アルプスシステムインテグレーション(ALSI)が、製造・流通業と学校向け市場にターゲットを絞り、営業・マーケティングを強化している。「特定市場において、ナンバーワン、オンリーワンになる」と、両市場に社内のリソースを集中し、業績拡大を狙う。「売上高100億円の早期実現」を掲げる大喜多晃社長は、どのような成長戦略を描いているのか。
昨年10月に構造改革実施、特定市場に社内のリソースを集中
──ここ数年、売上高の伸びが鈍化していますね。回復に向けてのシナリオは。
大喜多 1990年の設立以来、増収増益を果たしてきたALSI(アルシー)ですが、ここ数年は確かに厳しい状況が続き、足踏み状態を強いられています。減収が避けられないとわかった昨年2月から、「なぜこうなったのか、大喜多の馬鹿たれ」と自分に言い聞かせながら、抜本的な改革を講じるために、役員と若手の部門長クラス4人に加わってもらい、戦略会議を頻繁に開きました。ALSIの目指すべき方向、強み、弱みなどを徹底的に議論しました。昨年4月の段階で、大枠としての中期経営計画は打ち出したのですが、それを実現するための肉付け、方法論で内容を詰めていき、昨年10月に事業構造改革に踏み切りました。
具体的には、事業部門を製造・物流ソリューションと、パッケージ・ソリューションの2つに括り直しました。製造・物流ソリューションは、創業時の事業である受託開発をメインにした事業ですが、幅広い業種に対応した単純な受託開発からは手を引き、製造と物流に絞ってコンサルティングから入っていける力を養っていく方針です。また、パッケージ・ソリューションは、学校向け教育システムに加え、フィルタリングソフト、内部情報漏えい対策ツールなどのパッケージソフトを担当します。基本的な戦略として、ある特定市場に対し社内のリソースを集中させ、その市場においてオンリーワンであり、ナンバーワンのプロダクト・サービスを追求し続ける企業というコンセプトを打ち出しています。具体的な業績目標は、まずは3年以内に売上高70億円、中長期的には売上高100億円、経常利益3億5000万円の達成という明確な数字も打ち出しています。
──特定市場に挙げている製造・流通業と学校市場での強みは。
大喜多 もともとALSIは、電子部品のメーカーであるアルプス電気の情報システム子会社として設立されたシステムインテグレータです。グローバルに展開する製造業の現場で蓄積してきたシステム化技術は、他のシステムインテグレータにはマネできないでしょう。アルプス電気に対するさまざまなソリューションサービスを通じて培ったノウハウは大きな武器です。この強みを他の製造・流通業に横展開すれば、現場から生まれた細かな要望にも対応したSCM(サプライチェーンマネジメント)システムや、設計管理ソリューションを提供できます。これまでは、この分野の強みを生かしきれていなかった部分がありました。社内体制を整え、営業やマーケティングをさらに強化していく方針です。
──高校・大学を中心とした学校向けシステム構築事業は、以前から強みを発揮されてこられた分野ですね。
大喜多 文教市場は、創業以来一貫して力を入れてきました。学校の情報システムは、従来はハードウェアを中心としたシステム構築が主流でした。例えば、LL教室などはまさしくハード主体のシステムでしょう。学校がLL教室を持とうとすると、億単位の投資をしなければならないケースもあり、IT化を進めていくためには莫大な費用がかかってしまう。日本の学校教育でIT化がなかなか進まないのは当然です。そこにマーケットがあると、創業以来目を付けていました。
ソフトベースで動かす情報システムを低価格で構築できないかと思ったのが発端ですね。今では小・中学校から高校、大学まで、それぞれにカスタマイズした形でシステム構築を手がけています。eラーニングシステムやデジタル学習システム、コールシステムなどを揃えており、学校のデジタル教育を実現する包括的なソリューションを自社開発ソフトをベースに提供できる基盤を持っています。コールシステム「キャラボ」は、約50%のシェアを獲得するまで成長しました。
──2つの市場に特化するのは、ビジネス領域を狭めることになりませんか。
大喜多 確かにそうかもしれません。ALSIもこれまで、さまざまな職種や業務に手を出してきた経験があります。医薬関係の業種向けソリューションを用意したこともありました。ですが、受託ソフト開発は中国の台頭など、価格競争が厳しくなってきましたし、今後はさらに厳しくなることが予想されます。利益確保が難しくなるビジネスでしょう。ノウハウがない分野に関しては、競合他社に比べて競争力がなく、進出しにくいことを痛感しました。製造・流通業分野は、今後も大きな需要が期待できます。学校に関してもまだまだIT化が進んでおらず、マーケットはあるし、実績もある。広く浅くよりも、特定の市場でオンリーワン、ナンバーワンであることの方が事業拡大には最適だと考えています。
「イエスマン」は必要ない。自ら新ビジネスを創造する人材を
──パッケージ・ソリューション事業で、学校向けソリューションビジネス以外に中心となるのは。
大喜多 セキュリティです。個人情報漏えい対策に主眼を置いたドキュメントセキュリティと、URLフィルタリングが現時点では主な事業分野です。特にURLフィルタリングに関しては、学校向けのシステム構築が多かったことから、ウェブサイトのアクセス制限に対する要望が大きく、他社に比べ早くから取り組んできたジャンルです。当初は、ウェブセンス製のソフトを販売していたのですが、約3年前からは自社開発製品を投入しています。文教市場への販売が中心ですが、徐々に一般企業への導入実績も出てきました。現在は扱う分野は少ないですが、新たなジャンルのセキュリティ製品も用意する予定で、ラインアップ強化を図っていきます。
──新たなテクノロジーの追求も強化ポイントに挙げています。新技術の取得という面で、人材教育には力を入れていますね。
大喜多 技術を使うのは社員であり、人材こそがALSIの財産だと思っています。
実は当社のロゴである「ALSI」の文字には、私なりのメッセージを込めています。「野心(Ambition)を持って、半歩先を見据えて先を行く率先力(Leadership)を養い、ユーザーの満足度(Satisfaction)向上のために、新しいもの(Innovation)を生み出す」というメッセージです。「イエスマン」はALSIには必要ないと思っています。言われたことだけをやっている人は要りません。オリジナルの意見を持って、自ら新たなビジネスを創造する人材をいかに育てるかが何よりも大事かもしれません。今年度からは、新人事制度もスタートします。これまでアルプス電気の人事制度とほぼ同様の制度を運用していましたが、成果主義に基づいたオリジナルの指針を定め、ITスキル標準に基づいた職能基準書を作成しました。社外でも通用するプロの育成を図ります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
1990年の創業時は、大喜多社長を含めわずか4人で営業を始めた。それ以前のアルプス電気時代は情報システムを担当。「金を使う方」だった。ALSIの設立で「立場は180度変わった」。創業当初は利益増大に執着するあまり、「あらゆる分野に闇雲に手を出して、失敗したこともあった」。試行錯誤、紆余曲折を経ながらも増収増益を果たしてきたが、ここ数年は足踏み状態。「ここからが正念場」。今年度、企業ステートメントを新たに作成し直した。「ALSIの名称をもっと定着させたい」。創業以来一貫して変えなかったロゴも変更した。大喜多社長の並々ならぬ決意が滲み出る。新たなロゴとステートメントを看板に引提げ、再び成長軌道への復帰を目指す。(鈎)
プロフィール
大喜多 晃
(おおきた あきら)1943年2月10日生まれ、東京都出身。58年、アルプス電気入社。電子部品の製造現場で生産管理業務に従事。その後、社内の業務システムを担当する情報システム部門でシステム部長、システム開発部長を歴任。90年4月、アルプスシステムインテグレーション設立と同時に取締役に就任。93年5月、常務取締役。95年5月、代表取締役専務。97年1月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
アルプス電気の情報システム子会社として、アルプスシステムインテグレーション(ALSI)は1990年に設立された。製造・流通業向けシステムインテグレーションと、パッケージ・ソリューションを2大事業とし、パッケージ・ソリューションの中に位置づけられる学校向け情報システム構築には創業以来力を入れており、文教市場において強みを持つ。ここ数年、セキュリティ分野の強化にも取り組んでいる。ドキュメントセキュリティソフトや、URLフィルタリングソフトを自社開発するなど活発な動きをみせ、セキュリティビジネスが成長エンジンの1つとなっている。創業から一貫して増収増益を果たしてきたが、ここ数年は伸び率が鈍化。02年度(03年3月期)にはわずかながら初の減収減益を強いられた。02年度の売上高は、58億6000万円。東京本社のほか、大阪や仙台などに4つの営業拠点を構える。従業員は約180人。