・グループが主要企業のCIOを対象に実施した調査で、30年までにAI投資の75%がエッジデバイスやオンプレミス環境へ向けられていくとする予測を発表しました。実際には、その予測以上にエッジやオンプレでのAI投資は加速していると感じています。特に生成AIでは、従来はクラウドにデータを全て上げて処理をするとされていたものが、効率やレイテンシー、セキュリティーの要因からオンプレ側での需要が増えてきているように見えます。大塚社長はどう思われますか。
大塚 IT業界の歴史を振り返ると、メインフレームの時代から集中と分散の繰り返しなので、結局はハイブリッドになると思います。全部のAIワークロードがクラウドに上がると、データセンターや電力が足りません。必然的に、PCのAI処理性能もよりリッチになってくるのではないでしょうか。
──大塚商会では早くからAIの活用に取り組み、独自の営業支援システムなどで顕著な成果を上げられていますね。次の段階として、主要顧客である中堅・中小企業へのAI導入提案はどう進めているのでしょうか。
大塚 驚かれるかもしれませんが、当社のフェアなどにお越しいただくお客様からは「AIをください」と言われることがあるんです。昔、Windows 95が発売されて大きな話題になったとき、PCを持っていないのにお店に買いにきた人がいた、といった逸話がありましたが、あれと同じ状況です。
──人手不足に悩む企業の方が、とにかく「AIに頼めば、何か助けてくれるんじゃないか」と思われているのでしょうね……。それだけ、AIに対する期待は大きい。
檜山 「AIが動くPCがほしい」というお客様は多いですね。
大塚 でも、何をどうするかを明確にしなければAIは売れません。何をやりたいかに加えて、社内に使えるデータがあるかも問題です。お話を伺う限り、AIによって使えるかたちで業務システムのデータが整備されている日本企業は、残念なことに少ないと言わざるを得ません。そのため当社では、AI導入の前にはコンサルティングやデータの整理・整頓のご支援から入るようにしています。その上で、中堅・中小企業のお客様でも導入しやすい、生成AIを活用したAIアシスタントや、AIエージェントのサービスなどもご用意しています。
AI活用に対応するNECPCの動き 長時間駆動のバッテリーも実装
──NECPCでは、高まるAIのニーズに対応するためどのような取り組みをしていますか。
檜山 AIワークロードをスムーズに処理できる性能を満たすのはもちろん、例えば「Microsoft Teams」などのオンライン会議ツールにもAIによるさまざまな支援機能が搭載されていますので、高性能なカメラやマイク、ノイズキャンセリングなどの機能を付けるといった製品開発を進めています。今後のPCには、現実世界とAIを橋渡しするという役割がますます求められると考えています。
──大塚社長はNECPCの「VersaPro UltraLite タイプVY」をお使いとのことですが、使用感はいかがでしょう。
大塚 寸法は従来の製品を継承しているように見えましたが、使ってみると中身が違う、という印象を受けました。性能はもちろんのこと、何よりバッテリー駆動時間が予想以上で、電池の持ちを気にしなくてよいところが素晴らしいです。またユニークなのが、タッチパネルがついているところですね。最近のノートPCでは搭載する機種が少なくなりつつあるけど、いろいろなデバイスでタッチ操作に慣れちゃったから、あると嬉しいです。さらにいいものをつくっていってほしいですね。
檜山 ありがとうございます。25年からはNECブランドの法人向けPCに関しても、開発・製造・販売が初めて一緒のチームになったことで、より良い製品開発に向けたコミュニケーションが、部門を超えて自然発生的に始まっています。営業がお客様やパートナー各社のニーズをお聞きしてくると、開発や製造のチームからは「それならあの技術が使える」「今ならこんなこともできる」という声が上がる。かつての“日本電気”時代の、ものづくりの一体感を復活させられた喜びもありますね。
今後のPCビジネスの行方は? 4月24日にAI PCイベント開催
──26年はAI実装がさらに進むと思われますが、NECPCでは業務やビジネスの革新に向けてどのような取り組みを推進していきますか。
檜山 パートナー各社と連携しながら、PCだけでなく、AIの価値をもっと訴求していく構えです。当社は4月24日に「AI×PC DAY 2026」を開催します。そこでは、AI活用のモデルやAI PCで広がる具体的なユースケースをパートナーと共同でユーザーの皆様に紹介するので、ぜひご来場いただきたいと思います。
──AIの活用シーンは、現場に近い販売店の方がよく知っている部分もあるはずですからね。
大塚 私たち販売店は、AIを使いこなしたいお客様をリードしていかなければなりません。うまく方向を示し、お客様にやりたいことを固めていただき、ビジネスのお役に立つことが役割だと思っています。
檜山 当社のようなメーカーは、以前は「こんなにいい製品で、こんな仕様です」と商品のスペックを説明することが多かったと思います。それが今では、ユーザーやパートナーに「何をやりたいのですか」と問いかけながら製品を開発する流れが生まれています。これからも、ユーザーニーズを起点とした製品開発を進めてまいります。