初日の基調講演には、BRICs経済研究所の門倉貴史・代表が登壇。「日本経済の現状と展望」をテーマに、VUCA時代における日本経済の現在地と、企業が直面する中長期的課題を解説した。
エコノミスト/BRICs経済研究所代表
門倉 貴史 氏
門倉氏は、現代を変化が激しく、先行きが不透明で予測が困難な状態である「VUCAの時代」と定義する。令和のブ ラックマンデー、米トランプ政権の関税政策、緊迫化する中東情勢など世界的な混乱が次々と生じている。この環境下では、かつて持てはやされた選択と集中はリスクが大きく、リスク分散の観点からむしろ経営の多角化を進めていくことが重要だと指摘した。さらに、固定費をできるだけ縮小して「変動費を中心とした新たなビジネスモデル」への転換を提唱、その好例としてUberやAirbnbなどのマッチングサービスを挙げた。
直近の日本経済の焦点は「実質賃金の伸び率」。2026年の春闘では5%超の賃上げが政府目標となった、雇用の7割を占める中小企業では価格転嫁が難航しており、実質賃金が安定してプラスの伸びになるのはかなり微妙と分析する。円安や中東情勢の悪化による原油高が輸入物価を押し上げれば、物価上昇と景気低迷が同時進行するスタグフレーションのリスクが高まる可能性もあると警鐘を鳴らした。
中・長期的な最大の課題は「人口減少に伴う労働力不足」。労働力確保の施策として「女性の社会進出」「シニア層の再雇用」「就職氷河期世代の採用」「外国人労働力の活用」の4点を挙げた。しかし、日本のジェンダーギャップ指数は118位と低く、女性管理職比率も12.7%にとどまる。だが、完全な男女平等が実現すれはGDPを80兆円引き上げるという。シニアの再雇用では、お金とは関係なしに自己実現的な理由で働く人が増えている。一方、外国人労働者からは相対的な賃金水準の低下により、選ばれない国になりつつある。
労働人口の減少を補うには、今いる人材の労働生産性の向上が不可欠だ。日本の時間当たりの労働生産性はOECD加盟国38カ国中28位と低迷している。門倉氏は、生産性向上のかぎは「曜日や時間帯で変動するモチベーションの把握」と「良好な人間関係の構築」と語る。海外では火曜午前、日本では金曜にモチベーションがピークに達するため、一番やる気が高まりやすい曜日や時間帯に集中して仕事をこなすことが効率化につながると提案した。
また、長時間通勤は生産性を下げ、離婚リスクも高まるとのデータを示し、テレワークなどによる通勤時間の短縮も有効とした。最後に、企業の生産性を飛躍させるには、特に「ソフトウェア分野へのICT投資」が急務という。ハード面でのICT化は進む一方、ソフト面のデジタル変革が遅れていると指摘し、「eコマース、SNS利用など、マーケティング分野でのICT化を積極的に進められる企業こそが、不確実なVUCA時代を生き抜き、労働生産性を高め、持続的な成長を実現できる」とした。