総務省から周波数2.5GHz帯の免許を取得し、次世代ワイヤレスブロードバンド「WiMAX」を提供する企業として注目を浴びるUQコミュニケーションズ。2009年7月から本格的なサービスを開始した。同社が目指すのは、“真”のワイヤレスブロードバンド社会を実現すること。周辺のSIerにとって、ビジネスチャンスにつながる可能性はあるのか。田中孝司社長に話を聞いた。
佐相彰彦●取材/文 ミワタダシ●写真
MVNOに20社以上が参加
──今年7月からWiMAXの本格サービスを開始しましたが、状況はいかがですか。
田中 基地局の設置で若干の遅れがありましたが、ほぼ計画通りです。基地局の設置に遅れが出たのは、電波が届きにくい場所があったり、許可がもらえなかったりといったことがあったのが理由ですが、こうした課題を解決しながら進めましたので、エリアに関しては問題なくカバーできたとみています。
──課題はないというわけですか。
田中 いいえ。首都圏とその近郊、名古屋、大阪など、エリアを限定したスタートですので、やはりカバーエリアが狭いというのは課題です。ただ、2012年度末までには、人口カバー率90%以上を達成することは間違いありません。
──WiMAXの特徴であるMVNO(仮想移動体サービス事業者)の参加数は想定通りですか。
田中 回線サービスを中心に20社を超えていますので順調です。ISPなどサービスプロバイダの参加が多いのですが、実はSIerさんが参加する事例が出ているのです。これは、携帯電話など通信業界のビジネスモデルとは異なっているからです。通信の世界は、通信事業者が端末とネットワークを提供するという一体型の垂直モデルでしたが、WiMAXは違う。これまでの3Gの世界では、“真”のワイヤレスブロードバンドが提供できなかった。しかしWiMAXは、もっと大きな意味でのシステムが実現する。そういった点では、SIerさんにとってメリットになると考えています。
──しかし、WiMAXが未知数ということで、ビジネスとして成り立つかどうかを懸念するSIerもいます。
田中 これまでのネットワークは、通信事業者だけが提供していた。ところが、MVNOとしてWiMAXを仕入れることで、ストックモデルなどの新しいビジネスモデルが構築できます。だからこそ、SIerさんがMVNOに参加していると考えています。
確かに、これまでなかったサービスですので、未知の部分はあります。ただ、確実に広がる世界であるのは間違いありません。
──なぜ、世界が広がると言い切れるのですか。
田中 いくつかのフェーズに分けて話しますと、WiMAXは先ほども申し上げたように、ネットワークのオープン化を推進している。加えて、デバイスに関してもオープン化を推進しています。限られたベンダーだけではなく、誰でもWiMAX対応のデバイスが開発できるということです。実際、現段階ではWiMAX対応のノートパソコンが出てきている。WiMAXの最大の特徴は、これまでのネットワークに比べて格段に速いということです。こうしたパソコンに、ネットワークでMVNOになったSIerさんのサービスを組み合わせればどうなるか。アプリケーションにおいて、新しいサービスが生まれる可能性が高い。これだけでも、ずいぶんと市場が広がると考えています。少なくとも、使う側にとってはパソコンのモバイル環境が遅いというストレスがなくなり、特に法人市場で新しいソリューションが創造されるのではないかとみています。
また、モバイル環境が変革すれば、次の段階として、パソコン以外にもWiMAXに対応したデバイスが登場する可能性を秘めています。例を挙げれば、カーナビです。さまざまなデバイスにWiMAXが組み込まれるようになれば、今度はデジタルサイネージなど映像関連装置を使ったビジネスにチャンスが出てくるなど、近く高まるであろうニーズに対応できるようになるんです。
現状の技術で実現できているようで、実はできていないことって、沢山あるんです。そういった点では、WiMAXは今までの課題を解決します。まだ本格化して間もないので、大きな夢ばかりを語っていると思われるかもしれません。ただ、実現するために当社が行わなければならないことは、エリアのカバー率を高めていくことです。これを地道にやるしかないと判断していますし、達成すれば今まで成し得なかった世界が広がると確信しています。
WiMAXでは、もっと大きな意味でのシステムが実現する。そういった点では、SIerにとってメリットになると考えている。
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