OKIデータは今年1月、トップとして親会社から杉本晴重氏を迎え入れた。就任4か月にして、前社長兼CEOの意志を受け継ぎながら早くも改革を断行した。「筋肉質でスピード感のある会社」へと変身を図るなかで、「カラープリンタ一辺倒」の方針も転換し、モノクロ機を増強するなど、収益性の高い企業への変貌を遂げようとしている。
世界でオフィス市場に特化 ローとハイ両面の充実図る
──親会社のOKI(沖電気工業)から転じてOKIデータの社長に就任されて4か月が過ぎました。まずは、OKIデータのこれまでを分析して、どう市場拡大していくかの構想を聞かせてください。
杉本 当社の売上比率は、海外市場が圧倒的で86─87%を占めています。国内市場も伸びつつありますが、本当は国内市場をもっと増やしたい。しかし、世界の市場全体の伸びに応じて、海外も国内も同時に成長させたいという気持ちを強くしています。
2006年からは、米国で当社が「LFR」と呼ぶ大手量販店販売から順次撤退(08年3月に撤退完了)しました。そこで「プレイグラウンドはオフィス市場である」という方向性を定め、しかも「スモール・ミディアム(中堅・中小企業=SMB)をやる」という重要な転換を断行しました。当社ではこの戦略転換を「機種ミックスを変えた(ローエンドを減らす)」と言っています。07年度(08年3月期)は、SMB向け上位機種を増やしたことで、大幅に収益を改善できています。
──国内だけを見ると、最近のプリンタ市場は低価格化が進み、台数を積み上げるだけでは収益に結び付きませんからね。
杉本 それはそうなのですが、この戦略転換によって、プリンタ本体の物量が減ってしまったんですね。台数ベースでは世界シェアを落としてしまいました。米国でのLFR撤退は、店頭販売で本体台数のボリュームを増やせば消耗品も伸びると見ていたのに、店頭展開に必要な費用がかさむ一方で、店頭でプリンタを購入したユーザーの印刷ボリュームが増えなかったことが理由です。
本体の物量は、08年度(09年3月期)以降にオフィス向け販売で、元に戻そうと考えています。製品的には、ローエンドの販売台数比率を現状維持しつつ、もっと上の層をさらに強化する方針です。こうした、さらなる「機種ミックス」の改善で売上高・利益ともに伸ばす体質にしたいと考えています。
──オフィス向けのローエンドと上位層向けの両面で機種を拡充するということですか。
杉本 ローエンドの機種をそれなりにもち、品揃えをしないと上位層の機種も引っ張られて落ち込む傾向があります。そういう意味で、ローエンドでも収益性をあげることができる機種を強化しつつ、デジタル複合機(MFP)など上位機種の品揃えも増やしたいと考えています。
ただ、いままでのように、本体を増やせば消耗品も自動的に増えてくるという構図ではなくなりました。ですので、本体を販売しても消耗品販売が伴わない機種を削っています。
──ところで、国内外のプリンタ市場はこの先、どうなると分析し、それに基づきOKIデータはどう展開していきますか。
杉本 いまは、カラープリンタ機の物量が順調に伸びているし、今後も伸びるでしょう。一方、当社がいままで重視していなかったモノクロ機が依然として強く、市場全体のボリュームから見るとかなりを占めています。今後はそんなに伸びないでしょうが、無視するわけにもいかない。特に、エマージング市場(アジア、中南米、東欧など発展途上国)は「SIDM(ドットインパクトプリンタ)」からモノクロ機への移行が始まるので、モノクロ機をちゃんとやるべきと考えています。
もう1つは、市場全体を見るとMFP率が高まっている。ここを強化すべきと考えています。コピーメーカーと競合するわけにはいかないので、当社の得意分野を狙ったMFPを今後出して、それなりのポジションを獲得したい。
大胆な組織改編をあえて実行「風通しのよさ」を世界に浸透
──モノクロ機の増強に関しては、前社長(前野幹彦・現相談役)の時代からの懸案ですね。これを含め、08年度以降にどんな製品戦略を立てていますか。
杉本 今年度はモノクロ機の新製品を出し、前年度に比べ3割以上の物量増を予定しています。最も伸びを大きくしたいのは、モノクロ機なんです。もちろん、カラー機もですが。製品戦略についてもそうですが、従来は欧米、日本、中国などアジアの各地域から意見を聞き、OKIデータ本体にある事業部門、営業部門、マーケティング部門の各部門のどこで最終的な結論を出すかが必ずしも明確ではなかったように思います。
そうした反省があり、今年の4月1日からは、組織を改編して販社管理や商品開発、企画部門を一体で掌握して、企画から開発、販売まで責任を持つ「プリンタ事業統括本部」を設けました。また、受注、生産、出荷、棚卸までを統括する「生産統括本部」を新設し、責任と権限を明確化しました。これにより、スピード経営を実現できるとみています。従来の「グローバルマーケティング本部」は、プリンタ事業統括本部に入れ、一部ソリューション関連部門を生産統括本部に配置。さらに、営業部門にあったSCM(サプライチェーンマネジメント)領域は全部、生産統括本部にあるSCMセンターに集約しました。
とにかく営業は、“売り”に徹するというスッキリした組織にしましたので、全体として意思決定が速くなります。ラグビーでよくいわれる「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」という感じです。これは国内だけですけど、海外でもこうした「筋肉質」で「風通しのよい」組織を浸透させたい。
──冒頭に国内市場を伸ばしたい旨、意欲のほどを聞かせていただきましたが、具体的にはどう実行していくのですか。
杉本 売上規模は海外が圧倒的に大きいのですが、収益面から見ると日本の市場は非常に重要です。ですから、日本市場の売り上げを増やしたい。国内市場自体は全体として落ちていますが、そのなかでシェアを取っていくしかない。大手卸や地域の販売会社との関係、ラベル印刷などを利用した特定用途の「バーティカル市場」に向けたパートナーとの関係を強化することでシェアを獲得したい。
──他のシングル機を持つプリンタ販売会社も「特定市場・用途」に目が向いています。OKIデータも新たな印刷ボリュームを求めて、こういう市場を開拓するということですか。
杉本 うちも狙いは同じかもしれませんが、ポイントはLED(発光ダイオード)の技術を生かして競合他社と差別化できるということです。長尺や幅広などのプリンタを含め、海外では、普通4つのヘッドに1つヘッドを足して、光沢を出すというアプリケーションが出ています。こういう展開を考えています。
──そういう意味で、“箱売り”でなく複合的な提案ができるソリューション販売を指向するということですね。
杉本 いまはソリューションといっても、セキュリティなどが注目されています。当社では、提携するスウェーデンの会社がもつ「ANOTO(アノト=デジタルペンで専用紙に書いた文字や画像をパソコンへ転送できる特殊技術)」という技術を使ったソリューション展開を考えていますが、これはレーザーでなく、LEDだからこそできることなのです。
──そういう技術はOKIグループ全体のリソースを生かし、相乗効果を発揮できますね。
杉本 いままで当社のビジネスは、「ボックスムーバー(“箱売り”)」の世界だった。競合大手は、品揃えが厚い。それと伍して同じことはやれないので、OKIグループ企業の強みを生かせるところを追求していきたいと考えています。
My favorite 群馬県富岡市にあるOKIのATM部品などを製造・加工する「富岡工場」で「MSC(生産サービスカンパニー)」のプレジデントとして勤めていた時、生産革新などで「ど素人なりに」相談に乗っていた。MSCを辞める際に、同工場の従業員がお礼の気持ちを込めて、当時の技術を駆使して作ったキーホルダーが“宝物”だ
眼光紙背 ~取材を終えて~
杉本晴重・社長兼CEOは、現在もOKI(沖電気工業)のCTO(最高技術責任者)を兼務し、30年以上にわたって技術畑を歩んできた。技術者というと、どうしても堅苦しい話題に終始するのではないかと構えてしまうが、実際は簡明率直で明るい人柄である。
不覚にも記者が失念していただけで、以前、杉本社長とは酒杯を交わしていたことに、取材中に気づいた。昨年夏、中国・深センにある同社プリンタ工場を視察した際、歓迎レセプションの席で沖電気実業(深セン)有限公司の会長として記者と隣り合わせたのだ。中国の強い酒を記者につぎながら、冗談を交え中国事情を話してもらっていた。
渡された杉本社長の略歴には、趣味「音楽鑑賞」と書かれている。音楽はリズム&ブルース(R&B)を聴くという。R&Bは、後の音楽に多大な影響を与えた。杉本社長も、後のOKIデータに大きな影響を与える存在になれるか注目したい。(吾)
プロフィール
杉本 晴重
(すぎもと はるしげ)1948年2月、東京都生まれ、60歳。70年、早稲田大学理工学部電気通信学科卒業後、沖電気工業に入社。その後、研究開発畑を歩み続け90年には、電子通信事業部複合通信システム事業部技術第一部長に昇格。2000年4月、同社執行役員になり、04年4月からは常務執行役員(同年6月に常務取締役)とCTO(最高技術責任者)を兼務。06年4月には、中国ビジネス本部長にも就任した。08年1月1日にOKIデータの代表取締役社長CEO(最高経営責任者)に就任した。
会社紹介
OKIデータは、OKI(沖電気工業)グループのプリンタ事業を手がける子会社として1994年10月1日に設立された。独自のLED(発光ダイオード)技術を搭載したカラーLEDプリンタやドットインパクトプリンタを中心に、世界120か国で販売活動を展開。各地域の売上比率は、欧州が最も高く、米国がそれに続く。日本市場の比率は、全体の13-14%にとどまっている。
2007年度(08年3月期)の国内売上高は241億円を見込む。また、中期経営計画では、2010年度(2011年3月期)までに売上高を350億円までに引き上げ、営業利益も70億円(07年度は未公表)にする計画だ。
今年1月には、OKIの常務取締役である杉本晴重氏が代表取締役社長兼CEOに就任。08年度(09年3月期)からは、杉本体制で新組織に移行し、国内でのスピード経営を指向する。これまで同社は、カラー機の浸透を戦略の中軸に据えてきたが、ここにきてモノクロ機やデジタル複合機(MFP)のラインアップを揃える方針に転換。「特定市場・用途」向けでもSIerなどとのアライアンスを強化し、国内市場のシェア拡大を目指す。