オリジナル商材の開発を加速
──これまでとは違う世界の実現に向け、基地局を設置すること以外にビジネスとして手がけることはありますか。
田中 独自に新しいビジネスを手がける計画はもっていません。データカードは提供していますが、特定のSIerさんとアライアンスを組んでアプリケーションまでを網羅して提供するのは、私どもの役目ではない。あくまでも黒子として、MVNOにビジネスチャンスを提供することが使命だと考えています。
──パソコン市場が落ち着いていますね。WiMAX対応モデルの発売で、成熟した現状を打破できますか。
田中 モバイルで活用できるパソコンの用途を広げれば、拡大が期待できます。これはコンシューマ市場の話になるといえますが、今、高校生など若い方が外出時に必ず持っているデバイスは携帯電話です。パソコンではない。しかし、どんな場所でもパソコンを使ってインターネットサービスが使えるようになれば、所有するようになるでしょう。
──KDDIで、長く携帯電話に携わっておられましたが、ITと通信は異なる業界と感じますか。
田中 まったく異なっているとは感じていませんが、通信事業者で長く業務に携わっていたせいか、これまでパソコンなどITメーカーの方と縁遠かったのは事実です。だからこそ感じるんですが、よく携帯電話がパソコンの代わりになるといった声を聞いたりするんですが、実はそうは思っていないんです。パソコンは「電子黒板」のようなものと考えています。一方、携帯電話は「電子黒板」にはならない。パソコンの代わりになるという考えは、おそらく携帯電話が通話だけの機能ではユーザーの買い替えを促進できないために進化していたからです。一方、パソコンは何でも行えるからこそ、進化の度合いが携帯電話と比べて遅かった。しかし、今後はWiMAXでパソコンが一層進化します。携帯電話が一番近い存在であることに変わりはない。しかし、ペンやノート、そして情報収集の端末がパソコンという役割になるのではないでしょうか。そういった点では、パソコンが今一度クローズアップされるでしょう。そういうことが理解できるようになったのは、業界が異なっていたからこそかもしれませんね。
──今は両業界に携わっておられるということでお尋ねしますが、パソコンと携帯電話の統合はあると思われますか。WiMAX搭載の端末が増えれば、統合する端末が出てくる可能性もあるのでは?
田中 それはあり得ない。WiMAXをベースに、むしろ用途に応じた端末が出てくると期待しています。当社から、それぞれの用途を提案していき、市場を創造することも必要だと認識しています。
──市場創造に向けた仕掛けを実施していく、と。
田中 前面に立つようなことはしませんが、WiMAXをベースとしたマッチメイキング的なことは実施していきたい。そのための仕掛けづくりを進めます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
UQコミュニケーションズ社長という肩書きに加え、KDDI取締役執行役員常務として、SaaSを核にソリューションを拡大するビジネスも手がけている。技術畑が長いものの、新しいサービスをアピールする営業力もあわせもつ。「WiMAX」が市場で普及するかどうかは、田中氏の手腕にかかっている。
社員に対する教育では、「常にチャレンジ精神をもつように指導する」ことを心がけているという。「世の中を変える」という高い志をもつように言い聞かせているそうだ。「新しい周波数を開通するというケースは、めったに体験できることではない。世の中にないものを、当社が作り上げていく。そういった精神を持って、業務に従事して欲しい」と。
「WiMAX」で変わる世の中を、社員が一丸となって目指す。「できるだけ早い段階で実現したい」という願望の現れといえる。新しい市場創造に期待がかかる。(郁)
プロフィール
田中 孝司
(たなか たかし)1957年2月26日、大阪府生まれ。79年3月、京都大学大学院工学研究科電気工学第2専攻修了後、国際電信電話(現・KDDI)に入社。IP事業やソリューション商品開発、モバイルソリューション事業などに従事。07年6月、取締役執行役員常務に就任する。同年8月、ワイヤレスブロードバンド企画(現・UQコミュニケーションズ)の設立にともない、代表取締役社長を兼務。現在に至る。
会社紹介
UQコミュニケーションズは、次世代ワイヤレスサービス「WiMAX」の提供が可能な周波数2.5GHz帯の運営会社として2007年に設立。当初は、「ワイヤレスブロードバンド企画」として設立されたが、KDDI率いるアライアンスを組んだ陣営が免許を取得したことで社名を変更した。今年2月から「WiMAX」をテスト的に提供し、今年7月から本格化なサービスを開始した。