コレガが、家庭と企業の双方をターゲットにした製品開発に力を入れている。現在、売上高のうちパソコン・家電量販店などを通じたパーソナル市場向けが6割強を占めるが、今後は企業などで働くビジネスパーソンをターゲットとした販売にも力を入れる。企業市場は「おもしろい市場になる」と見る加藤彰社長のリーダーシップのもと、コレガはシステムインテグレータ(SI)など企業向けの販売チャネルの充実に取り組み、無線LANなど主力商品の拡販を狙う。
電話サポート部門を大幅に拡充 顧客満足度を高め、価格競争を勝ち抜く
──ブロードバンドが普及し、一般家庭などパーソナル市場におけるネットワーク機器の需要は飽和したように見受けられます。パーソナル市場を主なターゲットとしてきたコレガは方針転換を迫られるのではないでしょうか。
加藤 1996年の創業以来、一貫してパーソナル市場向けのネットワーク機器を販売し、常にユーザーのすぐ隣にあるネットワーク機器メーカーとして業績を伸ばしてきました。この方針は今後も変わりません。企業向けの大規模なネットワーク機器は親会社のアライドテレシスが万全の体制で取り組んでおり、グループ内の役割分担という意味からも、コレガはパーソナル市場を主戦場とします。
パーソナル市場が飽和したかどうかについてですが、私はそうは考えていません。販売単価は下がる傾向にあるものの、当社の売り上げは拡大基調にあり、今年度(05年12月期)は前年度比1割程度増えて80億円ほどを見込んでいます。販売単価が下がるなかで売り上げが伸びているということは、それを上回る多くの方々に当社のネットワーク機器を購入していただいているということになります。
──ネットワーク機器の価格下落は依然として進んでおり、親会社のアライドテレシスも昨年度(04年12月期)まで2期連続で最終赤字になるなど、厳しい状況にあります。
加藤 これまでコレガという会社は、アライドテレシスのバックアップを受けて、いろいろな意味で豊かな会社でした。アライドテレシスの軒の下で商売をして、さらに、その軒がやたらと広かった印象があります。しかし、厳しい競争を勝ち抜くためには、コレガそのものの競争力をさらに高めていく必要があります。コレガの売上高の約65%はパソコン・家電量販店経由で売り上げていますが、量販店の寡占化が急速に進み、価格主導権が量販店へ移っていることを考えれば、決して楽観できません。
このまま何もしなければ、販売価格はどんどん下がりますので、メーカーとしてより良い製品を開発していくことが求められています。対策の1つとして、今年5月から電話サポート部門を大幅に拡充し、より多くのユーザーの問題を解決する取り組みを始めました。電話サポート部門は、開発部門のすぐ隣に置き、必要に応じて開発者が直接問題解決に臨むこともできます。
数多くのユーザーから問い合わせがある電話サポートは、これまで対応しきれていないこともありましたが、1人でも多くのユーザーの問題を解決できるようにすることで、顧客満足度を高めていきます。ユーザーの声を真摯に聞くことで、たとえば取扱説明書をもっと分かりやすい表現に改めたり、製品の使い勝手を改善したりと、ユーザーの率直な意見をモノづくりに反映しやすくしました。
分かりやすく、使い勝手の良い製品を増やせば、利益を圧迫する要因の1つになっている“返品”を減らすことができます。
ネットワーク機器のPoE対応を推進、独自の価値を創造しシェア拡大へ
──パーソナル市場の競争が激化するなか、ネットワーク機器ベンダーのなかには、企業やSOHO向けの市場を開拓する動きが活発化しています。
加藤 コレガのターゲットは“パーソナル”であることに変わりはありませんが、どんなに大きな企業でも、小さなオフィスが集まって構成されているものですし、パーソナルの集合体であることに変わりはありません。企業の中の小さなオフィスや企業内のパーソナル市場は、これからとてもおもしろい市場になっていくと考えています。こうした市場に商品を届けるための販売チャネルとして、システムインテグレータ(SI)などと積極的に協業していきます。
たとえば、無線LANひとつとっても、家庭での普及率に比べて企業での普及率は低いとされています。初期の無線LAN製品は、取り扱いが難しかったり、情報セキュリティも有線LANに比べて強くないと思われていたことが、今でも影響している可能性があります。当社では、使い勝手を改善し、情報セキュリティを高め、24時間365日フル稼働してもびくともしない丈夫なネットワーク機器を増やしていくことで、企業やSOHO市場の販売拡大を狙っていきます。
企業向けのネットワーク機器では、アライドテレシスをはじめとする大手国産通信機器メーカーや世界的なシェアを持つシスコシステムズなどが君臨しています。彼らはIP電話や次世代通信プロトコルと言われるIPv6規格などに対応した大規模なネットワークシステムを販売しており、機材の単価も当社とは比較にならないほど高額なものが多い。スイッチングハブや小型ルータなど当社が販売しているような製品でも、価格が10倍ほど違うケースも見られます。
当社は、こうした大手通信機器メーカーと正面から対決するつもりはありません。あくまでも企業全体の通信システムではなく、企業内の個人が使うネットワーク機器が当社のターゲットだからです。
分かりやすく例えれば、軽自動車は小さい車体にペラペラの薄いボディで、安全性や快適性の面で普通乗用車に及ばないとされてきました。ところが、近年の軽自動車は、エアバックの装備や衝突時の衝撃を吸収する特殊な強化ボディ、柔らかくて快適なシートを採用するなど、普通乗用車も驚くほど機能を高めています。燃費の良さや小回りの良さなど、軽自動車本来の強みと相まって、独自の価値を創り出しています。当社はまさにこの軽自動車のような独自の存在を目指しています。
──パーソナル市場を対象にしてきたコレガの製品においても、本格的な企業システム向けのネットワーク機器と同等の製品づくりをすることで、競争優位性を創り出すということですね。
加藤 そうです。使い勝手の向上の面では、無線LANのアクセスポイントを中心にパワー・オーバー・イーサネット(PoE)への対応を進めています。無線LANのアクセスポイントなどのネットワーク機器は、通信を行うためのLANケーブルの接続以外に、電源を供給する電源ケーブルを接続しなければなりません。PoEでは、通信用LANケーブルを使って電源を供給するため、電源ケーブルを使わなくても済むようになります。
今は無線LANのアクセスポイントが中心ですが、今年8月をめどにスイッチングハブなど他のネットワーク機器でもPoE対応を進めていきます。電源ケーブルをなくせば、それだけ配線がシンプルになり、障害が起きにくくなります。また、年内をめどに、ネットワークのダウンタイムを極力少なくする無停止型の製品や、情報セキュリティをより強化した製品を増やします。
このように、PoE対応製品の拡充やダウンタイムの削減、情報セキュリティの強化を進め、家庭と企業の両面でシェア拡大を図っていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
企業として増収増益の目標は掲げているものの、本当に大切なのは「社員の満足度の向上」だと考える。社員がやる気になって充足感を得てこそ、良い製品の開発や顧客満足度の向上に結びつく。
皆のやる気をどう引き出せるかが経営者の「腕の見せどころ」。ジャストシステムや大塚商会の役員を経験して導き出された答えだ。
製品開発や顧客サポートなど競争力を高めるすべての要素は、突き詰めれば社員1人ひとりが創意工夫に取り組む意欲の積み重ねだ。「もっと良い組織するため、人事の評価方法の見直しも検討する」と、やり甲斐のある組織づくりに力を入れる。「社員の満足度、充足感が足りないと業績はいずれ傾く」。
まじめにコツコツ良い製品を開発するのが「コレガの企業文化」。これに「社員満足度」が加われば「業績は必ず伸びる」と手応えを感じている。(寶)
プロフィール
加藤 彰
(かとう しょう)1950年生まれ、岡山県出身。73年、鳥取大学工学部機械工学科卒業。同年、西芝電機入社。船舶電気技術課にシステムエンジニア(SE)として勤務。85年、萩原工業入社。研究開発室に勤務。88年、ジャストシステム入社。常務取締役営業本部長を務める。98年、大塚商会入社。執行役員BP事業部長。01年、ジャストアビーム社長。04年、コレガの親会社アライドテレシス上級執行役員東京営業本部長。05年1月、コレガ社長に就任。
会社紹介
家庭向けパーソナルネットワーク機器市場では、競合するメーカーのバッファローなどと激しいシェア争いを展開する。企業向けの市場では、親会社のアライドテレシスが企業のネットワークシステムをターゲットにしているのに対し、コレガは企業内のパーソナルユースをターゲットにした製品開発に努めている。
今年度(2005年12月期)の単体売上高は前年度比1割増の約80億円を見込む。単体売上高のうち、無線LAN関連が約半分を占め主力商材となっている。販売チャネル別では、金額ベースで全体の約65%をパソコン・家電量販店チャネルで占め、約20%がSIなどの企業向けチャネルとなっている。残り約15%は通信事業者向けのOEM(相手先ブランドによる生産)などで占めている。
今後は使い勝手のさらなる向上や障害に強い製品、情報セキュリティの強化などに力を入れる。3年後の08年度(08年12月期)は単体売上高120─130億円、経常利益率5%を目指す。