10月1日付で「ディーアイエスナガシマ」から社名を変更した「ZOA」が次のステップに踏み出した。単なる商品を販売するという体制から、サポート重視のビジネスにシフト。間近に到来しつつある家庭内の家電機器がネットワークでつながる「e─ホーム」を視野に入れる。家電量販業界の競争が激しくなりつつあるなか、独自のビジネスモデルを構築することで利益を確保していく方針だ。
10月1日付で「ZOA」に社名変更、アフターマーケットでビジネス拡大へ
──「ディーアイエスナガシマ」を「ZOA」に社名変更しました。
長嶋 社名変更は、会社のビジョンを明確にするためです。当社はパソコン専門店として、静岡県内で「OAナガシマ」、静岡県以外で「ZOA」と「パソコンの館」の計3ブランドで店舗を展開しています。社名が「ディーアイエスナガシマ」だと、実際に4ブランドを立ち上げていることになり、顧客にしてみれば当社がどのような会社かが分からなくなります。本拠地である静岡県では、当社の知名度があると自負していますので、県外で知名度を高めるために「ZOA」にしました。
──「ディーアイエス」という言葉をなくしたという点では、ダイワボウ情報システムから独立するという意味合いも強いのかという見方も出ています。
長嶋 それは全くありません。ダイワボウ情報システムは親会社であり、当社にとっては卸会社という位置づけですが、親会社だからとか、子会社だからといって慣れ合いはしたくないので、もともとビジネスに関しては1卸業者と1小売店というシビアな関係を保っています。ダイワボウ情報システムからの仕入率は30%で、ほかの業者に比べても特別多いというわけではありません。価格交渉でお互いが切磋琢磨していかなければ、成長はないと考えています。しかし、経営上のノウハウに関しては、小規模な当社にとって、ダイワボウ情報システムからさまざまなアドバイスをもらい、学ぶべきことが多いといえます。
──ZOAへの社名変更を機に、次のステップとして進む方向も変わってきますか。
長嶋 パソコンのマーケットは、過渡期が終わり、普及期の段階に入っています。今考えていることは、アフターマーケットに新しいビジネス領域があるということです。パソコン販売は、ニーズに合った提案を行えるかで成長します。お客さんが求めているのは、パソコンの用途を最大限に引き出すサービスを受けたいという点です。数年後には家庭内の情報関連機器や家電機器がつながる「e-ホーム」が当たり前の時代になると確信しています。そういった意味でも、アフターマーケットが拡大していくとみています。ただ現段階では、e-ホーム時代の到来が若干遅れているという感はあります。普及期に入らないのは、パソコンメーカーや小売を含め、業界自体がパソコンや周辺機器で実現できる用途を消費者に訴える販売形態になっていないためです。
──確かに、家電量販業界では過剰出店や低価格化による競争が激しくなっています。
長嶋 その通りです。小売業界では、競争に勝つために薄利多売の販売形態を行っている企業が多いことは間違いありません。メーカーでも面倒見切れないほどの低利益なのではないでしょうか。そのため、こうした企業はコストなどの面でアフターサービスまで手が回らないのです。本来は、メーカーとしてもe-ホームを実現したいと考えているのではないでしょうか。多くの小売店が今後も価格競争にしのぎを削っていたのでは、メーカー製パソコンの価格が個人向け市場でも7-8万円まで下がる危険性もあります。日本のメーカーの技術は素晴らしい。しかし、売り上げのために低利益でも売り切ればよいという状態が、パソコン業界をおかしくしているのではないかと考えます。メーカーとしても売り上げを伸ばすことだけに力を注いで、小売の薄利多売を黙認しているように見えます。このままでは、メーカーの淘汰も出てくるのではないでしょうか。
今の時代を乗り越えていくには、単に商品を仕入れて売るというビジネススタイルを打破しなければならない。当社では単なる物販を、“ハードコンタクト”と呼んでいるのですが、まずはハードコンタクトのビジネスを捨てました。アフターマーケットを中心にビジネスを拡大していくことが重要と確信していますので、パソコンに関する専門技術をもっていることを強みにしていくビジネスモデルに切り替えたわけです。低価格競争が終焉しない限り、e-ホームが具体的に何年後に実現するか読めない点もありますが、いつ来ても、迅速に動ける体制は現段階で準備しています。
お客さんは“信頼できるパートナー”、利益確保のために“信用”を売る
──具体的には、どのような体制を整えているのですか。
長嶋 ソリューションベースで提案し、収益が確保できる体制を固めています。1つは、会員制のサービスの提供です。現段階では、商品を購入したユーザーに対し、修理や点検、トラブルなどを1件あたり1050円で請け負うといったサポートのみですが、このサポートサービスをベースに、当面は接客をさらに強化することで、お客さんからの信頼感を高めていきます。いずれは、消費者の自宅を訪れて家庭内のネットワーク設定を行うなどの出張サポートが当たり前になるでしょう。今からそれに対応できるよう備えています。
また、顧客満足度向上のために力を入れているのは、顧客のデータベース化です。当社の運営する店舗でユーザーが何を購入したかが分かる仕組みとしました。加えて、従業員が顧客からの問い合わせやトラブルなどに対し、どのような対応を取ったのかも把握できます。これにより、ほかの店員が応対しても、ユーザーに最適な接客やアドバイスが行えるようになりました。こうした施策を打ってきたことで、粗利率は昨年度の17.8%に対して今年度が18%とわずかですがアップする見込みです。来年度は一気に20%を達成します。
──売上高の推移についてはどうですか。
長嶋 売上高は、正直伸びているというわけではありません。粗利率が低いといわれるパソコンの販売比率は25%以下になっており、年々下がっていく傾向にあります。当社が扱う商材のなかで比較的単価が高いパソコンを売っても、売り上げは伸びますが利益を確保できません。サポートサービスの比率を高めた結果として、今年度における売上総利益は前年度比12%増を確保できる見通しです。売り上げは成長しなくても利益はきちんと確保できています。
──社員の意識改革や制度改革も実施しました。
長嶋 利益確保の体制を整えるために、1年前から社員に対する売上目標を止めました。その代わりに、お客さんに“信用”を売ることを徹底しています。具体的には、社員の接客態度や好感度を数字で表せるデータベースを作りました。また、お客さんは“神様”でなく、“信頼できるパートナー”とみるようにと、社員には話しています。顧客に応じた接客を行える“公平接客”を行うことがサポートサービスには重要と考えています。サポートを拡大していくためには、店舗を全国的に展開する必要もあるかもしれません。しかし、私としては、店舗を増やすことは計画していますが、急ぐつもりは全くありません。採算が合うと判断し、サポートを必要とする場所があれば、そこに店舗を広げていくだけです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
長嶋社長は、パソコン市場について「年間1000万台程度の規模となり、コモディティ化が進んでいる」と見る。しかも、「パソコンを購入したユーザーが2年目以降も頻繁に活用しているかというと、それは微々たるもの」とバッサリ。これは、パソコン業界で薄利多売のビジネスを行った結果、「どのショップも購入後のアフターサービスに力を入れていないため」と分析する。そこで着目したのがサポートの強化だ。サポートに力を入れ始めた01年当時は、粗利率が11.3%に過ぎなかった。しかし、顧客に対する社員の接客をデータベース化し、最適なサポートを提供できる体制を整えたことで、今年度は粗利率18.0%に高まる見通し。利益の源泉を見極める眼力に期待がかかる。(郁)
プロフィール
長嶋 豊
(ながしま ゆたか)1952年、静岡県生まれ。84年にナガシマ情報通信に入社。91年に同社専務取締役を経て、01年11月に社長に就任。02年4月、ナガシマ情報通信とダイワボウ情報システムの子会社であるディーアイエス情報機器販売が合併。ディーアイエスナガシマ設立と同時に社長就任。04年10月1日、ZOAに社名変更。
会社紹介
ディーアイエスナガシマは、ダイワボウ情報システムがナガシマ情報通信を2001年11月に子会社化し、ディーアイエス情報機器販売との合併で02年4月に設立した。この合併から2年後の04年10月1日に「ZOA」に社名変更することとなった。ナガシマ情報通信は1984年の設立で、静岡県を中心に小売店を展開。地元では確固たる知名度を誇っていた。ダイワボウ情報システムが同社を子会社化したのは、ディーアイエス情報機器販売が運営する「パソコンの館」事業を立て直すため。ナガシマ情報通信とダイワボウ情報システムグループのノウハウを連携させることにより、顧客ニーズに対応したサービスの拡充や強化できると判断した。実際、パソコンの館が存続しているという点から、ダイワボウ情報システムにとってはナガシマ情報通信の子会社化は大きなメリットになった。ZOAの店舗数は23店舗で、現段階でも静岡県が中心。サポートに力を入れていくという点から、顧客が増えた地区に出店を増やしていくことも計画している。