アウトソーシングなどを手がける情報サービス業のインフォメーション・ディベロプメント(ID)は、一時期の低迷を脱し、再浮上に向けた体制を整えた。今年1月に就任したばかりの舩越真樹・新社長は「準備期間は終えた。今後の当社の成長は『人間力』がカギとなる」と、早速、成長の青写真を描く。06年度から始まる新中期経営計画では、川上から川下までを網羅する「BOO(ビジネス・オペレーションズ・アウトソーシング)」戦略を推進し、幅広いビジネスを展開。コア事業を軸に、安定した利益確保を目指す。
経営の障害を取り除き 成長軌道への中期計画を始動
──2004年度(05年3月期)は営業利益が大幅に減少しましたが、05年度は一転、調子が上向いてます。この間、社内で何が起こっていたのですか。
舩越 「西暦2000年問題(Y2K)」対応が終わり、IT需要が減ったほか、日本経済全体に元気がなかった。それが影響して、03年度と04年度は、ものすごく苦労しました。不採算案件が発生し、子会社のアイディネットも03年3月に特別清算しました。業績悪化の責任として、私も自ら願い出て副社長から専務に降格しました。
しかし、経営者として、どのタイミングで再浮上するかをずっと考えてきました。その結果、経営上のムダを発生させるもの、障害になるものなどはすべて落とそうと考えたのです。きれいさっぱりして、次の成長軌道に乗せる準備をしたのが04年度。実際は、03年度で不採算案件などマイナス面をすべて解消した。04年度の営業利益がマイナスになったのは、パートナーの確保に要した資金や社員の賞与を少し復活させたことで資金が増えたから。それに、「株主に迷惑をかけた」ことや創立35周年の記念配当として、株主配当を1株12円から3円増配したことも影響しました。
──再浮上に転じるこの期に、創業社長からバトンを受け取り、新社長に就任しましたね。
舩越 期の途中(06年1月1日付)で交代したので、社長として本格的に再浮上の計画を打ち出すのは新年度です。4月1日に新中期経営計画として「Challenge to the 2008」を発表し、社長として本当の仕事が始まりました。1月の社長就任では、幹部を前に「商売人たる誇りをもて」とハッパをかけました。私は役員を10年以上務めてきましたが、いま最も欠けているのが「商売人としての誇り」だと思っているからなんです。
新中期経営計画では、「損か得か」で判断する人材でなく、「正しいか正しくないか」で判断できる「人」であれということを提唱しています。また、ここ数年、営業利益が低迷したので、安定した利益を確保できるようにしたい。当社は顧客企業に常駐する多くの人材を抱えていますので、営業利益率20%というような高い数字は望めません。しかし、少なくとも新年度から3年間、営業利益率6─8%を維持したいと考えています。
豊富な資源(人材)を生かし、確実なシステムメンテナンスを実現
──営業利益率を維持していくうえで、何か大きなビジネス転換を考えていますか。
舩越 いいえ。当社の売上高は「運用サービス」6割で、システムメンテナンスを強みとしている企業なのです。システムメンテナンスの社員数は900人以上で、ある雑誌によると全国1位です。これはすごい強みなんですよ。
もう1つの特徴が、金融関連が売上高の50%以上を占めているということです。金融業界に元気がなければ、当社も元気を失う。ここ2─3年はいいですね。さらに、顧客とのダイレクト契約が全体の85%以上を占めています。他社の場合、当社くらいの規模ですと、大手ITベンダーの「下請け」が大半になります。その点、当社はダイレクト契約で顧客に密着しているので、技術やノウハウを蓄積しやすいんですよ。さらに言うならば、パッケージを開発して、それを積極的に売るというビジネスモデルなどにはシフトしません。「メンテナンス」の強みを中心に伸ばします。
──利益率の高い直接契約が85%もあれば、黙っていても目標の営業利益は確保できそうですね。
舩越 いえいえ、黙っていてはダメです。それなりの品質がなくて、油断していると、どんどん他社が侵入してきます。そこで、「BOO(ビジネス・オペレーションズ・アウトソーシング)」という戦略を体系化して、推進しています。川上のソフト開発から、ソフトを動かすためにデータエントリして、川下できちんと動いているかを運用段階で見て、さらにそれを手直しする、いわゆる、「ITサービスのサプライチェーン」とも言えます。川上から川下までを当社1社で完結できる仕組みです。
──ダイレクト契約が多くて、社員の技術力も身につけば、自ずと「誇り」をもてるということですね。
舩越 それ自体は数値に出ませんね。しかし、私はそういう誇りのある会社であるべきと思っています。メンテナンス業界は、システム停止などなくて当り前ですが、実はこれは大変なことなんです。銀行のATMが一時ストップしただけで、大騒ぎになります。メンテナンス業務をうまくやらないと、飛行機は飛ばず、JRの運行が止まり、新聞も出ません。だから、「電気・ガス・水道・IT」というふうに考えています。
人間個人が「豊かな心」、つまり、小さなことに気がついて少しでも良くしようという気持ちをもたない限り、メンテナンスの質は上がりません。そういう「人間力」を志向する会社であることを社員に見せることで、社員の品質は必ず上がります。ITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)に関しても国内で先駆的に取り組んでいますが、昔でいう「身近な改善運動(QC)」ですよ。ちょっとしたケアレスミスが大変な事故につながる恐れがあるので、社員が主体にならないとどうにもならないのです。
──競合ベンダーはどういう企業になりますか。
舩越 たとえていうと、IT業界は、ラーメン店と一緒で、確たるマーケットシェアをどこも取っていません。トップのNTTデータとてそうです。喜多方ラーメンが好きな人、札幌ラーメンが好きな人など、嗜好が大きく分かれる。マーケットシェアを1社で獲得するのは難しいので、パッケージ開発が強かったり、流通・卸、メンテナンスが得意だったりするベンダーなどをコンペチターと見るのではなく、「一緒に組みましょう」ということになる。
先にダイレクト契約が85%を占めると言いましたが、それ以外の15%の元請け先は、NTTデータ、日本IBM、日本ユニシスです。業界全体でいえば、これらベンダーも当社のコンペチターであり、協業する先でもあるんですよ。
──ラーメン店にたとえると、「トッピング」で勝負するということですか。
舩越 そう。ある米国人と「シェアで企業価値を測るのは間違いだよな」などと話している最中に気がついたんですよ。当社の「トッピング」は、「誇りをもった社員」がサービスを提供するということですね。「トッピング」という言い方は失礼になるけど、「付加価値」ということでしょうか。
──昨年度の「経営方針」では、「新たなビジネス領域の基盤を確立する」とうたっていますが。
舩越 当社は、「えーっ、すごいね」と驚かれる技術を前面に出す会社ではありません。その経営方針の意味は、「新しい技術をキャッチアップすることは大事」ということです。ひと言でいうと、「地味な会社」なんですよ。私はこれでいいと思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ITサービス企業の売上高「ベスト100」にあと少しで到達するというのに、「地味な会社だ」と自社を控えめに語る。だが、「人材」についての話題には、熱い思いが溢れてくる。一定の収益が上がれば「それは社員などに還元すべきでしょう」と明快。ITアウトソーシングの「競争力の源泉は『人間力』にある」と、取材中は何度もこの言葉を耳にした。
慶應ボーイである。そういう先入観を抜きにしても、身だしなみや言葉の端々に上品さを感じた。口調は明瞭、話の筋が通っている印象をもった。
同社の社員の多くは、顧客企業に常駐している。そのため、社長に就任して「ID」という社のロゴマークを刻印したエンブレムを作成し、社員に着用させた。離れて仕事をしていても、IDの社員である「誇り」を失わないようにと考案したものである。社員に対するこうした配慮を忘れない限り、確実に伸びる会社だ。(吾)
プロフィール
舩越 真樹
(ふなこし まさき)1959年8月生まれ、鳥取県出身。46歳。83年3月、慶應義塾大学商学部卒業後、同年4月、千代田火災海上保険(現・あいおい損保)に入社。95年4月、インフォメーション・ディベロプメント(ID)に入社し、同年6月に取締役就任。その後、97年6月に常務、98年6月に専務、03年7月に副社長へと昇格。同年10月には業績不振の責任を取り、いったん専務に退いたが、05年7月に再び副社長に。06年1月には、社長に就任した。水彩画とジョギングを趣味にするアウトドア派である。
会社紹介
同社は、前社長である尾眞民・現会長が、コンピュータの高度利用に向け広範な技術サービスの提供を目的として設立。独立系情報サービス会社として、金融向けITアウトソーシングを主力に幅広いITサービスを提供している。98年11月には、ジャスダックに株式上場した。
現在、事業別の売上構成比は、「ITアウトソーシング」が全体の約45%、「SI」が約35%を占めている。最近では、ソフトウェア開発から、保守・運用、コールセンター業務受託までのサービス領域を扱う「BOO(ビジネス・オペレーションズ・アウトソーシング)」戦略を推進。川上から川下までのビジネスを展開している。
2004年度(05年3月期)の連結決算は、売上高が前年比1.6%増の113億7800万円であったものの、営業利益は外注費の増加などが影響して同12.0%減の5億5000万円と大幅に減収。05年度(06年3月期)はV字回復し、増収増益になる見込みで、7億3000万円の営業利益を予想している。今年1月1日に就任した舩越真樹・新社長は、06年度から3か年の中期経営計画を示し、営業利益率6-8%を継続的に確保することなどを打ち出した。