特別講演では、早稲田大学大学院経営管理研究科の長内厚・教授が「間違いだらけのDXと製造業の事業戦略」をテーマに登壇。多くの企業でシステム導入自体が目的化し、本来の事業の競争優位や利益向上に結びついていない現状に対し、事業戦略と結びついたDXの必要性を訴えた。
早稲田大学大学院
経営管理研究科 教授
長内 厚 氏
講演の第1のポイントは「効率と効果」のジレンマ。効率とは「生産性よく物をつくる」ことであり、効果とは「新しいものを生み出し、より儲かる価値をつくる」ことと定義される。しかし、両者は必ずしも一致しておらず、効率を追求しすぎると既存の延長線上のものしか生まれず、いずれは顧客に飽きられてしまう。一方、全く新しい効果を追求すればするほど、莫大なコストと時間がかかる。DXにおいても「効率のためのDX」と「効果のためのDX」を明確に区別し、適切に使い分けることが不可欠になる。AIなどで人がやらなくていい定型業務を代替して効率を高め、それによって空いた時間で人にしかできない創造的な仕事に取り組み、効果を生み出すことがDXの本質だ。
第2のポイントは「不確実性」への対応。AIは過去のデータを基に推論を行うため、過去に例のない不確実性の高い状況では適切な答えを導き出すのが困難で、人間の創造性が求められる。長内氏は、効率化を極限まで追求すると新たな創造ができなくなる「生産性のジレンマ」に陥る危険性を警告し、解決策として「両利きの経営」を提示した。不確実性が低い状況では既存事業の「活用(効率)」を重視し、不確実性が高い状況では新規事業の「探索(効果)」を重視するという、相反する組織能力を使い分けるアプローチである。実践している企業として、米Apple(アップル)(自由な製品構想)と台湾・鴻海精密工業(効率的な製造プロセス)の関係を挙げた。
第3のポイントは「価値創造と価値獲得」。イノベーションには、新しい製品を生み出す「価値創造」と、それを収益に結びつける「価値獲得」の両輪が必要となる。デジタル化が進むとソフトウェア開発などの固定費が高騰するため、製品を大量販売して利益を回収する仕組みが不可欠である。日本の家電産業が画期的な価値創造を得意としており、実際に多くの優れた製品を生み出していながらも、価値獲得において他の国々に敗北していった。一方、韓国Samsung(サムスン)や中国・比亜迪(BYD=ビー・ワイ・ディー)が既存事業で効率よく稼いだ利益(活用)を、新規事業(探索)へ大胆に投資することを繰り返すことで、世界的成功を収めた事例を紹介した。
デジタル化した世の中で最も重要になるのは、「画期的な製品を生み出す優れた技術力(効果)だけではなく、その技術によって生み出した製品をビジネスの力で大量に世界へとばらまく(販売する=効率)こと。ビジネスとしていかに儲けるかという仕組み作りが絶対に欠かせない」と力説した。